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嫉妬とか承認欲求とか、そういうの全部捨てて田舎にひきこもる所存  作者: エイ


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傍観者は語る 4




「俺がジローを嫌い始めたのはこのことがきっかけだな。村の男衆はジローがすることにさほど抵抗がないらしく、節操のない奴だと言いつつも、男ならしょうがないと理解を示してあまり咎めないばかりか、逆に俺に対して『お子様だな』と揶揄うくらいだった。でも俺はそういう価値観がどうしても受け入れられなかった」



 当の本人である兄は、ちょうどその恋人が家族と一緒に移住して村からいなくなってしまって、気持ちも冷めてしまったからか、謝罪したジローをすぐに許した。

兄とジローは気付けば何事もなかったかのように、以前のような仲の良い関係に戻っていた。




兄と仲直りしてからのジローはさすがに懲りたのか、女遊びは控えるようになって、村に居る時は男友達と過ごすようになり、よく家にも来て兄と酒を飲むことが多くなった。



 俺は相変わらずジローを避けていたけれど、アイツはよく家に来るので、ある時、二人が話しているのを聞いてしまった。


 ジローは成人すればようやく父親の名義だった田畑を正式に継ぐことができるはずだったのに、継がずに村を出たいと言っていた。でも母は村を出る気はないと断られている、と悩んでいる様子で、兄に相談していた。


 兄はせっかく田畑が自分のものになるのに放棄してしまうのは勿体ないと言って引き留めていた。だがジローは、このド田舎の村が好きじゃない、一生ここでこの村の住民と関わっていくなんて御免だと言っていた。だが兄は、親友が村からいなくなったら寂しいと、ジローに考え直すよう説得していた。


 俺は、いつも明るくいい加減な印象のジローが、陰りのある表情で『この村が好きじゃない』と言っていることに驚いた。

 家の仕事もせず遊び歩いているだけかと勝手に思い込んでいたが、実はそんなことで悩んでいたのかと知って、俺はそういうことを知りもせず一方的な思い込みで嫌っていたのを反省した。




 ジローは兄の説得により、一旦離村は考え直したようだが、田畑を相続せず、母親の名義にしたいと役場に頼んでいた。だが女は名義人になれないと断られ、結局自分が相続したが、畑仕事はほとんど母親に任せて、自分は一年の半分くらいは出稼ぎに出るようになっていた。




 そんな生活が数年続き、やがて俺も成人を迎えた頃に、俺たちや村の運命を大きく変える出来事が起こる。






国境付近にある村で隣国と諍いが起こり、小競り合いが何度か繰り返されていくうちに国同士の戦争に発展していった。

戦争といっても、隣国の軍が領土に侵入してくるわけでもないし、特に暮らしに影響が出ることはなかったので、国が戦争をしている実感はなかった。


 戦争が始まってから数か月経った頃、中央の役人が村に訪れてなにごとかと思ったが、役人はこの周辺の村や町を回り、傭兵の募集をかけているのだと村長に教えてもらった。



 強制ではないが、できるだけ協力するようにとのお達しで、希望者はいるかと当時の村長は村の若者に対して呼びかけた。



 皆、最初話を聞いたときは、戦争だなんて恐ろしいからとしり込みしていたが、報酬を聞いてからは考えを変えた。


 中央から軍を派遣しているが、物資の搬送や雑用をする兵士の数が足りないので、手っ取り早く近隣の若者を雇って数を補おうということらしい。前線で戦うような仕事でもない、もらえる報酬は危険手当も含めてかなりの高給で、休耕期の間、数か月という短期間でもよいという話だったので、まず兄が『参加する』と言い出した。

 数か月務めるだけで、数年分の報酬になるのだからと真っ先に立候補した。


 次男坊で継ぐ物がないから、いずれ自分で身を立てなければならない俺も、報酬に惹かれ兄とともに参加を決めた。

ジローも兄から『一緒に参加しないか?』と誘われ、少し悩んだようだが、兄と同じ期間だけ参加することにしていた。


 結局、みなつられるように立候補し、最終的に村の若者のほとんどが参加するということになった。







 戦争といっても、実感のなかった俺たちはなかば遠足気分で参加していた。



 集められた傭兵は、俺たちと同じく雇われて集められた村人ばかりで、兄と俺たちも各部隊に均等に振り分けられた。


 訓練を受けたでもない俺たちは、荷物を運んだり塹壕を掘ったり兵器を運ぶための道を作ったりといった本当に雑用係の仕事だけだった。時々遠くから砲弾の音が聞こえてくる程度で、戦争をしているという実感はここまで来てもまだなかった。



 状況が変わったのが、三か月ほど経って俺たちもこの仕事に慣れてきた頃だった。

 もともとこの戦争が、国を挙げての戦いというわけでもなく、国境付近の住民の領土争いから始まったことだったので、両軍も落としどころを探るような戦い方をしていた。


 欲しい領土は金鉱山を含む土地で、そこの砦を落としたら勝敗がついて停戦協定の話し合いに入るだろう、と親しくなった軍人に教えてもらった。

 最初、戦力を見極めるため、お互い戦術を小出しにしながら小さい衝突を繰り返してきたが、軍部がそろそろ鉱山を取りに行く、と通達を出し、のんびり後方支援をしていた傭兵たちももっと戦場の近くまで駆り出されることになった。



 それからは怒涛の日々で、遠かった砲弾の音が間近で聞こえるようになり、哨戒所にけが人が運び込まれてくるたび震えあがって、今更ながらこれは戦争なんだと実感して恐ろしくなった。


敵国とは思ったより戦力が拮抗していて、最初に軍部が想定していた期間で砦を落とすことができなかった。

 戦争が長引くほど、軍事費はかさんでいくので、早く終わらせたいのは両国とも同じだっただろう。

 どのような作戦が組まれているのか、傭兵の俺では教えてもらえなかったが、どうやら近々大規模な奇襲作戦が決行されると噂になっていた。そして、兄とジローがいる部隊が、その作戦の後方支援として前線近くに送られたと聞いた。

兄たちの部隊にはうちの村から参加した若者が大勢いたので、それを聞いた俺は皆が無事か心配でならなかったが、俺はまだ成人したばかりの若輩者だからと、もっと後ろの支援部隊に入れられていたので、兄たちが危険な地帯にいるのかすら分からなかった。



その後のことは全て又聞きになるのだが、その時の奇襲作戦が失敗し、近くに待機していた兄のいる部隊も敵兵に囲まれ、形勢不利だと判断し武装解除して投降したという。なんとか逃れてきた兵士の話によると、その部隊にいた者たちは皆、敵国側に連行され捕虜にされてしまったのだという。



 無事なのか心配で仕方がなかったが、ただの雑兵の俺ができることはなにもなく、俺は中間地点に建てられた哨戒所で働きながら兄の無事を願っていた。





 ところがある夜に、俺がいた哨戒所に砲弾が撃ち込まれたのだ。

 警鐘がなることもなく、本当に突然爆音とともに建屋が吹っ飛び、何が起きたが理解する間もなく俺は崩れた瓦礫の下敷きになって意識を失った。


 前線に物資を補給するために食料のほかに火器も多く保管されていたため、撃ち込まれた砲弾により誘引爆発を起こして、哨戒所にいた部隊はほぼ全滅した。


一緒に配属された村の仲間たちも大勢亡くなった。


俺はたまたま厚い壁の裏にいたため、死なずに済んだ。それを知ったのは、医療所の寝台の上だったが。







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