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第107話 不穏な気配とセツナに絆される中老

 流れるような金髪と整った顔立ちの碧眼。背は俺よりも少し高いぐらいで、仕立ての良い服に包まれた身体は細マッチョと言えるほどに鍛えられている。額を隠すように巻かれた革のバンダナが印象的な、イケメンと言って差し支えない美丈夫――クリス・D・ヴァレンスが「失礼するよ」と通りの良い声で姿を現した。

 俺は別段イケメン死すべし、とか思うタイプではないが、冒険者と言えば挨拶と言わんばかりの解析判定はさせてもらおう――成功。






名:クリス・D・ヴァレンス 24歳 種族:三眼族 性別:男 Lv11

DEX:23 AGI:19 STR:32 VIT:42 INT:14 MEN:24

LRES:18 RES:15 HP:120/120 MP:32/32 STM:71/100


〈技能〉

冒険者Lv11


《メイン技能》

ファイターLv5→ナイトLv5

プリーストLv2


《サブ技能》

レンジャーLv5→ファーマシーLv3

エンハンサーLv5→チーゴンLv5→ハーミットLv1


【二つ名】

紅盾






 ほぅ。『三眼族(サード)』の冒険者か。


 『三眼族』とはその名の通り、通称〈魔眼〉と呼ばれる第三の眼を額に宿した種族だ。〈魔眼〉の種類はキャラクター作成時にいくつかある種類の中から定めることができ、状態異常を与えるものだったり、不可視のものを見抜くものだったり、魔力の流れを読み解くものだったりと、数種類のものがあったはずだ。ちなみにPLで人気だったのは、状態異常を与える〈魔眼〉だ。



「初めまして、カイル君。僕の名はクリス・D・ヴァレンス。“紅蓮の壊王(デッド・クリムゾン)”のリーダーを務めている者です」


「どうも初めまして。カイル・ランツェーベルです」


「“瑠璃の庭園(アズール・ガーデン)”所属、“カイル様の従者”セツナです。以後お見知りおきくださいませ」



 応接室に入室したクリスがにこやかに挨拶を述べたため、俺も立って軽く会釈を。セツナも見事なカーテシーを返す。

 「突然ですまないが、僕も同席してよろしいかな?」と告げるクリスに、俺はロンネスを一瞥した後に「どうぞ」と席を進める。大方話の内容は想像できるのだが、



「それで、どういったご用件でしょうか?」


「まずは僕のパーティーメンバーがご迷惑をおかけしたことを、お詫びしたい。申し訳なかった」


「謝罪を受け入れます。しかしもう済んだことですから、お気になさらず」



 正直、あれはミィエルの罠だしな。



「寛大なお心に感謝する。その上でお願いがあってきたんだ。ガウディの装備品の事なのだが――」



 やはりか、と思いながら彼が全てを言う前に「それでしたら」と言葉を被せる。



「必要な物のリストをいただければ、正規の料金にて(・・・・・・・)お譲りいたします」


「――そうか。改めて感謝する」



 ホッとしたように安堵するクリスに、何でしたら武器と防具だけでも先にお取引きしましょうか、と促す。



「良いのかい?」


「構いません。こちらに彼の装備を扱える者もおりませんので」



 あの後正確なリストを見て、正直欲しいものが消耗品ぐらいしか見当たらなかったんだよね。ガウディの装備は扱える人間が居ないし。後はぶっちゃけた話、彼があれ程慕われた人間だったと言うのもあって、ここは素直に金銭での解決が一番だろうと言う思いもある。



「では、すまないがお願いしよう。このタイミングで主力装備がないのは、正直に難儀していたんだ」


「ん? どこか迷宮にでも潜られる予定が?」



 だとしたら戦犯どころではない失態だぞ、ガウディよ。

 などと思っていたのだが、「あぁ。元々予定になかったんだが」と前置きされたことで戦犯判定は覆った。



大氾濫(スタンピード)の兆候が見られるらしく、僕らも調査に出ようと思っていてね」


「それはまた……。あー、だからこの場に居合わせるようにしたんですか?」


「情報の共有も含めてな。だが、最初の情報提供者は君の所のミィエルだがね」


「あ、そうなんですか?」



 ちらりとセツナに視線を送れば、セツナも緩く首を振る。うーん、ミィエルの事だから伝え忘れたと言うよりも確証がなかったから俺達に言わなかった、が正しそうだ。クリスも兆候が見られる、と言っていただけだしな。

