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  作者: 柴原 椿
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第39話:G.C.W(ゼロス)

 ジョーカーは悟っていた。

 自分の死を…。

 目の前に突如現れた暗黒の球体。

 それはメトシェラの全身全霊を込めた最後の一手。

 何億トンと言う圧力の塊。ブラックホールである。

 ブラックホールを、別の何処かに通じている穴だと思っている人間は少なくないだろう。

 しかし実際、ブラックホールは穴ではなく、巨大な重力場の塊である。

 つまり、吸い込まれるのではなく、引き寄せられるのだ。

 その先にあるのは未だ見ぬ宇宙の果てではなく、無慈悲な死の世界である。

 「終わった…。足掻く気力も起きねぇ」

 『諦めたら負け』、などと言う言葉があるが、否応なく諦めねばならない時があるのも又事実だ。

 現にブラックホールは極めて高密度且つ大質量で、強い重力の為に、物質だけでなく光すら脱出不可能なのだ。

 「はぁ…良い人生だった…のか?」

 今や死を待つのみとなったジョーカー。

 その脳裏に浮かぶのは、今日までの果てしなく長い軌跡だ。

 アダムに造られ、彼等を守り、カインや人類と戦い、そして、今のアメリカに居を構え、悠々自適な生活を送った日々。

 「最後に、アダムにもう一度会いたかったぜ」

 それが叶わない夢だとは分かってはいたが、彼は口に出さずにはいられなかった。

 例え能力で造られただけの、血の繋がりも何もない彼だが、神の孫にとってアダムは、確かに彼等の父なのだ。

 南の方で爆炎が上がったのは、その時だった。

 地面に叩きつけられた深紅の機体から、赤黒い煙が立ち上っていた。

 「あれは、ティアマット!?どういう事だ?他国の攻撃か?いや、しかし…ティアマットを撃墜させることなんて……」

 あれは米軍が全ての総力を結集して完成させた、間違い無く世界最強の音速ジェット機だ。

 その最大の長所は完全なステルス機能にある。現存するレーダーでティアマットを捉えることは不可能だった。

 故に肉眼でしか発見出来ず、見つけたところで、マッハ4で飛来するミサイルの餌食となるのが関の山だ。

 また他の神の孫が無益に人間を殺めるとは考え難い。

 ジョーカーの脳裏に、1人の男の姿が浮かんだ。

 「カイン…か!?」

 口にするのも忌まわしい。

 神の孫全員が、共通して抱える汚点。

 あの時、殺そうと思えば、殺す事も不可能ではなかった。

 慈悲を与えたのはイヴだ。

 それが、腹を痛めた母としての愛情だと言うのも、十二分に理解している。

 しかし、その結果は余りにも大きな禍根として残ってしまった。

 いったい何人の人間が犠牲になったのか?

