第一話(改定済)
設定が全く違うので、好まない方もいらっしゃるかもしれませんが、よろしければ一度ご覧ください。
人生無常、此れむべなるかな。
若かりし頃はだれもが思おう
現実とは異なる世界で思う様に羽ばたくさまを
おのこなら憧れよう
天下無双のもののふの在り様を
そうして齢を重ねて思うのだ
あぁ、普通のなんと素晴らしきことか、と。
「ちょっと中尉、アホ言ってないで手ぇ動かしてくださいよ」
「ふん、風情のわからんやつめ。つかアホたぁなんだゴルァ」
「いや鉄火場に風情を求めないでください。斬り合いの最中に詩を読む軍人はアホでいいんっすよ、っはぁ!」
翻る白刃は容易く肉を裂く。
簡単に見えるが、握っているのは肉厚の長剣に属するものだ。振るえば刃筋を通すのは容易じゃ無い。斬る剣でもないしな。
しかも薄いとは言え、耐刃アーマーを物ともせず振りきるたぁ・・・ヤルねぇ。
裂かれた肉は新鮮さを証明するかのように血を吐き出すと、重い音を立てて地面にしな垂れた。
だがよかったな、肉のマキワラはまだまだあるぞ。
「なんであんたがドヤ顔してるんすか」
「おい、上司だぞ、俺ぁ」
「はいはい、可愛らしい上司様、働いてくださいませんかねぇ」
「敬いがたんねぇな。あと可愛らしいは要らん」
輪廻転生、というものをご存知かな。
死した魂はやがて巡り、新たな命となる、という考えだ。
俺もそれは正しいと思う。抽象的なもんじゃなく、食物連鎖に近い形でいろんなものは巡ってる、と俺は思ってる。
だから巡り巡って再び人になるなんてぇことも在るだろうし、その時代、その世界じゃない可能性だって。きっとあるさ。例えば、魔法がある様な異世界とかな。
ただ、記憶が残って生まれ変わるなんざ、一片たりとも想像しなかったよ。
四十路も超えて、周りのダチ達ぁガキも成人して孫もいる奴もいた。
結婚もガキもこさえなかったが、彼女とまぁまぁ満ち足りた生活を送っていたさ。余生も当たり障りなく謳歌できるだろうと。
事故か事件か、まぁ今となっちゃどうだっていいわな。
俺が『今の俺』をはっきりと認識したのは思春期も終わりだった。
新しい人生は、孤児院で始まった。
薄汚れた施設、死んだような顔をした施設の職員、同じく大量に集められたクソガキと与えられる豚の餌モドキ。
そんな中で生活してると、他のガキのこともよく見えるようになる。
ガキはガキらしく元気が有り余ってるが、前世のガキと比べりゃ残忍さも、陰険さも頗る付きだ。
いじめっつーかリンチが在ろうと職員は見て見ぬふり。時折調子に乗りすぎて死ぬガキもいたが、概ね弱肉強食が施設の秩序だった。
俺の前世の記憶がうっすらと『今の俺』を侵食し始めたころ、俺は施設内で最も強くなっていた。
後から知ったが、俺のスペック自体が異常だったみたいだな。襲ってきた施設の職員を殴り殺せたのもそれのお陰だろうよ。
俺は前世、古流武術に手を染めていた。別に家がどうとかじゃねぇ、生まれの育ちが盛んな場所だったことと、大学んときのサークルがそれ系だったことでそっちの知己が多かったこと、とまぁそんな所か。
ただ、武術に手を染めちゃいたが俺は武術家にはなれんかった。
武術家としての素質というもんがあるそうだ。
サークルんときのセンセ曰く、
『気兼ねなく人を殴れる才能』が必要なんだと。
前世じゃついぞ身につけることも無く、そして今世じゃ、いつの間にか身に着けていた。
そういった意味じゃ、この施設で育ったのも悪いもんじゃねぇように思えてくる。
そんなこんなで意識がはっきりと連続性を認識した時にゃ違和感なんてモンは生まれなかった。
まぁ違和感はなかったが悔やみと悩みはあったね。
だって『ち〇こ』無くなってるんだもの!
