表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 柴原 椿
4/40

第4話:神、動く

 「えぇ、ではこの度、我々が」

 「ああ、ちょっと待て」

 高山の話しを、蒼は右手をこちらに向けて制した。

 高山は少々、怪訝な顔をして、何か?と短く呟いた。

 「あのよ。俺はお前の事は知ってっけど、そっちの小僧は誰だ?」

 高山は納得した表情をして、俺の紹介を始めた。

 「彼は柊と申しまして、私の秘書を務めております」

 俺は蒼に会釈をして、

「改めまして、柊です」と簡単に挨拶した。

 「柊はまだ若いながらも優秀です。彼の右に出る者はなど居ない程にです。普通ならこの若さで総理大臣の秘書などなれる筈もありませんが、私が何とか根回しして、彼を秘書にしました」

 今、高山が言った様に、俺は相当な『根回し』の下、総理大臣の秘書になった。

 大学を卒業して2年程は、世間では一流と言われる広告代理店で働いていたが、今年の春に高山によって強引に引き抜かれた。

 普通は総理大臣の秘書など、『引き抜き』によってなれるものではない。俺は高山に理由を聞いたが、『私の周りの奴らは使えない。私は優秀な人材が欲しかった』とだけ言った。

 俺は不信に思ったが、深く考えるのは止めた。大当たりを引いて出世した、と考える事にして、今に至る。

 「………」

 蒼は顎に手を当て、厳しい面持ちで何事か考えているようだった。

 「蒼。どうかされましたか?」

 「……本当にそれだけか?」

 高山は一瞬、険しい顔になったが、すぐにいつもの凛とした表情に戻り、『勿論です』と答えた。

 蒼はまだ納得した様子は見せなかったが、それ以上は何も聞かなかった。

 「蒼。この際ですから、柊に貴方の紹介をしてもよろしいですか?」

 蒼は頷いた。

 「柊。今更だが、彼の名は蒼。この世界に6人居る、神の孫の一人だ」

 確かに蒼は、この町で神と呼ばれていたが、孫ってなんだ? 「柊は神の孫については、何も知らないだろう?」

 俺は高山の目を見て、軽く頷いた。

 「彼らは子供だ。神が創りし、アダムとイブのな。故に神の孫なのだ。因みに、彼らと我々人類は別の生き物だと言われている。あくまでも、我々は生物が進化していった者達で、彼らは神に創られし者達、と言う話だ。私も総理大臣に代々伝わる資料によって知ったので、これ以上は分からないがな…」

 高山は蒼を見る。蒼は次の煙草に火を付け、こちらに目を向けた。

 「今の高山の説明で、概ね正解だ。俺達神の孫は、エデンと呼ばれる場所で長らく暮らしていたのだが、ある日事件が起きて、世界に散り散りになった。そして、二千年くらい前に俺は日本に来て、権力者達の影で国を動かしていた。」

 蒼は煙草を吸って、一息ついた。口から吐き出された煙は、蒼の周りを霧の様に包み込んだ。

 「そして50年くらい前、俺は国の全てを当時の政治家達に任せ、この町で静かに暮らす事にした。んで今に至るって話しだ」

 俺は正直、半信半疑なんて思う前に、今の話しをまるで信じれなかった。神の孫?アダムとイブの子?日本の黒幕?

 話しが突拍子もない。普通の人間なら、まず信じる事は出来ない話しだ。

 そんな俺を察してか、蒼は口を開いた。

 「まぁ、いきなりこんな話しをされたって理解出来ねぇだろうが、これは事実だ。一国の総理大臣がこう言ったんだし、何より俺が今ここに居る事こそが証拠だ」

 確かに、総理大臣ともあろう人が、こんな嘘を言ってもしょうがない。それに、これが嘘ならこの町の人全てが仕掛け人となる。流石にそれはあるまい。

 まだ納得は出来ないが、俺の考えはとりあえず、『半信半疑』となった。

 蒼は短くなった煙草を灰皿に押し付け、ゆっくり煙を吐き出す。

 「んで、せっかく静かに隠居してた俺の所に来たのは、なんでだ?」

 蒼は軽く睨む様に高山を見た。

 「実は蒼に、2つしてほしい仕事があります」

 高山も負けじと、蒼を見る。

 「まずは今居る政治家達の中で、裏金を手にしている者、天下りによって私腹を肥やす者、これらを一掃して頂きたい」 「それは簡単だ。確かに俺も最近の政治家達の不祥事には目に余るものがある。ここらで、渇を入れるのも必要だろうと思っていたとこだ。んで、もう1つの方は?」

 「こちらが、問題なのです」

 高山は顔を険しくして言った。

 「実は先日、国会の地下にしまわれていた物が盗まれました」

 蒼は目を見開いて、顔を強ばらせた。明らかに、何か動揺している様だった。

 「お前…それってまさか……」

 「アダムの心臓です」 蒼は、額から汗をながして固まった。いつも強気な蒼が、今は酷く弱々しく見えた。

 アダムの心臓って何だ?