 そう納得していると、「主様」と袖を引っ張られる。



「ん?」


「すたんぴーど、とは何でしょうか?」


「あぁ、セツナは知らなかったか。簡単に言うと、魔物が大量発生して周辺を荒らしてしまう状況を指すんだ」


「大量発生……。繁殖が盛んにおこなわれた結果、と言う事でしょうか?」


「……その場合も否定できないけど、基本的には迷宮が生み出したり呼び寄せた魔物が、迷宮の許容を超えてしまった場合に起こる現象だな」


「? 迷宮が魔物を呼び寄せるのですか?」


「そうだ。迷宮にも意思みたいのがあってな。迷宮自身の(コア)を護らせるために、迷宮自身が生み出すんじゃなく、外部から召喚することがあるんだ」



 LOFの世界に存在する迷宮は、大きく分けて2つに分けられる。

 1つは過去の遺跡などに魔物などが住み着いただけのもの。

 もう1つが迷宮核(ダンジョン・コア)が生じたことにより空間がねじ曲がり、異界化したものだ。


 前者は住み着いた魔物などを排除してしまえば、後は学術的価値しかない。しかし後者はコアさえ生きていればいくらでも再利用が可能な施設となる。



「核を破壊した場合、迷宮はその力を失うんだが、破壊せずに維持した場合は、迷宮としての機能を失わずに存在し続けることができるんだ。その力を利用して俺達みたいな冒険者を育てたり、迷宮から産出されるアイテムなどで産業を発展させたりするんだよ」


「共存共栄されているのですね。もしかして迷宮核と対話などのコミュニケーションが出来たりするのでしょうか?」


「んー、どうなんだろうな。実際可能なんですか?」



 専門家とも言えるロンネスへ疑問を振れば、「上位の核ならば可能だ」と頷いてくれる。



「我々冒険者ギルドが管理している迷宮は、冒険者の等級と同じくS~Eランクに分類わけしている。その中でもAランク以上の迷宮核は、明確な意思を持ち、我々と対話が可能となっている」


「僕も一度A級の迷宮核と会話したことがあるけど、とても知的で面白い人格だったよ」



 へぇ。それはまた面白そうだな。TRPGの時ではそこまで取り上げることがなかったからなぁ。是非とも様々な迷宮核と話してみたいものだ。



「対話が可能であれば、大氾濫が起こる前に知らせをくれたりもするのだがね。ザード・ロゥ周辺の迷宮では、残念ながらそこまで高度な意思を持つ核がないのだよ」


「だからギルドで監視し、管理なさっているのですね」



 目を輝かせながら話を聞くセツナに対し、厳つい顔のロンネスも表情が心なしか緩んでいる。ギルドマスターともあろうお方が絆されるの早くない? まぁセツナ程素直で可愛い娘なら、こうなってしまうのも仕方がないだろうけど。



「迷宮外部に本来存在しえない魔物が徘徊するようになると、大氾濫の兆候だと言うことは理解いたしました。では、迷宮核が『人族』などを召喚し、迷宮を守護させている場合はどのように判断するのでしょうか?」


「ふむ、セツナの指摘はもっともだがね。残念ながら迷宮核が我々『人族』など、『秩序(ロウ)』の神々に属する種族を召喚することは、ほぼないのだよ」


「それはどうしてなのですか?」



 この話題に関しては俺も知らないな、と思い耳を傾ける。



「うむ。元々我々の上位者である神々は3つの勢力に分かれているのは知っているね? 『秩序(ロウ)』、『混沌(カオス)』、そして『中立(ニュートラル)』。迷宮核を作り出したのは『混沌』の勢力であるため、『秩序』の勢力に属する者を召喚することは出来ないそうだ。これはSランクに属している迷宮核から聞いた話だから、間違いないと言って良いだろう」



