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我が剣は彼に捧ぐ  作者: ウッドラフツキー
第一章 帝国との決別
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第二話(改定済)



「くぁあぁぁぁっ、ぐぅ」






「なんつう声出してるんですか、中尉」


背伸びをしてぱきぱきと関節を鳴らす俺にのたまう男。


ったく、俺が頑張って報告書書き終わったってのに、気の回らねぇやつだ。


書類仕事これぁ性に合わねぇなぁ、体が固くなっちまった」


「はぁ?中尉まだ30分位しか机に向かってないじゃないっすか」


「30分も、だクロ坊、書いてあげてるだけ感謝してほしいぜ」


「マジっすか・・・うわぁ、マジで戦績と戦術報告書少ししか書いてねぇ」


俺の傍から描いた報告書にぶちぶち言ってくるたぁふてぇ野郎だ。あとで覚えてろ。


旧国境砦は俺たちの駐屯地がある帝都近郊まで『機動輸送艇』を使っても6時間はかかる。往復12時間、事前準備にブリ、作戦行動時間に後始末から引き継ぎと、全部終わってみりゃ三日はマトモに休みが無かったんだ、ダレもするっちゅーねん。


しかも作戦終わった後なんかにゃ役職付き、隊長やら副隊長は戦術経過報告書と戦績結果報告書の二枚を出さにゃなんねぇ。あー、めんどくせぇ。

・・・俺ぁ一応副隊長だしな。しゃぁねぇ。


今回に限っては敵の退路封鎖と周囲警戒がメインだったから、報告書はこれで構わんのよ。

これが通常の作戦だと、オペレーションも回さにゃなんねぇからいろいろと増えるんだけどな。


「だからってこの短さは・・・」


「いいんだよ。詳細は隊長閣下ガリウスが纏めてくれるさ」


「うわぁ」


後々の騒がしさを想像したのか、不景気な面をさらすんじゃねぇよ。


「あ、中尉」


「ん?」


「自分、クロードっす」


「おう、知ってる」


クロード・ニコニス曹長、だったか。

だから何だよ。オメェはクロ坊で十分だろう?


俺のアルカイックスマイルに悩殺されたのか、「・・・もういいっす」なんて謙虚な態度で自分の机に帰っていくクロ坊だった。












俺の生国であるこの国は、『神聖ラディアス帝国』なんてごっつい名前をしている。


このアルメニス大陸で規模だけは一番デカい国だ。


他の大陸よりも肥沃で一番デカいアルメニス大陸は昔っから戦争が絶えんかった。その中でいろんな国が分離、集合して出来たのが神聖ラディアス帝国だ。




今から200年ほど昔も、そりゃま戦国時代よろしくの群雄割拠な時代だった。戦乱で疲弊した中小国家はこの国力を落とし、上級市民(豪農や商家など)すら従えるのに苦労したほどだ。反乱も数知れず、国の名前もトップも変わるなんて日常茶飯事な時代ってやつか。


そこで時の指導者たちは、『宗教』というものに目を付けた。




昔からアルメニス大陸中部ではクラリス教という多神教が信じられてきた。これは精霊信仰に近く、生活に根差した宗教だ。礼拝の義務もなく、戒律なんてもんも整備されてない比較的緩ーい宗教さ。


で、権力者たちはこれを利用しようとしたらしい。


彼らは宗教を中心として市民の反乱を抑え、政治は自分たちが握るための統治体制を模索した。

そして当時国教にクラリス教を制定していた国の中でも、一番大人しい国が盟主に選ばれたというわけだ。


それが今の帝国の元となる国、『神聖ラディアス王国』だった。



神聖ラディアス王国は王権神授を是とした国家教会型の国である。

元は教会を主とした政治体系をしていたが、やがて国が主体となる形へと変化した。そんな成り立ちと、クラリス教という宗教の特性から、国としての権勢はそれほど高くなかった。

領土は当時周辺でも一番だったって記録に残っちゃいるが、統治も大してしてねぇものを領土と言っていいかは疑問だな。それに教会衛士や聖騎士はたいして強くなかったみてぇだし。


