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  作者: 柴原 椿
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第21話:アダム(3・イヴ)

 イヴが現れてから、アダムの周囲は急激に変化を遂げた。

 まず、アダムとイヴの間に息子が生まれた事だ。

 彼等の息子には『カイン』と言う名が付けられ、これはアダムが命あるものに付けた初めての名だった。

 また、他の生物も食物連鎖の上位種を筆頭に、着実に進化を続けていた。

 かの者達は、自分達の数を増やすため、より安全で食料の多い地を求めて、世界中に散らばった。

 そして、彼等の『安息の地』の候補に、『エデン』もまた含まれていたのだ。

 日々、訪れる獣達から、大切な家族を守る為にアダムは必死に抵抗したが、手傷を負うことも多々あった。

 アダムの能力は『創造』。何かを生み出す事は出来ても、他の生物を傷付けたり、ましてや殺める事は彼には難しかった。

 だが、幸いな事に、アダムがどんな大怪我をしようとも、イヴがアダムの患部に手を添えた途端に、怪我は跡形もなく消え失せ、これによってアダムは命の危険を幾度となく回避出来た。

 ある日、アダムはイヴに聞いた、『これが君の力か?』と。

 しかし、イヴは首を横に振って返答した、『私は只、願っただけです』と。



       *



 「願った…?」

 月夜の下、美しい黒髪を風に揺らしながら、時雨は首を傾げて、今まさに遥か太古の話を聞かせた人物を見詰めた。

 その人物とは、外見は少年ながらに、獅子の如きオーラを身に纏う、日本最大にして絶対の権力者、蒼である。

 「そうだ、彼女は願っただけだ」

 今一度、静かに告げた蒼だったが、時雨の疑問は払拭出来ずにいた。

 「つまり、イヴの能力は治癒と言う事ですか?でも、ファウストさんの能力が妨害されてるって…」

 「時雨さん、それは違います」

 そう答えたのはファウストだった。

 世界中の情報を一瞬で手にする事が出来る能力、通称『世界監視』を有するファウストの青い眼は、どこまでも澄んでいて美しかった。だが、時雨はその眼を直視出来なかった。彼の眼には、心の奥底まで覗かれそうな深さがあったからだ。

 「彼女の能力は、治癒などと言う生易しいものではなかったのです」

 「でも、さっき怪我を治したって…」

 「治したのではありませんわ。なかった事にした、が正しい表現ですわね」

 鈴の鳴るような声で喋ったのは、足首まであろう金髪を風になびかせ、漆黒のドレスに身を包んだ美しい少女・アリスだった。

 時雨が出会った二人目の神の孫にして、あまねく時を支配する美しき怪物モンストル・シャルマンである。

 「それがイヴの能力ですか?」

 「厳密に言えば少し違いますわ。もっと、私達の考えとは別の次元のモノですわね」

 「そう、俺等の力が自然現象や地球上の物質や概念を操るのに対して、イヴの力はそれらを遥かに凌駕するもんだ。もし、彼女が敵なら、俺等6人が束になっても勝ち目はねぇな」

 時雨は徐々に自分が混乱していくのを感じた。

 神の孫の能力だけでも、常識の範疇外だと言うのに、更に上だと言われても全く見当がつかない。

 終いには、勿体ぶって教えてくれない彼等に少し苛々してきてしまった。

 『勿体ぶるのは、知ってる者の特権』という、昔誰かが言っていた言葉を思い出した。

 「蒼、早く続きを話しなよ。時雨さんが困っているよ」

 助け船を出してくれたファウストに、時雨は心の中で感謝した。

 『急かすのは、知らぬ者の特権』という言葉も聞いた事があるが、自分の性格では無理だと思っていたので、なおのこと有り難かった。

 「分かってるよ。さて、時雨。次は俺達、神の孫が生まれた話だ」

 静まりかえった田舎町で、神々の昔話は第二幕へと続いた。


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