 へぇ。まぁ確かに闘争を好む『混沌』勢だからこそ思いつく仕組みと言えなくはないもんな。強制的に迷宮に『秩序』勢を招聘できちゃったら、簡単に勢力争いに決着ついちゃうだろうし。そのあたりは出来ないように神様達も抵抗したのかもしれんね。



「ですが先程は『ほぼない』と仰られました。例外があるのではないですか?」


「ある。条件は様々なようだが、迷宮核の呼びかけに答えた者であれば、守護者として召喚されるそうだ」


「では主様やミィちゃんも、召喚に応じれば迷宮の守護者となれるのですね」


「……ん? いや、ならないぞ?」



 突然降られた話題に驚いて間が空いたが、セツナの言葉に否定の答えを返す。



「むしろなんでそんな発想になったんだ?」


「いえ、主様もミィちゃんも、迷宮核が困って助けを求めたのなら、応じそうではありませんか?」


「いやいや、さすがにないだろ」



 俺自身は、なんで知りもしない核如きのために自由を奪われなきゃならんのだ? と言う気持ちが強いため、答えは「NO」だ。ミィエルは本人に確認取ってみないことにはわからんが、ほぼ間違いなく俺と同じ答えだと思うぞ?



「ははは! セツナは本当に面白い発想をするね。私としてもカイルやミィエルが守護者となるのは避けて欲しい所だね。勿論、君もだが」


「セツナは主様の物ですから、主様が迷宮核(・・・・・・)にでもならない限り(・・・・・・・・・)あり得ません」


「「「…………」」」



 セツナの台詞に3人が3人とも様々な意味で沈黙する。


 俺は「それ、フラグじゃないよね?」と言う意味合いで。クリスは「見た目も相まって解っていても破壊力が大きいね」と言わんばかりの苦笑いを。そしてロンネスは、何故かセツナの肉親のような厳しい眼差しを俺に向けている。解せぬ。



「まぁまぁ、とりあえず話題が逸れすぎておりますので、元に戻しませんか?」


「っ! 申し訳ありません! セツナの所為で皆様の貴重なお時間を――」


「構わん。冒険者を教え、導くのも私の仕事だ」


「ギルドマスター、セツナのためにいろいろご高説いただき、ありがとうございました。クリスさんもお付き合いいただき、ありがとうございます」


「いえ。むしろセツナ君のような勉強熱心なパーティーメンバーがいることが、素直に羨ましい」



 女性なら頬を染めるような、にこやかにイケメンスマイルだが、内側から溢れてくる気苦労に思わず目頭を抑えたくなった。



「さて、まずは現状確認だ。迷宮外に『蛮族』が確認されたと、昨日ミィエルから報告があった。後に調査をしたところ、通常より多いことが確認されている」


「だから、近辺のどの迷宮が対象なのかを調べるために、僕ら“紅蓮の壊王”も調査に乗り出す予定なんだ」



 昨日ってことは、セツナ達が任務(クエスト)を終えた後に、すぐ調査に出た感じか。まぁ内容が内容だしな。

 内心で納得していると、ロンネスがテーブルに地図を広げ始め、ザード・ロゥの周辺に記載された迷宮を指さして話を進める。



「確認すべき迷宮は4カ所だ。内2カ所がDランクであり、距離のあけた2カ所がCランクとなる」



 記載されている迷宮の近くに、『蛮族』目撃箇所として駒が置かれていく。

 目撃箇所はどれも迷宮近くであり、もし集落などが作られていたならば隠しようがない立地にも見える。



「状況的に迷宮から溢れてきている可能性は高い。だがしかし、全ての迷宮に均一に目撃されていることが引っかかる。特にDランクは3日前に踏破されており、Cランクも冒険者が潜っていない日はない。間引きは順当に行われていると言って良いだろう。だと言うのに目撃情報が多数ある。何か見落としているのではないか、と言うのが現在冒険者ギルド(我々)の見解だ」


「まぁ魔神がエルフの村で暴れていましたしね。目の届かないところで何かが進行していても不思議はないと思います」



 たまたまとは言え、俺が居合わせなければ大惨事になっていただろうフレグト村の一件。そう言えばあの洗い出しはどうなったのだろう?