 「どういう事だ!あれがあそこに有るのは、総理大臣のお前と俺しか知らないはずだぞ!!」

 蒼は怒鳴り声を上げ、まくし立てた。

 「私にも情報の出所が分かりません。それに、あれはこの国のトップシークレット。私と貴方以外は知らない為、表だっての捜索も出来ません」 蒼は舌打ちをして、苛々した様子で煙草を吸い始めた。

 「我々には打つ手がありません。それで蒼に頼みに来たのです」

 蒼は腕を組んで、貧乏揺すりをしながら、黙り込んだ。

 アダムの心臓と言う、俺には全く理解出来ない単語が出てきて、話について行けず、俺は蚊帳の外だった。

 高山に聞いてみようかとも思ったが、今はとても聞ける雰囲気ではない。

 場がピリピリしていて、空気が重い。俺はこの空間の、見えない圧力に潰されそうだった。

 「……分かった」

 腕組みをしたまま、蒼が一人呟いた。

 「恐らく、心臓を持って言った奴の狙いはアダムだ。大方、どっからかアダムの心臓の情報を手に入れ、神を再生させるとか考えた宗教の奴だろう。昔もその類の輩は居たからな」

 「何か、策はあるのですか?」

 高山が慎重に聞いた。 「ある」

 蒼は力強く言い放った。蒼の目には、いつもの強気な鋭さが戻っていた。

 「ホシの狙いが俺の想像通りなら、もう1つ、絶対に手に入れなきゃ駄目なもんがある。それがこれだ」

 蒼は胸元から、首に掛けていたペンダントのトップを取り出し、俺達に見せた。ペンダントのトップには、籠の様な装飾があり、中にはビー玉程の真っ赤な球体が入っていた。それは、自ら光を放っているかの如く、力強く輝いていた。

 「こいつはアダムの心だ。これが無ければ、例えアダムの肉体まで再生させたとしても、それは只の肉の塊でしかない」

 俺も高山も、蒼の話しを固唾を飲んで聞いた。

 「だからこそ、これを使ってホシを誘き出す。その為にやる事がある。高山、柊。心して聞け」 俺達は緊張しながら、頷いた。

 「まず、俺は国政に戻ったと同時に、記者会見を開く」

 俺と高山は驚いて、目を合わせた。

 「しかし、蒼!貴方の存在は、この国の大きな秘密の1つ。それを公に暴露するのは……」

 俺も高山と同じ意見だった。もし、蒼の事が明るみに出れば、政治家達に動揺が走り、それは国民にも伝わり、下手をすれば国が混乱する。

 「駄目だ。事は一刻を争う。手段など選んでいられない」

 蒼は自分の意見を曲げるつもりはないらしい。 「何か起こっても、俺の力でなんとかする。それともう1つ」

 蒼は俺の事を見据えた。

 「柊を今日付けで、『特命国務秘書』に任命する」

 それを聞いて、高山は再度驚き、俺は怪訝な顔をした。

 「しかし、蒼には東宝院家の者が…」

 「ここまで話しを聞かせたのだから、俺の下で使うのが順当だ。高山、これは命令だ」

  高山は苦虫を噛んだ様な顔をしたが、暫くして『御意』と短く答えた。

 「と言う訳だ、柊。お前には今日から俺の秘書として働いてもらう。東宝院って奴も俺の秘書として働くから、2人で協力してもらうんで、そのつもりで頼む」

 俺は内心がっくりきた。勝手に国の秘密を喋っておいて、そりゃないだろう…

 しかも、秘書って事は四六時中、蒼と一緒に居る事になる。昨日会った時の、あの短時間でも辛かったのに、あれが毎日……

 俺は近い将来、胃潰瘍、もしくは心臓麻痺で倒れるだろう…

 「良し、話を戻すぞ。記者会見は明後日の午後1時。場所は皇居。参加者は総理大臣を筆頭に、全ての大臣・国会議員・官僚、皇族、警察庁長官、それと日本の全てのマスコミ、だ。高山は、今すぐ戻って記者会見の準備。柊は俺と一緒に来い」 一通り喋った蒼は立ち上がり、遠い目をした。

 「国は荒れるかも知れない。俺達、神の孫も動くだろう。お前達も、それ相応の覚悟をしていろ」

 俺達は頷き、蒼もそれを見て頷いた。

 「んじゃ、解散」

 蒼に言われ、俺達も立ち上がる。

 この短時間で、蚊帳の外だった俺も、すっかり道連れにされてしまった。

 この先、俺はどうなるのか?

 もうすでに、若干胃が痛かった……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