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我が剣は彼に捧ぐ  作者: ウッドラフツキー
第一章 帝国との決別
3/3

第三話

長らく投稿できませんでしたが、細々と続けていきたいと思います。

「ご苦労だった」


ここは騎士団の団長執務室、あの作戦に参加した隊員が全員集合している。


報告書の紙をめくりながら、目の前の男が穏やかな口調で俺達を労った。



年のころは四十を少し過ぎたあたり、薄い金色の髪を後ろに撫でつけた容貌はどこぞの国の王族と言っても通用するほど端正なもんだ。青い目と相まって、市井にカルト的な人気を誇る我が国の英雄、そして俺のボス(・・)でもある。


神聖ラディアス帝国 白銀騎士団 第三軍団団長『アルバート・ラウル』


階級は准将、男爵家の三男という出自でありながら、貴族優専職である将軍位まで上り詰めた英傑。数々の紛争で武勲を上げ、『帝国の守護神』と称さている。実際、戦術眼、戦略眼は他の将軍職の人間とは比べるべくもない。唯一の欠点は、欲が薄いことだ。出世欲や功名心なんかがあれば、もっと生きやすいだろうに。


人を見る目もある。俺に限らず、他にも有能そうなガキを拾っては各方面に排出している。輩出じゃねえよ。追い出されてるのが多いからな。近くに侍ってるのは俺くらいだ。なんでも危なっかしいと言う事だが・・・俺くれぇ安心して物を任せられる人間もいないだろうに。


「フォーレリア」


「っうっす」


おう、聞いてなかったわ。


また(・・)建築物の中で《武技》を使ったそうだね」


「いやぁ、あれは・・・建物を貫通するとは思わなんで」


「ペナルティとして減給三か月だ」


おぉぉ、俺の貴重な酒代がぁ・・・


項垂れている俺に構わずボスは死体蹴りをつづける。


「いくら隊長級魔術士の防膜とは云え、君の武技では貫通する可能性もあるんだ。気を付けなさい」


武技、ね。

この武技という奴は神聖ラディアス帝国の前身、ラディアス王国の時代の聖騎士団から生まれた概念だ。

身体強化の魔術とともに、近接戦闘に置いての構成魔術一般を《武技》としている。俺が放った『剣閃』もその一つ。

剣に魔力を溜め、それを剣筋に沿って放つことで直接対象物を両断せしめるなんてシンプルな技だ。ウォーターカッターの魔力版と思えばいい。


最近、第三軍団、もとい第三騎士団ウチの技術部で造ってもらった、俺専用の剣の最終チェックをしたかっただけなんだがなぁ。

まさか、古い年代の砦とはいえ、魔術に対しての対抗処理をしている、稼働いき()ている砦が切れるとは思わなんだ。


しっかし今までの剣だと魔力を流し過ぎると過熱して融解するか、魔術回路が焼き付いて刀身がぼそぼそになるかだったってのに、いきなり性能が向上し過ぎだぜ。


慣れれば細かい調整が出来そうなんだが、もうちょい時間が掛かりそうだ。

それでも全力で魔力を流すと焼き付きそうなんで3割くれ―の出力で収めるしかないか。


ボスは呆れた顔で溜息をついた後、仕切り直して俺たちの列の恥に居る人物、ガリウス・テイナーに視線を向けた。


「テイナー大尉、報告を」


「はっ」


ガリウスは俺の騎士団・・・()の隊長である。俺が副隊長なんで、直属の上司みたいなもんだ。

上司として扱うつもりは無いけど。俺より弱いし。



「0400時、作戦通りに砦へと突入、一班は砦上部より侵入、上方に居た見張りを0405時までに無力化いたしました。二班は地上より―――」


報告書との確認を取るための口頭報告に耳を傾けつつ、俺は今回の作戦について考えた。


今回の作戦、実は結構珍しい経緯で下りたモノだ。


そもそも、俺達は普通の軍とは指揮系統が違う『騎士団』だ。


神聖ラディアス帝国には3種類の武力組織がある。軍部と警務部、そして騎士団だ。

軍部は軍務省管轄の組織であり、その役割は多岐にわたる。国内の治安維持で警務部では手に余る案件から、国外の武力紛争まで、おおよそ戦いにおける通用手段として用いられる組織だ。