「ちなみにその時の掃討戦の生き残りと言うことは?」


「ない。それだけこちらも人員を動員している」


「では首謀者の次なる計画と言う線は?」


「それに関しては否定できない。悔しいが、容疑者の1人が行方を眩ませている」



 そう言って追加の羊皮紙をテーブルへと広げられると、そこには現在行方不明となっている――



「マイルラート神官の1人――ヨヨザルト高司祭ですか」



 確か最有力容疑者の1人であり過激派だったよな、こいつ。あまりに順当な結果すぎて、逆にミスリードなんじゃないかって思っちゃうよ。


 ただ彼自身に高レベルのスカウト連中から、足取りを追わせないほどの能力はない。マイルラート神殿そのものが敵対している可能性も考慮しないといけないだろうな。やだなぁ、宗教との戦争なんてしたくないよ。



「マイルラート神殿内部でも捜索が行われているらしいが、いまだ色の良い結果はないな」


「そのあたりは頑張ってください、としか言えないですね」



 基本俺たちはノータッチです、と明言しておく。



「それで、迷宮への探索はいつ行われるのですか?」


「今日にでも近い所から随時派遣していく予定だ。Dランクの迷宮でも、Cランク上位のパーティーを派遣する」


「僕らはこちらの迷宮へ向かう予定なんだ。そうだ、もし良ければカイル君達も一緒にどうだい?」


「さすがに遠慮しておきます。ミィエルはともかく、俺達は条件を満たしておりませんので」



 さらりと何言ってんだこいつ、と視線を送らないよう注意しつつ笑顔で首を振る。



「ミィエルさんは無理でも、カイル君1人だけ一時参加(スポット)で来てくれてもいいんだけど?」


「冒険者になりたての俺がついて行っても足を引っ張るだけですので。装備の取引を終えたら、いつものメンバーで行ってきてください」


「君なら即戦力だと思うんだがね?」


「評価してくださるのは大変光栄ですが、相棒(パートナー)が嫌がるメンバーがいるパーティーとはちょっと行動を共にできませんね」


「……それもそうだね。ただどうしても力が必要なときは、協力願えると嬉しいね」


「必要ならば勿論手を貸しますよ」



 ようやっと手を引いたクリスが、「では早速装備の取引を」と話を進めたことで区切りがついた。

 ったく、この世界の人間はどいつこいつも強引すぎねぇかな?



「カイル、何か気づいたことや違和感があったら、アーリアだけでなく私にも連絡するように」


「わかりました」


「ロンネス様、いろいろご教授いただき、ありがとうございました」


「構わん。知りたいことがあればまた、訪ねてくると良い」


「はい! 失礼いたします」



 セツナと共に頭を下げて退室し、ようやっと冒険者ギルドから解放された。ただ一難去ってまた一難、そんな流れを感じずにはいられない。


 大氾濫かぁ。TRPGなら経験値獲得祭りじゃぁ! って喜ぶところなんだけど……。


 現実ではそううまくはいかない可能性は高い。何より気がかりな点も多いし、俺がGMならただの大氾濫なんかで済ませるはずがない。俺なら四方の門全てを同時に攻めさせるぐらいはするからね。



「セツナ。リル達が戻ったら、今後の方針を少し決めておこうか。もし本当に大氾濫があるのなら、備えなければならないことがたくさんあるからね」


「はい!」



 備えあれば憂いなし。リル達の装備もそうだけど、アーリアに相談して早めに実験を次の段階に進めるよう進言しておこう。

 油断せぬよう気を付けつつ、せっかく外に出たのだからとセツナと共にお土産を買いに市場へと向かうのだった。


いつもご拝読いただきありがとうございます!

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