第117話 ミィエル先生とアーミー先生
「ついに~やって~きました~! ミィエル先生の~、〈ソ~サラ~〉講座~!!」
「おー」
ぱちぱちと拍手が響く場所は俺の自室。以前は淑女を部屋に連れ込もうなんて、的な会話をした気がするが、お互いその辺はノータッチだ。丁度良い場所が他になかったしね。
街中を見回っていた俺は、ミィエル達が帰宅した連絡を受けた後、ある程度で切り上げて“妖精亭”に戻ってきた。それまでは気の向くまま住人を見て回ってみたのだが、当然の如く種族を偽っているような者――特に『魔神』などは紛れ込んでいなかった。まぁ人1人で探せる範囲なんてたかが知れているわけで、俺自身も見つかるなんて思ってはいなかったけども。
で、そのままお土産にデザートを渡して夕食を終えた結果。
リルとウルコットは“アーミー・ドール”達から指導を受けたいとのことで、本日は地下室で夜の訓練を。アーリアも訓練の様子が気になるからと腕輪作成がてら見学。セツナは彼女の手伝いをすることとなった。
そんなわけで丁度良く俺とミィエルの手が空いたことで、念願の〈ソーサラー〉教室開催となったわけだ。
拍手でミィエルを迎え、伊達眼鏡にスーツ姿でビシッと決めている彼女に、
「スーツも似合うなぁ」
「そ、そう~ですか~?」
素直な感想を口にすれば、照れたように髪を弄るミィエルの反応が実に可愛らしい。飛び級で先生になった子供の漫画を思い出すね。
「ではミィエル先生。よろしくお願いします」
「はい~。お任せて~ですよ~。と言っても~、カイルくん~なら~、入り口は~すぐじゃ~ないですかね~」
ミィエルは笑顔を浮かべながら一冊の本を取り出して手渡してくれる。表紙には真語魔法入門書の文字。
「一応~、参考程度に~、お持ちしました~。ただ~、カイルくんは~既に操霊魔法を~、扱えるので~入口部分は~省きますね~」
俺個人的には入り口からもうバシバシやっていってほしかったところだが、確かに入門書を捲って読んでみれば、
『魔法とは術者が己の魂、その器に貯めたオドを基に、世界へと同化し、現象を操る技術形態である』
要するにMPを消費して術式を詠唱するなり描画するなりして、魔法行使を行うってことが、堅い言葉で書かれていた。毎回この手の本を読むと思うのだが、もう少し砕けて表現しても良いと思うんだけどね。
この辺はまぁ暇があるときに読むとして、まずはミィエルの解説に集中。そして解説を聞きながら要点を纏めてしまう。
俺達冒険者が習得できる魔法技能の内、〈ソーサラー〉と〈コンジャラー〉と言う魔法系統は、神代の時代から失伝されることなく受け継がれた魔法技術の基礎とも呼べるものである。これらを基とし、古代魔法文明から他にもさまざまな系統へと発展していくのだが――今回そこは割愛させていただくとする。さて、
〈ソーサラー〉が扱う魔法――真語魔法。
〈コンジャラー〉が扱う魔法――操霊魔法。
この2系統の魔法の大まかな違いは分野の違いである。真語魔法は術者よりも外への干渉が主なのに対し、操霊は術者の内側に干渉することを主としている。
上手い喩えかはわからないが、自然科学と言う大きな分野の中で物理学に相当するものが真語魔法であり、生物学に相当するものが操霊魔法のようなものと言えば良いだろうか。
真語魔法では“電気”を強力な放電現象である『雷』として捉え、操霊魔法では肉体を動かす『信号』として捉えると言った違いと言えばいいだろうか?