 そして、予期せぬ事に、神の孫すら、その犠牲の一部と化した。

 アリスが死んだと聞いた時、分かったのだ。

 何が大切なのか。

 自分達は、この世にたった6人しか居ない、特別な兄弟なのだと。

 血の繋がりはない。だが、確かに彼等は兄弟なのだ。

 皆でアダムとイヴを守り、永久に近い時間を共有した。

 その絆は、血の繋がりと比べようとも、何の遜色もない、強固なものだ。

 故に、許す訳にはいかないのだ。

 守るべき人を奪い、兄弟を傷付けた、あの男を。

 「悠長に死んでなんかいられっかよ!!」

 ジョーカーは腕を伸ばし、雷の矢を構える。

 「殺せねぇのは分かってる。だけど、一矢報いねぇ事には、あの世で待ってるフロイヤに顔向け出来ねぇんだよ!」

 叫び、轟音を引き連れ放たれた雷の矢の威力は、先程メトシェラに向けられたモノの比ではない。

 ジョーカーは脱力して、笑った。

 ブラックホールはもう傍まできていた。

 「じゃあな、兄弟」

 そして、ジョーカーは暗黒に飲まれて行った。



       *



 彼女の全神経は極限まで研ぎ澄まされていた。

 およそ二千年振りに全貌を露わにした、ガーネットの本気だった。

 その全ては、白澤を殺す為だけに注ぎ込まれていた。

 身を斬る様な殺気の塊。

 しかし、白澤は、何ら臆することなく、悠然と瓦礫の上に佇んでいた。

 「よくも太公望を…!」

 先程、崩れたビルが巻き上げた粉塵が収まった時には、既に太公望は白澤に殺されていた。

 直ぐ傍に居たと言うのに、むざむざと兄弟を死なせてしまった自責の念と、枷の外れた殺意が、ガーネットの身を焦がす。

 「ぶち殺してやるっ!!」

 煮えたぎる怒りを纏ったガーネットの叫びが木霊する。

 それを合図に、白澤が右手に持っていたサブマシンガンを乱射した。

 けたたましい発砲音と共に、無数に迫り来る銃弾。

 だが、それはガーネットの正面に広がった黒い膜に喰われていった。

 「殺す殺す殺す殺す、殺してやる!!」

 ガーネットの修羅の如き剣幕の眼から、大粒の涙が流れた。

 「あああぁあぁぁあぁあっ!!!」

 正面に広がっていた膜が、ガーネットの身体に隙間無く張り付いていく。

 一瞬で全身を覆ったそれは漆黒の鎧となった。

 何者も触れられず、何もかもを喰らう黒き神の鎧。

 これこそが、ガーネットの真骨頂だった。

 ガキンッ、と、硬い音を上げ、ガーネットの口にあたる部分が開いた。

 その口元はまるで、地獄の門を守護するケルベロスを彷彿とさせる牙に覆われていた。

 「ハアっ!!」

 そして、ガーネットは一気に駆け出した。

 目の前にある瓦礫も、何もかもを喰らいながら。

 「化け物…」

 呟き、白澤は後方へ飛んだ。

 最早あれでは、攻撃する事に意味などなくなってしまった。

 黒い鎧自身が、物質を喰らい、防御と攻撃を同時に行っている。

 正しく、今の彼女には一切の死角がない。

 「いや…」

 だが、戦闘にのみ特化した白澤の慧眼は伊達ではない。

 今のガーネットは無敵に近いが、完璧には至っていないと彼は考えた。

 まず、両目と口は鎧に覆われていない事、また、恐らく足の裏も同様だろうと推測した。

 目と口は言わずもがな、塞がっていては目視も呼吸も出来ないので空いているのが道理だ。

 もう一点、足の裏については、もし鎧で覆われていたとしたら、一歩進む毎に地面に足が埋まってしまうだろう。

 仮に能力を調整しているとも考えたが、それも否だ。

 目の前で仲間を殺された今、彼女の精神状態で、そんな微細な調整が出来るとは思えない。

 よって、弱点として上げれるのは、その3つだ。

 しかし、それは針の穴の様に小さいものだ。

 試しに、白澤はサブマシンガンを再び連射してみた。

 だが、やはり移動しながら、目と口を狙うのは至難の業だ。

 発射した弾の多くは外れ、ガーネットの身体に命中したものは悉く喰われた。

 おまけに、2人の距離は縮まりつつあった。

 片や障害物を完全に無視出来るのだから、当然の結果である。

 サブマシンガンを放り投げ、白澤は一心不乱に駆け出した。

 殺す術しか持たない白澤にとって、殺せないガーネットは天敵以外の何者でもない。

 策が思い付かない今は、逃げるしかない。

 もしかしたら、その内に能力が切れるかも知れないが、まずないだろう。

 相手は神の孫、能力のキャパは無尽蔵と見るべきだ。

 「死ぃぃねぇぇ!!」

 甲高い叫びが聞こえ、振り返った白澤が見たのは、高速で迫る黒球だった。

 咄嗟に転がりながら避けた白澤は、即座に立ち上がりガーネットに目を移す。

 彼女は手から次々と黒球作り、白澤目掛けてそれを投げつける。

 対する白澤は、迫り来る攻撃を最小限の動作で避け続けた。

 しかし、その間にもガーネットの走りは止まらない。

 接近を許した白澤が後方に下がると同時に、ガーネットは高々と右手をかかげた。

 一瞬の間を置き、かかげた右手に黒々とした無骨な大剣が出現した。

 「はあぁっ!!」

 勢いよく振り下ろされた剣は、風切りの音も上げずに、白澤目掛け迫り来る。

 それを紙一重でかわす白澤だったが、遅れて付いて来た髪の先が大剣に容赦なく喰い千切られた。

 一瞬の隙が、一瞬の迷いが、死に直結する。

 正に土壇場と言えるこの状況で、白澤が下した決断は、逃走だった。

 恥も外聞も、何もかも捨てて、彼は駆け出した。

 走りながら壁を創造し、手榴弾を投げ、地雷を仕掛け、走り抜ける。

 汗を流し、息を切らし、幾度も躓きながらも、彼は止まることはなかった。

 今日までの凡そ十年間。

 ただただ殺戮の為だけに生かされてきた心無き人形は、今初めて恐怖を味わっていた。

 すぐ後ろを走る破滅の神の化身が追い付いた瞬間が、白澤の最後だ。

 今の彼は、圧倒的な死の恐怖に怯える、只の弱々しい童であった。

 「!!」

 夢中で瓦礫の海を抜け、白澤は開けた空間に出た。

 かつての国会前。だが、ここもまた、地獄に変わりはなかった。

 「ん?白澤か?」

 そう言って振り返ったのは、力を体現した様な巨漢の男だった。

 そして、男の掲げた右腕の先には、頭を鷲掴みにされて、力無くぶら下がるファウストの姿があった。

 「ファウストっ!!」

 叫んだのは、白澤の後方にいたガーネットだ。

 「まずは…」

 男はゴミでも投げ捨てる様に、ファウストを軽々と放り投げた。

 「1人目」

 ボールの様に転がったファウストは瓦礫にぶつかると、そのまま立ち上がることはなかった。

 「カインっ!貴様!!」

叫ぶと同時にバレーボール程の黒球をカインに投げ付けるガーネット。

それを軽く避けたカインは笑っていた。

「怒れ怒れ…もっと怒れよ、ガーネット!俺が憎いだろう?なら殺してみせろ!俺も全力でお前らを殺したくてたまらないのだからよ!」


殺意と死の蔓延する戦場。

その中でひっそりと脈打つアダムの心臓。

それを手にしたイヴは、ゆっくりと心臓を柊の胸へと当てがった。

柊の身体に触れ、その脈拍を高めるアダムの心臓は、泥に沈む様にじわじわと彼の身体に入りこんでいった。

手を離したイヴは、名残惜しむ様に目を伏せた。

傍らで様子を見ていた時雨は、祈る様にきつく目を閉じた。


果たして目を覚ますのは、柊か、それともアダムか?

はたまたどちらでもない、新たな神か...

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