第116話 カウントダウン3 前準備
「今日も今日とて~、ひったす~ら〈リファイン〉」
朝食後は買い出しをミィエル達に任せ、俺はひたすらに【魔石】の精製作業をこなしつつ、アーリアの準備が整えば〈クリエイト・バトルドール〉の〈エンクロウズ〉作業へと移行する。
勿論封入するバトルドールはレベル「7」の“アーミー・ドール”が基本となる。
また役割は近距離型と遠距離型の攻撃役に絞り作成している。遠距離攻撃がメインとなるリルならば盾役が欲しい所だが、ひたすら殲滅を行う“大氾濫”のことを考えると、殲滅力を高めた方が結果的に生存率が上昇するためだ。
「ふぅ……これで4枚目ですね」
「順調ね。できれば後4枚は欲しい所ね」
ミィエル、リル、ウルコット、アーリアさんで各2枚か。【スペルカード】の作成だけなら今日中にでも終わるだろうけど、
「アーリアさんは大丈夫ですか? 〈エンクロウズ〉、結構神経使うんじゃないですか?」
現状順調に進んでいるのは、偏にアーリアが行う〈エンクロウズ〉の成功率が高いからこそだ。なんせ今のところ一度も失敗はないのだから。
「ありがとうカイル君。でもこの程度なら心配ないわ。あんたと雑談を交わす程度には余裕よ」
「それは頼もしい」
【マナポーション】をがぶ飲みしながら集中して行えば、今日中にでも【スペルカード】の作成は完了できそうではあるな。
「そう言えばカイル君。雑談がてらに訊いても良いかしら?」
「なんでしょう?」
「ウルコットは模擬戦でたたき上げていたみたいだけれど、リルの方はどう指導していくつもりなのかしら?」
「弓はあんたも専門外でしょう?」と首を傾げるアーリアに、「その通りですよ」と返す。
「一応“大氾濫”までは弓よりも〈コマンダー〉の技能に注力しようと思ってます。リルも座学を頑張ってくれるようですし」
「まぁ時間がないものね。ちなみに弓はどうするのかしら? “妖精亭”には残念ながら弓を扱う人材はいないわよ? 外部から呼ぶつもり?」
「いえ。実はちょっと考えていたことがありまして、これがうまくいけばウルコットの槍あたりも解決出来ると思うんですよね」
「アーリアさんの休憩に合わせて試そうと思うんですが、どうでしょう?」と【マナポ】で俺のMPを回復しながら問えば、「丁度良いわね」と頷いてくれた。
「それで、何をするのかしら?」
「アーリアさんなら見ただけで解ると思いますよ」
俺は新たに取り出した素体と追加素材から、もうこの世界に来てから一番唱えている魔法――〈クリエイト・バトルドール〉を再び行使する。
「我が意思に従い、生まれし擬似なる魂。虚ろなる器にて生命の鼓動を刻み従属せよ――〈クリエイト・バトルドール〉」
創造するは【スペルカード】に封入するものと同じ“バトルドール”――レベル「7」の“アーミー・ドール”。
ただし追加素材3つを全て〈シューター〉としてのアビリティへ限定する。
付与するアビリティは〈ボウマスタリーⅡ〉と〈ターゲティング〉、そしてスキルの〈クイックドロー〉。
〈ボウマスタリーⅡ〉で高度な弓技術を付与し、誤射をなくす対象固定の〈ターゲティング〉も勿論与える。そして最後は遠距離攻撃用スキルの〈クイックドロー〉を採用した。理由は簡単で、〈クイックドロー〉がこっちの世界だとどう処理されるのか気になったから。ちなみにTRPGの時は命中判定でダイス目「9」以上で、もう一度攻撃判定を行えるようになる強スキルの1つである。
「…………成程ね。確かに解釈通りなら、カイル君の狙いは正しいわね」
俺の狙いに気づいたのか、顎に手を当てて呟くアーリアさん。まだ確定ではないにしろ、俺の解釈はあながち間違っていないと思っている。なんせステータス画面でレベルさえ上げてしまえば、必要な技術を習得できてしまうカイルと言う存在がいるのだから。
アーリアも考えが纏まったのか、「つまり」と前置きをして俺と同じ答えを口にする。
「あんたは“バトルドール”に技術指導をさせようとしているわけね?」
