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架空十字軍  作者: 明宏訊
7/61

帰途・・・アミアン



 見渡す限りの長閑で平和な農村。

しかしながらそれはあくまでも捏造されたものにすぎない。村民は後日に膨大な報酬を約束されてほとんどが出払っている。村の外周はロベスピエール公爵の竜騎士と魔法の使い手がぐるりと囲んで防備している。いわば、この一時だけ公爵家の城と庭園と化している。

そのようなものものしい空気の中に入っていけるのは、公爵の侍女とひとりの少年だった。

この村を守っている者たちは、主君に許可されて足を踏み入れる彼の正体についてほとんど知らされていない。

ごく少数だけが事実に辿り着いている。そのものたちは自らの感受性を信じられ無かった。モンタニアール家の人間が公爵領を闊歩している。それも全く憶する空気を醸し出していない。それも、自分たちの息子、事に依れば孫に値する年齢の少年なのである。目を見張るよりほかにできることはない。


一時しのぎの庭園の主人は、招かれざる、正確には招きたくない客の言葉に絶句していた。  

もしもルイ以外であれば、単なる追従の類だとして一顧だにしなかったにちがいない。だが、形の整った唇を動かしているのは、あのルイ・ド・モンタニアールなのだ。彼の言によればナント王はポーラを褒めたたえているという。彼以外の言葉ならば、仮にそれがマリーだったとしても信用しないところだ。あの妹の言葉だったら、きっと何か他の含蓄を見出さねばなるまい。王はポーラを幼女と言って憚らない。何しろ戦場であの男は彼女を罵る。19歳を幼女と呼ぶのだから、その侮辱の意図はだれの目にも明らかだろう。世界ではいわば公然の秘密事項だ。しかしだからといって彼の評判が悪いわけではない。それどころか他家が相手ならばまさに紳士の鑑とまで言われる男だ。猫をかぶっているとしか思えないのだが、いつかそれを公開の場で明らかにしたい。もしかしたらルバイヤートの地で可能かもしれないと密に少女は考えている。

 ルイの口からさらにありえない言葉が続く。声の調子はまるで歌手を思い起こさせるほどに絶妙のタイミングで紡ぎだされる。計算しつくされたようで、かつ自然な言いようは、まるで幼子に母親が物事のことわりを覚らせているようにも聞こえる。このままだとつい聞き絆されてしまいそうだ。

 危ういことだ。もう黙ってほしい。鳥の鳴き声がかしましい。妖精が問いかけでもしているのか。もう結構だからさっさと去ってくれ。

「わかった、それ以上は・・・よろしい」

 今更、あの男がポーラに気に入られようと思うはずがない。

 反論を予期してそれに対する再反論を頭の中で練り始めたのだが、ルイは素直に口を閉じてしまった。いくら耳を傍立てても彼の声はもはや聴きとることはできない。

こんなところも、あの王の弟とは信じがたい。彼ならば言葉の矢を倍増しどころか束ににして射てくるところだ。とりあえず考えを整理したい。

 いま、ポーラがもっとも知るべきことは何だろうか。その優先順位をつけたい。ナント王が彼女について褒めていた。その真偽は重要ではない。そのことよりもどうしてルイがポーラの目の前に立っているのか、その問題の方がはるかに重視すべき項目だろう。

 ポーラは少年をあらためて見据えた。

 一体、だれの首謀によって彼はここにいるのだろう。差し当たってありえないのは、バブーフ男爵である。それは除外してよい。ナント王はどうか。それを肯定したいのはやまやまだが、すでにポーラの中で見切りをつけた考えだ。ならば何者が首謀者なのか。ルイ個人とでもいうのか。

