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第114話 カウントダウン3・早朝訓練

ごめんなさい。今回はちょっと短めです。その代わり次回は早めに投稿予定です

「カイル、頼ミがあル」



 早朝。いつもの日課である運動を終え、〈クリエイト・バトルドール〉に入ろうかと言う所で、姿を見せたウルコットが俺に頭を下げてきた。



「俺に稽古ヲつけてホシイ」


「いいぞ。ただ俺は剣士だから槍術の指南は出来ないぞ? だから基本は俺との組手になる」


「わかっていル。ムシロ望むとこロだ」



 頷くウルコットに、オーケー、と俺は剣を収める。



『やるからには実戦重視でいこう。ウルコットはまずフル装備になってくれ。後エルフ語でいいぞ』


『……わかった。部屋からすぐ取って来る』



 俺もエルフ語で告げれば、笑みを浮かべて地下室の階段を上っていくウルコット。彼を見送りながら、俺は持ってきていた【巾着(マジック)バッグ】から、昨日市場で購入しておいた【木剣】を取り出した。真剣による寸止めでも良いかとも考えたんだけど、手元が狂って致命傷(クリティカル)――なんてことが起こったら笑えないため却下した。



「手本って意味じゃ、俺も槍を使った方がいいんだろうけどなぁ」



 普段武器として使うことはないが、旗槍(ショートスピア)も持っているためこっちの方が良いかとも考えた。しかし俺の所為で変な癖をつけられても困る。なので、



「やっぱり、木剣(こっち)だよな」



 剣士としての領分で行こうと決める。槍術に関してはちょっとした〝抜け道〟を考えているので、それがだめだったら考えようと思う。



『待たせた。大丈夫だと思うが、刃の部分に布は巻いた方が良いか?』


『いらんいらん。遠慮せずガンガン本気で振って来い』


『わかった』


『身体は温まってるか?』


『大丈夫だ、問題ない! よろしくお願いします!』



 【プレートアーマー】で身を包み、長さ2.5mはあろう【ハルバード】を両手に持って構えるウルコットに、俺は全長80cm程の【木剣】以外は部屋着であるシャツとズボンのみ。5m程の距離をとり、相対する。



『いつでもいいぞ』


『……っ!』



 短い呼吸と共に踏み出し、リーチの差を最大限に活かし胸部を狙った一突き。俺はじっくりと観察しながら体を開くことで躱す。躱されると同時、穂先を引き戻しながら再び突き。自分の身体を支点にした斧部分の薙ぎや、突起(ピック)での引っ掛けなど、牽制を含めた様々な攻撃をウルコットは繰り出し続ける。



『ハァッ!』



 気合をのせた〈全力攻撃Ⅰ〉により振り下ろし。俺は斧の腹へ合わせて【木剣】を振るうことで受け流し、返す刃でウルコットの首へ突きつけた。



 ……やっぱり、しっかりと“解る”んだよな。技能判定(ダイスロール)さまさまだな。



 全力で【ハルバード】を振るい息が乱れるウルコットに、俺は「息を整えてからもう一本」と告げて距離を置く。その間に確かな手応えを得た俺は、今俺に起こっていることを冷静に考察する。



 ぶっちゃけた話、偉そうにウルコットやリルの指導を買って出たわけだが、本来の(・・・)俺自身に実技指導をつけられるような技術(もの)はない。

 このレベルまで努力で上り詰めたカイルならば(・・・・・・)、きちんとした指導ができるだろうけど、あいにく俺は前世で良くて多少の武術を齧った程度でその域にはいない。だから最悪の場合、模擬戦を行うことで「俺から見て盗め」をするしかないと思っていた。



『はぁ、はぁ……よしっ! もう一本お願いします!』


『次は打ち合いながら改善点を指摘していくぞ。指摘した点が改善できなければ、木剣(こいつ)を叩き込んでくから、そのつもりでな』


『はい!』



 再び相対し、矛と剣を互いに振るう。



『踏み込みが甘い! 突きの時に身体が流れてるぞ!』


『はい!』


『リーチに頼るな! 握りが甘い!』



 しかし今の俺はウルコットの何が悪く、どうすれば良くなるのかがしっかりと解っている(・・・・・)。気づいた点はどんどん指摘し、二度同じことをした場合は容赦なく【木剣】を叩き込めるほどに。



 今更だがTRPG時代のLOFでは、各判定に対応した技能職レベルとステータスによる基準値から達成値を割り出し、物事の成否を判定していく。そして判定(これ)は現実となった今でも変わらないし、GMに気軽に「振っていい?」と訊くように俺自身も幾度となく使っている。


