第120話 カウントダウン2 行方知らずは・・・・・・
「それで、結果的に〝行方知らず〟が増えた形跡はなかったのね?」
「えぇ。村長の奥さん以外はなんとか見つかりましたし、成り代わられてもいませんでした」
あれから二手に分かれ、俺とリルはフレグト村住民全員を確認することに成功した。まぁパレスは見つからなかったわけだけど、新たな犠牲者が出ていなかったことにホッとしたものだ。一応マイルラート神殿にも足を運んでみたが、神官たちにも被害者はいないようだった。んで、今はリルと共に妖精亭に戻ってきてアーリアと情報共有中だ。
「リルには悪いけれど、見つからなかった『森人族』はほぼ間違いなく『魔神』でしょうね。既にエルフ以外に成り代わっている可能性も考えないといけないわね。と言っても、カイル君が持つような【見通しのモノクル】でもないとどうしようもないのだけれど」
「アーリアさんの言う通り、その辺りが『魔神』共の厄介な所ですよね。なまじ人族側は魔族・蛮族側の対策しか出来てないんで、検問なんかも割と素通しなんですよね」
〈サーチ・デモン〉的な魔法があれば別だろうが、『秩序』と『混沌』の戦争が長すぎて、突如現れた第三勢力に対処する方法がないんだよね。世界観的にさ。
「まぁ笑えない数のエルフが行方不明になってて、住民全員つるし上げの村八分にされるよりはマシでしたけどね」
潜入した『魔神』の所為で疑心暗鬼となった人々が、魔神をザード・ロゥに持ち込んだ戦犯としてフレグト村住民を吊るし上げという名の虐殺または奴隷化なんて可能性も普通にあったわけだしね。戦犯は処刑処刑って感じでさ。ってゲームが違うか。
「ある意味“優しい魔神”だった、と言えるかしらね」
「手口は“甘い”にしても、“優しい魔神”はパワーワード過ぎません?」
人間を食料としてしか見てない魔神が優しいとか、「僕は悪いスライムじゃないよ」とか宣うゲル状生物より胡散臭いわ。ちなみに実写版のアレが鍋に突っ込まれた姿は衝撃でした。
「それで、ギルドの方はどうです?」
「大半の店主は緊急招集がかけられているわね。中身は連絡待ちなのだけれど、まぁ目的は【宝玉】なのは間違いないと思うから、その辺りの警備を厳に、人選も厳に、って所じゃないかしら」
「まぁそれぐらいしかないですよね」
ミィエルはウルコットを連れてアーリアの代理として冒険者ギルドに出頭しており、サポートとしてセツナも付き添っている。パレスの人相書きで、彼女をよく知るウルコットが必要だからだ。
しっかし、俺とリルが居住区と神殿付近まで捜索し終えても戻ってきていない所を見るに、“大氾濫”と『魔神』の侵入と言う二つの情報に冒険者ギルドもてんやわんやなんだろうな。ぶっちゃけ、その二つとも持ち込んだのが“瑠璃の庭園”なのだから、
「“疫病神”、とか言われてそうですね」
「……ぷっ、あははははは! 確かにカイル君が来てから退屈しないものね! どこかの馬鹿共はそう噂しているかもしれないわ」
「世の中にはそうやって責任転嫁しないと生きていけない輩ってのは居ますからね」
「そうね。でもそんな風評を真面目に受け止めていなくならないで頂戴ね、カイル君?」
「そこまで豆腐メンタルじゃないつもりですよ」
名も顔も知らない奴らに“疫病神”呼ばわりされたところで何とも思わんよ。知り合いに言われたらさすがに凹むけどさ。例えばミィエルやリルに憎しみの籠った瞳で「寄るなこの疫病神っ!!」とか言われたら……やべ、マジで凹む。吐きそう……
「……否定した傍から死にそうな面見せないでほしいのだけれど?」
「ミィエルやリルに言われる想像はクるものがありました」
「勝手に人をいかがわしい想像に使わないでほしいのだけれど?」
今までキッチンでハーブティーを淹れていたリルは、人数分のカップとハーブティーを手にジト目を向ける。俺は苦笑いを浮かべながら「これは失礼した」と謝罪の意を返す。