警務部はその名の通り、治安維持をメインに行う警官隊のようなものだ。管轄は内務省になる。一番人が多いが、一番武装が貧弱で軍部に嘗められている。なんですっげー仲が悪い。


そして我らが騎士団だが・・・

まず、騎士ってもんの説明が必要になるな。

騎士ってのは大抵の国で二種類ある。それは爵位としての騎士と、兵科としての騎士だ。

昔は同じ意味だったんだが、魔術が一般化してからは近接戦闘を主とする魔術士を総称して騎士としている。勿論、そうじゃない国もある。タルード王国とか、マリスブルグ帝国なんかもそうだな。


白銀の第一騎士団と第二騎士団は貴族の子弟が入るから普通に爵位としての騎士であり、昔ながらの騎士団だ。団員には魔術士じゃない奴らだって多くいる。

逆に卑しい出の俺たちゃ爵位なんざもらえる訳もねぇ。欲しくもねぇが。なので兵科としての騎士団になる。


ま、要するに第一と第二は弱いってことさ。

余談だが、俺たちゃ公式の場以外じゃ自分たちの事を魔術士と捉えてる。第一第二あいつらと一緒にされちゃたまらんし。


閑話休題ともあれ

俺達は扱いとしては特殊部隊、其れも純戦闘寄りの特殊部隊に分類されている。

普通特殊部隊といや特殊な作戦、強行偵察やら人質救出といったイレギュラーで塗り固めた作戦を遂行するための部隊だが、ウチらはどっちかってーと漫画やアニメの特殊部隊の様に、単騎駆けや強行前進といったゴリ押し部隊の方の『特殊』だ。


騎士団の種類として、攻撃の白銀、守護の紅炎、神速の黒槍、情報の天元の四種類があり、それぞれ管轄も違えば動かすための手順も違ったりする。




で、本題に戻るとして、だ。


俺達白銀の出動許可は『帝都中央議会』が出す。


議員一人二人の権限じゃ動かせないぜ。

騎士団おれたちを動かすには最終的に議会と議長たる王族両方の承認が必要になるからな。


だがそれを”まとも”に捉えると、一歩も動けねぇ木偶の坊になっちまう。ので、抜け道というか一般化しているんだが、騎士団・・・から(・・)出動の要請を出せば担当議員と議長の承認だけで動かすことが出来る。


流れとしては、地方貴族が『騎士団助けて!』っつったら帝都の法衣貴族が『なんぼ出す?』となって、『これで頼んます』と山吹色のお菓子を包むと『しゃーありまへんなー。騎士団さん、いっちょこれでどうでっか』と小さな包みが来て、議会に『らしいっす』と俺らが通すと、『心つけは受けたのでやっておやりなさい』と許可が下りる、そんな感じである。


これは地方貴族が蓄財しないためにも有効っちゃ有効なのよね。

ただ腐敗と利権の温床になっているんでなんぼでも人が居なくなります。


因みに、法衣貴族を通さないで騎士団に直接山吹色のお菓子を持ち込むと、大抵担当議員から承認が下りない。議長も仲立ちしないで無視したりする。

で、空気読めない地方貴族としてハブられたり虐められたりする。社交界やら政治ってモンは陰湿でかび臭ぇよな、ホント。


それでこの裏技みたいなやり方が、俺たちが出動する9割を占めるって訳だ。

つまりは賄賂ルートがスタンダードで、正規ルートが珍しいの。


だってそうだろう?

議会の承認を得る為には高位貴族から果ては王族に至るまでに根回しが必要なこった。

それより簡単な方法があるなら、皆それを選ぶだろうよ。


正規ルートは対外紛争などの大義名分が必要になる。しかし中々得られないものさ、名目なんて。


ましてや、名目も無いのに正規ルートで命令が下りてくるなんざ、普通はあり得ないわな?







