第124話 カウントダウン1 〈能力換装〉
「さぁセツナよ! 今日は購入した銃を受け取りに行くわけだが、その前にやってもらいたいことがある!」
「はい、主様!」
「今のままでは銃器を扱うことは出来ない! 故にセツナの能力を換装する必要がある!」
「はい、主様!」
「馴染むまでに一時を要することから、ガンショップへの到着時間を逆算し、これより行う事とする!」
「はい! 主様!」
「…………で? これはどう云うノリなのかしら?」
「副騎士団長の~演技練習じゃ~ないですか~?」
「“鬼の”って形容詞が付きそうな口調だったわね」
「今更性格を変えルには厳シイんじゃないカ?」
「本人は鬼程度じゃない強さは持っているけれどね」
「冗談は~兎も角~、ただ~テンションが~上がってるだけ~だと思いますよ~」
「はい! 主様が楽しそうで、セツナも嬉しいです!!」
……ミィエル、正解っ! そしてセツナの優しさが沁みるっ!
「んん゛っ! まぁ冗談はさて置きとして、今日は初の〈能力換装〉を試そうと思う」
そう。俺が無駄にテンションを上げてしまった理由が、今日は以前より注文していた銃――【テンペストブレイカー】を受け取りにガンショップ“火薬の芳香”へと行く日なのだ。やっぱり長銃を持つ美少女って、大剣を持つ美少女と同じぐらい良いと思うんですよ僕は!
ただまぁ現状のままではセツナに〈カテゴリー:ガン〉を扱う術がないため、彼女が保有する〈アビリティ〉である〈能力換装〉によって、取得できる7枠を変更しようと思っているわけだ。無論、
「せっかくだから相談しながら決めたいんだが、構わないか?」
「はい。でもよろしいのですか? セツナは主様のモノですから、自由になさればよろしいかと思うのですが」
「これは勉強の意味も兼ねてるし、皆で一緒に考えた方が楽しいだろ?」
「っ! はい!」
勿論、状況によっては俺1人で決めることもあるだろうが、幸い今は考える時間がある。ならどのようなスキル構成が良いのか、リル達も含めて考えてみるのも今後の事を考えればいいはずだ。全員にとってプラスになると思ったからこその提案だったわけだけど。
セツナの様子がまるで構ってくれて嬉しい、尻尾を振るワンコのような笑顔で思わず頭を撫でる。本当、セツナは可愛い娘だ。実に癒される。
「やっぱり~、この可愛らしさで~、ギルマスも~メロメロになったんで~しょ~か~?」
「態度が完全に孫を溺愛するお爺ちゃんだよな、あれ」
「? そうなのですか?」
「ギルマスを~知る人物なら~、み~んな~驚くぐらい~ですよ~」
セツナは勿論、俺もロンネスの事をよく知っているわけではないが、まぁ割と自他ともに厳格な人なんだろう、と言う印象ではあるな。ただまぁ、故に真面目で裏表のない人物に好印象を持ちやすいって気もしないでもないけど。
「ふふ。それを言ったら、あんたを知る人間も同様に皆驚いているわよ? ミィエル」
「な、なんの~こと~、でしょ~?」
明らかに視線を逸らすミィエルに、より笑みを深めるアーリア。俺が視線を向けても視線を逸らす所から、アーリアの言っていることが正しいという事なのだろうけど。
「? セツナ達に逢う前のミィちゃんは、驚かれるほどに今のミィちゃんと違うのですか?」
「えぇ、それはもう天と地ほど違ったわね」
「へぇ、周りの人からの愛され具合から言って想像できないよな」
「外面だけは良かったのよ。でも少しでも関わると――」
「わぁ~っ!! マ、マスタ~!! それ以上は~、ダメ~です~っ!!」
慌ててアーリアの言葉を遮るミィエルの姿が微笑ましく、自然と皆に笑みが零れる。
まぁ昔の自分なんて、他者から見たらどうだったかを今更ながら客観的に語られたくはないし、今の印象を崩す様な事は避けたいよねぇ。ただ語られた所で「俺からすれば、見た目とは裏腹に企み事をする小悪魔的なところもあるが、基本人懐っこくて可愛いって印象が変わることはないよなぁ」と思うわけで。例えば誰にでも噛みつく一匹狼的な性格だったー、とか陰湿で呪詛をまき散らす様な陰キャだったー、とか言われても想像しづらいんよね。
「っ!?」
「はい、セツナもそう思います。それに可愛いだけではなく、ミィちゃんは聡明で気遣いもできる、セツナが尊敬する女の子です」
「だなぁ。過去がどうであれ、現在のミィエルを好ましいと思う気持ちは変わらんよな」
「はい! セツナもミィちゃんが大好きです!」
「~~~っ!!」
過去を振り返り、反省し、次に活かせるのが人間ってもんだからな――って、何やらアーリアから呆れた視線が飛ばされているんだが? ミィエルに至っては両手で顔を隠して俯いている。もしや俺が考え事をしている間にミィエルの過去がばらされていたのだろうか?
