学園の記憶
俺たちは、同じ年齢だったから、同じ年に学園に入学した。
学園は、学力別でクラスが分けられていて、良い方から順にAクラス、Bクラス、Cクラスとなる。
大抵の上位貴族は幼少期より、家庭で学ばせている為、Aクラスには王族やそれに連なる家の者、侯爵家や伯爵家の子供が集まる様になっている。
だから、学園に入れば、また3人で過ごせるのだろうと、漠然と思っていた。
・・・俺はユリアに惹かれていたが、一方で、リチャードの事も同じくらい気に入っており、あの「退屈なお茶会」を思いのほか、楽しみにしていた。3人で過ごす、あの不思議な時間が、好きだったのだ。
俺は、あの時間だけは、満たされていたから。
・・・リチャードは、変わっていると言うより、不思議な男の子だ。子供っぽいのに大人っぽい。ただ微睡でいるだけなのに、俺たちを見守っている様で・・・一緒にいると、なぜか安心感があった。
しかし、学園が始まってみると、リチャードはCクラス、俺とユリアはAクラスだった。
「リチャード!どう言う事だ?」
俺はクラス分けを見た足で、リチャードを探し、詰め寄った。
「やぁ、エリオス。君に会えなくて、退屈だったよ。これからは学園で毎日会えるね。」
「・・・そんな事より、なぜ、リチャードはCクラスなんだ?」
「?・・・寝てばかりいたんだ、当たり前だろ?」
「しかし、ご両親やユリアは?・・・君たちは将来、結婚するんだろ?さすがにCクラスはまずいのでは?」
俺がそう言うと、リチャードは嬉しそうに目を細める。
「エリオス、君って本当に親切だね。僕の為に苦言を呈してくれるなんて、本当にありがとう。僕は、君が大好きだよ。
・・・両親はもう良いんだ。僕を諦めてるよ。それに、ユリアは君と結婚するんだろ?何にも問題ないよ。」
「リチャード・・・そんな事は!」
「もう、エリオス、そーゆーの、疲れちゃうから、良いよ。ね、見て?僕たち同じ寮だよ?・・・ユリアは離れちゃったけどさ・・・夕飯一緒に食べられるね、エリオス。」
リチャードはそう言って笑うと、自分のクラスに向かってしまった。
俺は、リチャードの背中を見つめ続けた。
◇◇◇
学年が進むに連れ、ますます俺とユリアは親密になって行った。
そして、リチャードとは、あまり会えなくなった。
リチャードは、遅刻気味に学園へ行き、さっさと帰るから、生徒会の役員を始めた俺やユリアとは、すれ違う事が多くなったのだ。
そんなリチャードだが、彼は決して孤独ではなかった。
色々な女性と浮名を流していたし、たまに見かけると、常に友人に囲まれていた。しかしなから、その友人は、あまり素行が良いとは言えなかった。
俺は、それが嫌だった。
「リチャード!!!」
「やあ、エリオス。お久しぶりだね。」
俺は、久しぶりに寮のサロンのソファーで微睡でいるリチャードを見つけ、詰め寄った。
「なぁ、リチャード、最近、君の良くない噂を聞くんだが。君は何がしたいんだ?」
「エリオス、また苦言を呈してくれるの?ありがとう。僕は君が大好きだよ。・・・悪い噂は、仕方ないよ。僕が女性に誠実じゃないのは本当だし、あまり素行の良くない人と付き合っているも本当だからね。別に彼らは友人じゃないよ。僕が侯爵家の者だから纏わりついてくるんだ。・・・もしかしたら、僕を好きなのかもね。僕って、容姿がいいらしいから。」
「なんだよ、それ・・・。」
「だから、男には興味ないって分からせようと、女の子と遊んでたら、こんな噂になっちゃった。・・・難しいね。・・・でもね、大切な女の子のユリアは君にあげたよ?だからもう、僕には誠意を尽くす人べき女性はいないし、どーでも良いんだ。」
リチャードは穏やかな笑顔のまま、俺にそう言った。
「リチャード・・・君は・・・。・・・ユリアを俺が君から奪ったからなのか?」
「?違うよ?僕、ユリアは要らない。ただ大切なだけ。だから大切な君にあげた。それだけだよ。」
「では、何故?」
「何でだろうね。・・・でも、君のせいじゃない。」
リチャードはそう言うと、立ち上がり部屋へ戻ろうとした。
俺はリチャードを離したくなくて、思わず手を掴んだ。
「痛いよ。エリオス。」
「リチャード、行くな。」
リチャードは、困った様に笑う。
「エリオスは、寂しいの?・・・僕の友達は、エリオスとユリアだけだよ。大切な男の子と女の子。・・・小さな時から見てきたんだ。ずっと、ずっと大好きだよ。」
「俺は・・・。」
俺は何も言えずに俯く。
リチャードは、俺が掴んだ手に優しくもう一方の手を重ねた。
「エリオス。ね、離して。」
リチャードは、優しく諭す様に言うが、俺は更に手に力を入れて握る。その細く美しい手を。
「リチャード、行かないでくれ。」
「僕は、どこへもいけないよ?エリオス。」
「嘘だ・・・。なら何であんな奴らといる?なんであんな女といる?・・・何故、俺とユリアと居てくれない?」
「・・・ねぇ、エリオス。君たちは大人になるんだよ。いつまでも3人じゃ居られない。君たちは恋人なんだ。僕がいるのは不自然なんだよ。」
リチャードはそう言って笑う。
「嫌だ・・・。」
まるで俺は駄々っ子だ。だけどリチャードを離したくなかった。
「ね、エリオス。どうしたの?君らしくないよ?」
俺は、リチャードより頭ひとつでかくて、細身のリチャードより鍛えて横幅もあって・・・だけど、その大きな体を丸め、リチャードの手を抱きしめて、泣いた。
自分でも、涙の理由は分からなかった。