故に組易し、と思われたんだろうな。



そうして権力者共の思惑を孕んだ『ラディアス―アルメニス共和国』が生まれた。その経緯はは記録に残っちゃいないが、たいして力もねぇ国が出来る事は限られてる。大体想像はつくな。


封建体制の基盤は宗教で補強し、実質的な権力は各国首長を議員とした議会が握る。よく考えられたもんだ。緩い宗教とは言え生活に根差したもの、影響力は小さくない。しかもこの時期に簡易的な戒律を制定したらしく、聖地の条項なんかも出てきたみたいだな。


時の権力者はうまく宗教を使い、のちに大国になるまでの強固な統治機構を作ったわけだが。




まぁ、宗教ってやつの力を読み違えたのさ。




共和制下の同盟国の市民、という後援者を得た神聖ラディアス王国は、その影響力を一気に増加させる。


簡単な流れだ。今まで地域密着型の宗教故の弊害で教会の重要性が低かったものが、信仰する宗教を国是とした国を主体とする共和体勢に移行したことで、神聖ラディアス王国自体が『聖地化』した。


その結果、商人が動き物流が生まれた。


経済が、神聖ラディアス王国を中心に回り始める。


この頃には産業革命に近い技術革新も進み、経済規模が爆発的に巨大化した。そしてそれに伴い魔法が魔術になり、魔導が生まれた。この魔導は科学技術と結びつき、魔導科学や魔導工学なんて分野も生まれ始めた。


商人が権力を持ち始める時代の始まりだ。幸い、その商人も信徒であり、敬虔でなくとも信徒である市民を相手にしている商人は国を裏切らなかった。


は。


同盟国の長たちが気付いた時にはもう遅かった。軍事力も経済も、すべては市民が回している。その市民が彼らにそっぽを向いて、主体となる神聖ラディアス王国に向いたらどうなるのか。



それは26年後に分かった。


神聖ラディアス帝国・・の誕生だ。



議会はその影響力を落とし、力を持った市民が宗教的指導者であるラディアス王国王家を支持する。

普通、市民がここまで影響力を持てばフランス革命宜しく権力者は血祭りに上げられそうなモンだが、彼らも馬鹿じゃぁ無かった。

政治を主導する議会の形態と地域に影響力を持つ貴族としての力を残すために、統治体制を共和制から帝政へと移行させたのさ。


いや、時代を変化を見る目はこの時代の政治家が一番神掛かってやがるぜ、ホント。


経済にも介入し、結果的に議会は神聖ラディアス帝国でも重要な立ち位置になっていくわけで。


そうして世代が二つも過ぎれば、巨大な帝政国家としてその存在感を示すようになる。


やがて宗教と経済を背景に、周辺国を次々と併呑していった。

元が地域密着型の宗教なもんで、相手にした国の市民が蜂起して吸収、なんてこともあったらしい。


それからは大きな国家的危機もなく、今の帝国にまで成長したというわけで。


ただ、クラリス教の信仰地域であるアルメニス中南部を版図にして以来、そのほかの地域には教化戦争はしかけていない。これは多神教という宗教形態上、割と他宗教に対して寛容なのが理由に上げられるな。


