第33話:G.C.W(激突)
「第1小隊から第3小隊は北側から、第4小隊から第7小隊は南側から攻めろ!第1・2中隊は、東西より侵攻せよ!」
女は乱暴に通信を切ると、既に肉眼でも確認出来る程近づいた島国を睨んだ。
「消してやる」
恨めしげに、地の底から響く様な暗い声音で、女は呟く。
「猿如きが、我等に刃向かった報いを受けるが良いわ!」
そこで、部下からの通信が入った。
「報告致します。空母・リヴァイアサンの準備が整いました」
「分かったわ」
女の口端が微かにつり上がった。
「ティアマットを発進させろ!!」
「了解しました」
部下との通信を切った女は一息つくと、眼下の島国へ再び眼を向けた。
「さぁ、神殺しの時間よ」
*
一斉に始まった戦いは、瞬く間に街を瓦礫へと変えていった。その速度は凄まじく、既に東京の4分の1が壊滅していた。
「だぁぁあぁ!!なんなのよ!?コイツ!!」
剣、槍、銃弾、爆弾、ロケット弾、ミサイル弾。
ありとあらゆる武器が雨霰の様に、ガーネットに降り注いでいた。
彼女はそれら全てを能力によって破壊し続ける。否、喰らい続けた。
「もぅヤんなる!!なんであたしの相手って、いっつもこんなのばっかなの!?」
叫ぶ疑問に答えは返って来なかった。代わりと言わんばかりに、攻撃は量を増していく。
そんなガーネットの相手となったのは、『創造』の能力者・白澤である。
布陣を組んだのはファウストだった。
『創造』に対する『無』。
『作製』に対する『削除』。
これ以上の組み合わせはないだろう、と彼は言った。
また、蒼の相手はシルフ。太公望の相手は老子となり。残ったメトシェラの相手をジョーカーがすることとなった。
そして、残る神の孫サイドのファウストの相手はと言うと…。
「意外だね」
ファウストは迫る刃の一閃をナイフでいなす。
「まさか君が相手とは…」
「適材適所だ」
白澤の能力で造りあけだ長刀を操り、ファウストと互角の戦いをしていたのは他でもない、人間の佐山千歳であった。
「侮っていたつもりはないけど、正直驚きだよ」
両手のナイフを時間差をつけて切りつけるファウスト、それを最小限の動きだけで避ける千歳。
どちらにも隙はなく、周りからすれば息もつかせぬ攻防だったが、2人の表情には余裕すら窺えた。
「君は思考と感情に波が無いから読みづらい。本当に、人間とは思えないよ」
「無駄口を叩いて気を反らし、俺の心の奥底を観ようとしても無駄だ。何より」
千歳の剣撃が速さと重さを増した。二刀のナイフで受け止めたファウストの身体が僅かによろめく。
「そんな余裕があるのか?」
針の穴程の僅かな隙。だが、千歳はそれを逃がしはしなかった。
ヒュッ、と風鳴りをあげなら、刀身がファウストへ襲い掛かった。
切っ先が目の前まで迫った次の瞬間、ファウストが眼にも止まらぬ速度でそれを避け。
尚且つ体勢を瞬時に変え、千歳の首もとにナイフを突き立てた。
「何!?」
狼狽する千歳に、ファウストが高らかに笑った。
「ヒャハハ、残念」
心底嬉しそうに、だがどこか不気味に口元を歪めた。
「わりぃな。選手交代だ」
そう言ったのは、ファウストの第二の人格・メフィストだった。
*
雷についての知識を、どれだけの人が理解しているだろうか?