 が、彼が相手となるとポーラの舌も鈍る。

ここにいるのが彼ではなくナント王ならばこのぐらいの嫌味を言ってやれたのだ。

「陛下は、男爵の家臣であられるのですね」

 ルイに向かっては非常に言いにくい。善意の塊というものはどうにも扱いにくい。だが考えあぐねた結果、このような言い回しならば可能だと判断した。

「モンタニアール家は自分の生命を軽視する傾向があるようですね」

 ごく一瞬だが眉間にしわが寄ったことを見逃さなかった。が、瘴気にいっさい乱れは検出できなかった。そちらを制御することばかりに神経がむかってせいだろう。

「とんでもないことです、主から賜った生命を無碍にすることなどありえません」

「しかし殿下は私に殺されることを願われた。おそらくそこまでして護りたい秘密があるとみるべきかと…」

 今度は瘴気に乱れが生じた。情報収集はここまでにすることにした。これ以上は、彼女にとってもっと重要な何かを失わせる結果を生む。

「殿下・・」

「殿下はお止めください」

「ならば、ルイ、あなたの覚悟に免じてこの件は永遠に封印したい・・と言いたいところだが、私はロベスピエール公爵、そうはいかない。おわかりですね」

 公的な立場と感情を別個に考えなければならない。それを具体的に彼に説明する必要はない。

 かつてナント王にやられたことをそのままその弟に返していた。言い終えてからやっと少女はそのことに気づいた。同時に盃からワインが消え失せてしまったことに気づいたところに、侍女の報告を受けた。

報告よりも先に瘴気が妹の来訪を察知した。

「マリーさまがご来訪とのことです」

 ルイの瞳がやけに輝いたような気がした。

「サンジュスト伯爵殿ですね・・・」 

 妹は瘴気を制御していない。わざと自らを感知させているのだろう。しかしこの見せつけようはどうだ。普段の妹らしくない。何を苛立っているのか。

「公爵閣下・・」

 瘴気が声に変換された。はたして家臣は連れていない。しかしおぼろげながら侍者の瘴気を感じることができる。

 「マリーか、ここのワインは味がいい。そなたの家臣にも振舞いたいのだが?」

 妹は姉の言葉を無視すると、ルイに顔を向けた。

「ルイ殿下、失礼ですが、この場を遠慮してもらうわけには参りませんか、女同士でしかやりとりできない話もあります、いかに腹心とはいえ・・・」

 こいつ嫉妬しているのか、そう思うと思わず微笑がこぼれそうになる。が、それは後の祟りを思えば口を貝にせねばなるまい。妹は、宴席での失態もあってかなり機嫌が大変によろしくないようだ。

 ルイは頭を下げるとこの場と後にしようとした。

 ポーラは横目で農夫を見やりながら言う。

「殿下、申し訳ない」

「いえ、私は新参者にすぎません・・・・」

 マリーは、すぐにルイがいないかのようにふるまい始めた。やはり彼を意識しているのか。

 見せつけるような調子は普段の彼女ならばありえないことだ。ついつい眺めて居たい気持ちになるが、まるで縋りつかれるように顔を覗かれるとそうもいっていられなくなる。

「マリー、場所柄をわきまえよ」

 いつもならば立場は真逆である。空とぼけてみせる。苛立っている妹を見るのは楽しい。普通ならば諫められるのはポーラの方だ。

それとなく疑問をぶつけてみる。

「どういうつもりだ?」

「姉上さまは、何を考えておられるのですか?わざわざ間諜を招じ入れるなどと・・」

「そなたも知っていよう、ルイ殿下はナント王とは違う。確かに解せぬ点は多いが、すくなくともあの男の差し金ではないことは確かだ」

「確かに姉上様は、好戦的としか言いようがありません。それにしては上出来な状況判断だと言えましょう」

「ならばよいではないか。それとも、私の行き過ぎを指摘でないことがそんなに悔しいか?」

「いえ、私は姉上様の唇をモンタニアールごときが奪ったことを許せないのです」

「…」

 やはり嫉妬しているのかと勝ち誇った矢先、公爵は口吻に巨大な圧力を感じてよもや魔法攻撃を受けたのかと錯覚した。事実は違う。マリーの小さな唇がポーラのそれに重ねられていた。