一神教ほど厳しさもないので帝国の首都である帝都グランテイラはそこまで宗教色が見られないのも特色か。宗教国家なのに。









「カロン中尉」


ウチのボスに口頭報告をする時間になったんで部隊長執務室に向かってると、後ろから声をかけられた。

呼称について緩いウチの部隊じゃ俺の事を『カロン中尉』なんて呼ぶ人間はそう多くない。


「うっす」


「・・・外ではやるなよ、それ」


「うっす」


溜息をつきながらも一緒になって執務室へ歩き始めたのはこの部隊の副官というか、人員管理官っつーオカンみたいな立場の《グレイス・ハールマン少佐》だ。

昔からウチのボスの補佐をしてるらしい。俺が引き取られた時もいたので、付き合いは長い。俺が尊敬する数少ない人間でもある。


「・・・カロン中尉、今回の任務、またD装備のみで行ったそうだな」


「まぁ、はい」


D装備ってのは近接装備のみ(刀剣類、ハンドガン、グレネード類)の事だ。割とこれで出てる。


「銃をいやうのは魔術士の悪い癖だ。せめてC(アサルトライフル、シールド装備)で行け」


「今回はウチの剣の最終調整の確認もあったんでDで行きました。次からはそうします」


「うむ」


単純に心配してくれてんのはうれしいけどなぁ、ライフルって意外と貫通しねぇし使えねぇんだよなぁ・・・

ま、現場に入ればそん時にゃ高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処すりゃいいモノね。


「・・・今回の作戦、どう見た」


「それ、外でする話じゃないっすけどねぇ」


俺は周りに気を配りつつ視線は前に向けて言葉を返す。

実際、外に漏れたら面倒な類の内容だ。このおっさんはその辺解かってて話せる分だけ話せって言ってるんだろうがよ。


「・・・最後に退路を確保に来た奴、ありゃタルムテスタの傭兵っすね」


「北の公国か、ならば依頼主は追えんな。しかしなぜそう思う」


アルメニス大陸北部にはでっけえ山脈がある。カナディア山脈っつーんだが、こいつのせいで麓まで冷気が吹き抜けて北方一帯は作物が育ちにくい。それがかつての戦乱の遠因にもなってる。


そんなカナディア山脈の麓にある国の一つが、タルムテスタ公国だ。

食料自給率が低く寒冷地でもあるので、生活環境としては過酷な地域になる。一応鉄鉱石や魔鉱石やらの鉱物資源にゃ恵まれてるので武器の生産などが盛んだ。技術レベルもうちの国よりは進んでる。


公国が国営で運営している企業の中に、傭兵会社もある。

タルムテスタ警備組合と連カナディア協商民間軍事会社《EPMCエプック》の二つだ。

前者は国内向けの純国営企業で、後者が国外、つか南方向けの外征組織ってとこだ。『民間』なんてついてるのはカナディア山脈に連なる加盟国が参加する名分のためだそうだ。つまり連カナディアEPMCエプックってやつは北方連合軍と言ってもいい訳だ。


「あいつ、物陰に隠れる時『ムルグ語』で悪態ついたんで」


「・・・そう言えばお前の部隊・・にも居たな、ムルグ人」


ムルグ語はタルムテスタ公国がまだできる前、北方狩猟民族が覇を唱えていた時期の言語だ。今でも一部地域じゃ方言として残ってたりする。

俺の部隊、クロ坊たちとは違う系統の、『俺が率いている』部隊に、北方の山岳民族出の奴がいる。寡黙な奴なんだが、ムルグスラングにやたら詳しいのがチャームポイントだ。


「しかし、ニコニス曹長よりも離れた位置にいたんだろう?よく気付いたな」


「まぁ、自分の能力だとあれくらいは離れた内には入んないんで」


「そうか」


探知系は得意でな、そこそこ(・・・・)()まで状況の把握ができるのさ。

あのとき奴さんが物陰に隠れようが、どのように魔力を用いてどのような体勢で何某をつぶやいた程度ならば、手に取るように知覚できる。

判断要素は言葉だけじゃないけどな。


この身体に感謝だねぇ。スペックが高過ぎるのは気になるが。


「・・・北方か」


おっさんのつぶやきが聞こえた。今はさぞ渋面を作ってるだろうよ。

俺も内心面倒さ。


連カナディアEPMCエプックは南方戦略の要だ。奴らは南征を諦めたわけじゃねぇ・・・

自給率が四割切るかもしれねぇ北方にとっちゃ穀倉地帯の獲得は建国以来の悲願のはずだ。


地域紛争の規模なら今でも時折発生する。だがここ最近はデカいのは起きてねぇ。ましてや戦争と呼べる規模の戦闘が起きたのはもう100年以上も昔の話だ。


原因がつかめねぇが、戦争の足音がするぜ。それも世界規模・・・・の、な。


ま、その辺考えんのはお偉いさんの仕事か。





話の内容を雑談に変え、近況のやり取りなんかをしつつ俺たちは執務室に向かうのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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