ニオイヤグルマギク
7月1日(金)①
やっとの思いで帰路に着いた時、空は薄暗い雲に覆われはじめていた。
勘弁してくれよ。
今朝の天気予報では1日晴れだって言ってたじゃないか。傘なんて持ってないし。
今日のこと、憂鬱、雨。不安に駆られるように早足で歩く。
「なんのために…頑張ってきたんだろう。」
ほんの小さな声で呟いた言葉がさらに自分を追い込み蝕んでいくようだった。
自分には何もないと思っていたあの時の、なにかを見つけた自分を夢見たあの時の、どん底のあの時の自分にすら、
合わせる顔が無い。
国道から逸れて細い道に入った辺りで案の定雨がぱらつきはじめ、だんだんと勢いを増していった。
ただでさえ最低だった気分をさらに押し下げるような雨。
下校ルートの中盤にある橋に差し掛かる頃にはもっと激しく打ち付け、豪雨といって差し支えないような状態まで悪化していた。
鞄を傘がわりにして河原を走る。もはや何をやってもびしょ濡れになるほどの雨だったが、自分を押し潰そうとする何かから逃れたい一心でひたすらに走った。それで何が変わるわけでもないのに。
沈み込むような気持ちで長い河原を進んでいると突然、地面に叩きつけられる雨粒の音と自分の足音だけしか聞こえなかった耳に、どこからか澄んだ高い声が流れ込んだ。
「ハルくん、待ってるよ。」
脳天をまっすぐ貫かれるかのような感覚。一瞬頭が真っ白になり、思わず歩みを止める。
だれかが僕の名前を呼んだ。
言葉の意味は全くわからなかった。しかし、何か大事なことが、大事だったことが今の自分から欠落しているのに気づかされてしまったような気がして、得体の知れない喪失感に苛まれる。
僕は辺りを見回した。あの声の主はどこにいるんだ。
そこら中をしばらく旋回した視線は数秒後、川沿いに立つ彼女の姿を捉えていた。
傘もささずに裸足で、びしょ濡れになりながら佇む彼女の後姿を。
考えるような躊躇すら微塵もなく、僕は叫んだ。
「あの…!今、僕のこと…呼びましたか!」
確かめずにはいられなかった。
普段はこんなに衝動的に動くことなんてない。
自分でもわからなかった。いや。わからなかったから動いたのかもしれない。
この胸の違和感の正体は何か、あの声の意味は何か、只々知りたかった。
周りには彼女以外の人の姿は見当たらない。
きっと彼女が全てを知っている…というよりは、答えをくれる何かに縋り付きたかったのかもしれない。
しかし期待に反して帰ってきたものは、まるで何も考えていないような抜けた困り顔と
「はぁ…?」
の一声だった。
十数秒か数十秒か、爆音のような雨音の中で、まるで金縛りにあったかのように、ただ何も言い出せず立ち尽くしていた。
緊張で心臓が締め付けられる。
先に口を開いたのは彼女だった。
「あなたが誰なのかはちょっと…うん…やっぱりわからないんですけど。でもそれより…。」
彼女はそこまで言ってうつむいた。
なにか良くないことをしてしまっただろうか。
いや、よくよく考えてみるとこの雨の中で、いや、傘は僕と同じ理由でさしていないのかもしれないが…それでも裸足であんな風に立っていたなんてどう考えても普通ではない。
きっと何か自分には分かり得ない複雑な何かがあって…。
頭の中をぐるぐる回る後悔と考察をよそに、彼女は再び顔を上げた。
なぜか満面の笑みを浮かべながら。
正直普通ではない状況での、常軌を逸した彼女の行動に戦慄した僕だったが、そんなものは序の口だった。
彼女は僕のいる道へ向かって、河原の傾斜を走って登り始めたのだ。
はっきり言って恐ろしかった。
一歩下がろうと、何なら走って逃げ出そうとしたが、あまりの唐突な出来事に体がこわばり動かない。
ものすごい勢いで僕の元へたどり着くと、彼女は僕の両手をとって強く握り言った。
「見えてるんですか!?」
やはり笑みを浮かべ、目を輝かせて、肩で息をしながらかたく手を握って離さない彼女。
冷え切って冷たい手と裏腹に浴びせられる熱い視線と、突如飛び出た謎の一言に圧倒され、思わずたじろぐ。
「え…?ちょ、やめてください。何なんですか。」
なんだか気味が悪くなり、彼女の手を振りほどいた。
しかし、振りほどかれた手を見つめ唖然とする彼女を見て、何故か心が痛くなる。
なにかを間違えている気がする…。なにかを勘違いしているような気がする…。
「……ほらぁ!!やっぱり!!」
僕の違和感を吹き飛ばすかのように彼女は叫んだ。
「手、振りほどいたってことは見えてるってことですもんね!?いや!私、ちょっと感動しちゃって!あははは!!」
まくしたてるような謎の言葉に理解もテンションも追いつかない。
彼女はなにを言っているんだ。
心なしか最初より彼女の言葉が馴れ馴れしくなっている気がする。
流石にこのまま意味不明なことを言われ続けてもどうしようもない。と、思い切って彼女に尋ねる。
「ごめんなさい。ちょっとさっきから何言ってるか全然わからなくて…。見えてるとかなんだとか、どういう意味ですか…?」
彼女は面食らったような顔をして首をかしげたが、しばらくして、何かにひらめいたような表情を浮かべ言った。
「あぁー!あの!私、幽霊なんですよ!」
自慢げな顔で微笑む彼女。
理解できずに立ち尽くす僕。
問答無用で降り続く豪雨。
きっと、なにかマズいことが起こっている…。
あとがき
『なろう』って言葉を聞くだけでなんだかいいイメージがないんですよ。
やれ異世界だ、やれハーレムだ、やれチート主人公だ、と言った感じで。
しかし、そんなイメージだけでつっぱねるのは良くないのでは…?と急に思い立ち「じゃあ自分が使ってみよう!!」と謎の理論でマトモに書いたこともない小説をいきなり人の目につくところに投げ込んでいるわけです。無謀でんがな。
今回は適当にお試しで投稿しようと思って書いてみたので、たった2000文字というあまりに短いものになってしまいましたが。
ちゃんとやるならもっとボリュームのあるものを書けたらなぁと思いますね。
と、ここまで書いてふと思ったんですが、これ別に僕が書いたところで異世界ハーレムチート小説への自分の中の偏見がなくなるわけでもなくね…?と笑笑
書いてるのラブコメだしね!それがどうしたアホだよ!!
これじゃああとがきでもなんでもないので
ちょっと話の方に触れておくと、タイトルの「夢扇蘭」は猛烈に適当です。『電波な女の子が出てくるから無線LAN〜(電波つながり)』とか安易につけてるわけです。
創作って我が子のようなものですし、自分の子に適当に名前をつけるなんて…と思われるかもしれませんが、全くその通りでございます。こういう人間が将来子供のことを考えずにキラキラネームをつけるわけですね。
ストーリーの方は
とにかく前半とことんまでに暗く、後半にかけて読者が違和感を覚えるくらい明るくしました。
主人公な陰鬱なところ(自分語り部分)をヒロインが無理矢理明るくするわけです。で、そのヒロインの方が中身は陰鬱(というか狂気的)である。と、性癖ですね、性癖。
さて、そろそろ終わりにしないと本編よりあとがきの方が長くなってしまうであろうほどに僕は自分語りのスペシャリストですので、この辺で。
ここまで呼んだ君はスーパー耐久マンだな。