9・謎の二人組
蓬松高校の校門前。
そのすぐ側に一台の黒いバンが停車していた。
運転席と助手席に人影が見える。
「なんで俺らが、張り込みみたいなことをせにゃあならねんだ~」
「張り込みみたいじゃなくて、張り込みしてるのよ。もお、馬鹿ね」
運転席のハンドルに顎を載せながら男がぼやいた。
「あ~、退屈だ、退屈だ、退屈だ。張り込みなんか暇で暇でしかたねぇ~よ」
「仕方ないでしょう。暇なのは私たちぐらいしかいないんだからさ。退屈なぐらい我慢しなさいよ。どうせ車の中で校門を見張ってればいいだけなんだからさぁ」
頭の後ろで腕を組みながら、シートにふんぞりかえる女が答える。
やる気のない態度で話す男女の目線は、フロントガラス越しに、校門をくぐり出て下校して行く生徒たちを見ていた。
生徒一人一人の顔をチェックしている。
誰かを捜している様子だった。
「あー、暇だ。もー、退屈だぁ~」
「あ゛ぁぁぁ、ウザイわね! 黙りなさいよ!!」
男女共に二十歳ぐらいだろうか。
男のほうは、だぶだぶとした白いジャージを着た茶髪の髪型。
極道でもなく、堅気でもない風貌をしていた。
金のネックレス、金の腕時計、金の指輪がギラギラと輝いている。
チンピラだ。
女のほうも男と釣り合いが取れるほどケバイ容姿をしていた。
パーマの掛かった長い髪に、整った顔立ちを台無しにするほど化粧が濃い。
両肩が露わになった赤い服の色合いが目に痛く、ヒョウ柄で裾の短いタイトスカートから伸び出た両足はセクシーな網タイツに包まれていた。
外見からしてスナックのホステスのようだった。
二人は、中途半端なチンピラのカップルに窺えた。
「でも、捜すったってよ、分かっているのがアップの顔写真だけだろ。それに本当に、この学校の関係者かも分かんねえしよ~」
そう言いながらチンピラ風の男はスマホの画面に映る少年の顔を観た。
巫女服の少女が念写した龍一の写真である。
「年頃からして生徒と予想できるし、桜ちゃんの念写は信用できるわ。それとも夏姉ぇに代わって、写真だけを頼りに家のほうを探して歩き回る気?」
「いや……、そっちのほうが、かったるそうだから御免蒙るわ……。歩くのは嫌いだしよ。エアコンの効いた車内でゆっくりまったり張り込みしてるほうがマシだなぁ」
「でしょ~。じゃあここで、生徒を見張ってましょうよ。居なかったら居ないでいいんだしさ。見つからなかったって三日月堂に報告すればいいだけなんだしさぁ」
「だな~。暇で退屈だけど、我慢だなぁ」
チンピラ風の男がホステス風の女をチラリと見てから訊く。
「ところで、今も入れているのか?」
チンピラ風の男の質問にホステス風の女は長い髪を色っぽくかき上げてから答えた。
「当然よ。入れてないと寂しいもの」
ホステス風の女の眼差しは、怪しくも魅力的に潤んでいた。
「この前さ、通販で新製品を買ったのよ。今度はリモコン付で、連続六時間使用可能なのよ。防音もしっかりしているからモーター音が外に漏れにくいのよね~。だから野外でもバッチリなのよ」
ホステス風の女の顔はピンク色に火照っていた。
胸元が僅かに上下している。
「へ~、そうなんだ~」
チンピラ風の男は詰まらなそうに答えると、視線を生徒たちがくぐる校門に戻した。
自分から振っておいて女の話に興味が無い様子だった。
その時である。
「んん~……、あれぇ~」
「あっ!」
丁度、龍一が卓巳と一緒に下校して来た。
校門から出て行く二人の生徒を見て車の中の二人組が歓喜する。
「ビンゴ! 見つけたぜ!」
「わぉ、本当だ! 張り込み初日で見つけられるなんて私たちってばラッキー」
「よーし、よーし、逃がさねぇ~ぜぇ~」
「巻かれないように尾行するわよ!」
「おうよ!」
チンピラ風の男が車のキーを回してエンジンをかけた。
尾行の開始である。