「———以上になります」


「ああ、ありがとう」


お、終わったか。

少し思案顔のボスは俺たちを見回すと、手元にあった報告書の一覧をまとめて口を開いた。


「これにて口頭報告会を終了する。各員、待機業務くんれんに戻れ」


「「「了解ヤー!」」」


「あと、フォーレリアは残りなさい」


「・・・うーっす」


だよねー。

ガリウス(のうきん)が俺の傍を通るりながら「19:00、いつもんとこだ」と耳打ちしつつケツを触ろうとしたので、弾きつつ肩甲骨に裏拳を叩き込んでやった。ざまぁみろ。


俺とボス以外の全員が出ていくのを見届けると、ボスはこの部屋に仕掛けられている防音機能を立ち上げた。

グレイスのおっさんまで出ていったのには作為を感じるがね。


「一応聞くが、なぜ殺した?」


言うまでもなく敵のリーダー格のムルグ人傭兵のことだ。

ボスの口調は咎めるでもなく、むしろ確認を促すもの。


()報告・・した(・・)通り、ありゃタルムテスタの色が強く出過ぎだ。罠だろうな、と」


「ふむ」


戻ってきてすぐ、音声データでボスには報告は回した。俺の所感ってやつをだな。直属・・()部下・・を使ったんで情報漏れの心配はない。


今回の傭兵は捕虜にしてしまうと厄介ごとが飛び込んでくるタイプの罠だ。

捕まえたら、余計な敵が増える様な仕掛けが隠されてたりする。国内の商家やら木っ端の中小貴族とか、な。


のボスにゃ面倒になるかもしれなかった上に、必要な情報は習得済みだったんで処分したわけだ。




さて勝手知ったるボスの部屋、肩をほぐした俺は部屋に備え付けてある給湯設備に手を伸ばす。

ボスにはいつものコーヒーブラック、確認を取ると小さく頷いたので俺の分と合わせて入れた。

因みに俺はミルクタップにの砂糖そこそこである。


この身体になって甘いモンが不可欠になっちまったからな。



「・・・リア(・・)


「あん?」


思案するボスのまえにコーヒーを置きつつ、応接セットに陣取った俺はテーブルの上のお菓子に手を伸ばしながら答えた。


「裏取りは出来ているのか?」


「おう、さっき確認した。武器の出所はマリスんとこのペーパーカンパニーさ。こちらの出張所はもぬけの空、素早いねぇ」


「もうそこまで確認できていたのか」


「国境付近ならともかく、今回のゲンバは帝都の目と鼻ん先だ。流石に時間はかからんよ」


「流石だな」


伊達に10年情報部を育てちゃいねぇからな。




俺はこの男に拾われてから、なんも無ぇ自分に何ができるか常に考えてきた。

この男に自分は何を差し出せる?

何故そこまでするかって?

恩は確かにある。

でも一番は、俺自身が無能でいることに耐えられねぇからってのが大きいのさ。前世でもそうだった。


他者に評価されねぇ奴は無能だ。

結果が出せねぇ奴は無能だ。

マニュアル通りにしか出来ねぇ奴も、無能だ。


他者に信頼され、結果を出すために効率的なマニュアルを作っていく。それが事を成すってことだ。


俺はそう考えている。


じゃぁ毛も生え切らねぇ小娘が、よく知らねぇ世間で何ができる?何をすればいい?



まずは戦う術から始めた。幸い体のスペックは頗る付きだ。学習能力も高くしかもよく動く。

近代の政治経済も学んだ。あわよくば隙間から産業を立ててやろうと実地調査・・・・交渉・・もいくつかやった。


そうして学んでいった先に見つけたのが現在の戦闘技術であり、情報戦インフォメーションウォーだった。

この世界、魔法・魔術があるってのはいろんな面で便利だ。便利なんだが・・・

長所に成り得ぬ短所は無く、短所に成り得ぬ長所もない。その言葉通り、ありとあらゆることに応用が利く魔法・魔術はそれ其の物が『発想』という奴に枷を付ける。


要は魔術って技術にかまけて情報戦略そのものが未熟だったのさ。

本来情報ってのは『足』で得るもんだ。なまじ便利な魔術どうぐがあるもんでみんなそれに頼っちまう。


俺の前世、情報戦が熟達した世界と比べても仕方がねぇが、人への教育、情報の捉え方、そして諜報というものへのアプローチ。どれをとっても()