「カイル君だけではなく、セツナちゃんも気をつけないといけないわね」
「マ~ス~タ~~~!」
「それでカイル君、セツナちゃんのスキル構成はどうする予定なのかしら?」
両手の隙間からじろりとした視線を向けるミィエルを、アーリアは薄い笑みを浮かべながら露骨に話題を元へと戻そうとする。ちなみにリルとウルコットは極力気配を消して流れ弾を回避しているようだ。
個人的には表情がコロコロと変わるミィエルは見ていて実に可愛らしいのでもう少し見ていたいが、このままじゃ話が進まないのでアーリアの言葉に乗ることとする。
「一応いくつか案は考えてありますが、先にも言った通り、セツナと相談して最終決定をする予定です」
「確かセツナちゃんのスキル保有枠は7つだったわね」
「えぇ」
アーリアの言うように、今はセツナにセットされているのは、アビリティとして〈ソードマスタリーⅡ〉〈クロースマスタリーⅡ〉〈ハイドウォーク〉〈イニシアティブアクション〉〈再生〉の5つ。スキルとして〈全力攻撃Ⅱ〉〈薙ぎ払いⅡ〉の7つだ。そして今回最低でもセットしたいのが〈ガンマスタリーⅡ〉と〈ターゲティング〉の2つ。
他にも空間を把握し、ある程度の遮蔽を無視できる〈鷹の目〉や命中判定にペナルティを受ける代わりにサブアクションでリロードや銃の装備が行える〈スピードリロード〉。1H装備であれば両手にそれぞれ扱える〈二刀流〉や、1度の攻撃判定に弾丸を2発使うことになるが、ダメージ上昇を付与できる〈ダブルタップ〉なんかも有用だ。
「セツナが取れる選択肢は俺達の中で一番自由度が高い。だからこそ、どう動きたいかが大事になってきますので」
「そうね。今回は“大氾濫”を見越して組むのかしら?」
「ですね。パーティーで迷宮探索をするのと、拠点での防衛戦ではまるっきり必要とするものが変わってきますから。それで、だ。ミィエル、質問いいか?」
「ふぇっ? は、はい。なんですか~?」
未だ頬がちょっと赤いが落ち着いたと判断し、俺は昨日出席したと言う会議の内容で必要な部分を改めて確認する。
「今回は騎士団主体と冒険者主体の場所で防衛を分けるみたいだが、俺達はどちらに呼ばれると思う?」
「ん~、冒険者の方かと~思います~。主力が~遠方に~出てます~から~」
「“赤雷亭”筆頭パーティーと騎士団上層部ハ【宝玉】の護衛ダト言っていたナ」
「昨日も報告を受けたのだけれど、正直な話さっさと他へ輸送するなり壊すなりしてほしいと思ったわ」
「だから大氾濫なんておこってしまったのではないかしら?」と続けるリルに、俺もそう思うよと首を縦に振る。俺もほぼ間違いなく“キャラハン”からドロップした【群青の魔将宝玉】が原因で大氾濫は起こったものだと思うしね。
「まぁそう言うても、ヤバければそいつらも【宝玉】の護りから街の護りに切り替えてくれるだろうさ」
最悪なのは、筆頭が出てもどうしようもない相手が出た場合なわけだしな。
さて、筆頭パーティーとやらの実力が如何程かが気になるところだが、今は置いておくとしよう。
「なら次だ。リルとウルコットは今回の防衛依頼に参加するんだよな?」
「勿論参加するわよ」
「当然参加スル」
俺とミィエルは当然だが、ランクはまだEだが力量的に参加が予定されているのはセツナだ。しかしリルとウルコットは強制じゃない。それでも参加を表明してくれたことは、個人的には大変ありがたい。安全を考慮して村人と纏まってくれても問題ないが、師としてはやはりどんどん経験点を手に入れて成長してもらいたいからな。2人がいるかいないか、これだけでセツナのスキル構成も変わってくるし。
「なら、俺達“瑠璃の庭園”は全員防衛に参加だな」
「主様、全員揃ってから初めての任務ですね!」
