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  作者: 柴原 椿
29/40

第28話:白澤

 時を遡り、日本の首都・東京。

 現地時間・AM7:53。


 白い巨大な箱の中にて。


 「ねぇ、蒼」

 「あ?何や?」

 俺は肺一杯に溜めた煙を、徐々に吐き出しながら柊に目を向けた。

 「この密閉空間で、煙草吸うなよ」

 「同感です」

 見れば時雨まで、あからさまに嫌そうな顔で俺を見ていた。

 「んな事言ったってよ、暇なんだからしょうがねぇじゃん?また物真似歌合戦でもするか?」

 「それは蒼が勝つじゃないですか」

 と、ジト目で俺をみる時雨。

 それと言うのも、数時間前に行なった物真似歌合戦で、俺は余裕綽々で勝利したからだった。

 「尻取りでしたら良いですよ」

 「俺達が時雨に勝てねぇよ」 時雨は恐ろしく尻取りが強かった。

 因みに、尻取りの強さとは語彙の量によると思う。

 そして、時雨の語彙は半端ない。頭に広辞苑をインストールしてると言っても納得出来る程だ。

 「じゃあさ、記憶力勝負しようよ」

 「却下。誰もお前の、円周率一億桁に勝てねぇっつの」

 柊は柊で記憶力が半端ない。つぅか、普通円周率を一億も覚える事に意味はねぇ。

 「ふぅ…結局なんもねぇじゃねぇか。煙草くらい多目にみろや」

 「じゃあ、せめて能力使って煙を一ヶ所に留めてよ」

 「いや、さっきからやろうとはしてんだが、能力が使えん」

 「どういう事です?」

 「俺が聞きたいわ」

 まぁ大方、イヴが一枚噛んでると見て間違いねぇだろ。

 厄介だな…。てか、太公望じゃねぇけど、めんどくせぇなぁ。

 「はぁ~ぁ…」

 「蒼?どうかしましたか?」

 大の字に寝転がり、染みのない白い天井を仰ぐ。

 「どうなるんだろな、俺等…」

 別に2人に聞いた訳じゃねぇから、答えは期待してない。ただの独り言だった。

 「どうにかなるでしょ」

 言ったのは柊だった。

 「そうですよ。私達3人居れば、大丈夫です」

 時雨も続いて、そう言った。

 「根拠はあんのかよ?」

 俺の質問に、2人は口を揃えて、「なんとなく」と言った。

 「はっ。お前等、いい加減なとこが、俺に似てきたんじゃねぇか?」

 「そうかもね」

 「ですね」

 笑い合うこいつ等を見てたら、考えるのも馬鹿馬鹿しくなってきた。

 「うじうじ考えても意味ねぇな。ま、なんとかなるだろ。…なんとかするさ」

 そして、俺が上体を起こしたのを見計らった様に、重苦しい金属音を上げて白い壁は開いた。

 「やっと御出座しかよ。柊、時雨」

 立ち上がり、2人を見下ろす。

 「とっとと終わらして、飯でも食いに行くぞ」

 『はい』

 2人の返事を聞き、俺は開いた扉の先に目を向けた。

 予想通りであり、また予想外でもある光景が、そこにはあった。

 予想通りだったのは、高山が居た事だ。

 そして、予想外だったのは、そこは国会議事堂の前で、高山の隣に見知らぬガキが居た事だ。

 俺達は意を決し、外へと足を運んだ。

 「こんなに早く会うとはなぁ。俺はお前の面なんて、もう見たくなかったのによ。なぁ?高山」

 「ご挨拶だな、蒼。まぁ、私も貴方に会うのは、今日で最後だがな」

 「そりゃこっちの台詞だっつの。……そいつは?日本のG.Cか?」

 膝下まで伸びた黒髪に、白磁の様な白い肌。服は上下共に紺色のジャージで、靴は動きやすそうなスポーツシューズと言う出で立ちの、女にも男にも見える中性的な奴だった。

 「そうだ、紹介しよう。G.C-001・白澤はくたくだ」

 「God. Childrenの1号機か。それは良いけど、なんで国会議事堂なんだよ?人一人居ねぇし、こりゃなんの真似だ?」

 「不本意ながら、これは命令なのだよ」

 「は?誰の命令だっつぅんだよ?」

 「お前がそれを知る必要はない。もう、時間だ。始めろ、白澤」

 そして、獲物を捕らえる獣の様に、白澤と呼ばれたガキは一気に駆け出した。

 「なっ!?柊、時雨、下がってろ」

 長髪を振り乱し、一心不乱に走る白澤。

 能力が分からないと言う事もあり、俺は様子見を兼ねて、小さな圧縮空気の弾を放った。

 さぁ、どうでる?