 今やっている模擬戦においてもそうだ。DEX(命中)判定とAGI(回避)判定に成功しているおかげで、どこを狙えば良いか、どう相手が動くのかを理解し自然と身体が動いている。だから、



『スキルに頼らず、回避と防御も念頭に置く動きは良いぞ。二の打ち要らず、なんて早々できないからな。ただ攻撃は穂先だけって考えは捨てた方がいいぞ? 柄だって石突だって叩きゃダメージになるんだ。武器に拘らずいけるのなら、蹴りも良い。意識外の攻撃は存外に効くぞ?』


『ぜぇ、ぜぇ……それは、嫌でも、わかっ、た』



 意識することで言語化も出来ている。

 ウルコットの強みや弱みが良く見得るし、改善点も閃く。これなら問題なく指導も出来そうだ。


 ある意味TRPGだからこそ、素人()に優しい世界の理(システム)と寛容さ、とも言えるな。何にしろ大変助かることだ。GMがいるなら感謝を述べておこう。サンキューGM!



 ……それに、嬉しいことに日毎に身体も頭も“動く”ようになってきている気がするんだよね。ただの『勘』だったものが『理論』として組み立てられてきたと言うか、これぞレベル「13」って実感をより感じるんだ。馴染んできた、ってことなのかな? あんだけ戦闘してきておいて今更かよ、って感じだけどね。



 内心で突っ込みを入れつつ、二度目のダウン(床ペロ)をしたウルコットへ言葉を贈る。



『ダメージを受けることを恐れてはいけないが、喰らわないに越したことはない。受けちまった分は回復させるけど、俺に攻撃を当てることだけじゃなく、時間当たりの被ダメージを減少させることも心掛けるように』


『了、解……した…………』



 彼が息を整えている時間、俺は【木剣】で発生したダメージを全て回復魔法で回復させていく。ボコボコにされて減少していたHPがみるみる回復し、数分で息を整えたウルコットに三度相対していく。


 正直、指導攻撃(これ)が一番気を使うかもしれないな。【木剣】とは言え、気をつけないとただでさえ攻撃にレベル「13」の力量がのってしまううえ、決定的成功(クリティカル)なんてして威力決定判定(ダメージロール)何度も発生し(ダイスが回りすぎ)たら即死させかねないから……。


 それでも4戦もする頃にはすっかり手加減にも慣れ、【木剣】で叩くごとに与えるダメージは「1~3」点までに抑えることができるようになった。さらに〈プロテクション〉でダメージをさらに軽減させることで無理やり継戦能力を上げ、後はウルコットの体力が続く限り模擬戦を繰り返す。



「主様。朝食のご用意ができました」


『お、もうそんな時間か。よし、今日はこれで終わりにしよう』


『ありが、とぅ……ござぃ、まし……た……』



 結果。朝食の準備が終わる時間までやり続けてしまい、ウルコットの集中力もSTMと共に底を尽きかけていた。仰向けに倒れ、起き上がる力もない程に。あー、ちぃっとばかしやりすぎたかな?



『立てるか?』


「……少シ……休めバ…………」



 セツナが訪れたためか、共通語で話すウルコット。

 体力が付きかけていると言うのに共通語にて会話するように、を守ろうとする彼。真面目だなぁ、と思っていると、セツナの視線がウルコットへと向き、



『かしこまりました。ではウルコットの分は、テーブルに到着してから提供致します』


「……凄いなセツナ。いつの間にエルフ語を勉強したんだ?」



 驚いて目を瞠る俺に、セツナははにかみながら『夜に少しずつ、です』とエルフ語で応対する。



『せめて日常会話程度は、緊急対話できるよう、と頑張り致しました』



所々たどたどしくはあるが、勉強すると宣言して数日と経ってないよな? 本当にセツナは優秀だ。多分俺が同じことをしても全然できないと思うぞ。



「セツナの成長は俺も嬉しいよ。でも頑張りすぎないようにな?」


「っ! はい!」



 満面の笑みを浮かべるセツナに癒されつつ、俺はぽーっとしているウルコットに『先に行ってるぞ』と言い、俺に付き添うセツナは『確か……』と呟くように前置きをし、続く言葉に実験室の空気が凍り付いた。


 その鈴が転がるような声で紡がれた台詞に、ウルコットは一瞬で表情を失くし、俺もセツナが口にするとは思えぬ台詞に頬を引き攣らせる。彼女の様子からいって口にした意味を理解していないことを悟った俺は、本当の意味を告げるべきかどうかを悩み――



「まずは朝食前に魔力補給をしよう」


「はいっ♪」



 ご機嫌なセツナの表情を崩したくて―ー今この場での答え合わせはしないこととした。


いつもご拝読いただきありがとうございます!

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