 よりによって平民がいる前だ。まさかルイと何かがあったとは信じてのことではあるまい。この賢い娘が気づかぬはずがない。それに仮託けた、というところだろう。妹が自分から行動に出るなどと、よほど堪忍袋の緒が切れることがあったに違いない。

彼女の白魚の指が首の背部に回された。さらに強く押し付けられる。ちょうどそのとき、例の老婦人から瘴気を感じた。これには記憶がある。かつて伯爵家を訪れた際に出会った魔法の使い手だ。さては、マリーが潜ませていたのだろう。自分を謀るとはかなりと見える。それとも予めマリーが結界を張っていたのか。結界は、必ずしも土地を外界から隔離させるためだけにあるものではない。個人を人の目からまやかす方法もある。こちらはかなり上級になるが彼女ならば難なく熟せるだろう。彼女の唇から解放されると言った。

「さすがはマリー、手回しが早いな。が、私に防護など必要ない」

「今の今までドリアーヌに気づかれなかったでは…」

今度は逆襲とばかりに唇を押し付け返す。

ドリアーヌなる使い手の瘴気がより強くなった。マリーの助力があったとはいえ自分を騙眩かすなどと、老いているとはいえ、いや竜騎士と違って年齢を重ねるにつれて技術を高める者もいるという。ある人物の顔が浮かんで少女は面白くない。

それにしても、ポーラだけでなくルイまでも同時に眩惑させたのだ。マリーはよい家臣を持ったものだ。

彼女の唇を溶かしてしまう前に離した。

「ドリアーヌとやら、いつから入り込んでいたのだ?」

空になった盃を受け取ると、言った。

「お殿様、何を仰っておられるのですか?あたしにはわかりませんよ、言葉をしゃべってください、お殿様!!」

 完全におびえている。今すぐにでも最後の審判が開催されるかのような慄きようだ。

単なる農婦の目だった。少女は彼女から離れると我が身の迂闊さを詫びた。

支配階級、知識階級のみが占有する古代語が通じるはずもない。

 すでにドリアーヌとやらは、この人物の身体にはいない。そのことを悟った公爵はかぶりを振った。

「ぬ、これは…憑依、肉体を乗っ取ったのか?ルバイヤートが起源だと聴くが…本当にあるとは知らなかった・・・」

「正解です、姉上さま。ドリアーヌの本体はサンジュストにおります」

「こんな手の込んだことをしてまで、どうしてルイ殿下を警戒する?」

ワインが入った樽を片付けながら、ドリアーヌとやらが微かに笑ったことを少女は背中ごしに見抜いていた。

「姉上さまは、攻撃だけに能力を集中させすぎです…それでは無粋な竜騎士どもと変わらないではありませんか、もっとも私が常駐していれば問題はないのですが」

「そなたとて、一国一城の主、そういうわけにもいくまい。もっとも敵意を感じさせた瞬間に、攻撃者は燃えつきるだけだ」

「その時は、姉上さまもただでは済まされません。姉上さまの美しいお体に傷がつくのを我慢できないのです。あのモンタニアールには私が直に問いただしたいのですが」

「そなたは治療属性だ。が、そなたほどならば攻撃も可能だろうが、彼はそなたの叶う相手ではない」

「命を投げだせば、あるいは、です。薬は毒にもなります。魔法も同じことです。治療属性は攻撃専門のよりも攻撃的になりえます」

ポーラは妹の顔に長い指を沿わせる。普段は小さく閉じられた瞳に優しい手つきで触れる。

「本当はどれほどつぶらな瞳なのか、私だけは知っている。しかし今回だけは偽物をつかまされたようだ。いかに警戒しても、ルイからは何もでない」

「憎らしいです。姉上さまの夫になれるあのお方が心から憎々しい…」

 思わず吹き出しそうになるのを抑える。

「何をバカなことを言っているのだ。そんなことがありうると本気で信じているのか、マリー?」

 ドリアーヌなる使い手を送り込んできたのは、ルイのことに託けてポーラを守ろうと画策した故だろう。冷静さと高ぶる感情が二重写しになる。そのギャップが余計にポーラの目を惹く。かわいらしさのあまりに自分が置かれた状況の複雑さをも緩和されてしまう。

