第110話 とある冒険者パーティーの最後
誤字脱字報告、本当に助かります。気を付けていても私は見逃してしまうので……。
後ご感想頂けている方々も、本当にありがとうございます! 大変励みになっております!
この〝試験会場〟と呼ばれる迷宮の2層は、1層に比べて罠などのギミックが多く、斥候なしでは手痛い仕打ちを受けるように作られている。
「イアン、そこに落とし穴よ。私が安全なルートを通るから、雛鳥のようについてきて」
「了解」
俺たちの眼であり耳であるアビーに従い、罠を避け、時には解除してもらいながら進む。当然途中で出会う敵は全て狩っていく。
そしてついぞ迷宮主のフロアへと辿り着く。
「どう思う?」
「大氾濫の兆候とは思えません。確かに1層ではいつもよりは遭遇率が高かったと思いますが、誤差の範囲ではないかと」
「ならば、〝試験会場〟は大氾濫対象迷宮ではなかったってことだね。一安心だよ」
ならば手早く迷宮主を倒してこの迷宮から出ることとしよう。
僕たちは視線を交わして頷き、一歩フロアへ踏み込む。
「ヴォォオオオオ!」
踏み込んだ刹那。フロア内の松明に火が灯り、視界の確保と共に迷宮主の姿を露わにする。
「どうやら今日は“オークナイト”の日みたいね! 取り巻きは“ゴブリン”3!」
「油断せず手早く終わらせよう! こっちだ! 〈エコータウント!〉」
視認と同時に相手よりも素早く僕たちが動き出す。僕はいつも通り敵愾心を一身に集める。所詮はレベル「4」の“オークナイト”。こいつの攻撃をいくら受けようとも僕がダメージを負うことはない。
範囲内の“ゴブリン”も僕に視線を向けた瞬間、背後から高速で飛来した矢がゴブリンを一矢二矢と貫き絶命。さらにグラッドが腕を振るえばバネ仕掛けの玩具のように首が飛ぶ。
「我が手に集い我に従え破壊のマナよ。打ち砕け――〈エネルギー・ボルト〉!」
今までMP温存のために後方で待機していたヴィヴィも魔法攻撃で参加する。彼女が構えた杖の先端から光球が迸り、取り巻き最後の“ゴブリン”の頭を吹き飛ばした。
これで残るは“オークナイト”ただ一匹。
「ヴォォォオオオアアア!」
”オークナイト”が持つ2mはあろう長大な鉄剣が雨のように振るわれ、僕はそれを全て一歩も下がらず【カイトシールド】で受け止める。剣と盾が激しくぶつかり合う方向が大気を震わせる中。この乱打の終わり――息切れの瞬間を見極め、
「そこだっ!」
右手に握った【ブロードソード】で軸足を刈り取る。
叫び声と共に体勢を崩した“オークナイト”の両目に矢が突き刺さり、最後は鋏の様に振るわれたグラッドの二刀によって首が切り離された。
「よし。それじゃあ一応核に異常がないかも調べて、何もなければ戻ろうか」
迷宮主はその身を証となる魔石へと変換して消え去った。同時にこの部屋の奥、祭壇の上に現れた迷宮核が俺達を迎え入れるように明滅する。
僕らが知る〝試験会場〟となんら変わらない光景に、ほっと安堵の息を漏らす。
アビーとヴィヴィが核へと足を進め、グラッドは魔石の回収。僕は〝試験会場〟の外で待つもう一つのパーティーへと連絡できるよう、【通信水晶】をマジックバッグから取り出す。後は何事もない、と連絡を入れれば終わり――
「イアン! グラッド! こちらへ来てください!」
「あん? どうしたんだよ一体?」
――とはならなかった。
「見て」
アビーが指で示す先は迷宮核祭壇の裏手。そこには、
「下層への、階段?」
「えぇ。私の記憶ではこの迷宮が〝試験会場〟として運用されてから今日この日まで、3層の情報なんてなかったはずよ」
隠されるように、巧妙に蓋がされていた地下への階段だった。
「確かに、僕の記憶でもないね。会場に認定する際だけじゃなく、定期的に高レベルの斥候が調査に赴いているはずだよ。でも、3層の報告なんて聞いたことがない」
「ここ最近、成長したってことかよ?」
「いえ。それはないと思います。現にこの迷宮で命を落とすような冒険者はここ最近でもいなかったはずですから」
そう。グラッドの言うように迷宮は成長する。それが叶えば階層が増えることはある。しかし迷宮が成長するための条件は、迷宮の外から訪れた声明を迷宮内で殺し、その魂を吸収すること。だが冒険者ギルドが初心者脱却の試験に誂えたこの迷宮で、成長するほどの犠牲者が出ることなどないはずだ。
