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変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
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57・黒猫探検家

赤茶色のベストを着た黒猫が医大の敷地内を優雅に闊歩していた。


正門側の平垣を飛び越えてからは、草木の陰に隠れながら進む。


忍姿は堂々たる素振り。


まるで自分の家の庭でも歩いているかのように――。


立ち止まった黒猫が背筋を伸ばして辺りを見回す。


まだ大学は授業が始まっておらず、校舎外のあちらこちらで眠たい顔の医大生たちがフラフラしていた。


検便で真面目な医大生たちは授業の準備で校舎内に入って行く。


外のベンチでダラダラしている数人の学生たちは藪医者候補だろう。


気怠くてやる気もない。


そんな藪医者候補の学生たちを無視して辺りを見回す黒猫は、しばらくして今回のターゲットを発見する。


黒い野球帽に青いジャンパー。


背中にはリュックを背負っている。


猫の目からしても洋服のセンスの無さが見て取れた。


おそらくは彼女が居ない歴と今まで生きてきた年数が一緒だろう。


黒猫はストーカー犯の後を付ける。


ストーカー犯が校舎内に入って行っても構わず後を付けて行く。


校内を歩む黒猫に気付いた別の学生が視線を向けるが黒猫は気にしない。


堂々とストーカー犯の後を付け回す。


誰に気付かれても構わないといった素振りであった。


黒猫はストーカー犯の後を付け回して校舎内を自由に歩き続けていた。


廊下ではストーカー犯と数人の医大生がすれ違っては挨拶を交わして行く。


ストーカー犯からではなく、別の医大生のほうからストーカー犯に挨拶をするのであった。


「おはよう」「こんにちわ」「おはようございます」と――。


挨拶を投げ掛けられたストーカー犯は、小さく頭を下げながら、挨拶を小声で返す。


なんともマナーとモラルが教育された大学なのだろうと黒猫は思った。


そしてまたストーカー犯が三人の女学生とすれ違った。


すると三人の女性が三人とも頭を軽く下げてストーカー男に明るく挨拶をする。満面の笑顔でだ。


好感度が高く窺えた。


黒猫は違和感を感じて首を傾げる。


件のストーカー犯は、どう見ても人気者に成れるようなカリスマ性を持ち合わせた人物には見えない。


寧ろ女性たちには生理的に嫌われそうなタイプだ。


気弱で、根暗で、ダサくて、オタクっぽい。


高校生のころは教室の空気として無視されていそうなのに――。


それなのにすれ違う学生の殆どが挨拶をするのであった。


明るく、爽やかにだ。


ストーカー男とすれ違った女学生三人組。その女学生の一人が黒猫にも気が付いた。


「あら、迷子さんかしら?」


廊下の端を歩く黒猫に気付いた女学生の一人が腰を下ろした。手を伸ばして猫を捕まえようと試みる。


「ニャァ」


しかし黒猫はスルリと滑らかな動きで女学生の手から容易く逃げて見せる。


「あら、もう……」


それ以上女学生は、逃げた黒猫に構ってこなかった。


黒猫は振り返りもせずに、そのままストーカー犯の追跡を続けた。


ストーカー犯は階段を上って三階に向かう。


その間も幾人もの医大生とすれ違うが、絶え間なく挨拶を交わされていた。


フレンドリーにだ。


やはり別の医大生のほうからストーカー犯に挨拶をする。


やがてストーカー犯は教室の中に入ると空き席に腰掛け授業を受ける準備を始める。


黒猫は教室に入らず入り口から中の様子を窺っていた。


別の生徒たちが教室に入る際に、黒猫を不思議そうに眺めていたが、逃げも隠れもしない黒猫に首を傾げながら通り過ぎて行くばかりだった。


生徒たちは教室に入って席に付いても、入り口から教室内を覗き見ている黒猫を不思議がってチラチラと見ている。


黒猫の存在に気付いていないのはストーカー犯と数人の生徒だけである。


しばらくして授業が始まる鐘がなると教授と思われる老紳士が教室に入って来る。


教壇に立つ年老いた教授は萎れた声で言った。


「今日は出席を取ろうと思います。名前を呼ばれたら返事を――」


生徒たちがざわめき、愚痴る者も居た。


最近の大学では昔ながらの方法で出席を取らない。


出席カードの提出や、最新では電子パスなどを使っている。


だから、抜き打ちの点呼だった。


教授が一人一人の名前を読み上げて行く。


声を出して答える者、挙手だけで答える者、様々だったが、その様子を黒猫は開いた扉の入り口から感心気に見ていた。


学生たちが猫が気になって入り口の扉を閉めないでおいたのだ。


そして老教授が次々と名前を読み上げて行く。


そして、ある名前を読み上げた。


今来栖勇作(いまくるすゆうさく)くん」


「はい……」


件のストーカー犯が小さく挙手しながら答えると、黒猫が大きく瞳を見開きながら背筋を伸ばした。


そして、黒猫が走り出す。


来た道を引き返し、階段を駆け下りて、開いた扉から中庭に飛び出した。


一目散に植木の陰に隠れる。


「もしもし、こちら冬樹です。千田さん、聞こえますか?」


『ああ、冬樹ちゃん、聞こえますよ』


黒猫は人語を喋っただけであらず、着こんだベストに備えられた携帯電話で千田と連絡を取っているのだ。


何よりも奇怪なのは、植木の陰に隠れている黒猫の頭部が人間の頭に変化していることであった。


人間の頭部に黒猫の体。まさに妖怪の成りである。


「やりましたよ。ストーカーの名前が分かりました」


黒猫の胴体に人の頭。


歓喜に溢れる笑顔は整った美形。


スラリとしたシャープな顎先に黒髪のベリーショート。


一見美少年の物に見えるが声からして乙女だ。


『本当かい。でかしたよ、冬樹ちゃん。で、なんて名前なんだい?』


「イマクルス ユウサクです!」


『イマクルスって、あの今来栖かい!?』


「おそらく、あの今来栖の関係者かと」


手柄を立てて上機嫌な黒猫は、人間の頭部でニコニコと笑い続けていた。


そこに――


「きゃっ!!!!」


「えっ?」


植木に隠れる人間の頭部を持った黒猫。


その背後は校舎の壁。


その壁には窓が有り奥は廊下。


その廊下から先程の女学生三人組が外を見ていた。


人間の頭部を備えた黒猫と、三人の女学生が視線を合わせて硬直していた。


女学生の一人が呟く。


「じ……人面……猫……」


「あぁ……、見られた……」


時が一気に加速した。


「きゃぁぁぁあああああ!!!!!」


「人面猫だぁぁぁああああ!!!!」


「写真撮って、スマホで写真撮って!!!」


「不味い、逃げなくっちゃ!!!」


慌てた黒猫は人間の頭部のまま医大の敷地内を走り抜けてから平垣を飛び越え姿をくらます。


その間に数人の医大生に目撃されたうえにスマートフォンで何枚か写真を撮られた。


これが後母等町医大の人面猫伝説の始まりとなろうとは、当人の十勝四姉妹の四女である十勝冬樹も知る余地がなかった。


ちなみに、十勝冬樹の超能力は、猫にだけ変身できる猫化能力(キャットチェンジャー)である。






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