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  作者: 柴原 椿
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第10話:竜と色

 この国の最高権力者たる蒼。その秘書を勤める事となった俺、柊は今、タクシーにて東宝院邸へと向かっていた。

 わざとじゃないとは言っても、時雨の胸を揉んでしまい、彼女の逆鱗に触れた俺は、東宝院の迎えの車に、乗せてもらえなかった…

 「お客さん。顔がニヤついてますよ。なんか良い事あったの?」

 気さくなタクシーの運転手が、声を掛けてきたが、俺は適当に相槌を打って返した。

 まぁ、良い事っちゃ、良い事だったな。

 あの後、俺達を襲って来た男達は、一人を除いて、全員警察に捕まった。

 残された一人は、蒼の知人に預けられ、尋問を受けるそうだ。

 それよりも、今の俺にとって重要なのは…時雨が許してくれるか、どうかだ…

      *

 「柊君…」

 「はい…」

 何故か、東宝院邸に着くと、俺は時雨の父、司に玄関前で正座をさせられていた。

 司は車椅子に座って居るものの、その手には、乱れ波紋の美しい、大振りの日本刀を持っていて、ある意味、蒼以上に怖かった…

 「柊君、君のした事は、蒼様に聞きました。よくも、嫁入り前の娘の乳房を揉んでくれたなぁ…私だって、まだ揉んでないんだぞ!」

ツッコミてぇぇ!なんでやねん!って言ってやりてぇ!でも、言ったら殺されそうだ…

 「今回は、初犯と言う事もあって、大目に見てやろう。しかし、次に娘に手を出したら、もう朝日は拝めないと、思いなさい…」

 月明かりに照らされた日本刀が、妖艶な輝きを放つ。

 俺は、土下座をして、謝る事によって、何とか、その日は事なきを得た。

 しかし、次の日から、地獄の様な日々が待っていた。

 国が混乱してる今、蒼にも、膨大な国務が回ってきて、俺達3人は、手分けして、それらをやる事になった。

 蒼の地下の部屋に、机が2つ追加され、コの字に並べて、俺と時雨は、向かい合って、仕事をしたが…

 時雨は、俺の事を、とことん無視した。

 話しかけても、無視するのが当たり前。おまけに、休憩の時に、俺にだけ、珈琲を淹れてくれなかったりと、もう散々…

 お陰様で、俺は毎日、憂鬱な日々を送っていた。

 そして、蒼の記者会見から、一週間以上が過ぎた、ある日。蒼が、俺に仕事を依頼してきた。

 「あのよ。会って来てほしい奴が居んだよ」

 「……誰が?」

 「誰がって、テメェしか居ねぇだろ!ボケ!」

 そう言えば、今日は時雨は、仕事で外に出てたんだ。

 「この間の記者会見で、結局21人も、辞めたから、国はてんやわんや。お陰で、俺等もてんやわんやだっつぅのに、最近のテメェは、やる気無さすぎだろ!」

 「……すいません」

 でも、3人しか居ない仕事仲間の中で、その内の1人に嫌われるって、結構キツいんだけど…やる気も無くすわ。

 「はぁ…致し方ねぇなぁ。俺が、何とか時雨に言い聞かせっからよ。んで、ちゃんと仲直りさせてやるから、お前はこっちの仕事やっとけ」

 マジで!?俺の、暗く、淀んだ心に、小さな光が見えた。

 「分かったら、行け。もう来てる筈だ」

 「はぁい。行ってきます」

 俺は、ルンルン気分で部屋を後にした。

      *

 国会前に行くと、ハマーが停まっているのが見えた。間近で見ると、本当にデカい車だ。

 「柊様でしょうか?」

 運転席から、女性が下りてきて、俺に声をかけた。

 女性は、ハマーには不釣り合い過ぎる、メイド服に眼鏡という出で立ちで、深々と御辞儀をした。

 「初めまして、私はカラーと申します。どうぞ、お乗り下さいませ」

