第十四話「今年の交流会、俺のパートナーになれ」
「ふーん……それで今日は友人と一緒ってわけか」
「貴方も変な噂を流されるのは面倒でしょ?」
あくる日の放課後。ルゼリアとマティウスは勉強の為に図書室にいた。
そして今日は二人だけなく、メイリも一緒だった。
最近、二人が恋人同士だという噂が流れている。
その疑いを払拭するために、今日の勉強会はメイリも交えて行うことにしたのだ。
二人きりではなく他の者も交えて行えば、そういう関係には見えないだろうと考えてのことだ。
「メイリ・フォン・フローエと申します。こうして直接話すのは初めてですわね?」
「マティウス・フォン・レイナールだ。悪いな、最近はルゼリアを俺が独り占めしちまってよ」
「ちょっと! そういう誤解を招く言い方しないで! だから変な噂が流れるのよ!」
「なんだよ、独り占めしているのは本当のことだろ?」
メイリの前でも変わらずに、意地の悪い笑みを浮かべるマティウスだった。
「もう……メイリ、今のはいつもの冗談だから、本気にしないでね」
「あら、マティウス様は本当のことだとおっしゃっているわよ?」
「ちょっと……メイリまで私をいじめないでよ……」
「ふふ……ごめんなさいね、つい」
何やら楽しそうなメイリにルゼリアは困ったように頭を抱えた。
「……なんか、不思議だな。フローエは子爵家だろ? ルゼリアとは元々家の繋がりとかもなかったんだよな?」
勉強をしている最中にマティウスがぽつりとそう口にした。
「ええ。ルゼリアとは入学してからの付き合いですわ」
「にしては、ずいぶんと仲がいいな……子爵家と侯爵家の間なのに」
マティウスがこのような事に気にかけるのが珍しい。
こんなことを気にする男ではなさそうなのに。
「親友の間に家の問題は関係ないはずよ。……メイリは本気で魔術師を目指しているのよ。同じ魔術師を目指す者として、応援していたら仲良くなったの」
メイリの実家であるフローエ子爵家は貧乏貴族だ。
父が手掛けていた事業が倒産し、多額の借金ができたせいだ。
そんな父のため、借金返済のため、メイリは魔術師になろうとしていた。
魔術師という職業はその特異性でほとんどの場合、高給取りだ。
金持ち貴族と結婚して……という選択肢もないわけではないだろうに、メイリはあくまでも自分の力で職を得て、実家のためにお金を稼ごうとしている。
そんな彼女だからこそ、ルゼリアはメイリを応援したいと思ったし、同じ魔術師になりたいという強い想いに共感したのだ。
「ええ、ルゼリアとは親友で、それ以外はないわ。だから安心して、ルゼリアを口説くといいですよ、マティウス様」
「へぇ、それはいいことを聞いた」
「ちょ、ちょっと何を言っているのよ、二人とも! 口説くってなに!?」
この二人……引き合わせないほうが良かったのではないだろうか?
メイリとマティウス、会ったばかりだというのに波長でも合うのか仲良さそうに会話をしているし。
(……なんで、こう……イライラするんだろう?)