「例えば~、カイルくんが使う~〈ファイア・エンチャント〉~では~、『理を担う紅の精霊よ』と~、炎を表現しますが~、真語では~『我に従え焔のマナよ』となり~、術式もこの様に変換~されます~」
ミィエルが操霊魔法に対応する形で解説してくれるからとても分かりやすい。感覚としては外国語を習っている感覚に近いだろうか。生物学と物理学の違いと言うより、英語と日本語の違いみたいな方がしっくりくるかもしれん。しっかし、呪文の詠唱になるとキリっとした言葉遣いになるのがまた面白いなぁ。
「カイルくん~? 聞いてますか~?」
「勿論聞いてるよ。対応する術式に詠唱もおかげで理解できたよ」
「なら~いいですよ~」
そして今は真語魔法で最初に覚える魔法として〈トーチ〉の詠唱と術式を教えてもらっているのだが、
「詠唱は~、『我が指先に集え焔のマナよ。灯りを此処に――〈トーチ〉』ですよ~。後は~、魔力の練り方を~、こ~ぎゅぎゅっとからのぼわ~ッ! って感じで~」
そして現れる擬音表現による感覚の伝達である。先程までの解説がこれで全て台無しなまである。まじでわからん。
「……ミィエル、詠唱と術式は理解できたんだ。ただ魔力を込める部分でだな? こ~、ギュギュっとからのボワーってのがわからないんだが?」
「んぅ~? え~っとですね~。『指先』と『集え焔』の~部分で~、魔力をぎゅぎゅっとして~、『此処に』でぼわ~って~感じですよ~」
……んー、なるほど。タイミングが解ればまだいけそうだな。
ふはは! 伊達に〈ディー・スタック〉をミィエルから伝授され、習得したわけではないのだよ!
と言うわけで、俺はミィエルから〈ディー・スタック〉を伝授された時のことを思い出しながら〈トーチ〉の魔法を試してみる。あの時も今回と同じように詠唱と術式を教えられ――この時は解析判定を勿論フル活用――てから、魔力の込め具合を擬音表現で教えられ、結果として何とか覚えきったわけだしな。
同じ感じでやれば〈トーチ〉もきっと覚えられるに違いない――と思う。
ただ留意しなければいけない点は、そもそも俺自身がステータスから経験点を振り分けることで技能レベルを上げることができる存在だと言う事。ミィエル達みたく、元々この世界の住人と同じように訓練して技能レベルを上げられるのか、と言う疑問はいつでも付きまとう。でも〈ディー・スタック〉ができた以上、行けると思うんだよね!
「よし。我が指先に集え焔のマナよ。灯りを此処に――〈トーチ〉」
詠唱をしながら頭の中で術式を組み上げ、必要量の魔力を練り上げる。〈トーチ〉のMP消費量は「2」点。このあたりの感覚は今まで魔法を行使してきた経験で埋めていく。が――
「ダメか……」
――失敗。しかしステータスを見れば、MPはしっかりと「2」点消費されている。と言うことはやり方は間違えていなかったという事か?
「ん~、多分~ですけど~。今のは~、操霊魔法の~感覚で~行使したんじゃ~ないですか~? それだと~、術式に~沿った魔力には~ならないですよ~?」
「む。そう言われるとそうだな。いつもの感覚で行使してたな」
ってことは判定的には決定的失敗と同じ扱いにされたってことか?
「でも~、魔力の流れ~とかは~、流石の~感じですね~。後は~真語にあった~『色』に~ちょちょ~いと変換すれば~、完璧かと~」
「つまり魔力の練り方を真語に最適化されたものに寄せればいい、と言うことか?」
「そ~ですよ~」
成程。言うなればハイオクのガソリンが必要なエンジンに、俺はレギュラーガソリンをぶちこんで起動させようとしているようなものだったという事か。
でも待ってくれ。それってどうやるんだ?
「……〈ディー・スタック〉の時はその辺気にしたことはなかったんだけどな」
「〈ディ~・スタック〉は~、マスタ~が扱いやすい~よ~に開発した~、無系統魔法ですからね~。詠唱と術式を~理解すれば~、術者なら誰でも~使えますよ~」
「あー、オリジナルスペルだから良かったのか。成程な。でだミィエル。その『色』へ変換は、どうやればいいんだ?」
言われてみればアーリアのオリジナルである〈ディー・スタック〉が覚えられたからと言って、由緒ある魔法まで同じように使えるわけないんだよな。道理だわ道理。でもそうなるとミィエルが言う『色』ってのはどうすりゃいいんだ?
「んむぅ~? ミィエルは~、青空から~い~っぱいの~赤色が混ぜて~、夕焼けになる~イメ~ジですかね~?」
「魔力を練るときのイメージだよな?」
「え~っと~、今のは~ミィエルの魔力を~、ベ~スとしたもの~なので~。カイルくんは~、暖かくて安心できる檳榔子黒ですから~、別のイメ~ジの方が~、良~と思いますよ~?」
「びんろうじぐろ?」
なんだその色? ぐろ……ってことは黒なんだろうか? じゃあその前のびんろうじって何?