「……でも最近できた、と言う感じもしないわ。今日の今日まで見落としていた、と考えるのが妥当かしら?」
「たとえ迷宮が成長したとしても、真新しい新築状態にはならんだろうよ? 見た感じはあてになんねぇんじゃねぇか?」
「それもそうね」
「ならアビー。階段の先は見えるかい?」
「降りてみないとわからないわ。相当深いわ。何なら先行偵察に行ってくるけど?」
「……いや、ダメだ。それなら僕たちも降りる」
僕は首を振り、【通信水晶】を起動する。
「こちら“暁天”のイアンだ。聞こえるか?」
『はいこちら“新緑の風”のルィリー。ばっちり聞こえてるぜ、イアン。状況は?』
「迷宮主を討伐。現状大氾濫のような状況は見られていない。だが、3層への階段を迷宮核の祭壇後ろで発見した」
『そうかそうか大氾濫は見られな――はぁ!? 3層だと!?』
「……やっぱりルィリーも聞いたことはないか」
これで僕たちの情報が古いわけではないことが分かった。
『おいおい。ここが〝会場〟になって以来の大発見じゃねぇか! でも大氾濫には関係ないだろうから、調査はまた今度か?』
水晶から聞こえる声に応じて視線をアビーへと向ければ、彼女は瞼と閉じて首を振る。
「最近使用された形跡が見られたわ。勿論、隠蔽工作も。だから違和感として私でも発見できたのよ」
「ルィリー。どうやら無関係ではないようだよ。何者かが最近使用した形跡がある」
『……イアンのことだ。我先に調査したいからって吐く嘘じゃねぇわな。となると、例の『魔神』共の仕業だと考えるべきか?』
「わからない。だけど関りがあると考えた方が良いだろうね。最悪大氾濫も『魔神』かそれらと関りがある奴らの仕業と言う線もあるから」
先日、とあるエルフが暮らす村で起こった事件。高レベルの『魔神』が、自らの主を現世に召喚せしめようとした忌まわしき儀式。それを寸でのところで阻止され、残党の掃討が依頼として張り出されたのは記憶に新しい。
もし奴らがまだ息を潜めていて、何かを起こそうとしているとしても何ら不思議はない。
『糞共が。至急ギルドに応援を呼ぶ。お前らも戻って来い』
確かに僕達の安全を考えればここは退くべきだ。しかし――
「最後の形跡は中に入っていくものよ。ここが出口でなければ、捕らえることも視野に入るわ」
「行きましょう。幸い状態は万全です。関連があるにしろないにしろ、一刻も早く解決すべきです」
「何を迷ってる? 行くぞイアン」
『どうした? まだ通信限度時間ではないはずだが?』
「すまないルィリー。僕らは先に先行偵察してくるよ。もしかしたら大氾濫を未然に防げるかもしれないからね」
――ここは頼りになる仲間たちの言う通り、先に進むべきだ。もし危惧する通りなのだとしたら、この一手で全てが解決する可能性が高いのだから。
『……慎重さが売りのお前ららしくないな。まさかと思うが、騎士崩れにあてられたか?』
「刺激を受けていない、と言えば嘘になるよ。ただ状況からして僕たちが先行するのが最良だと判断したんだ。何よりザード・ロゥは僕らの街だ。もし『魔神』や類する奴らがいるとするならば、これ以上好き勝手さたらかなわないよ」
『確かにそうだがよ』
欲しいのは自分達の安全じゃない。僕達のザード・ロゥの安全だ。それが多少の危険を冒せば未然に防げるのであれば、僕たちは迷わず行くべきだ。
「それに最悪の場合、少ない被害でトップパーティーを一番に送り込むこともできるからね」
『……よせ。最悪は考えないものとするぞ。必ず無事で戻って来い』
「僕らだってなるべく避けるつもりだよ。でも、だからこそ“合図”があったら迷わず頼むよ」
僕ら冒険者だからこそ決められた“合図”。とても単純だが、それ故に緊急性がない限り絶対に行わないものだ。だから「何かの間違いか?」などと済まされてはならない。
そして僕らに何かあれば、ギルドは迷わず優先順位を上げて対処してくれるはずだ。最善手は僕らも無事なことだが、最悪でも次善手な結果は得られる。そうなれば結果、街の安全へと近づけると言う算段だ。
『わかっている。では、頼んだぞ』
