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第122話 対策本部 中編

前後編になるはずが、中編を挟む長さに……

「ふむ。セバスよ、どうやら私が最後のようだぞ?」


「当たり前です坊ちゃま。貴方が花屋の前で40分も悩めば、自ずと最後になりましょう」


「仕方が無かろう! 久方ぶりに逢えるのだからな!」



 興奮気味に現れたスタニスラス様がキョロキョロと室内に視線を彷徨わせます。残念ながらいくら探しても見つからないんですけど~。



「あの方が領主代行なのですか?」


「そ~ですよ~。スタニスラス・タダタビア様~です~」


「もしやアーリア様を探していらっしゃいますか?」


「む! 今愛しの魔女の名が!!」



 入り口から大分離れているにも関わらず、セっちゃんがマスターの名前を呟いただけでこの反応です。「地獄耳ね」と嫌そうな顔をするバラちゃんにミィエルも同意します。尤も、いくらアーリア(マスター)の姿を探したところで無意味ですけどね。執事さんが持っている大量の花束が、完全に意味をなくしちゃってますけど。


 ミィエル達の姿に気づいた領主代行様がこちら来て明らかに肩を落とします。



「君が居るという事は、魔女殿は――」


「ミィエルが代理~ですから~。居ませんよ~」


「――そうか……」


「坊ちゃま、気を落とされますな。予想できたことですから」


「セバスよ、何も慰めになっておらぬことに気づいておるか?」


「勿論でございます。次期領主として、事実は事実として受け止める度量を養わせるのが私の仕事でございますので。決して花選びに無駄な時間を費やしたことへの恨みなどではありませんよ?」


「ふむ、そうか。ならば仕方がないな」



 何と言うか、不思議な主従ですよね~。さらっと主を非難する同年代の青年――セバスさんを、彼は咎めることないのですから。



「で、麗しの天使よ。君の隣にいるのが噂のお嬢さんかね?」


「そ~ですよ~。セっちゃん~、ご挨拶を~」


「初めまして、スタニスラス・タダタビア領主代行様。“カイル様の従者”セツナでございます。以後、お見知りおきくださいませ」


「ふむ、実に美しい少女だ。それと私のことはスタンで構わん。して、主であるカイル・ランツェーベルと言うのは貴殿か?」


「い~え~。彼は~、セっちゃんのパ~ティ~メンバ~の~、ウルコット~です~。カイルくんは~、お留守番~ですよ~」


「ウルコットと申しマス」


「成程。君は先日の関係者だったのだね。しかしそうか、主人はこの場におらぬか」



 「ふむ」と顎に手を当てたスタニスラス――もといスタン様はセっちゃんを値踏みするように物思いにふけ、



「セツナと申したか。私のものとなれ」


「なっ――!?」


「お断り致します」



 当たり前のように命令し、セっちゃんも当然の如く拒否返答です。絶句して動揺しているのはウルコットぐらいでしょうか。



「ほぅ? 領主一族である私の命令に背くか?」


「背くも何も、セツナへの命令権及び所有権は主様のみ保有できるものでございます。よって相手が誰であろうと、主様以外の命に従う必要はございません」


「成程。であればその権利を君の目の前に跪かせて奪い、改めて命令するとしようか」



 身分を笠に着た発言を堂々と宣う彼に、周りは様々な反応を示しています。バラちゃんは今にもイラ立ちを爆発させそうにしていますし、ギルマスも厳しい視線を向けています。ダルダルは面白そうだと静観していますし、騎士団のお二方も成り行きを見守っていますね~。で、当のセっちゃんはと言えば、目をしばたたかせていますね。



「勿論、今ここで私に忠誠を誓うなら、君の主に手を出すことは止めてやろう」



 ニヤリと笑みを浮かべてセっちゃんの頬に手を伸ばすスタン様。う~ん、流石にこれは止めないと――



「止めロ、クダサイ」


「……この手は何かねエルフの青年? 確かウルコット、と言ったか?」


「例えヒュームの貴族でアロうと、俺のパーティーメンバーの女性ニ無断でフレるコトは許せナイ」



 お~! スタン様が伸ばした手をウルコットが横合いから掴んで止めましたね~。と~ってもナイスです! それにこれはちょっと評価が高いですよ~! 女性としては胸がキュンとしそうですね~。



