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SNOW POINT  作者: やマシン?
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雹装線第三十二区 その弐

 思ったほどに冷たい冷気が流れてきたので身を縮こませた。

 アズキが荷物を下ろしているのを、胡坐をかきながら遠目に見ていたら、目の前に湯気を放つコップが差し出された。……誰かと思い、その先を見てみると、何という事はない。これまた知り合いがお疲れ様。と言いながら差し出していたにすぎない。

 その知り合いの名前は、ミイさんと言って、この三十二地区における預かり人だ。各地区を行き来する運び屋にとって、受り人というのは最も顔を合わせる存在である。専門の業者である他の人とは違って、私たちは個人でしている小さな会社。……会社と言っても、発注。財政管理。そんな事は全部アズキが行っている。私はその付き添いである。

 一応。私は、彼の代わりに銃をとっている。けど、それは。銃が得意でない彼の代わりに獣と戦うためで。それぐらいしか能がないだけで。私はただいるだけにならないようにするため。

 だから、私にとって狙撃というのは証明だ。




 「ご苦労様。荷物。確かに受領したわ。………ちょっと余計なものまで持ってきたのは感心しないけど。……それ以外は及第点ね。」




 話は逸れたけど、預かり人という職はただ荷物を預かる人だけではなくて、お客様であり、仕事の仲間であり、嫌われないようにしなければならない人。……という事だ。仕事というモノはそういうモノで、単に座席にいるわけにもいかない。アズキはその巨体のせいで、書類を書くにも出来るわけがない。だから、そういう人とつながる仕事は私の仕事の一つになった。

 まあ、それでも、文句を言いたいほどに嫌いな預かり人はいるし、苦手な人はいる。様々な預かり人がいる。……その例に、ミイさんは含まれない。だから、私にとっては、お客様。という認識でいられなくて。どちらかというと、知りあいのお姉さんという認識の彼女は、いつものように作業服を身に着けていた。




 「……ありがと。」

 「中型クラスの装甲なんて初めて見たわ。装衣士の連中が騒いでいたぐらい。……一人でやったの?……でも、貴方にしては雑なように思えるけど?……貴方がやったとしたらもう少し綺麗にやっているわね。」


 


 ありがたくそれを受け取り、私は顔を少し上げた。

 予想外のお荷物は、運び入れた彼女が驚くほどに珍しいモノであったらしい。それはそうだ。私が言うシャーベット級。ここでは中型と言われている化け物は、体長二十メートル超える化け物で、たった一人で行動してる私たちでは手が出せない災害だ。一個中隊レベルのハニービーでさえ、負ける可能性があるくらいには。その装甲は暑く、そして何より強い。………災害ともよばれるヤバい奴。

 比較的温暖なこの地域にいるはずのない災害。………珍しい。と言われても仕方のない。

 余計なモノ、と付け加えたのはそれがここらへんには住んでいないはずのモノだからだろう。それが、もしここにいたものだと知れたら、大変なことになる。………まあ、だけど、わたしはそんなやつらがいっぱいいるところも商売にしている。それを知っている彼らとしては、それが遠くから運ばれた珍しい部品。………そうなる。

 簡単な話、需要と供給の話だ。

 需要がない中型の装甲は、この町では高く売れる。




 

 「…ハイエナをしただけだよ。」




 だから私は、事実を述べる。

 手を出さないのだから、戦う訳もない。戦うわけでもないから、それは戦果にはならない。それに、私はそんなところに巻き込もうとしない。そう話すと、彼女はたばこを取り出し、火をつける。未成年だと私が答えると、こんなところでしかタバコを拭けないと彼女は笑った。火器があるこの場所では火をつけるのは禁止じゃあなかったのか?………って。




 「…そう見たいね。…………誰?」




 それを言える勇気もないし、資格もない私は言葉を紡ぐ。

 彼女は、少し寂しそうに質問をした。




 「……大尉。」

 「……そう。………それでさっき。」




 目を見る事が出来ない。

 だから、忙しそうにせわしなう動く人を見ることにした。荷物やら、何かの部品やらをせわしく動く人を見続け、それに倣うように動くヒューマニアを見る。




 「………ん。分かった。………辛い思いをさせてごめんなさいね。」

 「…別に、ミイさんの責任じゃあない。」

 「……私の責任よ。……勝手に喧嘩をしたのは、ワタシ。」




 生きるために、誰かの残したものを奪うのは悪い事だ。

 シャーベット級を倒したのは私の戦果じゃあない。それを成し遂げたのは、名前を知らない、知りあいに似た誰かだ。だから、私には権利がない。……だけど、生きるためにそれをしている。それを許してくれた人はもういない。………多分。



 

 「………これ。大尉の。」




 そういって、ドックタグを彼女に渡した。

 私にとって、大尉は知り合いの一人にすぎないけれど、彼女にとってはそうではない。ただの知り合いよりも、深く知っている人の方が持っていて正解だ。渡されたそれを握りしめた彼女は、……その手を少し開いて。確認をして。長いため息を吐いた。

 夫の名前ね。そう吐いて。

 私は血に彩られた光景を思い出す。それに、古くなった思い出でが浮かんで、もういないのだという実感がわいて、それを消そうと、暖かいココアを飲み込んだ。

 甘味よりも苦みが襲う。頭にこびりつきそうになるので、私は寒いと言って、身を縮こませる。




 「あなたでよかった。……本当に。」

 「私は、ハイエナをしただけだ。」

 「…でも、届けてくれた。……ありがとう。それで十分なの。」




 ………ワタシを、許してくれるんだろうか?




 「ねえ、覚えてる?あなたが来たのは今から調でちょうど三年前になるわ?」


 


 タブレット端末を見る。日は確かに、記憶にあった日。彼女と出会ったのは、………………確か今日のはずだ。いろんなところに出向いて、今が何時だかさえ忘れていたけれど。タブレットに表示された日時は確かに三年前の今頃。ブドウ色の機体に出会ったのも、ちょうど三年前になる。







 私はその時、ただのお荷物だった。








 

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