2. ワ○ドナルドで朝食を
俺は会社に連絡を入れ、トラブルに巻き込まれたから午後から出勤すると伝えた。普段から真面目に働いているおかげか、サボリの疑いをかけられずに済み、ホッとした。
カナン・カプーチンと名乗ったハーフJK(?)は、助けた礼として焼き鳥を奢れと要求した。
「ヤキトリ! ヤキトリ! この駅ってヤキトリのいい匂いがする!」
「ちょっと待てよ。君、学校は?」
「キミじゃなくて、カナ。ハジメ、パンツ爆弾を見ても、まだ私のことを普通のニンゲンだと思ってるの?」
彼女はそう言うと、再度ヤキトリコールを始めた。通行人たちが不審そうな目線を向けてくる。
「わかった! わかったから」
しかし、スマホで調べたところ、この周辺で焼き鳥を食べられる店は飲み屋ばかりで、朝八時代ではまだ開いていない。
そう言い聞かせてコンビニの焼き鳥を買い与えると、カナは男子学生並みの勢いでペロリと食べてしまった。次に彼女は駅構内で売られている御○候を所望し、紅白それぞれ食べても飽き足らず、ワクドの朝メニューを食べたいと言い出した。
よほどお腹が空いていたのか、カナは目を輝かせつつ美味しそうに食べるので、俺も嫌とは言えなかった。それにJKと二人でワクドに行く機会なんて、もう二度とないかもしれない。
そんなわけで、冴えないサラリーマンの俺は今、ハーフ美少女JKと朝ワックを食べている。
俺は席についてからも、ずっと彼女がノーパンにノーブラのままであることが気になって仕方なかった。だが本人は全く気にした様子がなく、一口でハッシュドポテトを平らげた。
俺は、周りの客に聞かれないように小声でカナに尋ねた。なぜ俺の名前を知っているのか、ニャルラ様とハジメ・カラシナとは誰なのか。
彼女は椅子にそっくり返って座りながらコーラを飲みつつ、「ニャルラ様は私のご主人様で魔界の王。ハジメはニャルラ様の幼馴染で、行方不明」と答えた。そして俺の名前がハジメだと分かった理由は、スマホの画面を背後から覗き見したからだと言ってのけた。
「一週間ほど人間界にいたけど、魔物の臭いを追いかけると、いつもあなたがうろついてるし、どうも血なまぐさい臭いがするのよね」
まさかこの身にファンタジーな事件が起こる日が来ようとは。なろう小説の読みすぎだろうか。このまま突然死んで転生してしまったりしないだろうか?
「そのカラシナってヤツは何で行方不明になったんだ? 連れ去られたとか?」
何故かカナは顔を赤くした。
「さ、さあ? とにかく私はニャルラ様から探すように言われただけなの。でもあなた、私のパ……、爆弾を使えたんだから、ハジメ・カラシナと何か関係があるはずよ。あれは、あのヘンタイ吸血鬼と連携しないと使えないんだもの。魔界に行けば、なにか思い出すかもしれないわ。来てくれるわよね?」
「ヘンタイって……。すぐ終わるのか? 午後からは仕事に行かないと」
「ここと魔界とでは時間の速さが違うわ。だから大丈夫」
カナは少し考え込んでから、手を打ち鳴らした。
「そうだ! あなた、ハジメ・カラシナになりすましてニャルラ様を助けてくれない?」
「なんで俺が魔王なんかを」
カナは細長い指を俺のナゲットに伸ばすと、口に放り込んだ。
「おい!」
「あのね、今の言葉、魔界で口にしちゃダメよ。ニンゲンは私たちのことを何かと悪に仕立て上げるけど、私達は不干渉を保ってて、悪いことなんかしてない。なのに一部のバカがニンゲンにちょっかいを出しにくるから、こうしてパトロールしてるの」
カナはそう言うと、不機嫌そうな顔でナゲットをモグモグ食べて飲み込んだ。
「やっぱり、ニャルラ様がおっしゃっていたハジメと似てるのよね……ぼんやりした顔とか」
カナは机に両手をついて俺の顔をまじまじと見た。制服のシャツの胸元から中が見えそうになり、俺は慌てて視線をそらした。けっこうある。
「そのニャル様を助けるって、何をするんだよ?」
カナによると、ニャルラ様は結婚相手を探しているところで、魔界のルールに従い、難題を出してクリアした者と結婚するということだった。かぐや姫みたいなものか。
「あなたには、ニャルラ様のてい……、ゴホン、配偶者になろうとしてるクソ野郎のドラゴンを追い払ってほしいの」
「てい?」
カナはまた赤くなった。
「そ、そいつ、ニャルラ様のことをヤラしい目で見る変態オヤジなのよ! なのに、他にマシな配偶者候補がいないの。それでニャルラ様はハジメ・カラシナなら許せるっていうから探してるのよ。身分違いだけどね」
「うーん、俺じゃドラゴンなんかに太刀打ちできないぞ」
「戦う必要は無いの。ニャルラ様が出す課題をこなせばいいの」
その課題というのが……と言いかけて、カナはまた顔を赤くした。
「やっぱり魔界に行ってからニャルラ様に聞いて」
なんなんだよ、と言いかけたその時、二人のテーブルに影が落ちた。
「見つけましたよ」