抜粋して言えば、雷の発生原理は上空と地面の間、または上空の雷雲内に電位差が生じた場合の放電により起きるとされている。
また、それに伴う雷の速度はご存知の通り光速である。真空中における光速の速度は、正確に表せば、299,792,458 m/s(≒30万キロメートル毎秒)である。
これは俗に言う、「1秒間に地球を7回半回る速さ」の事だ。
だが、それは自然界の気象現象であり、人間の持つ知識の中だけの話でしかない。
東京都心の、しかも街中から、雷が突如発生し、あまつさえ意思を持ったかの様に動いたとしたら、どれだけの科学者が驚愕するだろう。
「はぁ、はぁ…。ちきしょうが!!」
しかし、そんな能力を有する筈のジョーカーは、予想だにしない苦戦を強いられていた。
「どうなってんだよ!?クソ!!」
有らん限りの声量で吠えるジョーカーを、メトシェラは静かに上空から見下ろしていた。
「弱…」
呆れた様な彼の呟きは、ジョーカーまでは届かなかった。
だが、哀れむ様な眼で自分を見るメトシェラの視線にジョーカーは気付き、彼の額に青筋が立った。
同時に、パリンッ、と乾いた音を立てて、ジョーカーの周りの街灯が全て砕け、硝子やプラスチックがシャワーとなり降り注いだ。
「嘗めんな!!」
ジョーカーは叫び、構えた指先から放たれた稲妻が尾を引いてメトシェラに襲いかかる。
「無駄だよ」
しかし、稲妻がメトシェラに当たる事はなかった。全ての稲妻は、彼の手前で進路を変え、街路樹や建物に当たり弾け散ったのだ。
「またかよ!?」
「いい加減に学習しなよ」
メトシェラの手がゆっくりと動く。
「ヤベぇ!!」
危機を察知し、ジョーカーは転がる様にその場から飛び退いた。
一瞬遅れて、ジョーカーが立っていた地面が音を立てて砕けた。その勢いのまま、砕けた地面は瞬く間に陥没し、深い穴が出来上がった。
「なんつぅ能力だよ…」
ジョーカーは額の汗を拭いながら、繁々と穴の底を見下ろし、煙草を口にくわえた。
カキン、とライターが金属音を鳴らし、火を灯すと、煙草を静かに燻らせた。
「随分と余裕だね」
「余裕を作ってんだよ」
肺に溜まった紫煙を、ゆっくりと吐き出す。
「お前の能力は強い。なんせ見えねんだしよ。だが、もう理解した」
「へぇ」
ジョーカーはどこか芝居がかった様に、右手の人差し指を勢い良くメトシェラに突き付けた。
「お前の能力・重力制御は、重力の方向と強さを操る能力だ。そうだろ?」
「違うよ」
「やはり…って、違うのかよ!?」
予想外の返答に、ジョーカーはその場で転びそうになる。
「んじゃお前の能力って何だよ!?」
「うるさいなぁ…。そんなに叫ばなくても聞こえてるよ」
メトシェラは長く伸ばした銀髪を掻きむしると、ゆっくりと地面に降り立った。
「僕の能力は、重力の掛かる位置と強弱を操るのさ」
「あ?やっぱ俺が言ったので正解じゃねぇか?」
メトシェラは無言で、頭を振る。
「違うでしょ?重力の方向を操るってなら、僕が重力を上向きにしたら、他の全てのモノまで上に行っちゃうじゃん?」
「それもそうか…」
顎に手を添えて、暫し思案したジョーカーは眉根を寄せた。
「だが、やはり分からんぞ?」
「……馬鹿なの?」
「違うわ!!お前は重力の掛かる位置を決められるのだろ?なら、なんで俺は立っていられる?」
そう言って地面を指差す。
「お前の言う通りなら、俺は、お前の操る重力に引き寄せられるんじゃないのか?」
すっ、と指を先程出来上がった穴に向ける。
「例えば、あの穴に」
だが、メトシェラは頭を振った。
「さっき位の力じゃ、地球の重力に勝てないのさ。地球の重力はすごいんだよ?なんてったって、隕石すら引き寄せる程なんだから」
「地球の重力?お前の能力って…」
「僕は、地球とは別の重力場を発生させているんだよ」
ジョーカーは眼を見開く。
「ありえねぇだろ?」
驚くのも無理はない。別の重力場を作ると言うのは、つまり無から有を作るのと同義だということだ。
そのジョーカーの反応に、メトシェラは薄く微笑んだ。
「有り得ないを可能にする。それが僕達G.Cを造る時のテーマだったそうだよ」
メトシェラは言う。
「だけど、成功したのは僕と白澤の二人だけなんだってさ。あとのG.Cは、貴方達、神の孫のレプリカでしかない。あ、でも、フランスのパーシィバルは良い線まで行ったみたいだけどね」
その時、低い地鳴りと共に、大地が軋むように揺れ始めた。
「あら?やっぱりここまで揺れが来るんだね」
「核が落ちたのか!?」
「落ち着きなよ。これには貴方も一枚噛んでるんだしさ。いやぁ、でもこれは、地軸も歪んだかもね」
言いながら、メトシェラの身体が宙浮き始める。
「さて、早く終わらせないと。地球もヤバいけど、千歳さんに怒られるのはもっとヤバいしね」
「おい、何勝手に締めくくろうとしてんだ?」
「だって、もう終わりだよ?」
見上げる程浮き上がったメトシェラは、開いた右掌を勢い良く握り締めた。
「な、なんだ!?」
先程とは別の揺れと、破砕音が辺りに響く。
遠くで粉塵が舞い上がるのが、ジョーカーの眼に映った。
「お、おい!!何してやがる!?」
「ん~。別に、ただ重力場の中心を貴方に合わせただけだよ」
メトシェラの発言の意図に気付いたジョーカーの顔から血の気が引いた。
辺りを見回すと、車や電柱、果てはビル等の建造物がゆっくりと自分に迫っているのが分かった。
「どういう事だ!?さっきはこんな威力なかったじゃねぇか!?」
「言ったでしょ?さっき位の力じゃ、地球の重力に勝てないって…。さっきはさっき、今は今…だよ」
ジョーカーに近付いていた車や電柱が、距離を縮めるにつれ速度を増していった。
「死と等しく、重力は万物を支配しているんだよ」
メトシェラは笑う。
「我は拘束者。天上と地上を縛る、抗えぬ楔の執行者である」
「!!?」
そして、半径1kmの全ての物がジョーカーに津波となって押し寄せた。