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異世界の三人男  作者: 谷中英男
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旅の目的

「そう言えばさ、なんで俺たちはこの世界にやってくることになったの?」


 川合が唐突に口を開いた。確かに僕も疑問だった。この世界に来た理由なんて一切わからずにただ運転している。


「そんなことも知らなかったのかい?」


 今さらなにを言うのだとでも言うような表情だ。


「聞いたけど、アドミが教えてくれなかったんだよ!?」


 でかい声で抗議する川合を面倒くさそうに見つめるアドミ。今では僕らはアドミの表情を見分けられるようになっていた。この小さな毛のないコアラは思いのほか表情豊かだ。


「君たちに魔王を倒してもらうためだよ」


 ちょっと買い物でもしてきてよとでもいうような調子だ。


「え?」


 僕の頭じゃ理解が追い付かない。基本的に反応の薄い松田でさえ、驚愕のあまり目を丸くしていた。川合も同じ、ただ目を見開き言葉もない。


「だから、魔王を倒すためだよ」


 さっきと同じ調子で、同じ言葉を繰り返すアドミ。このポンコツガイドは本当に要領を得ない。


「マジで言ってんの? なんにもレベルアップしてる気がしないんだけど」


 僕はまごうことなき事実を教えてやった。僕らはこの世界に来てから、だらだら適当なことをしゃべってるばかりだ、今みたいに。


「確かに」


 いつもの冷静さを取り戻した松田が僕の言葉に同意する。


「俺たちなんも倒してない」


 川合も同意した。


「あの青いの退治したじゃん」


 思いついたように松田が言った。余計なことばかり思いつくやつだ。もう勘弁してくれ。こうやって僕の過去を掘り起こすんだ。


「追っ払っただけだから関係なくね?」


 川合がニヤニヤと笑って僕を見る。こいつら本当に性格悪い。言い返したいところだったけど、僕はなにも言わなかった。なにを言ってもあの忌まわしい記憶は消えないからね。


「確かに君たちはなんの経験も積んでないけど、大丈夫だよ。僕の勘が言ってる」


 なんて無責任なことを言うんだこのガイドは。魔王を倒させようとするやつの言うことじゃない。


「はい出ましたー。何の役にも立たない勘。勘のせいで一ノ瀬はどれだけえらい目にあったか」


 川合はここぞとばかりにやっぱり僕の痛いところを攻撃してくる。


「もうその話はやめろって言ったろ! どれだけ辱めるつもりだよ!」


 僕は我慢できずに叫んだ。こんなのひどすぎる。あんまりだ……。僕の過去をここまで弄繰り回すなんて……。


「すまんな。川合も悪気があるわけじゃないんだ」


 松田が僕の肩に手を置いて、慰めようとする。なんの慰めにもならないけど。なんだったら、始めたのは松田だ。


「やめろ! 謝るな! その話をしなければいいんだ!」


「ほらね、君たち三人の連携は尋常じゃないほど高まっている。こういうことだよ」


 アドミが騒ぎ立てる僕らを誇らしげに見つめる。

 なんだか少し、自信が湧いてきた気がする。川合も松田も目の色が変わってる。僕と同じ気持ちらしい。


「それじゃあ、魔王を倒せる力があるってこと?」


 松田が僕らの気持ちを代弁すると、アドミは少し黙ってから口を開いた。


「なんとかなるよ!」


 勢いだけは素晴らしかった。一端の勇者ならその言葉を真に受けて魔王を打ち倒しに向かっただろう。でも、僕らはアドミと長いこといるし、アドミの本性も知ってる。だから、僕らは瞬時にアドミの心境を素早く察した。

 今のままじゃ魔王を倒せない。


「今更だけどさ、このなかで魔法使えそうなやつとかいないの? 魔法じゃなくてもいいんだけど」


 僕は念のため聞いてみた。ここまでのことを考えれば、答えはわかりきっているけれど。


「私にはそういうのはよくわからないけど、無理かな。君たちはここの世界の生まれじゃないから」


 やっぱりね。使えるならもうアドミが教えてくれているはず。でも、それを受け入れられない川合

が食い下がる。


「え? マジ? 異世界と言ったら魔法とか使えるもんじゃないの?」


「ほかの種族なら使えるけど、君たちは無理だね」


「一ミリも使えないの?」


 諦めきれないのか川合が念を押す。


「うん」


 お約束の純粋な瞳でアドミは頷く。


「終わった。どうやって魔王倒すんだよ」


 松田が絶望のあまり打ちひしがれて、ガラスに頭を打ち付けている。可哀そうに、ついに松田がおかしくなった……。いや、前からおかしいから、普通になったのか?

 アドミがそんな松田をなだめながら言う。


「君たちには立派な身体があるだろ?」


「立派って言ったって、アドミに比べればだろ。ここにきてから、おれたちより小さい奴なんてほとんどいないよ」


 僕は今まで出会った種族のことを思い浮べながら言った。ほとんどすべて僕らよりでかかった。仮に同じくらいでも勝てる気なんて一切しない。なんて言ったってここの世界の種族は筋骨隆々か、手足が何本もあるか、醜いか、臭いか、でかいか、飛んでるか、これら全部だ。一体どうすればいいんだ。僕らはひよこみたいにひ弱な存在だぞ!

 どうしたものかと考えていると「俺くらいだな」と松田が呟いた。どういうことか一瞬理解できなかったけど、すぐにわかった。松田自身の身長のことを言ってるんだ。確かにこの三人の中なら松田が一番小さい。


「卑屈にならないで! そんな変わらないから!」


 川合が必死に慰める。変わらないと言っても十センチ近く差があるが。僕はそんな二人を無視してアドミに改めて聞いた。


「どうすればいいの?」


「魔王のところまでまだまだあるから、それまでに思いつけばいいよ」


 あまりにも楽観的過ぎる……。


「軽くない?」


 川合と松田が半ばあきらめたようにアドミを見つめる。


「大丈夫だよ。信頼してるから」


 アドミはやっぱり僕らを純粋そうな瞳で僕らを見つめる。

 信頼しているというより、アドミがなにも考えていないだけなんじゃないかと思ったけど、僕らは何も言わなかった。


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