性別変わるのは流石に無ぇなと。
生まれてこの方、食うモンは量的に不自由しなかった(豚の餌だが)し、寒さに震える様な家の作りじゃなかったさ。
建築技術だけかもしれねぇが、元の世界とそう違わねぇくらいのレベルじゃねえかってくらいにゃ施設の作りは良かった。
良かったのはそんくらいだな。
ただの孤児院にしちゃ閉塞すぎた。刑務所と変わんねぇ。
そしてモラルが無い。
職員の一部、目の死んでねぇ職員がこれまたやべぇのなんの。
眼が死んでねぇってのは、やる気があるってことじゃねぇ。言うなれば、執拗に蟻んこを殺すガキみてえな目をしてやがんのさ。
目を付けられたら甚振られて殺される。
これが施設のルールだった。
人権はないのかって?たまにそういう真面目な職員もいたがよ、すぐに居なくなる。
異動じゃねぇの。庭の掘り返しが増えるだけさ。
そして女のガキは最悪だ。
少しでも目を付けられたら、薄い本も真っ青の展開だ。
下手すりゃ死ぬまで輪姦される。毛も生え切らねぇガキが、だ。
結局、俺が目を付けられた時にゃ年上で処女は居なくなってた。
んな幼少期、なんやかんやあって職員で一番威張り散らかしていた奴を殴り殺して、
危険因子だって処分されそうになった所を、
非道行為で押し入り捜査に来ていた今の『ボス』に拾われたって結末だ。
そこからすくすく育ち、なりたくもねぇ美女になった俺が出来る事といや街娼が軍人か。
後ろ盾のねぇガキに選択肢もそこまで多くないわな。でも軍人というか、戦闘の才能は安売りしてた様でよ、死なねぇ程度には強くなれた。
俺を、いや、俺達を施設から救い出してくれたボスは、安心して住める場所と将来の選択肢を呉れた。
義理を返すためにも、俺は軍人になる道を選んだのさ。
「死ねっ!!」
銃弾が俺の防膜で爆ぜる。高出力のソレは一瞬にして銃弾の質量を蒸発させた。
続く銃声。通路の奥に陣取る連中が持っているライフルは、古いボルトアクション式だが信頼性の高いタルードの制式採用銃だろう。数を揃えているようで銃声の感覚は狭い。
「元気な奴らだ」
「いや、頭下げましょうよ!なんで棒立ちなんっすか!?」
軽い音を立てながら俺の『構成術式防護膜』にはじかれる弾を見、肩をすくめて部下に答える。
「俺の防膜は抜けねぇさ」
「相変わらずバケモノっすね」
「オメェが弾除けになるか?」
「スイマセン勘弁してください」
生意気な部下だぜ。っつたく。
「わ、笑ってる・・・」
うるせぇ、一々反応しやがって。ガキかテメェは。
俺の舌打ちにビビったわけじゃ無かろうが、部下の男が剣を構え、体に魔力を纏わせた。
そう、今の生きてる世界は魔法、つか魔術が普及しているのさ。
今も部下の男の様に身体を強化する魔術だとか、俺の様に対物理の障壁で使う術式防護膜ってぇ使い方もあるし、工業用、農業用、生活用と、文明の根っことして親しまれている。
部下の男は剣術士でもあり魔術士でもある。つまり、身体強化も術式防護膜も使えるって訳で。
弾除けの盾にしていた小型コンテナの陰から飛び出し、防膜を前面に展開しながら一瞬で敵の懐に詰め寄せる。
ここからでも懐に入られた連中の愉快な顔が判るぜ。
突撃の際に肩に構えた長剣を三度翻すと、三つの首と四つの血飛沫が舞った。
俺はチョーカータイプの通信術具に魔力を通し、飛び出した部下に繋げると問いかける。
「おう、腕上げたんじゃねぇの?」
『そうなんですか?賊相手じゃ実感できませんが』
ウチの部隊に来て2年、最初はガキのお守りかとキレたもんだが、悪くない才能だ。
「しっかし、なんなんかねこいつら」
『え、任務は廃棄された国境砦の盗賊の殲滅、ですよね?』
昔の国境砦だ、実際のフロントラインはずっと先。更にここは帝都から離れてるたぁいえ主要街道の近くだぜ?
管理が余程杜撰でない限りは盗賊なんざ商売できるわきゃねぇ・・・が。
俺は再度通信術具を立ち上げ、別の奴へと意識を飛ばす。
「おい、ガリウス」
『・・・』
ん?通信妨害か?
「おーい、脳筋ー」
『・・た・・・る』
益々キナ臭ぇ。
通信妨害自体は難しくない。そういう装置もあるし、壁隔てりゃ割と通り難いからな。
だがよ、軍用通信は出力が民生の比じゃねぇし、今はルート制限もしちゃいない
まして、本来通信妨害用の装置は軍用品だ。それも重要度の高い類のな。それが盗賊に流出?
