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第101話 初任務達成

ミィエル視点→カイル視点→マスターシーンです

「はい、任務完了です。こちらが報酬となりますので、お受け取りください」



 あれから現れた『蛮族』であるゴブリンを掃討した後、採取任務も終えたミィエル達は、冒険者ギルドに戻って来て無事報告することになりました。

 いくら〈毒無効〉だからと言って薬草採取の時に。毒を持つ野草を構わず口に入れて味を確かめるセっちゃんには驚きましたけど。それよりも、



「ラナ~ちゃ~ん。ちょっと~いいですか~?」


「どうしましたミィエルちゃん? ディナーのお誘いですか? 勿論喜んでお受けいたします」



 一瞬だけ時間が合うなら夕飯に誘っても良いかとも思いましたが、間違いなく面倒ごと――それもアーリア(マスタ~)が好まない――になるのでその考えは捨てて「違い~ます~」と答える。すると少し残念そうに肩を落としたラナーは、「ゴブリンの事ですね」と望んだ受け答えを促してくれる。



「はい~。薬草が~採取できる~近郊で~、遭遇しました~」


「数は3体以上はおりませんでしたか?」


「はい~。斥候(せっこ~)では~ないと~、思います~。はぐれ~の可能性(かのうせ~)~――いえ~、迷宮(ダンジョン)が~原因かも~です~」


「迷宮の間引きは問題なく行えているはずですが……」


「そ~ですね~。それに~、近郊(きんこ~)には~魔物の氾濫(スタンピ~ド)を~起こせるよ~な~、迷宮は~ないですよね~」



 魔物の氾濫(スタンピード)とは、迷宮が生み出す魔物を間引くことなく、許容値を超えた場合に発生する迷宮外へと氾濫する災害です。普段の迷宮からは考えられない程、大量の魔物が暴走列車の如く周辺を荒らしまわる様は、恐怖以外のなにものでもない光景となります。

 それを防ぐために、国や冒険者ギルドは迷宮の状態を随時監視し、氾濫など起こらないよう気を配っているはずなのです。現に、



「はい、その通りです。現にD級以上の迷宮は2日前に冒険者が踏破されておりますし、試験用の迷宮だって先日ギルド職員が状態を確認しに行っているのですから」


「ですよね~」



 ザード・ロゥの冒険者ギルドでも同様に管理がされているのです。

 だとしたらやっぱり“はぐれ”が偶々いたんでしょうか? もしくは前回の一件で残党処理をしきれずに、どこかで巣を作って言う可能性の方が高いかもですね。



「ラナ~ちゃん」


「わかっております。夜に動ける冒険者もいますし、本日の内に調査任務を発行しておきますのでご安心を。遅くとも明日一番で周辺調査をしていただきますので」


「えへへ~。さっすが~ラナ~ちゃ~ん。では~、任せ~ましたよ~」


「なんでしたら“瑠璃の庭園”が受諾していただいてもよろしいのですが?」


「ん~、それは~、私が決める~ことじゃ~ないですよ~」



 今のリーダーはリルですからね。ミィエルが口を出すものではないのです。



「それもそうでした。では明日お手すきであれば、改めてお願いしようと思います」



 ラナーちゃんに頷き返し、セっちゃん達の下へ向かえば、丁度報酬を分けているところでした。



「報酬は均等割りでいいわよね?」


「あぁ」


「はい、ありがとうございます」


「初任務~、初報酬~おめでと~ですよ~」



 3人の初成功を祝いつつ、初報酬は何に使うのかを訪ねてみれば、



「生活費よね」


「消耗ヒン代ダナ」


「リルも~、ウルコットも~、現実~的~すぎますよ~」



 なんの面白みもない回答にミィエルは肩を落とします。まぁでも生活するためにお金を稼ぐわけですし、間違ってはいないのですが。特にこの2人はカイルくんにお金を支払うというのも目的なわけですし。



「セっちゃんは~、どうするの~? カイルくんに~プレゼントでも~する~?」



 自分で稼いだ初報酬でカイルくんにプレゼントをする。カイルくんならとても喜んでくれると思うんだけど、と思って訊いてみたけど、セっちゃんは眉尻を下げて首を振る。



「できればそうしたいのですが……」


「? 何か~心配ごとでも~?」


「もしかして報酬はカイルが回収するって言っていたのかしら?」


「いえ! 主様はセツナの自由に使って良いと仰ってくださいました」



 慌てて首を振るセっちゃん。



「ならどうしたの?」


「その……せっかくお渡しするのですから、できれば主様に使用していただけるものを――と考えたのですが、主様に使っていただくとなると身に着けておられる装備以上の物ではないと……」



 肩を落とすセっちゃん。確かにカイルくんが普段使いできるものとなると、現在装備している魔法道具(マジックアイテム)以上のものを――ってなっちゃいますけど、何も冒険者としての装備だけが普段使いではないと思うんですけど。



「それは……今の私達では無理ね」


「はい。それにセツナ自身も欲しいものがありまして……」


「? 何が~欲し~の~?」


「実は――」



 セっちゃんが欲しい物。それを聞いたミィエルは閃くままにセっちゃんに提案した。



「それなら~、こ~ゆ~のは~、どうかな~?」






 ★ ★ ★







「ただいま~、戻りました~!」


「お? おかえり」



 ドアチャイムとともに響くミィエルの声に、俺は記入していた書類から顔を上げる。ミィエルの後に続くメンバーの表情を覗き見れば、リルもウルコットも晴れやかなことから、無事任務(クエスト)をこなしてきたことが窺えた。余談だがポーション臭に関しては、アーリアの魔法で綺麗に消臭済みだ。抜かりはない。



