表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫉妬とか承認欲求とか、そういうの全部捨てて田舎にひきこもる所存  作者: エイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/111

23

 

 ***




「私は絶対に、ラウを好きだと知られたくなかったんです」


 長々と自分語りをする私を、ジローさんは相槌も打たず無表情でじっと見つめていた。


「好きな人に見向きもされない可哀想な女、て思われるくらいなら、卑怯とかがめついとか言われるほうがまだマシだったもの。それならなんとか自尊心を保てるから。

 ラウがね、私を嫌っていて、結婚したくないって言ってるのをはっきり聞いちゃった時に、私から結婚を止めることだってできたはずなんです。好きでもない人と結婚したって幸せになんてなれるはずないもの。でも……それでもいいから、私はラウと結婚したかった。嫌われていても、疎まれていても、結婚しちゃえばなんとかなるってそう信じて、気づかないふりをしたんです」


 シロツメクサの栞を弄びながら、独り言のように、絶対に口にしたくなかったことを私は喋る。

 それまで黙っていたジローさんが静かな声で問いかけてくる。


「……ディアさんは、まだラウ君のことが好きなのか?あんな目に遭わされたのに?」


 可哀そうなものを見るような目をするジローさんに、私は微笑みながら緩く首を振る。


「そういうこと聞かれたくなくて……私もジローさんと同じように、都合の悪いことは言いたくなくてずっと黙っていました。

 ただ結婚がダメになっただけじゃなくて、好きだった人に嫌われていて、挙げ句捨てられたなんて知られたら、救いようもなく惨めじゃないですか。

 親が決めた結婚で、お互い気持ちがなかったっていうならまだマシでしょう?だから秘密にしておきたかったんです。

 ラウのことは……あんなことされたんだから、大嫌いに決まっています。でも……家を出る時に、これを持ってきてしまった……ずっと宝物だったこの栞を、どうしても捨ててこられなかった。未練がましくて、みっともないでしょう?」



 手の中にある栞をじっと見つめる。ラウが私にくれた唯一のプレゼント。


 町にいた頃、ツライ時はこれを見て、あの時の幸せな時間を思い出していた。あんな幸せな時間があったんだから、きっと大丈夫。今はすれ違っているけれど、一緒に居ればまたあの時のような関係に戻れるはずだと、自分に言い聞かせていた。




 その栞を、もう一度じっと見つめてから、テーブルにある燭台に栞をかざす。


 乾いた紙の栞は、蝋燭の火でパッと燃えあがった。栞はあっという間に燃え尽きて、私の指を焦がして消えた。


「ばっ……馬鹿!指!ヤケドしただろう!早く冷やせ!」


 ジローさんが私の手を取って、台所に引っ張っていき、水をかけた。ジローさんは自分が痛いような顔をして、私の赤くなった指先を見ていた。


「……大事なモノじゃなかったのかよ」


「大事だったのは、栞の向こうにあった思い出です。でもようやくそれも捨てる決心がつきました。ラウを好きだった気持ちも、憎む気持ちも、執着も、ジローさんに話してようやく捨てられるようになりました。聞いてくれてありがとう」


 そう言ってジローさんに微笑みながらお礼を言うと、ジローさんは顔を歪めて、掴んでいた私の腕を離して、苛立った様子で椅子に座った。私に背を向けたままジローさんは、苛立った声で私に言う。


「だから?自分の言えなかった過去をさらけ出したから、俺にもそうしろとでも言うのか?……あのなあ、俺が言いたくない自分の過去ってのは、ディアさんのそれとは違うんだよ。

 アンタのはただ自分の気持ちの問題だろ?誰に責められるものでもないし、後ろめたく感じることでもなんでもない。俺の過去は……言って楽になるとかそういう類の気楽な話じゃないんだ。同情か、正義感か知らないが、そうやって聞きだそうとするのはやめてくれ」


 ジローさんは今まで見たこと無いような怖い顔をしていた。でもその顔は一生懸命泣くのをこらえているように見えた。


「違いますよ。ただ私が気持ちを吐きだして捨てたかっただけです。私ね、あの時、ジローさんに会わなかったら、多分誰かを殺すか自分が死ぬかしていましたよ、きっと。

 あの栞を捨てられたのは、あなたのおかげです。

 ジローさんはそんなつもりじゃないのかもしれないけど、私はあなたに人生を救われたんです。

 ジローさんが過去に何をしたのか知らないですけど……恩人であるジローさんが、泣きたいのに泣けなくて苦しんでいるのなら、あなたが私にしてくれたようにしてあげたいだけです。……えーと、ホラ、お姉さんの胸で、泣きなさい?……って、言えばいいのかな?」


 そういって私はジローさんの頭をぎゅっと抱き寄せた。ジローさんは、ビクッと震えて体を固くした。


 この前、私が眠れなくなってしまった時、ジローさんは無理に聞きだそうとしたりしなかった。ただ心配して優しくしてくれただけだった。だから私も、その時もらった優しさをジローさんに返したい。

 ジローさんの辛さが少しでも楽になるように、気持ちを込めてジローさんを抱きしめた。



「……ディアさんは、ホント、お人よしで騙されやすい子だよナァ。なんも知らないで、簡単に俺みたいなのに肩入れしちゃってさ…………願わくば、騙されたままで、ずっとここに居て欲しいよ」


「居ますよ。せっかく居場所と仕事をもらったんだから、ずっと居ます」



 私のことではボロボロ泣いていたくせに、ジローさんは自分のことでは泣けないみたいだ。だけど、子どものように私にしがみついて、涙を流さずにただ肩を震わせていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] イイハナシダナー…と読んでたのですが、もう、おっぱい?コレおっぱいだよね?当たってるどころか挟まれてるヨネー?としか思えなくなったので、わたしめの心は汚れていました。
[良い点] だが待ってほしい。 ディアさんは巨乳なのだろうか、それとも貧乳なのだろうか? そこが問題だ。 何故なら貧乳だとしたら、おっさんがおっぱいに癒されたという仮定が成立しないからである。
[一言] きっとラウもディアの事が好きだったんだろうな~。でもディアがラウの事好きだっておくびにも出さないし、まわりの子達に親が決めた婚約でかわいそうって言われて自分ではなく、ディアが嫌々婚約者として…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