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異世界の三人男  作者: 谷中英男
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僕らがいる世界を紹介したら……

「みなさん、こんにちは~。今日も異世界の窓からの時間がやってまいりました。この番組はですね、異世界を旅する地球の人々に密着して、知られざる異世界の生活をお茶の間の皆様にお送りするものです。司会は今回皆さんに紹介する異世界アドミラルを旅する一人でもある、わたくし一ノ瀬が務めさせていただきます。よろしくお願いします」


「はい、ということでですね、さっそく旅の仲間を紹介していきたいと思いまーす。

まず一人目はこの人。助手席に座って、ナビゲーターという大切な職務を放棄した川合君です。普段はですね、壊れたれラジオみたいに騒ぎ立てるか、私の話にツッコミを入れるひょうきんでおチャラけた人です。でも、根は真面目で一番の常識人だと思われます。大口を開けて寝ていますけどね」


「それではどんどん行きましょう。二人目は外の風景を眺めているふりをしながら寝ている松田君。彼は後部座席で荷物の管理をして、飲み物や食べ物を運転手に渡したりなんてことをしています。彼は見た目が一番真面目そうに見えますが、たまに突拍子のないことを行ったりする変わり者です。でも基本的に冷静で頼りになるやつです。川合君同様に職務を放棄して寝ていますが……」


「そして、忘れてはいけないのが僕らのガイドであるアドミです。この世界の出身である彼のおかげで僕らはここまで生き残れてきたと言っても過言ではありません。説明不足が玉に瑕ですが……。それと、よく寝ています。赤ん坊でもこんなに寝ないんじゃないかというくらい寝ています。でも、彼のおかげで異世界生活が快適に遅れているというのは言うまでもありません。ほとんど寝てますが」


「それでは最後にですね、わたくし一ノ瀬の紹介に入りたいと思います。わたくしは見ての通り運転という大切な仕事を受け持っております。わたくしの高度なドライビングテクニックのおかげでこの旅は安全に成り立っていると言っても過言ではありません、もちろん高度なドライビングテクニックだけではなく、冷戦沈着で賢明な判断を素早く下す決断力に優れ、このグループのリーダー的な存在と言っていいでしょう。わたくしがいなければ、この旅は即終了していました!」


「メンバー紹介も終わったところでですね、アドミラルがどういう世界なのかをご紹介していきたいと思います。そうですねー、まずこの世界に住む人々のことについてにしますか。えー、人々と言いましたが、僕らのような人間はこの世界にはいません。アドミ曰く一番似ている種族は人間の三倍以上の大きさだそうです。基本的には地球上で見る動物を足して二で割ったような外見だったり、全身毛むくじゃらで生き物なのか判然としない種族ばかりです。ちなみに基本的には言葉は通じません。川合と松田がアドミから教わってはいますが、収得まではまだまだ時間がかかりそうです。それでも、時たまテレパシーを使う種族に出会い、コミュニケーションを交わすことがあります。でも、基本的にはそういう都合のいい種族は魔物です。僕らのことを食べようとします。わたくしも、一度食べられかけました。あれ以来トラウマです」


「そりゃトラウマになるよな」


 川合がぼそりと呟いた。


「起きてたの?」


 僕は恥ずかしさを無理矢理押し込めて冷静に訊ねた。


「うん」


 川合はつまらなそうに外を見ている。冷や汗が止まらない。


「いつから?」


「みなさん、こんにちは~ってところから」


 川合の声はなぜか震えていた。僕は何事かと窓に映る川合の顔を凝視すると、にやついた顔が見え

る。この野郎、外を見てたのは笑いを隠すためだったんだ!


「最初からじゃん! 言えよ!」


 なんてことだ。僕の醜態をすべて見られていたわけだ。穴があったら入りたい……。


「すげー楽しそうだったからさ。言い出せなかった」


 もう隠すつもりはないらしい、僕の方をニヤニヤしながら見ている。


「恥ずかしい」


 その一言しか出てこない。こんなのってないよ。


「まぁあ、俺だけだし気にすんな」


 珍しく優しさを見せた川合の言葉でなんとか心の平穏を取り戻しかけたところで、松田が申し訳なさそうに言った。


「すまん、俺も起きてた」


「お前もか!」


 川合はゲラゲラと腹を抱えて笑っている。僕もその立場になりたかった……。


「いや、外を見てるのになんか始めるからさ、言いだすのも面倒だから聞いてた。いい暇つぶしになったよ。まだ続ける?」


 またしても珍しく優しさを見せて松田が僕を慰める。松田なりの優しさだから、まったく慰めになっていないけど。ただ煽っているようにしか感じない。


「やめて! もう忘れて!」


 僕は一心不乱に叫んだ。これ以上辱めないでくれ!


「そりゃ無理だよ。けっこう上手かったよ。全部アドリブでしょ? すげーな。才能ある。なあ、川合?」


 松田のずれた優しさは止まらない。その光景を川合は相変わらず爆笑しながらも、悪乗りを始める。


「そうだな。才能あると思うよ。その道で食っていけそう」


「やめろ! そうやって僕をからかうな!」


 生き地獄だ。こいつら鬼畜すぎる!


「からかってないよ。あんなに楽しそうにリポートできる人いないよ」


「そうだよ、俺もアドミラルに行きたいってなったよ。もういるけど」


 川合と松田はそうやって僕をからかい続ける。松田は本心からそう言ってるのかもしれないけど。どっちにしてもたちが悪い。アドミラルに来て、いや、今までで一番恥ずかしいかもしれない。


「もうヤダ。せめてもの救いはアドミが起きていないことだよ」


 しばらくして、二人の攻撃が下火になってきたところで、僕は言った。いや、言ったというより、僕の心の声が零れたと言った方がいいかもしれない。それくらい無意識だった。


「私も起きてるよ」


 僕の言葉に応えるようにアドミが不機嫌そうに僕を見つめる。


「なんでこういう時に限って起きてるの!」


 川合と松田が涙を流しながら笑っている。


「説明不足で、いつも寝てて悪かったね」


 不貞腐れたようにアドミは言う。

 これはどうしようもできない。でも、どうにかしないとこのままじゃまずい。


「違うよ! 冗談じゃん! 本気にしないで!」


「全然気にしてないよ。大丈夫」


 すごい気にしてる! ヤバい。

 僕の焦りをよそに二人は笑い続けている。うるさいやつらだ。状況を考えて少しは静かに出来ないのか。


「怒ってるじゃないですか!」


「そんなことないよ」


 アドミの怒りは収まりそうもない。下手に大人だからよけい面倒くさい。

 僕はどうにかない頭を絞って、苦し紛れの提案をすることにした。ちなみに、川合と松田は僕の絶体絶命のピンチを馬鹿笑いしながら楽しんでいる。


「お願いだよ、許して。なんでもするから」


「じゃあ夕食のデザート譲って」


 アドミは即答した。助かった。アドミに見捨てられたらと思うと……。


「お安い御用だ!」


「じゃあ許すよ。後、次回からああいうのをやるならもっと真実を伝えるべきだよ。私がいかに役に立っているかとか――」


「もうやらないから! 忘れて!」


 アドミラルに来てから、僕の黒歴史がかつてないスピードで量産されている気がする。


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