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  作者: 柴原 椿
27/40

第26話:瞬巡

 現地時間・AM8:00


 「あぁ、面倒じゃ」

 「あぁ、面倒だ」

 向かい合っていた儂と老子は、2人同時に肩をすくめた。

 「老子!何をぐずぐずしているんだ!」

 少し離れた所にスーツを着た壮年の男が居て、今、声を上げたのは其奴じゃった。

 「だってマジでダリぃんだよ。お前が替われ、劉。俺は今すぐ寝たい」

 劉?あぁ、国家首席の劉耀邦か。初めて見たわ。まぁ、元々興味もなかったんじゃがな。

 「ふざけるな!!お前が全力を出しても良い様に、せっかく場をあしらえたんだ。とっとと殺れ!」

 場をあしらえた、か。儂は辺りを一望して、失笑してしもうた。

 「何が可笑しいんだ?太公望」

 老子の問いかけに、儂はいよいよ本気で笑いが込み上げてきた。

 「ハハハっ!妙な箱から出されたと思うたら、なんじゃ此処は?紫禁城ではないか?笑わずにいられるか。こんな所で殺り合おうとは、まるで歴史の変わり目の様ではないか?」

 儂の発言に、劉は真剣な表情で答えた。

 「どう言われようと、今回の戦争は我々人類にとっては、歴史の変わり目と同義なのだ」

 「大袈裟じゃのう」

 紫禁城。

 北京の中央に位置する此処は、現在では故宮博物院となっており、かつては明、清代の皇帝が使用していた宮殿として有名じゃな。

 華麗にして重厚な建築群を数多く内包していて、故宮の四方は高さ10mの城壁で囲まれ、確かに権威と史観が同居していた建築物だと実感できるじゃろう。

 因みに、儂は此処に住んだ事はない。

 こんな広い所、とてもじゃないが落ち着かんわ。

 「はぁ~ぁ…」

 わざとらしい溜め息をもらし、老子は儂と目を合わせた。

 「このままダレててぇけど、俺も今日は忙しいんでな。やるか」

 「儂も、他の者が気になるのでな。早く終わらせたかったとこじゃ」

 「へっ!じゃ決まりだな。おい、劉!!」

 老子は劉に右手をひらひらとさせて見せる。

 「……なんだ?老子」

 「なんだ、じゃねぇよ。馬鹿。アレ寄越せよ。持って来てんだろ?」

 ぞんざいな老子の口調に、劉は不機嫌さを隠そうともせず、しかし、きちんと老子に言われた物を投げ渡した。

 「劉、投げんな!危ねぇだろが!」

 老子が渡されたのは、美しく磨がれた、青竜刀じゃった。

 「御主、自分だけ武器を有するなど卑怯ではないか?」

 「卑怯?太公望、なんか勘違いしてんじゃねぇのか?」

 老子は言った。

 青竜刀の切っ先を儂に向けて。

 「俺達は決闘しようってんじゃねぇんだ。これは戦争であって、殺し合いであって、つまる話が…勝った方が正義って事だろが!!」

 そう言って、老子は消えた。

 間髪入れず、目の前に現れた老子は、既に青竜刀を降り下ろす動作に入っている。

 儂も能力を使って老子の背後に移動、そのまま奴の脳天目掛けて回し蹴りを放つも、紙一重で奴も避ける。

 全く、面倒この上無い。

 同じ能力者と言うのは厄介なものじゃな。

 だが、無論。同じ能力同志でなければ、五分の戦いも出来ぬのじゃがな。

 しかし、五分で勝利は有り得ん。

 斬りかかれば避け。

 蹴りかかれば避け。

 一向に決着は見えない。

 お互いの隙を探して、攻めたてる、終わらない堂々巡りの戦い。

 「なぁ、太公望」

 横薙ぎに青竜刀を振るい、老子は言った。

 「なんじゃ?」

 それを避け、儂は頭上に移動し、踵落としを繰り出す。

 「お前は、今の世界をどう思う?」

 儂の足は空を切った。やはり当たらないか。まぁ、向こうも同じじゃがな。

 「どう、と言われてものぅ…」

 「もしも…」

 老子は立ち止まる。殺意も感じぬし、儂も足を止めた。

 「もしも、今の世界が気に食わなくて、それを変えれるとしたら、お前はどうする?」

 「別に、どうもせんわ。特に不満もないしの」

 老子は不適に笑う。

 「ある男が、俺にこう言った。世界を変える為に、飛蝗狩りをしないか?、と」

 「……飛蝗狩り?」

 青竜刀をゆっくりと、流れる様に構える老子。

 「俺はその男に着いてく事にしたのさ。だから!!」

 老子は空間転移を使い移動した。だが、儂の所にではなかった。

 「な、なんの真似だ!老子!!」

 劉の叫びに振り返ったが、既に遅かった。

