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変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
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58・ヒューマンフェイス

学校で授業を受けている龍一にストーカー捕獲作戦の中間報告が入ったのは昼休みのことだった。


卓己と昼飯の弁当を食べようと準備していると、千田からメールが届いたのである。


龍一は机を寄せ合う作業を中断してスマートフォンの画面でメールを確認する。


それを見ていた卓巳が訊いてきた。


「ん、月美ちゃんから愛のメールか?」


「いや、バイト先からだ」


「へぇ~。忙しい話だな……」


千田からのメールは、こうだった。


『我らが優秀たる異能者会の調査能力で、佐々木茜ちゃんを困らせているストーカーの身元が分かったぞ。完璧にな。完璧にだよぉ!』


千田のメールは、やたらと完璧差を主張する内容だった。


しかも、普段の頼り無い感じとは異なり、強気の文章である。


とてもウザイが我慢してメールを読み続ける。


『ストーカーの身元は、今来栖勇作20歳。素度夢医大に通う2年生で、あの今来栖総合病院の御曹司だ。そこまで分かれば住所だってタウンページで調べられる。もう、包囲したも当然だね。捕まえるのも時間の問題だぜ!』っと――。


龍一も驚いた。


千田が述べた通り異能者会の調査能力に感服したが、それ以上にストーカーの正体が今来栖総合病院の御曹司という件に驚かされた。


今来栖総合病院とは、素度夢町と後母等町の境に建つ大きな病院である。


この辺では一番の規模を誇る総合病院であった。


素度夢町や後母等町だけでなく、絵伝町や椅子缶樽町に住む者たちですら知らない名前では無い。


多くの住人が、何らかの理由で一度ぐらいはお世話になったことがある大病院だ。


報告係の千田は、その総合病院の御曹司が件のストーカー犯だというのだ。


エリートの御曹司が変態ストーカーだというのなら世も末である。


龍一は偏見からか、金持ちは信用できないと感じている。


更に三日月堂からもメールが一通届いていた。


『放課後に、君の出番が待っている。学校が終わったら、すぐさま素度夢町駅前に来てくれ。合流後、特別任務の指示を出す。気張ってくれたまえよ』


「えぇ…………」


メールの文面に、あからさまな悪ふざけを感じた。


きっと、ろくでもない事をやらされる予感がした。


何かを企んでいると想われる。


龍一が感じる不吉な予感は良く当たる。


覚悟しなければならないだろう。


「仕方ない……、か……」


溜め息を溢した龍一が、運命に納得してからスマートフォンをポケットに戻した。


すると、それを見ていた卓己が机を寄せて来る。


いつものように昼食を二人で取る準備だ。


「どうした、龍~。メールを見ながら溜め息をついて。悪い知らせか?」


「ああ、バイト先から放課後に用事があるから急いで来てくれって、連絡が入ってな……」


「湯鬱な仕事なのか?」


「今回はね……」


「金を稼ぐって、大変だな」


「まあね……」


「まあ、その苦労があるからこそ、俺に貢ぐ喜びが達成されるというものだ。大人の世界に感謝しろ、龍~」


「卓己、頭に蟲が湧いているな……。誰がお前に貢ぐものか!」


冗談交じりの会話をしながらいつものように二人が昼食を食べていると、隣のクラスの友人が教室に飛び込んで来た。


情報屋の鶴岡又吉だ──。


彼は龍一の前まで駆け寄るとクルリとスピンターンを見せてからバレリーナのようなポーズで止まる。


なにやら今日は上機嫌のようだった。


「やぁ~、ミスターオカルト。ご機嫌麗しゅう~」


「どうした、又吉。今日はキモイぐらい上機嫌だな」


龍一が本心を述べる。


すると癪に触ったのか又吉が言い返して来た。


「キモイとかいうなよ。キモイやつにキモイ呼ばわりされるとショックだわ!」


「俺、キモイのかよ!?」


「なんならクラスの女子に訊いてみるか?」


龍一が周りを見回すと鹿沼翡翠と机を寄せ合って昼食を取っているグループの女子たちが、龍一たちを嫌そうな顔で見ていた。


なにやらこちらを見ながらコソコソと話している。


明らかに龍一たちを汚物でも見るような怪訝な表情で見ているのだ。


又吉が龍一の肩に手を乗せながら言う。


「訊くまでもないか……。白黒ついたわな」


「すげー、ショック受けるわ!」


確かに、キモイやつにキモイと言われるとショックである。


「そんなことより聞いてくれよ、ミスターオカルト」


又吉が話を切り替える。


本題に入ろうとしている又吉の顔は満面の笑みで輝いていた。


相当今回の話は話題性に長けているのだろう。


