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第109話 とある冒険者パーティーの調査

誤字脱字報告、本当にいつもありがとうございます!

「なぁ、何で今更俺達が〝試験会場〟の調査任務をやらされてんだよ? つか“紅蓮の壊王(Sランク)”が迷宮(Cランク)の調査にしゃしゃり出てくんじゃねぇよクソがっ!」



 暴言を吐きながら道端に転がっている石を思い切り蹴り飛ばし、石壁を跳ね回る音が大きく反響する。



「グラッド! 気持ちはわかるけど落ち着きなさいよ! ほら、気づかれちゃったじゃない。イアン、次の曲がり角に敵影4!」


「了解」



 僕はアビーの忠告に従い盾を構えて前進。イライラしながら後ろを走るグラッドよりも先に敵を視認。



「ゴブリン2! オーク2! 僕を見ろ――〈エコータウント〉!!」



 『蛮族』もこちらを認識していたため、まず敵愾心(ヘイト)が散らないよう【カイトシールド】を叩いてスキル――〈ナイト〉だからこそ可能な〈エコータウント〉を発動する。



「あークソッ! マジでむかつくぜ! 死ねオラァッッ!」



 『蛮族』達の視線が全て僕に向いた刹那、グラッドが彼らの背後へと周り、2本の片手剣(ミスリルソード)で“オーク”1体の首を刎ね飛ばした。僕は僕で盾を使い相手の攻撃を往なしながら、右手に握った片手棍(ミスリルメイス)で“ゴブリン”の頭を叩き潰す。



「……ふっ!」


『ブモォオオオオッ!?』


「うっせぇわボケェ!」



 僕の左耳に風切り音が響くと、音は吸い込まれるようにオークの左目へと突き刺さり、蹈鞴を踏んだオークを背後からグラッドが止めの一撃を放つ。



「〈シールドバッシュ〉!!」


「ラストォッ!」



 最後のゴブリンは僕のノックバック攻撃で尻餅をつき、脳天をグラッドの刃で貫かれ絶命した。



「ふぅ、ボクの出番はありませんでしたね」


「所詮オークとゴブリンよ? ヴィヴィの魔法が必要になるわけないじゃない」


「そうだよヴィヴィ。所詮は下位レベル。僕とグラッドだけでも十分だよ」



 僕の言葉に「わかっているんですけど」と苦笑いを浮かべるヴィヴィ。後衛職――それも魔法技能職はMPをどれだけ節約して探索できるかが重要なんだから、どしっと構えてくれていていいのに。



「ヴィヴィはいつまでたっても糞真面目だな。たまには上位魔法職(ウィザード)らしく、ふんぞり返ってみたらどうだ? 『下々の方々、(わたくし)のために張り切りなさい』ってよ」


「そうよ! グラッドをどんどんこき使えばいいのよ!」


「あぁ!? なんで俺だけなんだよ!? お前もされろやボケェ!」


「ふざけんじゃないわよ! んなことされたら、たとえヴィヴィでも射抜いちゃうでしょ!」


「射抜かないでください。そもそもできません」


「こらこら、一応ここは迷宮(ダンジョン)なんだから気を抜かない」



 『蛮族』の一団を処理し、いつもの軽口がつい口に出る。特にここはDランクに上がるための試験に使われる迷宮――通称〝試験会場〟だというのも原因の1つだろう。



「それに此処の調査を任されたことも、僕はマイナスじゃなくプラスに見ているよ。大氾濫(スタンピード)の兆候が見られる迷宮の調査なんて、通常の迷宮よりも危険度が増しているんだよ? 余程慎重かつ信頼が置ける冒険者にしか、ギルドだって任せようと思わないはずだよ」



 5日前に齎された大氾濫の兆候と思しき『蛮族』の出現。僕たちはその調査に赴いているのだ。

 発生すれば災害とまで認定されるものの調査を、冒険者ギルドが信頼の置けないパーティーに依頼するなんてありえない。



「そうかもしんねぇけどよぉ……」


「そうかもではなく、その通りですよ。ボク達の担当であるラナーさんは、こう言ったことで嘘など言いませんからね」



 そしてヴィヴィの言うことは尤もだ。僕たちはラナーさんを誰よりも信用している。


 冒険者ギルドのラナーさんが僕たちにパーティーを組むように勧めてくれ、今こうしてBランクとして実績を積み次の認定試験でAランクまで臨めるようになったのは、ラナーさんのおかげと言えるからだ。




 僕たち“暁天(トワイライト)”は冒険者の宿を経由せず、直接ギルドに所属する冒険者パーティー。と言うのも、元々此処に居る全員が単独(ソロ)としてギルドに冒険者登録をしており、とある任務(クエスト)の際にギルドの受付嬢であるラナーさんに進められて組んだ臨時パーティー、そのまま継続した形だったりする。