俺が完全に理解できない表情を浮かべていることに気づいたのだろう。ミィエルは慌てたように「植物の~ビンロウって言えば~わかりますか~?」と口にする。
「ビンロウ……植物……っ! あぁ! ヤシの木か。確か実が薬の材料になるんだったか?」
「ですです~」
――見識判定:成功。
日本に居た頃にあった植物なのかは知らんが、判定に成功した俺の頭には降ってわいたように知識が刷り込まれる。ヤシと同じ植物であり、緑色の実が実るらしい。そして檳榔子黒とはこの実を使った染色でできた黒色らしい。
「ちなみに~ビンロウの実からは~、薬は薬でも~毒薬としての~方が~有名です~。別名“死の実”とか~言われてます~ね~」
……暖かくて安心できる死の実の色なのか。俺の魔力は……。安らかに眠れ的な? 怖いよ!
まぁ、ある意味俺が〈死霊術師〉になるべくしてなった、みたいな表現だとは思うけどさ。
「カイルくんは~、薬液魔力鑑定は~やらなかったんですか~?」
「マスタ~なら~、ぜ~ったい試すと~思ったんですけど~」と人差し指を顎に当てて首を傾げるミィエルに、俺は「やったやった水見式だろ」と思わず答える。
「アルステイル~大陸では~、そ~言うんですか~?」
「あ、いや。似たような訓練があったからさ、ついつい。薬液魔力鑑定をやったのは此処が初めてだよ」
「そ~なんですね~。その時の~反応とか~覚えてませんか~?」
「覚えてるよ。白と金に黒と青で、黒が一番強いってアーリアさんも言ってたかな」
「その~黒色を~、想像してもらえば~良~ですよ~」
「成程。ちなみにミィエルはどんな反応だったんだ?」
「ん~……それは~、今度~お見せしますね~。今は~真語の訓練に~集中ですよ~!」
「だな。うっし! ミィエルもどんどんアドバイスをくれよ?」
「おっまかせ~ですよ~!」
小さい胸を叩いて頷くミィエルに感謝しつつ、俺は再び魔力を練り、
「まずはミィエルのイメージを参考に、俺の黒い魔力が朝焼けのようになるイメージで。我が指先に集え焔のマナよ。灯りを此処に――〈トーチ〉!」
〈トーチ〉行使の訓練へと入った。
★ ★ ★
あれからしばらく訓練を行ったが、結論から言えば〈トーチ〉の行使はできなかった。
俺のMPを3巡程枯渇させるまで行使を試してみたが、行けそうで行けない感覚が俺の中を支配するだけに終わってしまった。
ステータスを見ても〈ソーサラー〉を習得した表記はない。残念なことに経験点を消費してレベルを上げるしかないのだろうか? いや、まだ諦めるには試行回数がたりない。もしかしたら技能職レベルがない魔法を扱うための目標値があり、一定数成功したという経験が必要になる可能性もある。時間的に3巡で一旦中断したが、後でもう7巡ぐらい試してみるか。
それでもだめなら仕方がない、と結論を出した俺は、ベッドに座って伸びをするミィエルに心からの感謝を伝える。擬音表現はあるにしろ、他の部分に関してはミィエルのおかげで理解が進んだのは間違いないからね。
「付きっきりで教えてくれてありがとうな、ミィエル」
「ど~いたしまして~。でも~、カイルくんは~や~っぱり凄い~ですね~。あと少しで~出来そ~でしたよ~。多分~、明日には~覚えられ~そ~な感じ~ですよ~」
「そうか? なら期待に沿えるよう頑張ってみるよ」
「はい~♪ でもぉ~、ちょ~っと悔し~ですね~」
笑顔から一転して唇を尖らせてむくれるミィエル。
「ミィエルは~、使えるよ~になるまで~3日はかかったのに~」
「ははは、まだ覚えてもないのに悔しがらないでくれよ」
「むぅ~。だって~、カイルくん~の事だから~、気づい~たらレベル「5」とか~、ありえそ~なんだもん~」
「……俺はどんな化け物だ?」
可愛らしいジト目とは裏腹に、鋭い直感に思わず苦笑いを返す。事実、ミィエルの言うことは正しいからね。やろうと思えば今すぐレベル「5」まで上げる経験値の蓄えはある。
「俺様は~天才だ~! とか言って~みます~?」
「どこの模倣拳法家なんだよ俺は……」
「ふぇ? やっぱり~カイルくんは~拳士の自覚が~、あったんですね~?」
「そうじゃないんだよなー」
