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スクラップ・チェア  作者: 鐘鳴タカカズ
一章 ゴミ島編
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六日目 転機

 いいニュースと悪いニュースがあるんだ。

 ふむ……じゃあ良いニュースから聞こうか。

 魔素不足問題が解決した。

 ……なんだって?

 魔素の捕集装置を見つけたのさ。まぁ自由工作レベルだったから、収集量はお粗末だけどね。でも、この体には十分さ。

 それはとてもいいニュースじゃないか! で、悪い方は?

 右手がイカれた。

 ワオ……


 眼前でグラグラ震えながら回る捕集装置を眺めながら、すっかりお馴染みとなった脳内会話を繰り広げる。

 魔素捕集装置。ジェネレータなんて呼ばれもするが、そんな言葉が似合うほどの物でもない、非常に簡易的なものだ。中型のセンサーライトから取り出したものを、いくつか連結して繋いでいる。

 これで得られる魔素の量は、だいたい僕が一日に探索で使う分より少し多いくらいだ。つまり、実質的にはゴミ島脱出のタイムリミットは無くなったといえる。ただ、不安がないわけではない。拾った魔包のうち、魔素を充填して再利用できるものは4本しかなかった。これが壊れてしまえばまた無慈悲なカウントダウンがスタートしてしまう。

 勿論、これだけでは大陸まで持たせるのは不可能だろう。だが、エネルギーを生成できるものが見つかったのだ。何か別の……できれば大容量型魔包なんかを見つけておきたい……いや、見つけておきたかった。

 右腕が壊れた。

 右腕の関節から先がすっぽり無くなってしまったのだ。ゴミの中に手を突っ込んだところ、中にあるケーブルにひっかかったらしく、力任せに引き抜いたらこうなった。まったくもって油断していた。たかだか3本指のアームでも、あると無いとでは大違いだ。本当に惜しいことをした。

 もともと細かい作業は出来なかったが、右腕を失ったことにより、さらに出来ることの幅が狭まった。魔包の交換でさえうまくできるかどうかわからない。そして追い打ちをかけるように雨雲が近づいてきていた。魔包を探すにしても今日は暗くなりすぎている。早めに退避しておいた方がいいだろう。

 そう考えて捕集装置を運び出す。冷蔵庫の中に入れるには少し場所を取るので、コンテナの中に運び込んだ。コンテナの中には、相変わらず彼女が眠るように横たわっていた。


――この子の動力源も魔素だったな……


 捕集装置を彼女につなげて起動させれば、もしかすると協力できるかもしれない。と思ったが、そもそも彼女が僕の話を聞く道理はないし、そもそも声も出せないこの体では指示のしようがない。

 ため息をついて(勿論実際にはしていない)捕集装置のアダプターを自分の腹にはめ込む。


――いや、待てよ? もし、もしも僕の魂が魔素に宿っていて、それを利用してこの体を動かしているとしたら? 僕の魂が宿っている魔素を移せば、別の体を操れるんじゃないか?


 思いつきだった。このおもちゃの体に入っている魔素のすべてを、彼女の体に流し込むことが出来たなら、もしかすれば、彼女の体を操れるのかもしれない。だが、失敗した場合、僕の魂は動けないままずっとこの体に宿り続けるのだろう。朽ちて壊れるまで、何もできすにただ存在することになるのだろう。

 悩んでいるうち、とうとう雨が降り始めた。


――……やめよう


 今そんなリスクを犯す必要はない。せっかくタイムリミットから解放されたのだ。もっと状況が好転してからでも遅くはないだろう。

 そう思い、左手で充填済みの魔包を交換しようとして、取り落とした。

 左手の指が1本取れた。

 全身から血の気が引いたような気がした。


――マズイ……!


 このおもちゃの体では、何もつかめなくなることイコール死だ。足を動かすことが出来ても、捕集装置を引きずりながら歩くことになる。このゴミ島でそんなことをすればあっという間にケーブルが切れて死を待つだけだ。

 ザアザアと雨は激しさを増している。

 落ち着け。落ち着いて考えるんだ。アダプターと捕集装置は既につなげてあるし、腹の中にも魔包が一つ残ってる。このままの状態であれば、とりあえず動けなくなることはない……が、動けないことにも変わりはない。

 白黒の視界がやけにぼやける。魔包が一本しか入っていない状態で動くと、いつもこうなるのだ。日が落ち、厚い雨雲で空が覆われているから、見えるのは彼女の白い体くらいだ。

 雨雲が蠢いて、パッと空が光って、一瞬だけ視界が明るくなる。

 最初は、偶然だと思った。思い違いだと。

 二度、見た時には幻覚だろうと、見るのを怖がった。

 三度目、僕は確かに見た。


 目が合った。


 ()()と、目が合った。


 腕の震えが止まらない。さっきまで彼女は仰向けのまま目を閉じていたじゃないか。足まで笑い出した。今は僕の方に首を傾けている。視界のノイズが激しくなる。彼女が瞬きをする。口を開いて、何かを伝えようとしている。


   つ・か  て


 口の動きだけで、彼女は伝えてきた。つかて……使って……?