 燃える様な赤い髪、赤い瞳が特徴の前衛の戦士である『ヒューム』のグラッド。

 斥候役でもあり、戦闘面では正確無比の【ボウガン】で敵を射抜く、栗色の髪に鋭い緑の瞳の『ドワーフ』の女性、アビー。

 このパーティーの魔法全般を任されている、銀色の髪を靡かせおっとりとした雰囲気で誰からも好かれる『ハーフリング』の女性、ヴィヴィ。

 そして“暁天”のリーダーである『ハーフジャイアント』の僕ことイアン。


 他のパーティー人数よりも少数――平均して他パーティーは6人で組むことが多い――ではあるけど、全員がレベル「7」以上まで実力を伸ばせたのも、ひとえにラナーさんが無理なく僕たちに適切なアドバイスをくれたからに他ならない。


 だから僕らは彼女を信用しているし、信頼しているのだ。




「ただ、ボクを見る時のあの目だけは未だになれませんけど……」


「ラナーは小さい()が大好きだもんねー。私は『ドワーフ』にしては背が高いから対象外でよかったわ」


「……ずるいですよね。同じ小人系のはずなのに」


「外で暮らす『ドワーフ』は比較的小さくないのよ。悪いわね」


「まぁ背の高さの代わりに可愛げも失って――ってあぶねぇな!?」


「チッ! 私が矢を外すなんて!」


「だーれがお前の矢なんて当たるかよ!?」


「あぁん!? 今すぐにでもケツの穴を2つに増やし――敵よ! 四足獣系! 数は5よ!」


「了解。前へ出るぞグラッド!」


「応! 間違っても俺のケツに当てんじゃねぇぞアビー!」


「心配しなくてもご要望通りぶち抜いてあげるわよ!」



 アビーの声と共に僕とグラッドの脇を風切り音が翔け抜け、視認できる距離まで現れた“グレイウルフ(Lv3)”5体の行く手へと突き刺さる。機先を制されたウルフの足が緩み、先程と同様に僕が敵愾心を、グラッドが命を奪っていく。



「うっし、これで終わりだな。確かに少し遭遇率(エンカウント)が高いか?」


「……微妙なところだね。正直グラッドとアビーが騒いでたから嗅ぎつけられただけとも言えるし」


「グラッドが口を開くから悪いのよ」


「んだとコラァ!?」


「はいはいストップストップ。取り合えず2人共落ち着いて。迷宮内では無駄に騒がないって教えられただろ?」


「ふふ、懐かしいですね。ボク達がまだパーティーに成りたての頃、ミィエルさんに叱られていましたね」



 “グレイウルフ”からのドロップアイテムを拾いながら思い出し笑いをするヴィヴィに、アビーとグラッドは苦い表情を浮かべる。当事者じゃない僕としても苦い表情を浮かべざる得ない思い出に乾いた笑い声をあげて、取りあえず話題を変えることとする。



「そう言えばついにパーティーを組んだね、ミィエルさん」


「あ、あぁ! そうだな! どこもかしこも勧誘してたのに、どこにも振り向かなかった孤高の剣姫だったんだがな」



 僕の無理やりな話題転換にもグラッドが慌てて乗っかってくる。やはり当時の事は思い出したくないよね。



「ですね。“暁天(ボクら)”の所に一時参加(スポット)で来てもらった時のことを考えると、どこも欲しい腕前でしたからね」


「まぁでも、彼女に選ばれた人の実力を鑑みると納得よね。抜剣もせず、あの“鮮血鬼”を子供扱いなんだもの!」



 あの時の《決闘》を思い出したのか、興奮したように語るアビーに、グラッドが「だがよぉ」と頭に疑問符を浮かべる。



「あれは本当剣士なのか? 拳士の間違いじゃねぇの?」


「あの後ミィエルさんに訊きましたけど、カイルさんは歴とした〈ブレーダー〉だそうですよ。〈ドールマスター〉も同等のレベル「9」だそうです」



 ヴィヴィの言葉に「マジかよ」とグラッドは瞠目する。彼の驚きは僕にもよくわかる。ヴィヴィと一緒にその場にいた時にも思ったからね。そんな簡単にステータスを教えていいのか、ってさ。ただミィエルさんは自慢などではなく、単純に本人も隠す気がないから教えて構わないと言っていたらしい。



「元々騎士団の副団長を務めていたらしいです」


「僕たち冒険者は対魔物がメインだからね。対人戦は騎士団の方が長じていても不思議ではないね」


「いや待てよ。そもそも何で副騎士団長様が冒険者なんてやってんだよ?」


「そこまではちょっと……。ただ役目はイアンと同じ盾役(タンク)だそうですよ」


「はぁっ!?」



 グラッドが上げた素っ頓狂な声程ではないが、僕も驚きの声を上げる。あれだけの攻撃能力がありながら、僕と同じ盾役? 火力役(アタッカー)であるはずの〈ブレーダー〉なのに?



