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スクラップ・チェア  作者: 鐘鳴タカカズ
一章 ゴミ島編
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七日目 回想

書いたそばから投稿する形にしました。週一くらいであげられると思います。

 まだ幸運の女神は僕の事を見捨ててはいなかった……いや、僕を救ったのはこの体をくれた彼女だ。神様のせいなんかにしては失礼だろう。

 長い白金の髪はケーブルで結んでポニーテールにして、腰と胸には彼女がくるまれていた布を引き裂いて巻いた。古き良き原始人スタイルだ。槍でも持てば完璧なのだが。

 彼女の体を手に入れたことで、僕を取り巻く環境は大きく変わった。

 まずは入力装置の大幅な増加だ。フルカラーの低燃費カメラ。温度、湿度の観測が出来る皮膚センサー。長い間失われていたマイク、そして新しく嗅覚も加わっている。これで声も出せれば言うことがないのだが、ここはゴミ捨て場だ。そう贅沢も言っていられない。

 次に、行動時間の変化。今までの体なら、船が近づいてきたなと思えばそこらへんに転がるだけでごまかせたのだが、この体だとそうもいかない。万が一人に見つかったら、回収からの質流れ、部品取り後に売却。最悪、その場で犯されたっておかしくない。

 つまり、昼間の行動は出来ない、というより控える。出来るだけ動かず工作に励むのが吉だ。五指が手に入ったことで、工作の質は比べ物にならないほど向上しているから、作れるものも増えるだろう。この高性能カメラであれば、月明かりの下で動き回るのも苦ではない。

 あと一つ、あるとすれば、今まで考えていた脱出プランが使えなくなってしまったことだろうか。この体では小舟の船底にくっついても直ぐにバレるだろう。もっと大きい船でないと。


――ん? 大きい船?……あったじゃん! あの黒船! あれについていけば!


 彼女の体を捨てた黒塗りの船。あの大きさであれば、必ずどこか大きい港に停泊するだろう、だとすれば二大大陸のどちらかに向かう可能性はかなり高い。

 この世界の地図は、よく『割った卵』に例えられる。

 地図を広げて両側、円を下から引き裂いて二つに割ったような大陸がある。これが『殻』の部分だ。そのちょうど真ん中、まるで割れた円の中から落ちてきたような位置に歪な形の陸地がある。これが『黄身』の部分に当たる。ちなみに僕が住んでいたのは『殻』の左側の大陸だ。

 現在、僕が居る場所はどこかわからない。だが、少なくとも左大陸の港につくことが出来れば、陸路で家までたどり着ける可能性はある。なにせこの体には食事も、睡眠も、休息も必要ないのだ。極論、捕集装置と足さえ壊れなければ、どこまででも歩いて行ける。

 問題といえば、またあの船が来るかどうか、ということだろうが……ここのところは本当に運に任せるしかない。

 ただ、少しだけ希望は持っている。彼女の体をここに捨てたことからだ。

 いくらこの……アレ用の魔人を持っていたとして、わざわざこの島まで違法投棄までしに来るだろうか? その辺の海底に沈めておけば楽だし、こんな所よりずっと見つかる確率は低いだろう。

 僕にはわからない。なぜわざわざあの船はここに彼女を捨てに来たのか。

 わからない。でも、だからこそ、こう考えられる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。であれば、必ず、あの黒船はまた現れる。この島に捨てなければならないものを満載にして。

 その日を待つのだ。魔素を充填して、予備のタンクを見つけて、あの黒船にくっついて、大陸に渡って、家に帰って……そして……そして?

 あれ、そうだ、僕の最終的な目的はなんだろう? 家に帰ること? いや違う、家に帰って、そして……


――自分の体を取り戻す。


 両の拳を握りしめる。そうだ。僕の目的はそれだ。自分の体を取り戻して、日常に帰るんだ。

 あの高慢ちきな幼馴染に起こされて、学校に行って、退屈な授業を受けて、放課後はパーツショップに行ってジャンクを探して、たまに掘り出し物見つけて喜んだりして、帰って母さんに愚痴を言われながら課題をこなして、海の向こうの友達と何でもないようなチャットして、晩御飯を食べて風呂に入って、ジャンクをいじくりまわしているうちに眠たくなってきて、カビ臭い毛布に包まれて眠るんだ。

 ドクドクと脈打つ心臓の鼓動が聞こえる。この体からではない。僕の魂からだ。

 きっと、生身の体だったら涙を流していただろう。それくらい、僕は自分の気持ちを忘れていたのだ。

 思い出す。もう忘れたりはしない。

 まずは……そう、準備だ。次に黒船が来るその日を、このゴミ島とおさらばする日にするために。

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