「なんだよ、又吉?」


「今日の朝さ、後母等医大で大事件が起きてな!」


満面の笑みで語る又吉とは別に、後母等医大というキーワードを聞いた龍一が顔を曇らせる。


後母等医大に異能者会の面々が調査に入ったことと関係が有りそうだからだ。


悪い予感ばかりが脳裏を過ぎる。


あの人たちは何をしでかしたのかと心配になってきた。


真相を知らない龍一は、十勝冬樹の超能力の内容も知らないのだ。


彼女が猫化能力者(キャットチェンジャー)だと知らない。


十勝冬樹は異能者会のメンバーだが、あまり異能者会の本部には顔を出さない。


理由は経営している喫茶店で動いているからだ。


なので龍一は冬樹とあまり話したことがないのである。


結果、冬樹の猫化能力のことも知らないのである。


異能者会には暗黙のルールがある。


否。異能者たち全体にある暗黙のルールといえよう。


異能者の超能力や変態趣味は、本人が語らない限り、他人が他人に勝手に語らないことになっているからだ。


本部にある黙示録には記載されているらしいが、それを見たことがあるのは作った本人である三日月堂だけであった。


弁当のごはんを口元に運びながら卓己が訊いた。


「又吉、後母等医大で何が起きたんだ。爆弾テロとかか?」


「ちがうよ~、卓己くん~。そんなありふれた事件じゃあないんだよ~」


ルンルン気分で語る又吉であったが、爆弾テロをありふれた事件と揶揄するところは異常だと思う。


テロは大事件の部類だろう。


「テロよりすごい事件ってなんだよ?」


「今日の朝からネットで大騒ぎになっているんだ。後母等町の事件がね」


「ネットで?」


「そうさ、ネットでねぇ~」


焦らされた卓己が素っ気なく言う。


「早く言わんと、聞いてやらんぞ。俺も龍~も、午後からの授業を乗り越えるための栄養補給に忙しいんだからよ」


「まあまあ、そう言わずに聞きたまえ、好青年たちよ」


あいかわらず勿体ぶる又吉に龍一と卓己が呆れ顔を作る。


もうどうでもいいやと龍一が溜め息を吐いた。


すると勿体ぶりすぎたことに気付いた又吉が、慌てて本題に入った。


「今日な、今日な、後母等町医大でな。人面猫が出没したらしいんだよ!」


「はぁ~ん、人面猫?」


落胆にも近い表情で言う卓己。


勿体ぶったわりには、普段以上に胡散臭いことを言い出したと呆れている様子だった。


人面系の怪談とは古臭いネタだ。


オカルトを研究している龍一ですら笑い出しそうな話である。


卓己が小馬鹿にするように言う。


「おいおい、又吉。人面猫だって?」


「そうとも、人面猫さ!?」


「人面猫って、あれか。人面犬とかの類いか?」


「そうさ、だからさ、その人面犬の類いの人面猫さ」


「ネタが古くね。昭和かよ」


卓巳が両手を広げてオーバーアクションで呆れてみせる。


すると又吉が口を尖らせながら反論する。


「古いとか古くないとか関係ないだろ。今起きている事件だぞ。人面系怪談の再ブレイクだってあり得るぞ!」


ここで龍一が口を挟んだ。


「人面猫とは珍しいね。大抵が人面系の怪談と言えば人面犬か人面瘡が普通だからね」


「「人面瘡?」」


人面瘡というキーワードに卓己と又吉が同時に首を傾げる。


それを見た龍一は、人面瘡が一般的でない妖怪だと遅れて気付いた。


人面犬は単純で有名だが、人面瘡はマニアックなオカルトかも知れない。


それを察した龍一が、うんちくを語り出す


「人面瘡ってのは昔の京都に出現した妖怪の部類でね。葛飾北斎の新累解脱物語にも画かれている現象さ」


「「現象?」」


卓巳と又吉の疑問の声が重なった。


「そう、怪談と言うより現象って言ったほうが、俺は適切だと思う」


龍一が話し出したところで又吉がスマートフォンをテープレコーダー代わりに録音を始めていた。


収録して、後で自分なりに編集する積りなのだろう。


「人面瘡は人の体に現れる人面系の妖怪で、腕や背中の肉が爛れだして人の顔に変化するんだ。その顔が汚らしい言葉で罵倒を繰り返したり、毒を吹いたり、噛みついたりとしてくる。表情は醜く鬼のごとしってね。しかも肉面を切り落としてもまた生えて来るときたもんだ」


卓巳が言う。


「そんなスタンドいなかったっけ?」


卓巳の発言を無視して又吉が問う。


「それが何で現象なんだ?」


「それは、人面瘡が現れた人物は奥部屋に引きこもって人目をさけるんだ」


「そりゃあ、体に人の顔が現れたら、人前には出れないか……」


「俺の予想からして人面瘡の正体は糖尿病だと思う。だから現象なんだ」


「「糖尿病?」」


また二人がハモる。


「そう、鎌倉幕府時代の貴族はよく酒を嗜む。その酒が今の時代の酒とは違ってトロットロの酒で糖度が半端じゃなかったらしいんだ。だから糖尿病になる貴族が続出していたらしい。この糖尿病の話は大学の研究論文で良くある話なんだ」