まぁミィエルが解るはずもないことを言った俺が悪いんだけどね。
雑談もそこそこに2人して部屋を後にし、ミィエルは廊下で俺達を探しに来たセツナを「セっちゃ~ん♪」と抱きしめて、仲良く浴槽に向かっていった。
ほんわかとしながら2人を見送り、セツナの言伝通りに地下室へと向かう。
「リル様。モウ少シ引キ付ケタ方ガヨロシイカト」
「こうかしら?」
「ハイ。ソレト早サニ意識ヲ向ケスギテハイケマセン」
「やっぱり難しいわね、これ……」
「ウルコット様。腕ダケデ振ッテハイケマセン。身体ノ軸ヲモット意識シテクダサイ」
「はぁ、はぁ……ぐっ、すまない。もう一度タのム」
地下室ではそれぞれの武器を担当する“バトルドール”がマンツーマンで指導に当たっていた。
リルには普段の弓ではなく、購入した【ライトコンポジットボウ】を扱う上でのアドバイスや〈クイックドロー〉に関することを。ウルコットには“アーミー・ドール”では【ハルバード】を扱えないため、【アイアンスピア】を持って組手で気になる点を指摘していた。
夕食を終えてから今の時間まで続けていたのだろう。そのおかげか、ウルコットは疲れてはいるものの今朝よりも動きは悪くない。リルもだいぶ【ライトコンポジットボウ】に慣れてきているのか、射程限界近くの的にも命中することができている。“アーミー・ドール”たちとのコミュニケーションも問題なさそうだ。顔を出してしばらく見てみたが、これは――
「――想像以上に有能だなぁ」
「そうね。これだけで商売が成り立ちそうじゃないかしら?」
「どうでしょう? もっと流暢に会話できる必要があるんじゃないですか?」
壁際で見学をしていたところをアーリアに声掛けされ、思ったことを口にする。やっぱりどうしてもカタコトなので聞き取りづらい感じが否めないんだよね。
「だとしても、スキルのコツを教えてもらえるだけでも良い儲けになると思うわよ? 冒険者ギルドで講習でも開いてみたら?」
「勘弁してくださいよ。大氾濫が無事終わったら、迷宮なり冒険なり出たいんスから」
アルステイル大陸を目指すという目的もあるし、折角ファンタジー世界に飛び込んだのだ。冒険者としてしっかりと冒険を楽しみたいからね! まぁ確かに金になりそうだけどさ。
「商売はやりたい人がやればいいんですよ」
「それもそうね。あんたの方はどうなの?」
「掴めそうで掴めない感じですね。ミィエルの見立てでは明日ぐらいにはなんとか」
「驚いたわ。てっきり『楽勝ですよ。これから“ファミリア”を呼ぼうと思ってました』とでも言うのか思っていたのに」
アーリア、お前もか。
「フレグト村の一件で〈セージ〉が「5」まで成長するあんただもの。あってもおかしくないと思っていたのだけれど」
「……そこまで行ければ理想ですけどね。それとセツナからお風呂が沸きました、と伝えて欲しいと」
「そう。セツナちゃんは?」
「ミィエルに連行されました」
「ミィエルらしいわね。なら、あたしもお風呂に浸かろうかしらね」
「ゆっくり浸かって疲れをとってください」
「何なら一緒に入るかしら?」
「魅力的なご提案ですが、“冒険”は今後の楽しみに取っておきますよ」
「そう。じゃあその時をあたしも楽しみにしておくわね」
俺を揶揄うように笑って階段を上がるアーリアを見送り、2人のキリが良さそうな所で「そろそろ終いにしとけー」と声を掛ける。するとリルが興奮した様子で俺へと近づき、近すぎる距離感で一言。
「凄いわねこの子達!」
「お、おう。凄い前のめりだな」
「当たり前よ! 感動したんだもの! 両親以外でこれほどの使い手は初めてだもの! もしかして、セツナも!?」
「あぁ、出来るぞ。セツナならこの子らより幅広く――例えばリルの目標に近い事が出来るだろうな」
「やっぱり! あ……でも改めて聞くと、ちょっとズルいように感じるわね」
思わず仰け反る俺へ流れるようにアーミーたちへのスキルに興奮し賞賛したと思ったら、次には困ったように眉を顰めるリル。テンションの上下が激しいな、をい。しっかし、
「“ズルい”っておま――」
「勘違いしないでよ? 別に努力家のセツナに対して言ったわけじゃないわよ」