 俺はカラーに促され、ハマーの後部座席に乗った。

 「あの、メイドさんですか?」

 カラーは、シートベルトを絞め、振り向いて、微笑んだ。

 「いいえ、違います。でも、今はメイドです」

 「どういう意味です?」

 「私の仕事は、主に潜入捜査です。今は、とある企業の社長宅に、出入りしていますので、この方が、都合が良いんです」

 「それって、探偵みたいなもんですか?」

 カラーは、首を横に振った。

 「正確には、企業の粗探しです。私は、変装が特技で、どんな職業にもなれるのが、自慢です。故に、私の名は、カラーなのです。何色でもないけど、何色にもなれる」

 話が終わり、ハマーが走り出した。

 「そうだ、柊様。これを着けて下さい」

 そう言うと、カラーはアイマスクを渡してきた。

 「私の主は、秘密主義がモットーでして…失礼ですが、到着するまで、外さないで下さい」

 言われた通りに、アイマスクを着け、その後は二人とも、終始無言だった。

 どれだけ時間が経っただろう…

 恐らく小一時間は走り、やがて車は停まった。カラーが、エンジンを切り、ハマーの重低音が止む。

 「柊様。そのまま少し、お待ちになって下さい」

 カラーが、車を降りたのが音で伝わる。

 数刻の後、俺の横のドアが開かれ、誰かが乗ってきた。

 「どうぞ、アイマスクを外して良いッスよ」

 それは、まだ、あどけなさが残る、男の声だった。

 俺は、アイマスクを外し、声の主を見た。

 俺の横に居たのは、十代後半位の、童顔の少年だった。仕立ての良い、黒いダブルのスーツを着て、同じく黒のネクタイを絞め、腰までかかりそうな、長い黒髪は三編みにしてまとめていた。

 「ど〜も、初めましてッスね。蒼の従者さん」

 「えっと…君は?」

 「おっと、失礼。僕はカラーの雇主でもあります、名前は、飛場ひば 竜王りゅうおうって言います。宜しくでっス」

 竜王は、にこやかに挨拶をして、俺と握手をしてきた。

 「あの、竜王って…本名ですか?」

 なんか今日の俺、質問してばっかりだな。

 俺の問いに、竜王は腕を組むと、力強く、首を縦に振った。

 「僕ん家の嫡男には、代々、竜王っつぅ名前が受け継がれてます。だから、親父も、爺ちゃんも、竜王ですよって。まぁ、それじゃ区別出来ないから、個々にもう一つ名前がありますけどね。因みに、僕のフルネームは、飛場 天源てんげん 竜王ってんでスわ」

 頼んでもないのに、ベラベラとよく喋る奴だな…俺が、竜王に抱いた、最初の印象は、それだった。

 「君さ、秘密主義がモットーなんでしょ?」

 「そそそ。でも、貴方になら、言っても大丈夫っスよ。気付かなかったんスか?蒼の旦那に電話した、3日前から、貴方の事、見張ってたの」

 俺は目を丸くして、竜王をまじまじと見た。

 「旦那は忙しいから、代わりに柊をよこすって言ったっス。でも、僕は仕事柄、秘密が多いんで、誰にでも会える訳じゃないっス。貴方は、この3日間で、安全なのが分かったんで、直接会う事にしましたよって」

 「安全じゃなかったら、どうしたんだ?」

 竜王は、笑みを絶やさずに、俺の目を見て言った。

 「もし、そうなら、誰かに使いを頼みましたね。それと、貴方…柊さん、と呼ばせて頂きますが、柊さんも油断してはなりませんよ。僕の事は、旦那以外には、決して話しちゃ駄目っス。もし、話したら…次に会う時は、御葬式ってね」

 竜王の笑顔とは、裏腹に、俺のテンションは徐々に下がって行った…なんでか、最近の俺は、死刑宣告されてばっかだ…

 「では、柊さん。世間話は、御開きにして、ビジネスの話をしましょう」

 竜王の目が、冷たい光を放ち、彼は静かに、語り始めた。


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