表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
59/61

59・囮

放課後。


「じゃあな~、龍~。バイト頑張れよ」


「ああ、分かった。また明日な」


学校を終えた龍一と卓己が別れたのは素度夢町駅に着く手前だった。


バイト先に向かうという理由を付けて何時もよりも早く別れたのだ。


卓己は何時も通り素度夢町駅に向かい、龍一は三日月堂ビルを目指した。


「こんにちは~」


四階の異能者会本部の会議室に到着した龍一が挨拶をしながら部屋に入ると、異能者会のメンバーが長テーブルを囲みながら座って待っていた。


三日月堂、千田、春菜、桜。それに花巻に秋穂。


今日は仕事で来れないと言っていたはずの夏子まで居た。


カヲルはいない。


そういえば今日は学校でも見かけていない。


「やあ、龍一君。君の到着を待っていたよ」


慇懃な口調に笑みを絶やさない三日月堂がパイプ椅子から立ち上がり挨拶を返してきた。


他の皆は会議用の長テーブルを囲んだままパイプ椅子に座って居る。


視線だけを龍一に向けて次々と挨拶を返してきた。


何か空気が可笑しい。


「やあ、皆さん、どうかしましたか……」


直ぐに感じた違和感。


龍一に挨拶を返す面々の笑みがわざとらしいのだ。


常識が高い夏子と桜に関しては龍一を申し訳なさそうに見ていた。


何やらトラップの臭いがプンプンする。


皆の笑顔にいたたまれなくなった龍一が話を本題に進めた。


「ストーカーの事件はどうなりましたか?」


怪しい笑みのまま千田が答えた。小さく両手を広げて言う。


「メールを読んでもらった通りさ。ストーカーの身元は今来栖勇作20歳だ。通っている大学も分かっているし、住んでいる住所も分かっている。もう逃げ場はないよ」


「じゃあ何故に、こんなところで皆で集まって、まったりとしているんですか?」


「もう、急ぐ案件でもないからさ」


千田が暢気に言うと、パイプ椅子の背もたれに仰け反りながら天井を眺めていた秋穂が、露骨な態度で言った。


「ストーカーで苦しんでいる女の子がいるのに急ぐ案件じゃないって、なによ。これだから男は――最悪だわ~」


「ぎくっ……」


背中に刺身包丁でも刺されたかのように硬直する千田が、今までの笑みを崩さないまま脂汗を流していた。


言葉を放った秋穂ではなく恋い焦がれる夏子のほうを見ている。


千田の視線に気付いた夏子は一秒ほど視線を合わせた後に冷めた素振りで視線を外す。


椅子に座ったまま身体ごと千田に背を向けた。


明らかに軽蔑している態度である。


「ぁぅぅ……」


小声で幽霊のような声を漏らしてから俯く千田。


どんよりと背景を曇らせる。


先程までの作り笑いが消えていた。


完全に沈没している。


それを見ていた三日月堂が、あわれみながら話を引き継ぐ。


「ストーカーは今現在誘導中だよ。茜ちゃんに化けた三国武氏が月美ちゃんと下校を装いこちらに向かっている最中だ」


「月美と?」


「彼女から志願してね。自分も異能者会に貢献したいとのことさ」


「そうですか……」


少し顔色を濁らせる龍一。


幼馴染の女の子が心配なのだろう。


三日月堂が少年の表情から心中を察する。


「心配ないよ。我々異能者会で最強の朝富士さんが同行している。直ぐそばで見守っているから心配ないさ」


ベテラン空手家でテレポーター。


更に人生経験豊富で強情なぐらい男らしい朝富士を異能者会最強と謳ったのは、三日月堂なりの気配りだろう。


龍一を安心させるためだ。


「ストーカーを誘導する二人が素度夢町駅前に着いたら連絡を暮れるように言ってある。今のところ順調だと先程連絡もあったから、もう間もなく到着するだろう。そしたら我々全員で出動だ」


「我々全員でって、どうする積もりですか?」


「先ずは桜ちゃんに今来栖勇作が異能者かどうかを目視で確認してもらう。その後、ストーカーを人の目が少ない桃垣根神社の境内に誘導して捕獲する。捕獲後は、まあいろいろ話を訊いて、どうするか決めたいと思う。強く釘を刺すか、夏子さんに処置してもらうか――」


釘を刺すとは、三日月堂の約束効果向上能力で秘密を守らせながら佐々木茜へのストーカー行為を止めさせることだろう。


指切りげんまんでだ。


ストーカーが悪意に満ちた異能者だった場合は、夏子の超能力でストーカーの超能力ごと変態趣味を封じてしまうという案だろう。


もしかしたらキーロックを行う現場が見られるかも知れない。


「そこでだ――」


三日月堂の笑みが更に輝く。


その輝きに胡散臭さが一層増している。


怪しくも明るい微笑みを絶やさない三日月堂が続きを語る。


「君には彼女たちと合流してもらい、佐々木茜ちゃんと恋人のふりをしてもらいたい」


「ぁぁ……、そういう作戦ですか……」


会議室を見回す龍一がメンバーの表情を一つ一つ確認した。


三日月堂は満面の笑み、花巻は悪ガキのごとく微笑み、秋穂も悪ふざけの笑みを作っていた。


夏子と桜はすまなそうに苦笑っている。


まだ千田はうつむいたまま沈み込んでいた。


皆の表情から察する龍一は、三日月堂が立てた新たなる作戦から推測した。


そして結論を語る。


「僕を囮にする積りですね……」


「正解だ」


今来栖勇作が異能者だった場合は、自分を囮に使い、まだ分っていない彼の超能力の部分を暴く積りなのだろう。


どのような危険な超能力を有しているか分からない変態異能者相手に、異能者会の女性陣を接触させるわけにはいかないのだろう。


特に夏子のキーロックは貴重だ。


だから龍一を囮に使い、相手の実力を試そうというのだ。


完全に戦わせようという意図が見て取れた。


「流石は蓬松高校の生徒だ。頭の回転が速い」


長テーブルに両肘を付いた三日月堂が両手の指を組み合わせる。


その手で口元を隠した。


我慢できずに吊り上がった口角を隠しているのだろう。見え見えだ。


「釣りには餌が必要だ。嫉妬は良い餌になる。餌は良いものほど効果的だ」


まだまだ異能者会のメンバーとは付き合いが短いが、分ってきたことがある。


三日月堂とは――、こういう人なのだと……。


「まだ君の超能力も不明な点が多いからね。もしも戦いになれば良いサンプルが取れるやもしれない。実戦で申し訳ないが、これも君の為でもあるんだよ。出来るだけ早く、龍一君の超能力を完全解明したいからね」


「はい……」


もっともらしい理由を付ける三日月堂。


そんな言い方をされたら断れない。


大人ってズルイな……っと、思う龍一であった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