被せ気味に俺の言葉を遮ったリルは、セツナと同じぐらいのサイズで創られた“アーミー・ドール”の頭を撫でて続きを口にする。
「私達には努力さえ伴えば良い今の環境を用意できるあなたがいるのだもの。それが普通の人たちからすれば、『ズルい』と言えるのではないかって。少し思っただけ」
「散々活用させてもらっておいてなんだけれどね」と悪戯っ子のような笑みを浮かべるリルに、むしろそれが正解だよと俺も大きく頷く。確かに客観的に見れば羨ましい環境かもわからんが、そんなもんは運と縁でしかないし、見ず知らずの誰かに遠慮する必要などないのだから。
「師匠が弟子のために用意したんだから、気にせずバンバン使いなさい。そしてとっとと強くなって俺を楽にさせてくれ」
「ふふっ、そうね! ならこれからもよろしくね、アーミー先生。弟共々、先生に見捨てられないようしっかりと頑張るわ!」
「ハイ、リル様。今後モヨロシクオ願イイタシマス」
良い笑顔を浮かべるリルに、わずかに微笑む“アーミー・ドール”。良い関係が築けているようで何よりだ。
「じゃあ私もお風呂に入ってくるわね」と軽いステップで階段まで躍り出て思い出したように振り返り、
「カイルも一緒に入る?」
「天丼やめーや」
マジで突撃するぞオラァ! と睨む俺から、リルは逃げるように階段奥へと姿を消す。全く、ご機嫌すぎて何よりだよ。
「で、ウルコット。お前は大丈夫か? 残念ながら風呂は1時間空かないぞ?」
『大、丈夫だ……問題、ない……』
俺の掛け声で集中が切れたのか、身体も事切れたように床に這いつくばるウルコット。言葉とは裏腹に全く大丈夫じゃないよな? 指パッチンしたろか――なんてネタに走ってる場合じゃないか。
「――〈アース・ヒールⅡ〉。ほれ、少しは楽になるだろう。身体を冷やしすぎないよう、先にシャワーでも浴びとけって」
『すまない。正直助かった』
一度でウルコットのHPを全回復させられるだけの回復魔法をかけてやれば、楽になったのかゆっくりと立ち上がり、
「ご指導、ありがとうございマシた」
「イエ。オ疲レサマデシタ。後ハユックリトオ休ミクダサイ」
ウルコットは姿勢を正し、“アーミー・ドール”に頭を下げて退室した。最初の印象とは打って変わって、本当あいつは真面目で良い奴だよな。使役獣だからと見下すこともなく、敬意をもって頭を下げられるんだからな。
皆を見送った俺は、傍に控えるように立つ弓を手にする少女型アーミー・ドールと、槍を背負う少年型アーミー・ドールへ、片膝をついて視線を合わせ、セツナにするように頭を撫でた。この子らは2人に「先生」と呼ばれるほど、任務に従事したのだ。主人として労わねばなるまいて。
「よくやってくれた。今後も頼むぞ」
「「っ! イエス、マスター」」
「良い返事だ。じゃあ片づけを一緒にやっちまうか」
的とか放った矢とかそのままだしな、と思って口にすれば、2体のアーミー・ドールは両手を広げて俺を止めた。
「マスター。ソレハ私タチガヤッテオキマスノデ」
「マスターハユックリトオ休ミナサッテクダサイ」
「アーリア様ニオ仕エシテイル姉妹モイマスカラ」
「僕ラダケデモスグ終ワルカト」
「……そうか? なら任せていいか?」
「「イエス、マスター」」
どこか誇らしげな2体のアーミー・ドール。この辺が本当“ゴーレム”なんかより有能だよなぁ。しっかし、
「まさか“バトルドール”同士で姉妹と口にするとは……。とあるラノベの自動人形よろしく、バトルドール同志で念話とかできたりするのかね? そこまではねーか、流石に」
1日で効果が切れれば記憶もなくなるただの使役獣でしかなく、特別なのはセツナだけだ。
それでも俺は印象に残った2体のアーミー先生を、次回も同じ姿で創造してやろうと、何とはなしにそう思った。
いつもご拝読いただきありがとうございます!
実はアクセスが急に跳ね上がってびっくりしています。
呼んでいただいた方に、少しでも楽しんでいただけるよう、今後も更新します。
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