 しかしながらそれも一種のことにすぎない。ここは何とか彼女の感情を考慮した物言いをせねばならない。

「エイラート奪還という共通の目標ができたのだ・・・・」

「まさか、姉上様はモンタニアール、あのナント王と共同戦線を張れると本気で考えておられるのですか?」

「天使さまが命じられておられる。それは主の思し召しと考えてまちがいない」

 応じるポーラこそが自分を納得させようとして発した言葉だ。彼女の知っているマリーがそう簡単に納得するはずもない。マリーが知っているポーラはそのような物言いをしないからだ。相手を納得させるために主を持ち出すようなことはしない。

 少しばかり傾きはじめた太陽を一身に浴びながら思うところを素直に述べた。

「なんにせよ、これまで経験したことが通じなくなる、そんな世界になってしまうかもしれない。その一点においては、私もルイも、そしてナント王も同様だろう」

 広い視点でものを見られるポーラを心から頼りがいがあると思えたが、一方で足元に仕掛けられた罠に気づかないということがある。第一の懸念はルイだが、いまひとつある。

「姉上さまは、お母上さまについてどのように思われますか?」

 きょとんとした顔を姉は見せた。何ともいやらしく作為的だ。きっとあの王の影響だろう。極悪人の相手をしているうちにそれと似てしまうなどと、まるでミイラ取りがミイラになる説話に近い。 

 姉は何をバカなことを言うのかという顔をした。

「そのために、そなたはアラスに立ち寄るのではないのか、私の援護射撃をしてくれるために」

「この件にかんしては私はどちらの味方もでありません。むしろ、お母上様の方に軍配を上げたいぐらいです」

「わかっている、しかし例の法典をつくったやつに私は恨みがある。たしかこのあたりに葬られているはずです」

「アミアンの聖堂に葬られている。あの美しい場所は貴族の寝所としてこそふさわしい。平民の分際にはさぞかし居心地が悪いことだろう。ナポレオン・ポナパルドのやつも」

ナポレオン法典は君主の権力を掣肘するために制定されたとされる。しかしながら今日にあっては、聖界による俗界への嘴をできるだけ抑えることが目的だったとする説が有力である。それほど当時の公爵フィリップは他者の助力を必要としていた。

公爵の権力は三者における合意で停止できる。

曰く、先公爵が認定した二親等内の親族。

曰く、高等法院、院長。

曰く、三部会の合意。三分の二以上の賛成。

 マリーは条文を思い出しながら言った。

「むしろ、フィリップ閣下にこそ問題があるように思われますが」

「当時の時代情勢が先祖様を動かしたのだろう。彼を責めようとは思わぬ。しかし太后さまは・・・」

「姉上さま、その言い方はいい加減にお止めください」

 無駄だとわかりつつ、あえてマリーは注意せざるをえない。実母をそう呼ばざるを得ないくらいに二人の仲は険悪になりつつある。だからこそ、ナポレオン法典を持ち出さざるをえなくなる。すでに宝物蔵から取り出したその書籍にはカビと埃が付着していて文字の判読もままならないに決まっている。

 だが、それはポーラの言うところの太后、アデライード様の深い愛情の裏返しに他ならない。両親を幼いころに失い、アラスの宮廷で育てられ、事実上アデライードを実母以上にみなしているマリーからすれば羨ましくてたまらない。

このまま宮廷に赴き、母上さまにお会いすればどのような態度をとられるのか、火を見るよりも明らかだろう。ポーラとマリーが並んでいるのをご覧になる。

マリーは悲し気な表情をみせた。その真意を読めない姉ではない。

「すまぬ、マリー。もう時間がない。モンパーサンに向けて騎士と歩兵を移動させねばならない。竜騎士と使い手ならば一週間もあれば、アラスから優に辿り着けられるが・・・彼らだけで戦はできない・・・あと一週間しかないのだ。諸侯も大わらわだろうな」