二人にからかわれたからから、だと思う。きっとそうだ。
「そういえば、マティウス様。交流会でのパートナーは去年に引き続いてイルメラ様と組むそうですね?」
マティウスと会話をしていたメイリがそんな話題を出したせいで、ルゼリアのイライラも吹き飛んだ。
マティウスとイルメラ……二人の関係がどうかなんて、気にならない。
……気にならないはずだが、やっぱり気になる。
「……ラドリー家のか? いや、あいつとは今年は組まないぞ」
どうしてそんな話が出るんだ? と言いたげに首を傾げるマティウス。
「えっ……でも、イルメラは貴方とパートナーを組むって約束したって言いふらしていたわよ?」
「あー……勝手に言いふらしやがったな、あいつ」
マティウスは心底面倒、といった様子で舌打ちまでし始めた。
イルメラが言っていたことと噛み合わない。
まるで自分はマティウス様に選ばれたのよ、と言わんばかりの態度だったというのに、本人からは舌打ちをされるほどらしい。
「あらまぁ……じゃあマティウス様、去年はどうしてイルメラ様のパートナーをしてあげたのですか?」
「どうしてもパートナーをしろとうるさく付きまとわれたから、仕方なくだな。パートナーをしたら、俺にもう付きまとうなって約束させたはずだったんだが……」
何が約束だったのだろうか。イルメラが言っていることはまるっきり反対ではないか。
しかも、もう付きまとうなと言われていたのにも関わらず、未だに付きまとっているとは。
「……なんというか、貴方も大変ね」
「あぁ、本当に人気者は辛いなぁ。最近はもう一人増えたし」
「……それは、ごめんなさい。勝手に下僕になるって言って……」
イルメラとルゼリアはあまり変わりないのかもしれない。
ルゼリアだって、無理を言って下僕になるといったようなものなのだから。
「なに、謝ってるんだよ。ラドリーは約束を破っているが、ルゼリアは約束通りにしているだけだろ。根本が違う。それに、お前に付き添えと言ったのは俺だ。だから気にするな」
いつもの意地悪なニヤリとした笑みなのに、今は違って見える。
その笑みになぜか、安心してしまった。
「まぁまぁ、今日は良いものが見れて幸せだわ……! 供給がたくさん……!」
「メ、メイリ……何が良いものなの? 供給ってなに???」
手を合わせてぽわわーんと幸せのオーラに沈むメイリの言っていることが、ルゼリアには分からなかった。
「とにかく、イルメラとはパートナーを組むつもりはないのね」
「そうだな。……だが毎年そいつ以外の女子からも声がかかるから面倒なんだよなぁ……」
「そうねぇ。私も毎年そんな感じだし」
ルゼリアも去年の交流会は誘ってくれた男子生徒をパートナーにして参加していたが、多くの男性から声がかかっていた。その多くはルゼリアがクロウリア家の令嬢だから、という者が多いだろう。
(お父様もさることながら、お兄様たちも今は第一線で活躍する魔術師……将来の職場で上司として合わないこともないから、今のうちに伝手を手に入れておいても損はないもの)
ルゼリアは実家との繋がりを得るための物に過ぎないのだろう。
ルゼリアという女性だから、という理由で選ばれてなどいない。
かと言ってそういった男子生徒からの誘いを断ることもできないでいた。
パートナーには兄弟姉妹を連れてきてもいいのだが、父の言い付けで実家の援助は受けられない。
当然、ルゼリアの兄たちをパートナーには呼べないのだ。
交流会への参加は強制ではないものの、国王も参加するため出ないわけにもいかない。
他にいい相手がいるわけでもないし、その相手を探すために時間を掛け、勉強をする時間を減らしてしまうくらいなら、言い寄ってきた相手をパートナーにしたほうがよかったのだ。
「へぇ、お前も? 誰から誘われたりした?」
……どうしてだろうか。ちょっとマティウスの声が低い。
「いちいち誘ってきた相手は覚えてないわよ。興味もない。貴方だってそうでしょ?」
「まぁ、そうだな」
マティウスは腕を組んで顎に手を当てる。何かを考えているらしい。
しばらくして、その赤い目はルゼリア見つめた。
「じゃあ、ルゼリア。今年の交流会、俺のパートナーになれ」
「……な、なんでそうなるのよ」
「俺もお前も、毎年たくさんの異性から誘われて困ってる。なら、困り者同士、組めばいいだろ?」
「確かに一理あるかもしれないけど……私と貴方はクロウリア家とレイナール家の――」
「親友同士に家の問題は関係ないんだろ? なら俺とお前の間にだってないはずだ」
「た、確かに私は今、貴方の下僕だけど……!」
「それに俺のためならなんでもやるんじゃなかったのか?」
「それは内容によるって――」
「膝枕はやってくれたんだから、パートナーくらいはできるだろ?」
「……うぐ」
勝ち誇った笑みをするマティウスの前に、ルゼリアは白旗を上げるしかなかった。
「まさか、マティウスとパートナーを組むなんて……」
勉強会からの帰り道、マティウスに約束されたことをつい思い出す。
しかし、これで他の男子を相手にしなくていいと思えば、ラッキーだったと思う。
……そう思うことにしよう。
「うぅ……供給過多ですわ……ありがとうございます……!」
「メ、メイリ?」
幸せオーラが沼と化し、メイリが親指を立てながら沈んでいる……ように見えた。
「いや、まだ萌え死ぬわけにはいけません! 膝枕ってどういうことですの、ルゼリア!!」
「やっぱり、聞くわよね!? 聞いてくるわよね!!」
ずばっとオーラの沼(※不可視)から抜け出してきたメイリから、膝枕について追求されたルゼリアだった。