「その通りです。“バトルドール”は俺達と同じ〈アビリティ〉や〈スキル〉を付与できる使役獣です。つまり必要となる技術の〈マスタリー〉系を覚えさせれば――」
「独自技術は兎も角、基礎となる技術力を手にした“人材”が手に入る、というわけね。それだけでなく、スキルの見本も見ることができる、と言う事ね」
彼女の言葉に笑顔で頷き返す。簡単に言ってしまえば、技術指導者がいないのならばバトルドールに任せればいいじゃない! 作戦である。
「まぁ会話ができると言っても、指導まで出来ると言うわけではないですけどね。できないならできないで『見て盗め』と言えばいいわけですけど。まぁ、いざとなればセツナが指導員になるって手もありますからね」
セツナなら“汎用型バトルドール”と違い、俺と戦う事もできる。つまりリルやウルコットがセツナレベルになった時の動きも知れると言うわけだ。ついでに俺の訓練にもなると言うお得仕様である。
「さらに言えば、“ゴーレム”や“アンデッド”も創造して利用すれば、安全に様々な実践訓練も行えます。これは俺が師匠からやらされてたんで、間違いないです」
まぁTRPG時代、使役獣を創造して自ら戦って倒すことによる経験値の発生を許可するかどうかは、GMによりけりだったので、この世界ではどうなるのかはまだ確認してないんだけども。“キョンシー”を使役した時に魔法効果の解除ではなく、討伐による経験値が発生するかどうかを確認すべきだったかなぁ? 今更だけど。
「まぁ準備までに時間がかかることと、お金もかかることがネックなんですがね」
「……時間は兎も角として、安全が確保されていると言っても確かに費用は馬鹿にならないわね。こと駆け出しの冒険者なんて、とてもじゃないけれど賄えないものね」
例えばレベル「3」の“プロトドール・ウッドマン”を創造するためにかかる費用は凡そ1,500G。同レベル帯の冒険者が1回の任務で稼げる金額が凡そ4,000~6,000Gと考えれば、どれぐらい厳しいかが窺えることだろう。
ちなみに“ジェーン・ザ・リッパー”は素体だけで80,000Gであり、消費する【魔晶石】まで換算すると倍以上の金額となりますよ!
まぁ俺もアーリアも通称“充電池”と呼ばれる【蓄積型魔晶石(24時間で最大値まで保有MPが回復する魔晶石)】を使用しているため、毎日創造しようとコストは大きく削られていないのだけれど。
ちなみに値段は俺が所持している「10」点分で20万G致します。アーリアが所持している「20」点の【蓄積型魔晶石】はTRPG時代に存在しなかった逸品なため、価格は計り知れません。一応解析してみたら最低100万と判明いたしました。それを2点持っているんですよ、アーリアは。本当、
「ズルいですよねぇ……」
「そうね。他の駆け出しからしたらズルいでは済まないレベルよね」
俺は徐々に姿を人型へと変えていく人形を見ながら、アーリアの持つ【魔晶石】に対して呟き、彼女は“バトルドール”を利用した訓練方法に対して溜息を漏らした。
「マスター、ゴ命令ヲ」
アーリアと雑談しているうちにセツナと同年代ぐらいの少女――“アーミー・ドール”が完成し、俺の前に跪く。
俺は早速命令を待つ彼女に対し指示を出す。「俺に弓の手ほどきをしろ」と。
しかしアーミー・ドールは少し困ったように周囲を見渡した後、
「マスター、弓ハドチラニゴザイマスカ?」
「…………あっ」
「……さっきも言ったのだけれど、うちに弓なんて置いてないわよ」
あまりにも間抜けな声を上げた俺に、アーリアの呆れた声を投げるのだった。
★ ★ ★
改めて創造し直した“アーミー・ドール”で技術的な手解きができることを確認し終えた頃。
丁度お昼時とあって、セツナから【通信水晶】にて、
『ミィちゃんのお知り合いである冒険者の方々とお昼をご一緒しようと思うのですが、よろしいでしょうか?』
と連絡を受けたので、勿論良いぞ、と笑顔で了承した。