ねえだろ。
元々今回の任務自体怪しさプンプンだ。
制圧任務に人数制限が掛かるのはまぁ、分かるがよ。
普通は中隊規模で当たる作戦内容だ。安全面で言っても、作戦遂行能力で言ってもな。
それを小隊でやれっつーんだから、もうアホかと。
所属に寄っちゃ小隊の規模は変わるが、ウチらの部隊じゃ基本24人で一小隊を組んでる。
それでも俺達の所属している集団にとっちゃこの程度の任務、難しくはない、が。
それは俺達だから解かることだ。個々の能力を上が把握してるはずもねえしな。
お陰で、敵の退路を二名で抑えるなんて作戦とも呼べねぇ配置を頑張ってるわけで。
お?
俺は直ぐに目の前で盗賊の検分をしている部下に繋げ直す。
「クロ坊、前だ」
『は?っ』
通路の奥の奥、部下のいる場所からもう少し行った突き当りの陰から、ライフルを構えた男が飛び出してきた。
その動きは先程まで藁人形代わりにしてた連中とは練度が違う。
男のライフルから放たれた物は、質量弾ではなかった。
『ぐぅ!?』
「だいじょぶかー」
クロ坊は咄嗟に防膜を形成、すぐに物陰に隠れたが、一発は防膜に当たったみたいだな。
ありゃ対魔術士用の魔導銃じゃねぇか。型式は古そうだが、一般に出回るにゃ物騒すぎるシロモンだな。
『・・・もっと早く注意してくださいよ』
「オメェの方が近かったんだから先に気づけよ」
『中尉達と一緒にしないでください』
流石に対魔術士用のショックガンを受けちゃ処理の負担がきつかったか。
しゃあねぇ、手伝ってやるか。俺は部隊の情報係なんだがなぁ。
「クロ坊、アタマ低くしてねぇと首が飛んじまうぞぉ」
『へ?中尉、まさかぶっ放さないっすよね?ここ砦っすよ!?』
うるせぇクソガキ。
体に巡る魔力を『少し』活性化させる。腰から引き抜いたのは細見の片手剣だ。
軍用に拵えたそれは飾りっ気は無いが斬気というか、実用品の重厚な雰囲気を醸し出している。
魔力込め過ぎて魔剣化したか?
いつも通り、剣に魔力を馴染ませる。薄く光っているように見えるのは魔術士が見る魔力光ってやつのせいだ。
奴さんも見えるのか俺の方に弾が飛んできた。
成程、相手も魔術士か。
対魔術士弾は俺の防膜を叩くが、そんな出力じゃびくともしねぇぜ?
剣を振りかぶり、込める魔力を上げると相手も俺が何をしようとしているのか察したみてぇだな。
目ぇ見開いて出てきた通路に退避したようだが。
「残念、だったなぁ!」
たとえ隠れようとも、其れごと斬りゃ問題はねぇ!
振った剣線が、その先のものをすべて無かったかのように通り過ぎて。
通路に隠れた男の、胸から上を壁まで切り飛ばしたのを、感じた。
『ぎゃー!ぎゃー!!屋内っすよ!?正気かよあのアマっ』
崩れた壁の一部から這う這うの体で逃げる部下には後でお仕置きをするとして。
他の部隊はどうなったかね?
『・・・レっ・・オー・・っ!』
お、通信が回復してきた。
妨害装置が停止したかね?
「おう、そっちはどうだガリウス」
『・・-レっ!フォーレぇ!!』
元気な脳筋だ。聞こえてるから静かにしろや。
『てめぇ砦ン中でソレ使うんじゃねぇ!!馬っ鹿じゃねえのか!?またはアホか!!』
うるへー
『オメェの一撃で残ってるヤツは軒並み死んだがよ!仲間まで斬る気かテメェは!?』
「じゃ残敵掃討頼まぁ」
『まったく反省してねぇぞこの糞アマ!?オイ聞けブッ・・・・』
おーっと、敵の通信妨害がまだ残っていた様だ。大変だなぁ(棒読み)
俺のところまで戻ってきたクロ坊が白い目で見てくるが、俺は気にしない。
「・・・」
「・・・んだよクロ坊?」
「・・・いえ、何でもありませんよ、ええ」
さよけ。さて、撤収までどのくらいかね。
「あ、中尉、ガリウス大尉から通信が」
聞こえまへーん。
今俺通信妨害受けてるんで。
「この女性格悪過ぎぃたたたたたっ!?」ギリギリ
「おめーは口が悪過ぎだクロ坊ぅ」
お読みいただきありがとうございました。