「了解」
通信を切り、その間に準備を済ませていたメンバー全員を見渡して頷く。
「よし、行こう」
☆ ☆ ☆
3層へ続くと思われる階段は長く、螺旋状へ地下へと進んでいく。先導はアビー。続いてグラッド、ヴィヴィ、殿は僕だ。2層までとは打って変わって暗いため、今はランタンをボクとヴィヴィがそれぞれ持つことで明かりを確保している。
しばらく警戒を厳として降っていると、先導するアビーからハンドサインが送られる。どうやら3層へと辿り着いたらしい。
(先行するわ。時間はいつも通りに)
(了解。気を付けて)
僕たちから一定距離を離れて先行しだしたアビーを待つこと2分。表情を険しくさせたアビーが姿を現し、「罠、敵性存在共にないわ」と口にする。
「ただ……私ではコレが何なのかわからないわ」
「アビー?」
「ごめんなさい。見てもらった方が早いと思うわ」
「なら全員で行こう。ヴィヴィ程でないにしろ僕らも役に立てるはずだ」
僕の言葉に全員が頷き、アビー先導の下3層へと足を運ぶ。
「なん、だ? ここは……?」
果たしてグラッドの口から思わず漏れた言葉に、僕も心から同意せざる得ない程の衝撃だった。
ランタンの明かりで照らされた視界には、長い下り階段はこのためだったのかと思えるほど高い天井に、所狭しと並ぶ機械の群れ。奥行も広く、ランタンの光では奥まで見通せない程。
目に映る機械は、現在は稼働していないようだが埃など積もっておらず、今すぐにでも稼働可能な様――いや、つい先程まで稼働していたのではないかと思えるほどに保存状態がよかったのだ。
「まるで工場だ。僕には判断できないが、ヴィヴィはこれがいつの時代のものかわかるかい?」
「……恐らく異界大戦の頃かと」
「という事は、凡そ700年ほど前か」
異界大戦――この世界に『魔神』が現れ始めたと言われる時代であり、俺達『人族』と『蛮族』が最も激しく争った時代。結果として最も死が双方に齎されたと伝えられている。その時代の遺跡だという事。
「つまり〝試験会場〟は古代遺跡に迷宮核が発生した迷宮だった、という事か」
「えぇ。とても喜ばしい発見であり、歴史家たちは大喜びすると思います。ですが今はそんな世紀の大発見を喜んでいる場合ではありません」
明らかにヴィヴィの表情に焦りが見え、血の気を失い、何かに耐えているかのように声が震える。僕やアビー、グラッドでは解り得なかった事実を、ヴィヴィが感じ取ってしまったからだ。
「急いで脱出を! この工場は既に稼働完了しています!」
ヴィヴィの言葉にぞわりと怖気が奔る。ヴィヴィ程僕は歴史に詳しくはない。だがそれでも彼女が発した言葉の意味は嫌でも解る。つまりこの施設は未だ生きていて、あの大戦で使用された大量殺戮兵器が既に完成していると云う――
「何やら騒がしいと思ってきてみれば、お客様でございましたか」
僕たち以外の声が前方から響く。チラリとアビーに視線を送れば、声の存在を認識できていなかったことがわかる。つまり声の主はアビーの警戒網に引っかからない程の手練れだと言うこと。この時点で僕は取り出した【通信水晶】を地面に叩きつけて破壊し、力の限り叫ぶ。
「“妖精は眠った”!」
「応ッ!!」
僕らがパーティーを組むうえで一番最初に決めたこと。冒険者だからこそ、常に最悪を想定しなければならない。そんな状況に遭遇してしまった場合に、迷いなく動けるようリーダーとなった僕に与えられた言葉。刹那、
「ウラァアア!」
「――〈ファイアボール〉!!」
僕の言葉に応じ、誰よりも早く動いたグラッドが声の主へ斬りかかり、ヴィヴィはグラッドを巻き込むのも構わずに火球を撃ち込んだ。
ヴィヴィは魔力操作に秀でた〈ウィザード〉だ。炎はグラッドを焼かず、彼が斬りかかった対象のみへと作用するし、その攻撃力は“暁天”随一と言える。だが、
「いきなりご挨拶ですね?」
「ぐぁっ!?」
炎に照らされて見せた姿は華奢な体躯の『エルフ』の女性。だが姿形に騙されてはいけない。現に炎から現れたエルフはグラッドを無造作に片手で吹き飛ばし、鬱陶しいと言わんばかりに纏わりつく炎を振り払ってみせた。
間違いなく僕らより格上だ。しかし相手が1体ならばまだやりようはある!