セツナには様々な人たちと交流して、いろんなことを学び成長してほしいと思っていることだしね。
ついでに先程創造した“アーミー・ドール”2体を、セツナ達の所に行って指示を受けるよう送り出しておいた。こうしておけば、“アーミー・ドール”は俺達の関係者だと周知できるだろうし、いざとなれば買い出しの荷物を持たせて先に“妖精亭”へ帰らせることもできるからね。
買い出しはゆっくりしてくれればいいと伝えたけど、セツナのことだから予定外の時間経過に気を揉む可能性もあるからね。
「と言うわけで、ミィエル達は外で昼飯だそうです」
「そ。じゃあそろそろあたしもキリの良い所まで終わるから、準備をお願いね? カイル君」
「……ナチュラルに振ってきますね?」
「あんたはあたしの助手みたいなものだからね。それにコーヒー淹れるのも準備されている昼食を用意するのも大差ないでしょう?」
「……まぁ今手が空いてる俺がやった方が効率良いですしね。飲み物は何にします?」
「カフェオレ、砂糖はいらないわ」
「かしこまりました」
もう宿泊客なのか従業員なのか線引きがあいまいになったことは気にしないことにして、ミィエルとセツナが用意してくれた美味しい昼食を終える。
その後は一気に必要数の〈エンクロウズ〉を終わらせ、アーリアは引き続き腕輪作成へ。俺は外の空気を吸いつつ、ザード・ロゥの出入り口を見るために足を運んでいた。
「都市の門と門の間は凡そ2kmぐらいか。中世で考えれば大都市一歩手前の大きさだよな」
俺がいた世界よりも圧倒的に死が身近なことを考えると、十分大都市と言っても良いのかもしれないな。
そんなことを考えながら各門をしっかり確認する。
“大氾濫”がひとたび起きれば、溢れ出た魔物たちは必ず人口密集地へと向かってくる。
確か設定では迷宮に呼ばれた魔物達は食事を必要とせず、迷宮核から与えられる魔力で生命を維持している。だが迷宮の許容量を超えてしまえば、当然魔力を供給する量も減ってしまう。結果として飢餓状態で外部へ溢れるため、人族を求めて大暴走を引き起こす――だったか?
地図を確認する限り、迷宮周辺で最も近い人口密集地は此処しかない。そうなるよう、迷宮が発見されるたびに小さな村や集落などは移動させられているのだろう。
「さて、アーリアさんから聞いた話では、この街が“大氾濫”に見舞われたのは過去2回だったか」
1度目はDランクの迷宮がある東門。2度目は少し離れているがCランクがある北門。どちらも街中になだれ込むようなことはなかったらしく、街には大きな被害もなく済んでいるとのこと。
実際目にしてみた感じ、防御・耐久力ともに高く頑丈な鎧戸であるし、俺が入ってきた南門同様外壁の高さもある。余程力を持った相手か、はたまた大地を埋め尽くす様な数で攻められない限り物理的に破壊されることはないとは思う。
TRPG時代でも構造物を破壊するのは楽ではない。抵抗さえ抜ければ問答無用でダメージを与えられる魔法攻撃ですら、構造物は持ち前の防御力でダメージを軽減してしまうためだ。
まぁそうでもなければ迷宮なんて壁を魔法で破壊しまくって踏破してしまえばいい、と言う脳筋プレイが横行してしまうからね。
「……どの門も問題ない、かな。後は対応できる人員と装備がどうなるのか。大氾濫の規模と――」
今まで外に向けていた視線を中へと向ける。恐らく、現状で最も警戒しなければならないのは門の内側だろうから。
「――内部でこちらを妨害、混乱するようなものが仕組まれてさえいなければ、何とかなるだろうな」
未だ回り切れていないザード・ロゥの地理を頭に叩き込みながら、今はまだ平和な雑踏の中を、俺はゆっくりと歩きだした。右目に懐から取り出したモノクルをかけながら。
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ちなみに私は、構造物が破壊できる場合、割と戦闘中でも巻き込むように破壊する派です。GMが許してくれれば、ですがw
それとバトルドール、超便利です。