表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 柴原 椿
18/40

第17話:God.children's (3)

 「ちょっと!?旦那?もしも〜し……もしも〜し」

 竜王は、無言の受話器に幾度となく呼び掛けるが、返事が返る事はなかった。

 「ちょ〜〜!!ヤバいっスょ!蒼の旦那になんかあったみたいっスょ!!」

 振り返った竜王は、後ろで呑気に煙草を吹かしている男に、声を荒げてまくし立てた。

 「まぁまぁ、落ち着けって。お前も一本吸うか?」

 男は、竜王の気も知らずに、椅子に腰掛けると、煙草を勧めて来た。

 「って言うか……アニキは行かないんスか?アニキが行けば……」

 「バッカもん!良いか、竜王…。切札ってのはよ、最後の最後まで使わねぇんだよ」

 男は、肺一杯に溜めた煙を、ゆっくりと吐き出し、テーブルの上のブランデーの入ったコップを手に取ると、その琥珀色の液体を舐めた。

 「出し惜しみして、取り返しのつかない事になっても知りませんょ」

 「大丈夫だ。あのな、世の中ってのはタイミングが大事なのよ。タイミングがあった時に行く事によって、全ては上手く行くんだよ。今はまだ、その時じゃねえ」

 「でも……」

 「なぁ、竜王。こんな話を知ってるか…」

 男は椅子の肘掛けに腕を置くと、顔の前で指を組んで、その茶色の瞳で竜王を見つめた。その瞳は深く。何もかもを見透すかの様だった。

 「かつて…遥か昔の話だ。時は、殷周革命が起こり、中国の歴史が動く少し前。そいつは、ある日、中国の渭水と言う川で釣りをしていた。釣りと言っても、真っ直ぐな針を使い、考え事をしていただけらしいがな…。あいつは、無駄な殺生を嫌う。自分の考え事の最中に、例え魚でも、痛い思いをさせるのが嫌だったそうだ」

 「誰の……話スか?」

 「まぁ、最後まで聞け。そいつが釣りをしていると、ある男が現れた。その男は姫昌きしょうと言い、後の周の王、武王の父だ。姫昌は、そいつを見るや、こう言った…『そなたこそ、太公が大いに待ち望んだ者だ』、とな……」

 竜王の脳裏に、1人の男の顔が思い浮かんだ。

 「それって、まさか!」

 「そして、そいつは周に迎えられ、軍師となり、紂王の率いる殷の軍勢を、その知力を持ってして牧野の戦いで討ち取った。もう、分かったろ?そいつは当時、相手が人間だったから力を使わなかった。だが、今回は違う」

 「でも、相手がどんな能力を使って来るか…」

 「関係ないね…。あいつは強いよ。俺達の中でも、本気でやり合って勝てるのはアリスくらいなもんさ…」



       *



 「太公望……!?」

 皆の視線の先に、その男は立っていた。

 安眠スーツから既に出た彼は、月光の下、身も凍る様な漆黒の瞳で、純白の少年達を見据えた。

 「太公望さん…怪我とかしてません?大丈夫ですか?」

 柊が心配そうに呼び掛けるも、太公望は無言でシルフ達を睨み付けて、何の反応も示さなかった。

 「構うな!やれ、メトシェラ!」

 シルフの叫びに、メトシェラが力を発動させようとするも、再び、それが起こる事はなかった。

 メトシェラが突如、脇腹を押さえ、崩れる様に倒れ込んだからだ。

 「メトシェラ!?」

 シルフが狼狽した様子で、メトシェラを抱えると、手で押さえた脇腹から出血があり、それは徐々に、彼の純白のスーツを赤に染めていった。

 この突然の状況を瞬時に理解したのは、蒼とアリスだけだった。

 「どう思います?」

 「恐らく、安眠スーツに傷が付いたから、マジギレしたんじゃねぇの?」

 蒼はやれやれと言った様子で、頭を掻いた。

 「でも、お陰で助かりましたわ。彼がやる気になったのなら、この状況も打破出来そうですわね」

 蒼は辺りを見回し、いつの間にか移動した太公望を探した。 その時の太公望は、何百年か振りに、本気で戦闘態勢に入っていた。

 メトシェラの脇を、落ちていた瓦礫で差した後、一度間合いを取って様子を伺い。

 次に、シルフがメトシェラに触れたのを確認すると、彼等の背後に移動をした。

 空気の流れで物体の移動を読めるシルフだが、気付いた時には遅かった。太公望は、シルフの肩に手を添えると、反撃の暇も与えず、2人を何処かに飛ばしてしまった。

 「そ…そんな……いや……」

 残されたノアは、その人形の様な整った顔を、恐怖に染めて、怯えながら後ずさった。

 だが、そんな事などお構いなしに、太公望は標的をノアに移して、彼女へと向き直った。

 「来ないで!!」

 叫びながら、ノアが指を鳴らすと、時が止まり、辺りは静寂に包まれた。だが、1人を除いて…。

 「恐怖のあまり忘れましたの?ペラペラと良く喋る、小娘。貴女が教えてくれたのよ?」

 アリスが、悪戯っぽい笑顔に、その深緑の瞳を妖しく輝かせて、指を鳴らした。

 止まった時は動き出し、世界は元通りに回りだす。一陣の風が、草木を揺らす音が聞こえた。

 そして、太公望はノアとの間合いを一息の間に縮めると、彼女の肩を軽く掴んだ。

 「お主に運があれば、死にはすまい。まず、無理じゃろうがな…」

 苦悶の表情を残し、皆の目の前から、ノアは姿を消した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