 彼女の腕が捕集装置に伸びる。偶然じゃない。自分の意志で動いているんだ。

 捕集装置側のアダプタを抜き取り、自らの首の後ろ――背面パネルに向かってそれを刺した。途端に、僕の体から力が抜けていく。僕という存在がそのまま流出しているような、得体のしれない感覚が体中を這い回る。


――まさか……僕の魂を移し替えようとしているのか?


 無理だ。出来ない。だってそもそもこの体には出力プラグが存在していないのだ。こちら側から魔素を流出させることなんて出来ないはずだ。今だって、彼女が繋いでいるのは出力プラグのはずだ。このつなぎ方では、彼女に残った魔素がこちらに流れ込んでくるだけだ。

 それだけのはずなのに。

 視界の中の彼女はきれいな顔で微笑んでいて縺昴?隨鷹。斐?諢丞袖縺ッ菴輔□繧阪≧縲ょ暑諢帙□繧阪≧縺九?∝凍繧後∩縺?繧阪≧縺九?よ?昴>蜃コ縺ョ荳ュ縺ョ豈阪b縺昴s縺ェ鬘斐r縺励※縺?◆豌励′縺吶k縲貴方に私は救われました縺?d縲∝ケシ鬥エ譟薙□縺」縺溘°?溘??繧医¥諤昴>蜃コ縺帙↑縺??ゅ◆縺?縲√%縺ョ隨鷹。斐?縺阪▲縺ィ謔ェ縺?b縺ョ縺ァ縺ッ縺ェ縺??縺?繧阪≧縲私の体はまだ動きます蜈ィ縺ヲ縺梧≒縺九@縺?%縺ィ縺ョ繧医≧縺ォ諢溘§繧九?ゅ%繧後°繧牙ヵ縺ッ豸医∴繧九?縺?繧阪≧縺九?どうか使って貴方の目的を果たして縺昴l縺ッ縲∝ォ後□縺ェ縲ありがとう。





 ひとりぼっちはさびしかったの





 目を覚ます。魂だけの状態になってから、実に三度目の覚醒だ。

 体を起こそうとして、気付く。右腕の感覚があることに。

 透き通るような白磁の肌。手相まで細緻に再現された手。艶めく白金の髪。どこからどう見ても人間だ。それも、とびっきりの美人。

 入っていたコンテナから這い出る。人工皮膚がはがれた右足は、しかし動くのに支障はないらしく、静かに駆動音を鳴らしていた。

 ごつんと足で何かを蹴り上げた。ボロボロになったおもちゃだ。どう見ても子供向けの魔人で、体は傷だらけ、腕も片方取れてしまっている。両の瞼は閉じきっていて、コンテナの壁に寄りかかって眠っているようにも見える。

 僕はぐらついた()を、また壁に立てかけてやって、それから外の景色を見る。

 空は青かった。快晴だ。雨は朝方まで降り続いていたのか、空には虹もかかっている。海も青かった。太陽の光を反射して波間からキラキラと宝石みたいな飛沫を上げている。彼女の目は、彼よりも質の高いもので、僕は久しぶりに色のついた景色を眺めることが出来た。

 深呼吸をしてみる。疑似的な肺があるのか、ちゃんと息も吸えたし、吐くこともできた。

 声を出してみる。


「ギィ――――――ッッッッッ――――」


 意味のある言葉は出せなかった。スピーカー……いや、疑似声帯か? よくわからないが、とにかく人と話すことは難しそうだ。どうやっても、嗚咽のようなくぐもった音しか出ない。

 でも、とりあえず今はこれで十分だ。


「ヴヴゥ――――――」


 なにせ僕が魂だけの状態になって、最も口に出したかったのは。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!」


 声にもならないような嗚咽だったのだから。





 地平線に差し込んだノイズのような島。その末端で、叫び声が上がった。

 病的な程白い肌。ふっくらと肉付いた肢体に、無惨に浮き出た機械の右足。生まれたままの姿のソレは、朝日を跳ね返し、涙も流さず、ただ叫び続けた。

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