「お前は、何者だ!?」
〈エコータウント〉をしながら、盾で突進し視界を塞ぐよう前に出る。
「――〈ファイア・エンチャント〉」
絶妙なタイミングで剣と盾に補助魔法が付与され、僕は突進の勢いをそのままに盾で殴りつける。返った手応えはまるで岩を殴りつけたかのような硬い感覚。
「何者? と問われましても、見ての通り非力な女ですが?」
「剣を腕で弾く様な『エルフ』がいるわけねぇだろうがぁあ!」
注意を惹きつけた僕とは逆側から再びグラッドの剣が振るわれる。しかし赤い炎を纏った刃は黒く鋭い大きな爪へと変貌した腕で受け止められ、肩口から新たに生えた黒腕に悪寒を感じた僕は無理やりグラッドと身体を入れ替える。
果たして黒腕は僕の盾を殴りつけ、見た目以上の膂力に蹈鞴を踏まされる。
「ぐっ……!」
「良い反応です」
衝撃により左腕が軋み、悲鳴を上げる。少しでも打点を受け流していなければ、今の一撃で左腕をもっていかれていた。僕でなければこいつの攻撃は受けきれない。だからこそ腹に力を入れて盾を叩く。僕はここに立っているぞと!
「――〈ライトニング〉!」
僕が注意を引けば乾いた破裂音と共に雷が翔け抜け、魔法の対象から外されているグラッドが雷をかき分けて一閃。確実に脇腹を薙いだはずが、硬質な音が大した損傷を与えていないことを告げる。
斬撃は不利と判断し、僕は剣を捨ててメイスへ変更。裂帛の気合と共に叩きつけるも、【ミスリルメイス】以上の硬度に右腕に痺れが奔る。
僕の攻撃でダメージを与えられはしないだろう。だけど注意を惹き続けることこそが盾役の役目!
目の前のエルフもどきの左右の方から生えた黒腕が、僕を殺さんと唸りを上げる。僕はそれを全て盾で防ぐも、1撃目で腕の感覚を失い、2撃目で盾は凹み腕が砕かれた。しかし隙は作れた。
「〈バイオレンススペル〉――〈ファイアボール〉!!」
ヴィヴィの過剰魔力による高威力の〈ファイアボール〉が僕らを無視して敵を焼き、
「死ねやオラァアアア!」
完全に背後をとった二刀による〈全力攻撃〉が振り下ろされ――
「やはり地上の食糧は優秀ですね。“極上”とまでいかずとも、ここまではやって見せるのですから」
「がッッ!?」
「あっぐッッゴフッ……?」
――一瞬、何が起こったのかわからなかった。
気づけば僕は視界が明滅し、内から込み上げてくる吐き気に耐えられず咳込めば、口の中に鉄の味が広がった。
「とても見事でした。私の接近には気づけなかったようですが、あの一瞬の判断で仲間1人を逃がすために、敵わないと知りつつもここまでの連携をしてみせるのですから。大変素晴らしい」
動かしづらい視線を何とか動かして状況を把握する。先程までの黒腕と違い、3m以上はあろう剛腕が背中から生えている。どうやら僕はあの剛腕から攻撃を受け、現在何かの機械に叩きつけられたらしい。僕の対角上には同様に、機械群の一角に身体を埋められたグラッドが力なく項垂れていた。ヴィヴィは足元から伸びた無数の黒い手に捕縛され、地面に抑え込まれている。
どう足掻いても僕たちの敗北だ。ここから一発形勢逆転する、なんて手を持ち合わせてはいない。でもこれだけ時間を稼げたのであれば、僕たちの狙いであるアビーはきっと――
「だからこそ残念です。逃がそうとした彼女の方が悲惨だったでしょうから。だってほら――」
――ソレはどこからともなく、突然現れた。
ソレは2mほどの背丈に純白に見事な黄金の装飾を施された鎧を纏い、背に光輝く一対の翼を持つ美しい騎士だった。まるで『秩序』の神々が遣わせたような、神々しい天界の騎士。一瞬、このエルフもどきを倒すために訪れた援軍ではないかと希望を抱くほどに。だがその騎士が無造作に放ったモノを見て、僕もヴィヴィも冷水に直接叩き込まれたように意識が覚めた。