「彼女と私の触れ合いを邪魔する方が無粋だと思うがね?」


「“妖精亭”店主に求愛シテオきなガら、他の女性に唾を吐けるホウが無粋だと思いますガ?」


「レベル「2」程度の戦士風情が、護衛(ナイト)気取りかね?」



 ウルコットの手を振り払い、冷たい視線で見下すスタン様に、ウルコットも正面から対応しています。お~、頑張ってくださいウルコット! 

 そんな一触即発の中、「あの」とセっちゃんがスタン様に視線を向け、一言。



「先程、スタン様が仰った言葉の意図が解りかねるのですが、どうすれば良いのでしょう?」


「何?」



 セっちゃんの言葉に、その場にいる全員が静かになってしまいます。セっちゃんを良く知らない人からすれば、彼女なりのささやかな抵抗だと思ったかもしれません。ですけどミィエルには解ってしまいます。セっちゃんは、本気でスタン様の台詞の意味を測りかねているのです。なぜなら、



「ですから仰った意図が解りかねる、と口にいたしました」


「理解できぬと私を煙に巻くつもりか?」


「? いえ、そうではなくてですね? 現実味のない夢物語を申されましても、セツナはどう反応すれば良いのか判断致しかねるのです」


「ぶふぉっ!?」



 やっぱりセっちゃんは気づいてますよね~。ウルコットが横合いを入れる最中も、視線を動かしては色々と考慮していたようですからね。そもそもな話、目の前の権力者程度では、カイルくんをどうすることもできないことは解り切っていますから。



「私の言葉が、妄言、だと?」


「はい。もし『本気』だったと仮定した場合でも失言であったと言わざる得ないですし。そもそも実現不可能な未来を提示されましても、残念ながら脅しにもなりません。まだこの場にいるセツナ達以外に命じてウルコット辺りを人質に取る方が現実的かと、セツナは具申致します」


「私が、愚か、だと申すか!?」


「? 敢えて思慮の足りない失言を多くされているのですよね? それとも……『愚物』とセツナに罵られることをお求めになられているのでしょうか? それはそれでご遠慮願いたく存じます」


「…………」


「っ、っっ! っ、っっ!!」



 遠慮のないセっちゃんの言葉にスタン様は戦慄き、従者であるセバスさんは耐えられず崩れて床をバシバシ叩いている始末。いつものこと(・・・・・・)なので大人しくしていましたが、これはいい加減収拾を付けなければならないですかね。ほ~ら、ギルマスもバラちゃんも口元を抑えて顔を背けてる場合じゃないですよ~。



「よもや斯様な少女に、再び(・・)このような生意気を言われるとはな……」


「スタン様~。もう~い~ですよね~?」


「無論だとも。実に面白いものを見せてもらった。それとセバスよ、いい加減笑うのをやめないか? 腹立たしくて蹴飛ばしそうだ」


「っ、っ……ふぅ。これは失礼いたしました坊ちゃま。新たな扉を開くことができず、残念でございますね?」


「バカなことをぬかすなセバス。私の扉は魔女様限定よ。今更他に門戸を開くことはない」


「左様でございますか」



 キリっとした顔で断言してますけど、宣っているのは変態のそれですからね~。マスターも変なのに好かれたものですよ~。



「ミィちゃん、結局のところ、意味のない嘘(・・・・・・)を吐き続けたのは何故なのでしょう?」


「や~っぱり~、気づいて~たんですね~。え~っとですね~。つまり――」


「私の《加護(ギフト)》が関係しているのだよ、黒髪の天使よ」



 「ぎふと?」と首を傾げるセっちゃんに、大仰に頷くスタン様。それ以上説明しようとしないため、セバスさんが「実はですね」と説明を続けてくれます。



「我が主人である妄言王――」


「おい」


「――失礼。スタニスラス様は、授かった《加護》の能力を発揮するため、セツナ様とウルコット様に対し、あのような態度を取ったのです」


「???」


「スタニスラス様の《加護》は《対立者の計測》と言いまして、他者から好意以外の感情を向けられることによって、相手の力量に関係なく、その者が持つ情報を見抜くことができるのです。簡単に言えばステータス看破の《加護》でございますね」