「無事成功って所か?」


「あぁ! 装備にモ慣レテ来た」


「そいつは重畳だ。ただ慢心だけはするなよ?」


「勿論よ。このぐらいで気が抜けるようじゃ、迷宮(ダンジョン)に挑戦する資格がないでしょう?」


「はは! 確かにな」



 近々迷宮へ挑戦するなら、Eランク任務の成功や装備に慣れた程度で気を抜かれては困る。それに閉鎖空間では、また勝手も違うしな。

 うんうんと頷いていると、ドアを閉めたセツナが「ただいま戻りました、主様」と最後に顔を見せる。



「おかえりセツナ。初めての冒険者活動は上々だったみたいだな」


「はい! ミィちゃんから妖精魔法を教えていただきましたし、リルにも様々な野草を教えていただき大変勉強になりました!」


「そうか。得るものがあったのは素晴らしい事だな」


「それと、いただいた報酬の件ですが――」


「ん? 前にも言ったが、セツナの自由にしていいんだぞ。自分で稼いだお金だからな。好きに使うと良い」


「はい。ですので主様――こちらを受け取っていただけませんか?」



 おずおずと差し出された細長い木箱。

 これは……間違いなく初任給が入った時の感謝を告げるプレゼントだろう。俺も前世ではやった記憶がある。まさか俺がしてもらう立場になるとは。やられてみると嬉しくて口がにやけそうだ。特に娘のようなセツナにしてもらえたのなら尚更だ。日本では結婚すらしていなかったが、世のお父さんの気持ちはこんな感じだったんだろうか。

 俺は顔面が崩壊しないよう力を入れつつ木箱を受け取り、



「開けても?」


「はい」



 セツナの頷きを待って木箱を開けると、そこには一本の質の良いペンが丁寧に仕舞われていた。まずいな、下手な装備品よりよっぽど嬉しい。



「どうせなら普段お使いになられるものが良いかと思いまして、その……いかがでしょうか?」


「嬉しいよ、本当にありがとう」


「っ! はい!」



 もうだめだ。嬉しすぎて顔が崩れる。何より俺の言葉で大輪の花が咲くような笑みを浮かべるセツナが可愛すぎる。天使かな?



「実はセツナも筆記具が欲しいと思っておりまして。せっかくなので主様とお揃いのものを、とミィちゃんがアドバイスしてくださいまして」



 【マジックポーチ】から取り出された、俺へと渡したペンと色違いのものとノートを大事そうに胸に抱いて微笑むセツナ。天使すぎて直視するのが辛い。

 なので視線をミィエルへと逸らせば、したり顔をこちらに向けているのが目に映る。たが、今はそんな表情など気にならない。心にある言葉は1つである。ミィエル、グッジョブ!



「大事に使わせてもらうな」


「はいっ!」



 「良かったね~、セっちゃん~!」と抱き着くミィエルに、蕩けるような笑顔で頷くセツナ。幸せそうな2人に思わず“妖精亭”の全員が暖かい気持ちになる。俺もプレゼントを貰い、テンションが上がっていた。だから油断してしまった――



「はいっ! ミィちゃんのおかげで、セツナの初めて(・・・)を主様に貰っていただけました!」



 ――セツナの言葉選びの破壊力を。



 セツナ以外の笑顔が固まる。勿論、この場にいる全員がセツナの言葉をしっかりと理解している。初めてプレゼントを渡す相手は、主である俺が良い、と。ただそう言っているだけだと。そのはずなのだが、リル辺りからの視線が痛い。



「で、では~、夕食の~準備~を~、しましょ~か~」


「そうですね。では主様、腕によりをかけて作ってまいります!」


「お、おう。期待してるぞ」


「はいっ!」



 そんな雰囲気にセツナは気づかず、ご機嫌なままミィエルと共にキッチンへと姿を消した。



「……カイル?」


「何を勘違いしてるか知らないが、お前らが想像しているようなことなどないぞ?」


「具体的に訊いても?」


「断る」



 まるでおぞましいものでも見るような視線を向けるリルに、俺は断固として対抗し、セツナの言動を知るアーリアだけがくつくつと俺達を見て笑うのだった。






 ★ ★ ★







 石造りの壁に囲まれた、仄暗い部屋の一室。

 蠟燭の火によって大小の影が揺らめく中。ただ一人、唯一の自由を持って愛おしそうに巨大な結晶を撫でる女は、うっとりとした表情を浮かべながら呟く。



「此処に居れば、貴方は絶対に安全ですよ」



 蝋燭の光は弱く、女がいる部屋の全てを照らすことはない。

 だが時折、光の加減で巨大な結晶が照らされれば、結晶が半透明な紫色をしていること。そしてその中には空気を求めるように口を開け広げ、苦しみ藻掻く男の姿が垣間見えた。



「貴方を追うもの。死を齎す死神さえ、この中にいる限り手を出すことはできません。ご安心を、ヨヨザルト様」



 対価として永遠に繰り返す苦しみを受けていただきますが、と女は笑う。



「ふふふ。後7日、と言う所でしょうか。果たしてこれが目覚めたら、どれほどの混沌を生み出すのでしょう?」



 楽しみですね、と女は笑う。巨大な結晶体の奥に佇む兵器を見ながら。



「もう少し、もう少しお待ちください。もうじき、お迎えに上がります――」




 ――キャラハン様、と。


いつもご拝読いただきありがとうございます!

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