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  作者: 柴原 椿
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第19話:アダム (1)

 田舎の夜道ともなると車は殆ど通らず、蛙の鳴き声だけが絶えず辺りに響いていた。

 その外灯の少ない道を、月明かりを頼りに、ガーネットを背負った柊と太公望が歩いていた。

 終始無言で隣を歩く太公望に、柊が視線を向けると、太公望は眉間に皺を寄せて、強張った顔付きをしていた。

 「太公望さん、どうかしました?」

 「いや、今回の一件…何故、ファウストに予知出来なかったのかと思ってな」

 五年前に太公望に送られた黒い封筒に入れられた手紙、『神の御言』では今回の襲撃の事については触れられていなかった。確かに柊にも、その事が頭の片隅に引っかかっていた。

 「その、ファウストさんの予知は完璧なんですか?」

 「無論じゃ。わし等、神の孫の個々の能力に落ち度は無い。だが、1人だけ…それを打ち破れる者が居る」

 太公望の表情が一層険しくなった様に、柊は感じた。

 「そんな事が出来るのは、彼女しか居ない……」

 「彼女?」

 その時、柊に背負われていたガーネットが小さな呻き声と共に眼を覚ました。

 ガーネットは軽く伸びをして、頭を太公望に向けて元の態勢に戻った。

 Tシャツにジーンズと言うラフな格好のガーネットの胸が背中に押し当てられて、真剣な話の最中、柊は1人違う意味で緊張していた。

 「柊よ…顔がニヤついとるぞ」

 「ちょ!太公望さん!気のせいですから、ほっといて!!」

 明らかに動揺している柊を見て、太公望は小さく息を付いた。

 「ねぇ、太公望」

 呟く様に、小さな声で自分を呼んだガーネットに、太公望が顔を向けた。

 「あんた、さっきの本気で言ってんの?」

 ガーネットの突き刺す様な視線を受け、太公望は歩みを止めて真剣な表情で頷いた。

 「それしか考えられん…」

 その瞬間、柊は大気がピンと張り詰めたのを感じた。まるで蒼に初めて会った時の様な、押し潰されそうな威圧感が迫る。

 「ちょっと、君。下ろしてくれる?」

 口調は静かだったが、彼女の声音には明らかな怒気が混じっていた。

 柊が腰を屈めると、ガーネットはフラつく足で地に下り立ち、太公望をきつく睨み付けた。

 「あんた…自分が何言ったか分かってんの?あんな中国の山奥に隠ってたから、呆けたんじゃない?」

 対する太公望は、冷静に、いささか冷めたと言っても良い目付きでガーネットを見据えた。

 「呆けてなどおらん。もう一度言おうか?ファウストの能力を破れるのは、彼女しか居な」

 「黙れ!!!」

 突然に発せられたガーネットの叫びに、辺り一帯の蛙の鳴き声は消え失せ、柊の体を驚愕よりも、恐怖が支配した。

 「裏切ったって言うの!?あの人が、母さんが…そんな事、する筈…ないよ……」

 勢い良く喋っていたガーネットだったが、後半は涙声になっていき、項垂れてしまった。

 「お主の気持ちも分かる。だが、他にそんな事が出来る者が居るか?」

 「でも……」

 辺りに蛙の鳴き声がちらほらと戻ってきたが、その中にガーネットの嗚咽が小さく混じり、太公望もそれ以上は彼女に何も言わなかった。

 代わりに、状況を把握しきれていない柊に向けて口を開いた。

 「何か、聞きたそうじゃな?」

 柊は太公望の眼を見て、先程から胸に引っかかっていた疑念を声にして吐き出した。

 「彼女ってのは、誰?あと、その人の能力は?神の孫との関係は?」

 聞きたい事は多々あるが、今、重要なのはこれらだろう。

 「その質問に答えるのは容易い。じゃが、それに答えた先に、また新たな疑問が生じるだろう。そうなってはキリが無い。故にわしは今から、我々、神の孫の全てを話そうと思う。それに、お主には聞く権利がある。お主は、蒼の孫なのだからな…」

 柊は自分の鼓動が早まったのを感じた。

 改めて思い知ったからだ。自分に流れる神の血を…

 もう自分は、運命の輪の中に居るのだと…



       *



 かつて、遥か太古の話。

 神は、まだ成長途中のこの世界に、1人の男を造った。

 神は男に、アダムと名を付け、こう言った。

 「アダムよ。この世界の事は、お前に任せる。自由に、自分が思うままに、この世界で生きるが良い」

 その時から、この世界は全て、アダムの物になった。

 アダムには、ある力があった。

 彼が石ころを手に取り、意識を集中すると、石は美しい蝶になった。

 彼の能力は、『創造』。自分が思い描いた物に、別の物体を変える能力だった。

 だが、生まれたばかりのアダムの知識には限界がある。

 そこで神は、アダムに二本の樹を与えた。

 『知恵の樹』と『生命の樹』だ。

 二本の樹には、それぞれ実がなり、その実を食べると文字通り、知識と生命力が手に入った。

 そうして、知識を手にしたアダムは、まず自分の暮らす場所を造った。

 そこは色鮮やかな華々が咲き乱れ、美しい揚羽蝶が飛び交う庭。

 彼は、ここに『エデン』と名を付けた。


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