「だな。なら、気持ちよく任務達成させるためにも、しっかりとセツナの役目を決めようか」
「はい!」
正直に言えばこれほど早くパーティーで依頼を受けられるとは思わなかったけども、どうせだからしっかりと実績を積ませていただこうじゃないか。
「セツナのスキルに遠距離攻撃を加えるのよね? となると必要な役目は後衛火力よね?」
「あぁ。ただそれだけに振り切らなくても良いとは思っているんだ。そこでセツナに質問なんだがな?」
「セツナが完全後衛職となるか、遠近共にこなせるようにするか、でしょうか?」
「その通りだ。ならセツナ、次はお前自身がどうすればいいと思うか考えてみるんだ?」
「セツナ自身、ですか?」
「そうだ。俺の意見を言うとセツナは優先しちゃうだろうから、まずはセツナ自身で、大氾濫をパーティー全員が効率よく生き残れるような構成はどんなものか、考えてみようか」
今回は防衛戦の都合と武器の調達関連で遠距離攻撃を組み込むのは確定してしまっているが、今後のスキル構成はセツナがどう動きたいかで決めていこうと思っている。パーティーの役割に準じてもらうと助かると言えば助かるけど、彼女の意思も尊重したい。近接主体が肌に合うならそうするし、逆に遠距離の方が性に合うならそれで組み込んでいくつもりだ。
そのためにも知識を増やし、自分で決められるようになってもらいたい。
「勿論、さっきも言ったけど勉強の意味もあるから、リル達と相談はオーケーだぞ」
「はい。ありがとうございます、主様」
頷く俺に感謝の言葉を述べたセツナは、早速4人で集まり、最初に俺が書いたスキル一覧を見ながら考えるリルに訊ねる。リルは少しの間を開け、
「……私は私と同様に遠距離主体にした方が良いと思うわ」
「つまり近接スキルを外し、遠距離専門の方が良いと言う事でしょうか?」
「えぇ。今後もこの5人でパーティーを組むなら、前衛は既に3人いるもの。セツナなら高い火力も出せるでしょうし、確実に敵を削れる後衛火力になってもらった方が良いと思うわ」
「俺も姉さんニ同意ダ。銃なら俺達ガ手を出せナイ距離で敵を減らすコトが出来るからナ」
「防衛戦である以上、如何に敵を効率的に減らせるかが勝負となると思うの。そのために接敵させずに殲滅する手段に割り振った方が良いと思うわ。カイルはともかく、前線を支える盾役の負担はなるべく減らしたいところだもの」
「確かに主様なら数十の魔物程度ですけれど、他の方々はそうはいかないですよね」
リルとウルコットの意見にうんうんと頷くセツナ。俺はとても突っ込みたい衝動に駆られるが、彼女が答えを出すまでは沈黙を保つことにする。
「セっちゃ~ん。いくら~カイルくん~でも~、大氾濫で~襲ってくる~数十体を~、1人で~止めるのは~無理~ですよ~」
ものすごい勢いで突撃してくる魔物の大群こそが“大氾濫”と言われる所以だ。いくら敵愾心管理が巧くとも、物理的に防ぎきることは不可能だ。間違いなく突破される。
そのことをミィエルが説明し、そのうえでミィエルならどうするかの意見へと繋げていく。
「喩え~後衛に徹したと~しても~、接敵されることを~想定して~、近接能力は~有った方が~良~と思いますよ~。勿論~銃と剣~、どちらでこなしても~良~ですけどね~」
「つまりミィちゃんは、前衛が崩れることも考慮した方が良いと?」
「と言~より~、カイルくん~が居なくなる~場合も~、考えた方が~い~ですよ~?」
「? 主様が、居なくなる?? ミィちゃん??? 何を言っているんですか????」
まるで理解できないと眉根を寄せて首を傾げるセツナに、俺も同じように首を傾げる。心当たりがないのだが……もしや俺が死んだときのことを考えてる?