「「へぇ~~」」


三度ハモる二人。


「糖尿病なんて知らない時代だったからね。しかも糖尿病の度合いも皮膚が爛れるほどの重症さ。身体が爛れれば、それが人面瘡にも見えるだろうし、顔が爛れれば鬼に変化したとも思われる。それが引き籠りになる理由さ」


又吉が顎を撫でながら言う。


「興味深い話だが、今回の事件とは関係ないな」


「そうだね。人面猫の話だったよな」


龍一が改めて怪談学を語る。


「今までの人面系の怪談と言えば人面瘡や人面樹のように何かに顔らしき模様が浮き上がってくる類いと、動物の首をそぎ替えたような類いが報告されているんだ」


又吉が元気良く答える。


「今回は、後者だ!」


「でもね、動物系の首をそげ替えた妖怪で、人面猫ってやつは、稀なんだ。てか、聞いたことがない」


「まれ? 人面猫がいないのか?」


「人面系の妖怪で一番ポピラーなのは人面犬だ。それは知ってるよな?」


「それは知ってる」


「その他に人面樹、人面魚、人面蟹ってのもいるけど、人面猫ってのはいないんだ」


「何故いないんだ?」


「猫は賢く巧みだからさ」


意味が分からないと又吉が首を傾げる。


「化け猫ってのは、頭部だけを人化させなくても全身を変化できるのが普通の説だ。中途半端に変化したとしても体が人間で表情だけが猫のパターンが多い。化け猫を想像してみろ、大抵がそうだろ」


卓己と又吉が、脳内で化け猫をイメージする。


確かに化け猫のイメージは龍一の言う通りだった。


障子が有る部屋で、人の体に着物を着込み、夜な夜な行灯の油を舐めている化け猫のイメージが浮かんでくる。


寧ろ、それしか思い付かない。


「体が動物で頭部が人間ってのは、人面犬の十八番だ。猫じゃない。日本では犬ばかりだ。中国の妖怪で人の頭を持つ動物の妖怪も多々居るが、やはり猫は居ない」


「でも、今回の医大の事件は猫だ。犬じゃない」


「まあ、そんな訳で人面猫に関して語りようがないんだ。俺ですら人面猫なんて聞いたことがないからね」


「だが、今回ネットにアップされた動画は人面猫なんだよ」


「動画があるのか!」


龍一は純粋に驚いた。


「ああ、言わなかったか。複数の写真と動画もアップされている」


「マジでか!?」


写真があるだけで驚きなのに、動画まであるとは心底驚いた。


だが、動画がある分だけ疑いも濃くなる。


今の時代で動画の加工は簡単だ。


スマホのアプリで誰でも作れる。


「見せてくれ、又吉。その動画を」


「はいよ。ミスターオカルト」


又吉はスマートフォンで数枚の写真から龍一に見せた。


どれもこれも手振れが酷く距離も離れていた。鮮明ではない。


しかし黒猫の頭部が大きいのは、確かに分かった。


良く見れば、人の頭のようにも見える。


龍一は、数枚の写真から一番鮮明な写真を凝視した。


黒髪でベリーショート。


少年のような顔立ち。


しかし表情までは確認できない。


背を向けて後頭部しか写ってない写真や、ぼやけた物ばかりである。


それでも人面猫と言えば人面猫の写真であった。


ただしインチキ臭い。


「動画のほうも見せてくれ」


「ああ、分かったぜ」


又吉が今度はスマートフォンで動画を再生する。


龍一と卓己は顔を寄せながらスマートフォンの画面を食い入るように観た。


「手振れが酷いな。音声も悪い……」


卓己の言う通りだった。


画像は手振れが酷く、音声には騒ぎ立てる人々の声が雑音と化して混ざっていた。


動画に映る人面猫はカメラの10メートル先を横切りそのまま尻を向けて疾走して行った。


数秒後には医大の平垣を飛び越えて姿をくらます。


「画像からは、本物かどうか判断できないな……。黒猫に被り物を被せただけにも見えるしよ」


卓己の意見に龍一も賛成であった。


猫の走り方も可笑しいし、画像が悪すぎてインチキにも見える。


兎に角、胡散臭い。


二人がスマートフォンで繰り返し画像を観ていると、又吉が言う。


「今現在、後母等医大のツチノコ探検隊サークルの面々が部隊を編成して人面猫を捜索しているそうな。その動画がライブで配信されているんだけど、未だ人面猫の捕獲には至っていない。それどころか

再発見の報告すら上がっていないんだ」


「「ぁぁ…………」」


一気に脱力する龍一と卓己。


最後に述べた又吉の現在の報告に落胆した。


「この事件ってさ……」


「なんだい、ミスターオカルト?」


龍一と卓己の結論は、こうだった。


「この事件ってさ。そのツチノコ探検隊サークルのでっち上げじゃないのか……」


「炎上商法じゃあね?」


暫し黙り込んだ又吉が天井を眺めた。


そして視線を龍一に戻してから述べる。


「やっぱり、そう思うよな……」


「「うん……」」


三人の結論が纏まった。


テンションの落ち着いた又吉が、スタスタと帰って行く。




明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします(^^)/

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