 しかし、次の瞬間に俺は我が目を疑った。

 白澤の手に突如、刀が現れ、奴は躊躇うことなく、空気の弾を切り裂いたからだ。

 軽い衝撃波が起こるが、奴は止まらなかった。

 それどころか、持っていた刀を俺に投げ付けてきやがった。

 回転しながら迫る刃を避け、次のモーションに入るが、白澤の方が一手速い。

 刀に次いで、いつの間にか両手に構えていた槍を投げ込む。

 「んなの、アリかよ!!」

 突風を起こし、槍の軌道を逸らす。

 だが、白澤は意にかえした様子など見せず、槍を再び右手に構えると、棒高跳びの用量で跳躍した。

 高々と舞い、最頂点で身を翻すと、俺と目が合った。

 悪寒がして、肌が粟立った。

 長髪から覗く奴の眼は深淵の様に暗く、冷たい。 先に会った4人とは一線を期すものを感じた。

 コイツは、人の皮を被った化物だ…。

 そして、尚も白澤の攻撃は止まらない。

 両掌を俺に向けたかと思うと、そこから無数の槍が濁流の様に押し寄せてきた。

 「ちっ!うっぜんだよ!!」

 俺はその場で一度回転し、その勢いのままに回し蹴りを放つ。

 蹴り足は空気を切り、能力の影響を受けたそれは風の刃となって、迫る槍を薙ぎ払った。

 「鎌鼬かまいたちって知ってっか?」

 続けざまに二度三度と蹴りを放つと、槍の流れはバラバラに弾けた。

 「まだだ!!」

 次いで、この辺一帯の大気を集めて大気の槍を作る。

 大気の槍は竜巻の様な回転をしながら、散らばっていた白澤の槍を巻き込み、その矛先を白澤へと向ける。

 「終わりだ。空中に居るテメェに避ける術はねぇ」

 そして槍を撃ち込む。

 大気をつんざく轟音に乗って、巨大な槍は確かな手応えを持って白澤に激突した。

 一本に束ねられていた槍達は、激突の衝撃と共に再び散らばり、その鋭利な切っ先を地に突き立て、木々の様に辺りを埋め尽くした。

 「…………ちょっと卑怯じゃねぇか?テメェ」

 しかし、失敗に終わった。

 俺の作った風の槍は、巨大な盾によって防がれていた。

 「その能力、アダムの創造の力か?」

 白澤は地に突き刺さった槍に器用に片足立ち、盾を投げ捨てた。

 「…アダム?誰?」

 白澤は首を傾げる。

 「は?アダムっつったら、一人しか居ねぇじゃねぇか」

 「無駄だ。白澤には、戦闘以外の知識は殆ど無い」

 そう言ったのは高山だった。

 「よく生きてたな?御老体のくせに」

 「これでも体は鍛えているのでな」

 「そうかよ。んで、コイツは何者だよ?」

 「白澤はアダムの心臓から採取した遺伝子で造ったG.Cだが、そうか…これがアダムの能力か」

 やはりアダムの能力は知らなかったか。まぁ何千年も前に眠りについた奴の能力なんか、調べようもねぇからな。

 「でも、俺等の知っているアダムの能力と違うぞ。あいつのは物体を別の、創造したモノに変える能力だった」

 「白澤は想像したモノなら何でも造れる。ただし、命を持ったモノは、その器しか造れん。だが、それで充分だ!」

 高山の視線が動く。その先に居た白澤は、槍から飛び降りると、両腕を広げた。

 奴の手足の先から徐々に黒い金属が身体を覆っていき、それは瞬く間に細身の鎧に姿を変えた。

 次に右手に身の丈程の大剣と、左手に面が長い盾を構え、顔を口元が開いたヘルムで覆うと、その刃の切っ先を俺へと向けた。

 「本気で…来なよ。神の、孫…」

 「あぁ?」

 何言ってんだ?それじゃ、まるで俺が…。

 「力…抑えてる、でしょ?」

 「…抑えてねぇよ」

 「嘘」

 即答された。

 「風が、哭いてるよ…」

 白澤は自らの動きを確認するように大剣を振り回すと、身を構えた。

 「風が哭いてるって、どういう意味だ?」

 「そよ風じゃ…僕は殺せないよ。見せてよ、君の心に吹く…嵐を……」

 一陣の風が、俺の頬を打ち付けた。まるで、白澤の言葉を肯定するかの様に。

 俺は拳に力を込め、白澤へとそれを向けた。

 「ボロ布になってから、後悔しても遅いぞ」

 俺の中ですっかり身を潜めていた闘志は、今再び、猛り狂い、全てを薙ぎ払う嵐となって吹き荒れた。


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