「……そう言われりゃ、一撃一撃の攻撃力はそこまで高く感じなかったな」


「抜剣してないってのもあるだろうけどね。でもそうか……回避主体の盾役。どうりであの体裁き、か」


「……おい、何しょげてんだよ?」



 僕には真似できない戦い方だな、と納得しているとグラッドに背中をドンと叩かれる。



「確かにお前には華麗に回避して前線を維持するなんて出来ねぇだろうけどよ。逆も然りじゃねぇのかよ?」


「そうよ。むしろいかなるダメージを受けても倒れないイアンの方が、一撃でも貰ったら倒れる回避型(タイプ)よりよっぽど安心できるわよ――っと、敵よ。数は4ね」



 ヴィヴィも同意の頷きを返す姿に、僕は「ありがとう」と皆に感謝を告げて再び戦闘態勢を取り、アビーが機先を制して戦闘を無事終了する。ドロップを回収し、僕たちはこのまま1層目を全体的に回った後、そのまま最下層である2層目を目指していく。



「そう言えば私。〈ドールマスター〉と言えば、この街だと情報屋ぐらいしか見たことなかったんだけどさ。“バトルドール”ってあんなに可愛いものなの?」



 しばらくして少し息が吐けるようになると、ふと思い出したように呟くアビー。ヴィヴィもものすごい速度で肯定の頷きを返す。



「ボクも思いました。何故ボク自身に適正がなかったのか、と」


「そこまでかよ? 人形趣味の情報屋でも似た様な事言ってたじゃねぇか?」


「あれと比べるのは失礼だと思うわ。レベルが違いすぎるのよ」


「深く同意します。次同じことを言ったら〈ファイアーボール〉を唱えますね?」


「……目がマジすぎて怖ぇよ」



 まるで迷宮主(ダンジョンボス)を前にした時の様な鋭い瞳に、思わずグラッドの肩が震える。

 ただ僕としてもセツナさんと話した印象は、ヴィヴィ達と全く同じ感想だった。



「セツナさんに人形なんて失礼だと、僕も直に話して思ったよ。ただ本人は人形であることを誇りに思っているようだったけど」


「あれはカイルさんの“従者”であることへの誇りだと思います。ボクもセツナさんに『主様』と言われてみたいです」



 彼女が“バトルドール”であることを本人も主人であるカイルさんも公言しているし、冒険者ギルドも新たな種族として迎え入れようとしているってラナーさんも口にしていた。実際話してみてラナーさんの言も信憑性が増したほど、セツナさんからは高い知性が窺えた。



「でもあれはあの人ぎょ――セツナ、さんが特別なだけで、〈ドールマスター〉だから出来るわけじゃねぇんだろ?」


「それがそうでもなかったのよ。あ、次突き当り20m先、3体よ」



 世間話をしながらも索敵を怠らないアビーの警告に従い、再びサクッと魔物を狩る。戦闘も短時間で終わらせ、ドロップを拾いながら「で、そうでもなかったってどういうことだい?」と先を促すと、アビーは「セツナちゃん以外の“バトルドール”も見たのよね」と続きを口にする。



「私が見たのは“アーミー・ドール”だったけれど、男女ともに人間のように感じたわ。セツナちゃんほどじゃなかったけれど」


「アーミーと言うと……確かレベル「7」の“バトルドール”だね」



 カイルさんの〈ドールマスター〉のレベルが「9」なのだから、「7」の“バトルドール”が作れるのは道理。且つ情報屋の技量ではそこまでに至っていなかったはず。セツナさんは例外のレベル「11」。つまり、



「レベルが高ければ高い程、人間に近くなるのかな?」


「だと思います。セツナさんを『姉様』と慕う姿がとても尊いものでした」


「ヴィヴィ、また飛んでるわよ。気持ちはわかるけれど気をつけなさい」



 その時の光景を思い出しているのか、ポーっとし始めたヴィヴィの肩をアビーが叩いて現実へと連れ戻す。どうやら“暁天(うち)”の女性陣は、完全に“バトルドール”の可愛さに惚れ(やられ)てしまったらしい。



「そんなにいいもんかねぇ……。イアンもそう思わねぇか?」


「趣味趣向は人それぞれだからね。僕には何とも」



 そう言いつつ…………グラッドには悪いけど、僕も2人の気持ちは解らなくはないんだけどね。



「さ、これから2層だ。油断せずに行くよ」



 手を叩き、意識を任務へと引き戻す。そうしてみんなの表情に緊張が戻ったことを確認し、僕らは2層へと降りて行った。


いつもご拝読いただきありがとうございます!

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