「――此処に居る誰よりも無残な姿だと思いませんか? ねぇ? クククククク……」
それは僕らが良く知る栗色の髪で、僕らが良く知る装備を血に染めていた。
「あ、ぁあ……あぁあ…………」
背後から敵を的確に射貫いた弩を持つ腕は片方失われ、誰よりも早く駆け抜けた脚は骨などないかのように捻じれ曲がっていた。そして綺麗な緑の瞳は光を失い、ただただ流れ続ける血液の量が、もう既に息がないことを物語っていた。
「ククク……クククククククッ! 良いですね! この感情の起伏! 命を賭して逃がした仲間が、先に殺される様は最高でしょうねぇ! 嗚呼、あまりにも美味しそうで思わず生きたまま食べてしまいたいぐらいですよっ!!」
左手で顔を覆い、身体を折り曲げて笑うエルフもどきに怒りが湧く。隠し切れない醜悪な笑顔を、この手で殴り潰したいと思うほどに。
しかし冷静な思考が、それは不可能だと告げている。
なら今の僕たちに何ができるだろうか? 僕たちではエルフもどきを倒せない。それ以上に現れた騎士がまずい。身体の芯から恐怖が込み上げてくる。僕自身が露を払うかのように無造作に殺されるイメージしか湧かない。
チラりと視線をヴィヴィへと向ければ、その表情は絶望に染まり切っていた。恐らくこの騎士が何であるか、気づいてしまったのだろう。
アビーだけでも生きて情報を持って帰ってもらう策も潰された。グラッドは意識を失い、ヴィヴィは完全に心が折れている。そして僕も満身創痍だ。その上で僕たちに出来ることと言えば――
「お、まえの、目的は……なんだ?」
――少しでも情報を吐き出させること。
一度視線をヴィヴィへと送り、目が合ったことに安堵する。彼女なら僕の意図に気づけるはずだ。だからまだ動く右手で身体を支え、震える足を叱咤しながら立ち上がる。
「その身体で立ち上がる心意気、見事です。であれば、敬意を評して最後にお答えするのが筋でしょうね」
嘲笑を収めて賞賛の拍手を僕に送りながら、エルフもどきは高らかに告げる。
「私どもの目的はただ1つ。この世界の人間を恐怖と絶望を抱かせことですよ」
「やはり、おま、えは……『魔神』、か」
「えぇ。自己紹介が遅れましたね。私の名は“ダウスィー”。いと貴きお方、第四の僕でございます」
「“名持ち”の『魔神』……成程、ボクたちではかなわないはずですね」
笑う膝を抑えられずに膝をついた僕の代わりに、未だ表情は青いままだが意思を取り戻したヴィヴィは続ける。
「貴きお方と言うのは、降臨を阻止された“魔神将”でしょうか? だから万全を期すために天使を模造した兵器を稼働させたのですね?」
「ふむ……貴女の問いに答えてやる必要はないのですが、満足に話せない彼の代わりという事にして差し上げましょう。そして答えは『その通り』。丁度良く見つけましたので、使えるものは使ってしまおうかとね!」
再び吐き気と憎悪が湧く笑みを浮かべたダウスィーが右手を上げ、追従するように騎士が手に持った白銀の剣を掲げる。
「確かこちらではこう言うのでしたね。『冥途に土産』は差し上げました。『辞世の句』はございますか?」
抗えない死が迫る。それでも僕は再び立ち上がり、同様に口角を上げたヴィヴィと共に吐き捨てた。
「「くたばれもどき野郎っ!!」」
瞬間――ヴィヴィが騎士の剣で貫かれる光景と全身を貫かれる痛みと共に――僕の意識は途絶えた。
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