女子高生とワーウルフ~これからも
「テオー、散歩行こうー」
「うん! ゆい!」
「アスファルトが熱くなってきてるから、テオは日陰を歩こうね。暑くなったらすぐに言うんだよ、水持ってきてるからね」
「うん、ゆいはやさしいね」
私の名前は東條由比。
魔術師連盟東支部を束ねる東條家の末っ子として生まれた。
魔力の量だけはあったけど、持て余していた私の前に現れたのは、未来から来たという自分だった。
彼女は容赦なく私を攻撃してきて、自分の身を守る為に必死で召喚したのは、失われた世界と呼ばれるシオドミアンという世界に住む、ワーウルフの生き残りだった。
「今日は暑かったね、テオ」
「うん、でももうすぐあめがふるよ」
「解るの?」
「うん、あめのにおいがするから。たぶん、あといちじかんくらいあとだとおもう」
未来から来た自分に鍛えられ、私は最低限の魔術が扱えるようになった。
そして、お盆前のあの日、大嫌いなヤツに呼び出され、未来の日本を滅ぼしたという海龍と戦うことになった。
私の召喚獣は海龍に操られて自我を失ったけれど、自力で自我を取り戻し、一緒に海龍と戦ってくれた。
あの日見た、彼の本当の姿を私は忘れることはないだろう。毛並みが銀色に輝く、美しく、神々しい、巨大な神狼のあの姿を。
本当にいろいろあった。今日まで、いろいろ。
いろいろありすぎて、語り尽くせない。
友達が増えて、友達だと思っていたその子に告白されて、傷つけた。
それでもその子は態度を変えることなく、私と友達でいてくれている。私の召喚獣のマブダチでいてくれてる。
海の国から来た、だなんて噂される、美形の幼馴染の男の子が大怪我して学校に来た時は学校中が騒然としたけれど、その子はそれからなんだか一回り大きくなった気がする。
独身貴族を貫くのかと思っていた私の恩師は、同僚の女の先生と付き合っているらしいと噂になっている。
姉はお見合い相手を見繕っているらしい。姉の従者である蚊の式神はそれを手伝っている。
兄は楽しそうに家事をしながら、平和が約束された四季の移ろいを楽しんでいる。
妹になった未来の私は二度目の人生を楽しむようになった。
ムカつくアイツからはよくメールが届くようになった。嫌味の応酬しかしていないけれど、それを楽しんでいる自分もいる。
皆、変わらないようで、変わっていく。
私は変わったのだろうか。変わっていないのだろうか。不安になって、隣を見た。ぬるい風を浴びながら、気持ちよさげに歩くワーウルフがそこにいる。
「ねぇ、テオ」
「なぁに、ゆい?」
横を歩く自分の愛しい召喚獣の手を握る。肉球は少しかさついていたけど、柔らかい感触を返してくる。
「テオは、ずっと一緒にいてくれるよね」
「うん、ずっといっしょだよ。テオはゆいについていくよ。ゆいがおよめにいっても、ずっといっしょ」
普段どおりの食卓を囲んだこと、体育祭で大活躍してくれたこと、ひとりで留守番させてしまったこと、窮地を救ってくれたこと、ふたりっきりで過ごした聖夜祭のこと、風邪を引かせてしまって看病した日、私の作ったクッキーをうれしそうに食べてくれたバレンタインデーのこと、ブラッシングしたら大きなクッションが出来るくらい毛が抜けて、それをゴミ袋に詰めて抱きしめたこと、数年ぶりに家族でお花見に行ったこと、友達を傷つけた私を慰めてくれた夜、そして、私が決めた進路を喜んでくれたこと。
全部、全部、テオがいなかったら起こらなかったこと。エノシマが起こしてくれた、奇跡だということ。それを噛み締め、テオの手を撫でる。
「ねぇ、ゆい」
「何? テオ」
「テオはね、ゆいがすき。かぞく、みんなすきだけど、せかいでいちばんゆいすき。だから、だいじょうぶだよ。ゆいは、テオがずっとまもるから」
花が舞うように笑う愛しい存在に、涙が溢れそうになる。それでもそれを必死でこらえて、笑って応える。
「……私も、テオが大好きだよ。テオがいてくれてよかった」
大好きな家族がいる。大事な友達がいる。尊敬する先生がいる。ムカつくけど、気になるヤツがいる。でも、それより、それ以上に、大切な存在が今、すぐ近くにいる。
私はただの女子高生だった。少し、人より魔力が有り余ってるだけの、本当にただの女子高生だった。けれど、それはあの頃だけで、魔術の勉強が楽しくなって、魔術大学の女子大生になろうと決めたし、その後のことはまだ解らないけど、きっと社会に出て、働くようになるだろう。
それでも、そばに。
いつでもそばに、彼がいる。
彼の言葉を聞かなくたって、そんなことは確信できる。
テオがいてくれるなら、なんだってやってみせる。日本を救ったあの日のように。でも、テオがいなくなったら、私はきっと道に迷ってしまうだろう。
「だから、ずっと一緒にいてね、テオ」
「うん! テオはずっとゆいといっしょだよ!」
今はまだ女子高生の私と、ワーウルフの彼。
私は主人で、彼は従者。
でも、それ以上に、大切で、大好きな存在だ。
だから、これからも一緒に生きていく。
この、無邪気な少年のようなワーウルフと、生きていく。
一年間の週刊連載でした。(刊?)
彼らの物語はまだまだ続きますが、私から語られるのはここまでです。
ここまでありがとうございました。




