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  作者: 柴原 椿
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第34話:G.C.W(戦風神)

 えぇ…お久しぶりで御座います。

 遅々として、さながら牛歩の如く進まない『蒼』、何を隠そう私の仕業です。うん、当たり前ですね。

 読んでいただいている方には、申し訳ない限りです。いや、ホントに。

 でも、出来たらこれからも、温かい目でなんて贅沢は言いませんから、生温~い、「え?これ冷たくない?」くらいの目で見守って頂ければ幸いです。


 高層ビル群が建ち並ぶ東京都心部は、見方を変えれば壊す物が山ほどある街と言えよう。

 そして神の孫及びG.Cの殆どが広範囲の攻撃手段を有している。

 そんな彼等にとっては、ビル群をかいくぐり相手に攻撃するのは手間であり、また余裕も理由も無い。

 「いやぁ、絶景絶景」

 崩れゆく建造物を、離れたビルの屋上から眺めていた老子は1人ほくそ笑んでいた。

 「あいつ等の能力って良いな。あんな派手にぶっ壊したら、さぞかし楽しいだろうなぁ」

 「御主、余所見とは余裕じゃな!」

 風を切りながら、老子の背後で太公望は回し蹴りを放っていた。

 それを能力を使い避けた老子は、太公望から少し離れた位置に音もなく出現し、青龍刀を肩に担いだ。

 「そう焦るなよ、太公望。時間は有限だが、まるっきり無いワケじゃねぇだろ?」

 「阿呆が。儂はこんな面倒事は早く終わらせたいんじゃよ」

 憤りを露わにする太公望を、老子は意に介さず嘲笑した。

 「そうカッカするなよ。ゆっくり楽しもうぜ?俺からの、後生の頼みだ」

 「どの道殺すんじゃ。後生の頼みなんぞ聞く耳持たんわ」

 「そう言うな。俺等はどうせ、お前達に勝っても死ぬんだからよ」

 「ん?」

 老子の言葉の意味が分からず、頭の中でその言葉を反芻した太公望は怪訝な顔をした。

 「儂等に勝っても死ぬとは、どういう意味じゃ?」

 「そのまんま、だ。それと言うのも、俺等は寿命が短い」

 左右の手で器用に青龍刀を踊らせる老子は、淡々と語り始めた。

 「俺等は壮大な計画と、数多の実験の末に生まれた、言わば人類の英知の結晶だ。だが、今の人類の科学じゃ、リスク無しの成功は不可能。そのリスク、いや…能力の代償が寿命ってワケだ」

 老子は青龍刀を再び右手に構えると、左手でジーンズのポケットを弄る。取り出したのは、小さなプラスチックのケースだった。中には赤と青の粒がぎっしりと詰まっている。

 「こいつが何か分かるか?」

 「…何かの薬か?」

 「そう。赤いのが精神安定剤。青いのが、テロメアの成長剤って話だ」

 「テロメアとは何じゃ?」

 「知らねえのかよ?良いか?テロメアってのは、DNAの二重螺旋の両端にある、まぁ簡単言えば回数券だ。何の回数券かと言うと、それはずばり細胞分裂のだ」

 得意気に喋る老子。

 対する太公望は、元々理解力もある為、老子の話を即座に理解する事が出来た。

 「つまり御主等は、そのテロメアが産まれもって少ないんじゃな?細胞分裂の終わりは、老化の始まりと言うのは、儂でも知っておる」

 「そうだ。おまけに身体の隅々まで弄られてんだ。そりゃ長生き出来ねぇだろ?」

 そこで太公望は思い至る。

 G.Cの全員は例外なく華奢な体躯で、尚且つ肌が病的に白い事に。

 「だからってワケじゃねぇが、この戦争は俺達にとって人生の最頂点であり、最後の生き甲斐を感じる瞬間なんだ。それを楽しまずして、いつ楽しむってんだ?」

 「言いたい事は理解した。もし御主が只の童なら、儂だって同情もするし、望みも聞こう。だが、御主は、御主等は兵器じゃ。そして止められるのは儂等しか居らん」

 太公望は腰を低く構える。

 「核が落とされた今、世界中が戦争を始めるじゃろう。しかもそれは、以前のとは比べ物にならん程のものじゃ。故に、儂等に時間は無い。つまり、御主の要求は飲めん」

 「そう、言うと思ったぜ。だが、どうする?同じ能力の俺を殺す策でもあるのか?」

 遠かった破砕音が迫って来ていた。

 「案ずるな」

 太公望はうっすらと笑う。

 「御主は既に策の中じゃ」

 「何!?」

 近付いていた破砕音が足下から響き、太公望達の居るビルが一気に崩れ始めた。



       *



 其処には禍々しく、黒々とした巨大な竜巻がさもあらゆるモノを滅ぼさんと鎮座していた。

 猛る風の音は龍の鳴き声の如く。

 あらゆる物を削る風は龍の牙の如く。

 そして、その暴風の中心で、彼は躍る様に舞っていた。

 「刻め!!」

 蒼の放った鎌鼬がシルフの身体を斬りつける。

 「叫べ!!」

 続けざまに放たれた圧縮空気の弾が、容赦なくシルフに牙をたてる。

 「とどめだ!!」

 幾重にも重ねられた大気の壁がシルフの華奢な身体をアスファルトに押し潰さんと降り注いだ。

 「嘗めるな!」

 対するシルフも大気の壁を造り、蒼の壁を押し上げる。

 「うぉぉおぉ!!」

 だが、遅かった。

 最初こそ互角に見えた競り合いだったが、時間が経つにつれてシルフの壁が押され始めてきた。

 「もらった!!」

 更に威力を上げる蒼。

 「ぐっ…!」

 圧力を増した大気の壁の力で、シルフの両足がアスファルトを砕き、踝までが地面に埋まった。

 後一押し。

 そう思った蒼の胴体から、鮮血が再び噴き出した。

 「うぐっ!?」

 「!」

 この一瞬の隙を、シルフがむざむざ逃がす筈はなかった。

 「はぁぁぁっ!!」

 一気に勢いを増したシルフの壁によって、蒼の身体が空中に投げ出された。

 「まだだ!」

 無防備になった蒼にシルフの鎌鼬と大気の槍が襲いかかる。

 「チッ!」

 急ぎ、大気の防御壁を造る蒼だったが、シルフの猛攻を止めるには至らなかった。

 鎌鼬に切り裂かれ、大気の槍が肩口に突き刺さる。

 「がっ!」

 「くたばれ!!」

 一瞬の隙が生んだ後悔は、勝敗を分けるには充分な要因である。

 彼等の立場は逆転し、蒼の身体は大気の壁によって、ビルの屋上に叩きつけられた。

 骨は折れ、肉は潰れ、それでも勢いが衰えぬ攻撃は、屋上の床を破壊し、蒼の身体を階下へと落とし続けた。

 およそ三十階建てのビルは、蒼諸共、無惨に崩れ落ちた。

 「はぁ…はぁ…はぁ、はぁ………………勝った」

 空中に圧縮空気で床を作り、そこから眼下の惨状を見下ろしたシルフは呟いた。

 「勝った……勝ったぞ!!俺は勝ったぞ!!!」

 高らかと、歓喜の雄叫びが大気を震わせた。


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