「つまりセツナやウルコットに敵対的感情を持たせることにより、看破しようとされたと」


「その通りでございます」



 そうなのです。この《加護》があるからこそ、カイルくん達を連れてくるわけにはいかなかったのです。

 この《加護》は看破系(同系統)の中でもマスターが所持している“眼”に近い能力を発揮します。ですので、条件に当てはまる感情を向けてしまえば、喩え〈ディー・スタック〉をかけていたとしても、彼のステータスを見抜かれてしまうのです。


 マスターはステータス以外にも見抜かれたくないものがある、みたいなことを言ってましたし、カイルくんのレベルを公にするにしても、もう少し状況を整えなければなりませんからね~。



「まさに貴族たるものが得るべき《加護》と言えるだろう?」


「貴族社会は~、化かし合い~ですからね~。看破の~《加護》は重宝(ちょ~ほ~)します~よね~」


「うむ」


「ちなみに、別名『覗き見の《加護》』などと呼ばれているのですよ」


「……とても悪意のある呼び方をありがとうセバス。礼に給金を減額しておくとしよう」


「なんと横暴なことでしょう。まさに夢物語代行に相応しい振る舞いでございますね」


「はぁ……もう良い。話が進まぬ。控えておれ」



 慇懃な礼をして下がるセバスさんを尻目に、セっちゃんは「よろしいのですか?」とスタン様に問いを投げかけます。



「何がだ?」


「ギフトの事をセツナ達に伝えてしまって」


「構わん。この《加護》を使用した相手、且つ協力関係を結びたい者にはなるべく説明するようにしている」



 「左様でございますか」と納得の頷きをして下がるセっちゃん。ウルコットも別段気にしてないようですね。



「麗しの天使よ」


「ん~? 何ですか~?」


「実によい者を紹介してくれた。私に対しどのような感情も向けなかった者は久方ぶりぞ。楽しませてもらった、礼を言う」


「い~え~。そもそも~、スタン様~にしては~、手緩かった~のでは~?」


「確かに、情報から見て主であるカイル・ランツェーベルをもっと扱き下ろせば、違った結果になったであろう。だがしかしそのようなことをすれば、魔女殿と関係のある有益な人材から反感を買うだけで旨味がないではないか。ここは狸や狐が蔓延る悪意の坩堝ではないのだぞ? 私とてあれほど素直な少女に嫌われたいとは思わぬ」


「ふふふ~。そ~ですよね~」



 悪戯に敵を作っても何一つ良い事はないですからね~。



「あと~、ウルコット~には~、お(れ~)を言っておくと~良いですよ~?」


「あのエルフの青年にかね? なぜ?」


「も~ちょっとで~、腕がスパ~ンって~、飛ぶ~所でした~から~」


「…………成程。だから一瞬、天使が動くそぶりを見せたのだな」



 そうですよ~。ウルコットが割って入らなければ、スタン様の伸ばした手は綺麗に斬られていたことでしょう。一応ミィエルも止められるようにはしてましたけどね~。



「くくく、そうか。以後気を付けるとしよう。では始めるぞ! 皆の者席に着くように!」



 これにてようやっとメンバーが揃い、やっと会議の開始です。



「ささ~、ミィエル達も~座りましょ~」


「わかりました。それとウルコット。先程は割って入っていただき、ありがとうございました」


「ん、いや。大したこと、ジャない」


「そんな~こと~ないですよ~。頼もしかった~ですよね~、セっちゃん?」


「はい」


「……そうか」



 セっちゃんにお礼を言われて顔を背けるなんて、可愛い反応をしますね~。時間があれば弄りたいところですけど、



「ではまず状況確認からだ。ゼルジュ副団長、説明を」



 まずは目の前の情報収集に集中ですね!


いつもご覧いただきありがとうございます!

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