「貴方にそんな言葉を吐けるほど馬鹿でも愚かでもないわよ。でもそう言う性癖があるなら、お礼に応えてあげなくもないけれど?」
「そんな悪癖はないので止めてください直ぐにでもこの街を旅立ってしまいます」
「ふふ、軽口を言えるぐらいには冷静で安心したわ」
「私が取り乱したところで事態は好転しませんから。今の私に出来ることをするまでです」
「それが正解よ。いざとなれば英雄が力づくで解決してくれるから、丸投げしてしまいなさい」
「えぇ、そのつもりです。でもそうなると、今度こそ対価に私の身体で支払うことになるかしら?」
「えー、そう言う“脅し”はー、友人としてー、控えるべきだと僕は思うなー」
わざとらしくため息を吐きながらハーブティーを受け取り、一口。うん、良い香りだ。
「それで、ミィエル達から連絡はまだなの?」
「まだみたいだな。やっぱり俺らも行った方が良かったか?」
一度ミィエル達から冒険者ギルドに向かうと言う連絡を受けた時、俺とリルも住民の確認を終えたら向かおうかと伝えたのだが、「だいじょ~ぶですよ~。先に~“妖精亭”に~戻ってて~ください~」とやんわり断られていたのだ。なのでこうしてリルと共に彼女たちからの連絡待ちになっているわけだが――
「噂をすればミィエルからね」
アーリアが点滅した【通信水晶】に触れると、淡い光が灯って『マスタ~、ミィエルですよ~』とミィエルの声が店内に響く。
「あたしよ。そっちは騒がしそうね?」
『と~っても賑やか~ですよ~。マスタ~、カイルくん~たちは~?』
「おう、戻ってるぞ」
『状況は~、ど~でした~?』
「パレスおばさんは見つからない以外、被害はなかったわ」
『厳し~よ~ですけど~、それは仕方が~ない~ですね~』
「そうだな。で、俺達は出向いた方がいいのか?」
『んう~? だいじょ~ぶ~ですよ~。こっちは~ミィエルたちにお任せ~ですよ~』
『ね~セっちゃん』と言う声に続くように、セツナの肯定の声が響く。
『主様、セツナです。ミィちゃんの言う通り、こちらはセツナ達にお任せください。残りの要件も、アーリア様の代理で会議に出席するだけですので』
「それにあんたが行っても変なのに絡まれて話がややこしくなるだけよ。《決闘》を直で見ていた人物があつまるのよ? 事が起こるまでは大人しくしていた方が良いと思うわ」
それは実に面倒な話だ。俺は「ですね、了解です」と了承する。後確認することと言えば、
「ちなみに会議には3人共出席するのか?」
『はい。都合上、弟だけでウルコットを護衛するわけにも参りませんから。こちらの旨もギルドマスター・ロンネス様に了承頂いております』
『セっちゃんが~頼んだら~、一発~でしたね~』
『でっれでれ~、でしたよ~』と続けるミィエルに、「大丈夫かギルドマスター」と思わず呟かざる得なかった。いや、本当マジでセツナに魅了の効果とか付与されてないよな?
「話す人全員が魅了されているわけではないから大丈夫よ、カイル君。ミィエル、終わったらまた連絡を頂戴」
『は~い。ウルコットは~、何かあります~? ない~ですか~? では~、また~連絡しますね~』
「了解。頼むなミィエル、セツナ」
『は~いですよ~』
『はい。お任せください』
2人の元気な返答と共に【通信水晶】の輝きは失われた。
さて、となれば俺のやるべきことは――
「カイル、今日は戦術について教えてもらいたいわ。時間はあるかしら?」
「勿論だ。むしろ率先して覚えてもらいたいからな。時間はいくらでも作るよ」
リルの言うように、今出来ることをやる。これに尽きるだろう。目標としては“大氾濫”が起こるまでにリルの〈コマンダー〉レベルを「1」以上にすることだな。
リルに覚えてほしい鼓舞を思い浮かべながら、教材を部屋に取りに行ったリルを待ちながら、おかわりが必要になるだろう飲み物を先に用意し始めるのだった。
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