 「世話になったな、劉。礼と言っちゃなんだが……」

 青竜刀が横一線に放たれた。

 「お前を、俺が殺す、記念すべき最初の飛蝗にしてやる」

 そして、劉の頭は飛んだ。まるでボールの様に、苦悶に歪んだ顔が宙を舞う。

 舞って、舞って、鈍い音を上げて地に落ちた。

 「老子!!御主、何を!?まさか、飛蝗と言うのは…」

 「そう…人間さ」

 劉の身体が力無く倒れる。振り返った老子の顔には、艶かしい血が跳ね付いていた。

 「御主が会ったその男は、一体何をする気なんじゃ?」

 「…世界を、リセットするんだとよ」

 老子は言った。

 「まぁ、こいつ等も自業自得さ。自分達の身、可愛さに、人類を売ったんだからな」

 「世界政府の裏でも、誰かが糸を引いておる…のか?」

 「そうさ」

 老子は手で乱暴に、頬の血を拭う。

 「詳しくは知らねぇが、劉達はKと呼んでいたな」

 「K……。しかし、解せぬ。何故お主は、儂にそれを教える」

 ククッ、と喉を鳴らして、老子は笑った。黒い瞳が不気味に光る。

 「どうせ止められねぇからだよ。お前達も、世界政府も、そして俺達も、奴等の駒に過ぎねぇんだからな。それに、俺はもう劉達の側じゃねぇからな。サービスさ」

 青竜刀を振るい、刀身に付いた血を落とした老子は、劉の身体の脇に落ちていた鞘に、それを納めた。

 「さて、最初の仕事も終わったし、俺は行くぜ。じゃあな、太公望。またいずれ会うだろうさ」

 「ま、待て、老子!逃げるのか!?」

 「言っただろ?今日は忙しいんだよ。それに、同じ能力の俺を捕まえるのは、どうせ出来ねぇんだ。時間を無駄に使うのは賢くねぇぞ?」

 「くっ……。だが、アレは返して貰うぞ!そもそも、アレさえ盗られなければ、儂は御主の相手など元よりせぬわ」

 ああ、と言い、劉のスーツをまさぐった老子は、儂にアレを投げ返した。

 「そんなもんが命より大事なんて、お前も変な奴だな」

 「黙れ…。これは友の形見なんじゃよ」

 友の形見。糸を何重にも巻いた真っ直ぐな釣り針。考え事をする時に、儂はよく釣りをするのが癖じゃった。それを見た友が、『君が考え事をする度に、魚が痛い思いをするのは、嫌じゃない?』と言って、くれたのがこれじゃ。

 「ああ、それとサービスついでだ。ガーネットはフランスのパリに、ファウストはイギリスのロンドンに居るぞ」

 「随分とサービスが良いんじゃな?いっその事、仲間にならんか?」

 「ハッ!馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺はただ、飛蝗共じゃ相手になんねぇから、お前等と殺りてぇだけだ」

 べらべらとよう喋る奴じゃ。

 やはり、まだまだ青いな。

 空間転移で老子の背後に移動した儂の、回し蹴りが奴の頭を薙ぎ払った。一重に経験の差じゃな。

 「な……!テメェ!!」

 「油断し過ぎじゃ」

 続けざまの掌ていは外した。やはり一撃で仕止めんといかんか。

 「やってくれんじゃねぇか、老いぼれが…」

 「伊達に長生きしておらんわ」

 臨戦態勢になり、儂は身構えた。だが、老子は構えに入らなかった。

 「ちっ!もう時間だ。続きはまた今度だ」

 老子は睨み付け、儂を指差して言った。

 「次に会ったら、殺す!!」

 言うだけ言って、老子は消えた。

 暫く構えを解かずに警戒していたが、どうやら本当に行ったらしい。

 「はぁ…疲れたのう」

 儂は故宮の中にある太和殿へと移動した。

 此処は七十二本の大木柱に支えられた巨大な屋根、絢爛な細工のなされた瓦、壁、天井が特徴的な、中国最大の木造建築物じゃな。

 そしてなにより、時の皇帝が座った玉座がある場所じゃ。

 儂は玉座に腰を下ろした。

 因みに、玉座の上にいる竜は『円球軒轅宝鏡えんきゅうけんえんほうきょう』をくわえていて、皇帝に相応しくない者が座ると頭上に落下する、と言い伝えられておる。

 どことなく、コントの画が思い浮かぶの。

 いや、しかし…。

 「とんでもない事になってしもうた。まぁ、致し方あるまい。さて…先にフランスに行くかの。ファウストは大丈夫じゃろうが、ガーネットは馬鹿じゃからのう。そう言えば…」

 儂は辺りを見回し、盛大に溜め息を漏らした。

 「安眠スーツを置いて来てしもうた」

 そうして、儂はガーネットの居るフランスへと赴いたのじゃった。


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