俺は”そこ”に自分の成す事を見出した。


結果として、主要各国の情報戦には常に先んじることが出来るようになった。自国の情勢にも長けた。

ただ、そのおかげで俺の体のスペックは破格でも頭ン中は凡人だってことが知れたね。だってその情報を生かすことが出来ねぇんだもの。


前世を知ってる分、それが『枷』にでもなってるか?いや、言い訳に過ぎねぇな。

出来ないものは仕方が無い、出来る人間に任せればいい。


故に俺とボスの関係は共闘に近い。人を育てる、人を育てることが出来る人間を育てる、そういったノウハウを俺が持ち、それを使う技術をボスが持つ。指揮系統はボスに一本化だぁ。だから、『ボス』。


口の悪さは生来よ。そこは性分やしが気にさんけ。





「・・・リア、君も掴んでいるかもしれんが。タルムテスタが動いている」


「あぁ、凡そのところは。出兵かどうかは分からん」


食料品の動きは見られない、が。人の動きが最近北方では活発だ。きな臭いとは感じている。


「これから農閑期、そして冬に入る。そうだな?」


「ん」


なんだ、お得意のUSITユーシットか?


「ラディアス北部、アーサス地方は今年、久しぶりの不作だった。凶作とまではいかない、しかし北峰からの寒気が収穫に影響を及ぼした」


ん?まさか。


「いや、例年よりは穀物価格は上がってたハズだ」


「不作の割には上昇率が穏やかなんだ、まるでタルムテスタが不作で無い様な、な」


「タルムが不作ってのはどこから?」


「8年前の流通記録だ。アーサスが北風による不作の年は、タルムテスタも同じく被害を受けている」


8年前が最新、ってことか・ボスならそれより以前も調べてるだろうからな。


「いきなり農業技術に革命が起きて北方の食料は確保できた、って」


「本気で思っているのか?」


「はっ、真逆まさか


そうなると食糧を何処からか調達せにゃならん。どこから?


マリスブルグは無いぞ。あっちの目は確かだ」


「となると、西か」


武器は東から出て、人は北から来てる。そこに西から食糧が流れていく。


マジで世界大戦の足音じゃない?コレ。


「ボスの目には何が見えてる?」


「・・・まだ、分からない。分からないが・・・」


再度思案に沈むボスを見て、俺は懸念していることを思い出した。


「なぁボス」


「・・うん?」


「この国の事を心配するのもわかるがよ、アンタはアンタ自身の心配をすべきだろう?」


「それについては考慮しなくていいと言ったはずだ」


「・・・そうかい」


アンタに腹案があるって言うなら伝えてほしいんだがね。

『報・連・相』は組織運営の基本だろう?



「まぁ、いいさ。俺はアンタを死なせないように頑張るよ」


「・・・ああ、ありがとう」


さて、打ち上げにでも参加してきますかね。









































彼女が退出するのを見届け、空になったコーヒーカップへと目を落とした。


「・・・すまない」


本来、彼女には伝えておくべきだろう。伝えても問題は無い程度には信用しているし、信頼もしている。

だがこれは言えない。『あの方』を守るためでもあり、現状の方が即していると判断した為だ。


それに彼女は私を献身の武人だと思っている様だが、私はそこまで出来た人間ではない。

現に今の状況に煩わしさを感じているし、そもそも自分の命をかける様な作戦を立てる気は無い。


プランとは成功するべくしてするものだ。

作戦の成否が運や相手にゆだねられるものは作戦とは言わない。



「情報が足りない」



フォーレリアや、私を慕う者たちを死なせないために、今の状況を正確に把握する必要がある。



「国内では限界だな」





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