天使さまのご命令があって、この数日、ポーラの言う通りに諸侯は混乱の極みにあった。誰しも魔法源泉を巡って誰かと干戈を交えていた。それぞれの戦場がいとも簡単に終結を見た。天使さまが世俗の現場に顔をだすことは、まさに青天の霹靂だった。前代未聞と言っても過言はない。世界の各地を魔法による伝達手段が巡った。

「モンパーサンに一か月後に集結せよ」

 しかしその本当の目的を明かされたのは、数える程度にすぎない。天使さまが世俗に足を向けられたという事実に慄いた。もしかして最後の審判がすぐにでも始まるのではないか。八つのラッパが鳴り響いて世界が終わるのではないか。

事実を知らされているものと、そうでないないもの、両者の差はあまりにも大きすぎる。

戦いは何の前触れもなく不自然なかたちで中止を余儀なくされた。あと少しで勝利を得ようとしていた者、辛くも命を救われた者、立場はそれぞれだが胸の中に燻るものは否定しかねる。世界の各地で同じようなことが起こったのである。

ポーラは聖堂を仰ぎ見ながら言う。

「誰しも混乱の渦中にある」

「エイラート奪還などと、夢物語としか思えません」

「しかし主の光の思し召すところ、その威光に従わぬことは許されない。私はそれに従ってあの悪魔と戦ってきたのだ」

思わず、マリーは吹き出してしまった。

「姉上さま、嘘を仰ってはいけません、本当は単純に戦いたかっただけでは?もっともあのモンタニアールが地上を席巻しているのは許せないことはわかりますが」

「そなたには嘘はつけぬ。ドリアーヌのこと、感謝せねばなるまい。もしも彼女がナント王の刺客だったら、生命は失われることはなかっただろうが、強かに傷つくことはよもやあったかもしれん、それに太妃さまがそれ見たことかと言うにちがいない」

「姉上さま、その言い方はおやめください…」

母上さまがお可哀想です、と言う言葉をマリーは呑み込んだ。が、瘴気からそれとポーラに知られてしまったことは事実だろう。それでもいいと思う。ここは自分がしなけばならないことをすべきと彼女は思い立った。

「姉上さま、私は一足早くアラスに向かいます。ドリアーヌは姉上さまに近侍させます」

どうやら再びドリアーヌとやらの魂は老婦人の身体に戻ったようだ。軽く会釈した。

「しかしあの身体が耐え切れるとは思えぬが?」

「ドリアーヌならば、大丈夫です、複数の肉体をハシゴできます」

「どこから引き抜いた?私が知る限りそのような者に知り合いはサンジュストにはいない」

無駄話を引き延ばしてでも、ポーラは自分の中も重要課題から意識を逸らしたかった。しかしマリーはそれを赦さないようだ。

「母上に何を言っても無駄だ。今回こそ溜飲を下げられるような気がする。すでに生まれたときに子供というものは翼を生やして天を舞っているという事実に気づいていただく、その前に甘美な夢を楽しんでいただく…」

「何をお考えなのか検討も尽きませんが…ドリアーヌのことは本人たち話させます。それよりも私がアラスに向かうことの方がはるかに重要なのです」

「そなた、何を申しておる?」

ポーラは立ち上がると再び聖堂を見上げる。

瞬く間にマリーは消え去ってしまった。

「まったく持ってせっかちなことだ。さて、せっかくアミアンに立ち寄ったのだ。ポナパルドでも見物するか。ドリアーヌとやら付いてまいれ」

冥界から彼が笑っているかのように思えた。しかしその臓腑に自ら進んで自分は入っていくのだ。内部から破壊してみせようぞ、と、少女は生きこんだ。



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