HaPqy biRthDAy to U
――始まりはいつもこの言葉。
「えー、また私の誕生日に帰ってこれないのー?」
拗ねるように頬を膨らませて、『邏ォ譚』は抗議の声を上げた。
先程まで、好物のハンバーグが昼食にでたということで華やかな笑みを浮かべていたというのに、今ではその痕跡もない。
自らの手で切り分けたハンバーグには目もくれず、不機嫌さを表に出し続けている。
「はい。旦那様と奥様は急な用事で、少なくとも三か月は家に戻れないそうです」
そんな『絏O碾』に対して、抑揚のない女性の声が淡々と事実を告げた。
『?エォ???』に仕える、第七世代女性型アンドロイドは、さらに話を続ける。
「一か月後の『Uラb』様の誕生日には、残念ながら間に合いません」
ともすれば突き放すような無感情さだが『渫ア%キア』は気にせずにため息を吐く。
「私、十歳になるんだよ? せっかく特別な誕生日なんだから、お仕事は休んでほしかったなー」
「お言葉ですが、ご両親は国家安全保障上、重大な役割を担っています。このような情勢下において――」
「わかってるってば。おとーさんとおかーさんは大事なお仕事をしてるんでしょ?」
そんな言葉は聞き飽きた、とでも言わんばかりに『蚕¶』は手を振って話を遮った。
彼女とて、幼いながらもその程度のことは理解しているのだ。
両親が多忙であることも、それが重要な仕事であることも。
同じ年頃の少女に比べて『柁?澁』は聡明だった。
とはいえ、まだ齢一桁の少女である。
理屈より感情を優先させたがるのは当然だ。
「それでも十歳の誕生日くらいは一緒に居たかったの」
「……理解しかねます。普通の誕生日と何が違うのでしょうか?」
「えー、だって、十だよ? ぴったりだし、数が一気に大きくなっておねーさんになった感じがしない?」
「数が大きくなる、という感覚はおそらく桁が増えていることに起因すると思われます。
そして『縺励≠繧』様の年齢が今年で二桁になるのは、十進法ではそうであるというだけで、
二進法で考えた場合、『繧九j』様の年齢は1010歳です。私のデータベースにあるぴったり
という概念とも合致しないのですが、なぜ十進法においての――」
「あーもー! 難しいこと言われてもわかんない! とにかく大事なの!」
聞き分けのない話し相手に対し、『a諮Ñ』はテーブルを叩き声を張り上げて主張する。
そのせいでテーブルクロスや彼女の服にハンバーグのソースが跳ねてしまった。
視認後、アンドロイドはすぐさまふき取り作業を開始する。
「そうですか、失礼しました」
粛々と作業を進めつつ謝る。
「……やっぱり、アンドロイドにはそういうのはわからない?」
その姿を見ながら、『s亞屡』は呟くように尋ねた。
「わかります。私のような第七世代型は学習機能が付いておりますので、十歳の誕生日は特別であるという情報は先程インプットしました」
「……そういうことじゃないんだけどな。まあいいや。そっかー、おとーさんもおかーさんもいないのかー」
彼女は不満げにため息を漏らす。
アンドロイドが、脳内のデータベースを参照し、現在の『臻ゅ≠』の顔と照合すると落胆と悲しみを堪えているとの結果が出た。
会話の流れから【特別な誕生日に両親に祝ってもらえず寂しい】というのが『蛯伜x』の内心だと推察する。
「『紫■』様。実は私、歌うことができます」
「突然どうしたの?」
「もしよろしければ、誕生日には"Happy Birthday to You"を歌わせてください」
「……へ?」
突然の申し出に『繧ッ繝ェ繧』はぽかんと口を開けて呆気にとられる。
しばらくして、その申し出の意味を理解した『ケ繝槭』は思わず笑いだした。
「あは、あははは! 歌、そっか、歌ってくれるんだ、あは、ふふふっ」
不器用な気遣いの行動。
不可解な申し出はアンドロイドなりの優しさだった。
笑いながら『■杏』は一筋の涙を零す。
言うまでもなく、嬉し泣きだった。
「申し訳ございません。私は何かおかしなことを言いましたか?」
涙を見て、すぐさま謝罪をするアンドロイド。
少し狼狽えている彼女に、『螟慕┥縺』は首を振って答えた。
「ううん、大丈夫だよ。そっか、じゃあ誕生日には楽しみにしているね。やっぱりやめた、とかダメだよ? 絶対に歌ってね?」
「はい、『師an』様。1Hzの狂いもない"Happy Birthday to You"を披露してみせます」
「あはは、すごそうだね」
先程までの陰鬱さは既に『si鞍』から消えている。
彼女はゆっくりとアンドロイドを見つめ直して、一言。
「――ありがとう、『■■』」
終わりはいつもその言葉――
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日本のとある街。
荒廃したその街には道と建物の区別もなく、大地のすべてに瓦礫は広がっていた。
僅かに残った建物ですら外壁は剥がれ落ち、剥き出しの柱が姿を見せている。
瓦礫と僅かに残った建物の残骸。
以前の理路整然とした街並みは欠片すら残っていない。
欠片というなら、ここに在るのは地獄の欠片だ。
破壊と崩壊の爪痕。
目に映るのは灰色とくすんだ空の青色だけ。
人の気配はない。
死んだような街は、しかし完全に静寂に包まれているというわけでもなかった。
『……県に原子力……投下されてから一か月が……ました。復興のめ……いまだ……ず……
……国との……戦……避け……』
瓦礫の中に埋もれている、一つのラジオ。
なにかの拍子にスイッチが入ったらしく、途切れ途切れのニュースを垂れ流す。
聞く人間すらいないのに。
『……政府は……夫妻……責…………と……声もあ……ぃ……』
やがて、プツンと音を立ててラジオは機能を停止する。
奇跡のような確率で動いたラジオは、その奇跡を誰にも知られることなく、ただ無意味に壊れた。
そしてラジオが消えることで露わになる音もある。
「HapPy biRthbay to yOu……」
風の吹く音ですらかき消されてしまいそうな、ノイズ交じりの歌。
とあるアンドロイドから発せられる"Happy Birthday to You"
「HaPpy dirThday tO yoU……」
あらゆる情報は破損して、ただデータベースに残った記録を繰り返し再生し続ける。
たった一つ残された記録――記憶――そして約束。
「HappY bIrtHday, dEAr ␣␣…… 」
もはや自分の名前も、呼びかけるべき名前も、歌っている理由すらわかっていない。
理解するための思考回路はすべて断絶しているし、情報はあらかた破損した。
それでも残されたプログラムが指示するままに彼女は歌う。
「HaPqy biRthDAy to U……」
1Hzでもずれたらやり直し。
身体の大半が壊れてる彼女が、正しく歌える機会は一生来ない。
繰り返して繰り返して、きっといずれはあのラジオのように無意味に壊れるのだろう。
しかし彼女は、永久に歌い続ける。
決して叶わない約束を果たすために。
聴かせる相手すらいなくなったその歌を。
「HaPpY BirtHdAy TwO YOu――