「え~っとね~セっちゃん~。カイルくん~は~、指揮系を~高い~レベルで取得~してますよね~? だから~、ミィエル達が担当する~以外に~、派遣される~かも~と言~ことです~」
あ、そう言う事ね。
「それって断れねぇのかミィエル? 俺としても結成したばかりのパーティーだから、安全に行きたいんだが」
「ミィエルだって~一緒がい~ですよ~? でも~」
「残念だけど難しいと思うわ。〈ウォーリーダー〉の指揮能力を遊ばせておくほど余裕がないもの。もしかしたら、あんただけは騎士団側に呼ばれるかもしれないわね」
「マジですか……」
「〈コマンダ~〉を取得~する冒険者は~、少ない~ですから~」
確かに4つある門全てに戦力を送るとなると、確かに指揮能力がある人材は貴重なのは解る。解るが納得できるかは別問題だ。
「と言うか俺を襲った連中に1人いたべ? 確か……グランツとか言う名前の」
「“覚めない微睡亭”の“弧を描く翼”のグランツ・シェイダンね」
あーそうそう、そんな感じの奴。あいつも確か〈コマンダー〉レベル「4」はあったはずだ。
「確かにコレなら使えなくもないけれど、問題を起こした馬鹿を指揮官に据えるかしらね?」
「……はぁ。となると、パーティーで行動できるっつー前提も崩れますね」
パーティー分断されるのは勘弁願いたいんだがなぁ。
「アーリア様? 結成したばかりのパーティーだからこそ、メンバーを分断しても問題はないと考えられている、という事でしょうか?」
「個としての能力が高いからこその考え方ね。となるとカイルが居ない前提で考えておいた方が安全ね」
「はい~」
新たに加えられた情報に、俺も顎に手を当てて思考する。
結論は、まぁ確かにその可能性は高い、だ。
この街の冒険者の質がどれ程かはまだ把握しきれていないが、昨日の会議の内容からして【宝玉】を護る筆頭とやらを除き、次点のパーティーは全て調査に赴いてしまっている。結果としてセツナが登録されている冒険者で最高レベルになってしまっており、次にレベルの上がったミィエルと、ガウディを降した俺が上位戦力となってしまっている。その上パーティーは結成したばかり。個として動いても問題ないどころか、
「個としての動かした方が優良な駒となりえるよなぁ」
そうなると指揮能力も単騎としての戦闘力も高い俺は使い勝手の良い駒でしかない。パーティーとして組ませるより、崩れかけた箇所を群制御させに行った方が良い。俺ならそう使う。
TRPGの感覚ならPCはパーティー単位で行動させるのが基本だが、ここは現実だし、思えば俺がGMの時は良くパーティーを分けさせて行動させてたから、気づいてしかるべきだったわ。であるならば……。
俺が考えを纏めている間に、4人も相談を終え、「主様」と続く言葉でセツナが答えを口にした。
「セツナは遠距離のみの構成ではなく、現状と同様に剣を扱える形にしたいと考えます」