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変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
56/61

56・策士 三日月堂

今回の話は、後母等町駅前から始まる。


その前に、少しばかり素度夢町と後母等町の話をしよう。


素度夢町と後母等町は、別名双子町として有名である。


広さ、形、人口、経済規模、発展率ともに、ほぼほぼ同じぐらいであるが、特徴が微妙に異なる双子町である。


双子は双子でも一卵性の双子ではない。


二卵性と言っても過言ではないだろう。


その理由は、街並みの特徴である。


素度夢町は駅前からメインストリートに掛けてオフィス街となっている。


食事処や居酒屋も多く、立ち並ぶショップもサラリーマンやOL向けのお店が多い。


大人の街と呼べよう。


それに比べて後母等町駅前は、学生たちの街と言える。


駅前近辺には月美が通う後母等女子高校の他に、男女共学の高校が二校在る。


小学校も二校、中学校が一校、更に医大が一校在る。


専門学校に関しては、ビジネス科、コンピューター科、デザイン科などを有した学校が三校も在る。


駅前に立ち並ぶビルには塾の看板も多い。


故に後母等町駅前は素度夢町駅前に比べて学生の姿が多く見受けられる学生密度の高い街である。


要するに学生の街なのだ。


社会人の街、素度夢町。


学生の街、後母等町。


それが近隣に住む人々の認識であった。


そして、朝の通勤ラッシュ時。


後母等町駅のプラットホームの一つに一本の電車が到着する。


電車は通勤時だけに満員であった。


鮨詰めとまでは言わないが、早朝から乗り合わせるにはストレスが溜まる程の混雑と言えよう。


満員電車が停止後、扉が開くと乗客がトコロテンのようにホームへ押し出されていった。


その波は真っ直ぐ改札口に流れ進んで駅の外へと放流される。


すると人々が後母等町に散って行く。


その流れの中に、多くの学生たちの姿があった。


三種類の制服を着た若者たちが、北、西、東へと分かれて歩いて行く。


各々が通う高校へと向かっているのだろう。


西の大通りは四車線ある。


その歩道をセーラー服姿の女学生たちが多く歩いていた。


独りで歩く女子。


友達と賑やかに話しながら歩く女子たち。


駆け足で進む女子。


女子女子女子と、さまざまだ。


彼女たちが後母等女子校に通う乙女たちであった。


そのセーラー服姿の女子高生の中に、同じセーラー服を着た男性が一人だけ混ざって歩いていた。


だが、その人物が男性だとは誰も気付かなかった。


彼は完璧に女子高生に化けているからだ。


セーラー服だけでなく、顔も、髪型も、体型も、下着も、女の子そのもの。


歩く姿こそぎこちないが、どこから見ても後母等女子の女学生であった。


周囲の女学生たちに、完全に溶け込んでいる。


『朝富士さん、ストーカーの姿は確認できましたか?』


「ああ、露骨に怪しい人物が食いついとるわい」


本部の会議室からスマートフォンで朝富士に問うのは千田和人であった。


ハンチング帽を被り、トレンチコートの襟を立てた朝富士が、囮となった三国武の後方20メートル程を歩いていた。


セーラー服の偽茜とトレンチコート姿の朝富士の間ぐらいに、露骨に怪しいと揶揄された人物が歩いている。


露骨に怪しい人物は、誰が見ても怪しい身なりであった。


黒い野球帽を深々と被り、サングラスとマスクで顔を隠した男性。


ダサイ柄の青いジャンパーにGパン姿の男性は、リュックを背負った背中を丸めながら物陰に隠れて偽茜の後を追っている。


ブロック塀やビルの陰、電信柱や店の看板に隠れる姿は、行動からしても露骨に怪しかった。


この男が件のストーカー犯だろうと余裕で分かるほどにだ。


朝富士はイヤホンを嵌め、トレンチコートの襟に仕込んだピンマイクで千田と話している。


「気付いていないようだな。尾行にも、あのお嬢ちゃんが偽物だってことにも」


『そりゃあ、気付かないだろうね。お坊さんの模倣女体化は完璧な変装ですよ。それに本物の茜ちゃんと、三国武氏の、おどおど感は類似していますからね。まずまずバレないでしょう』


「だと、いいんだがな……」


『朝富士さん、そろそろ尾行の交代です。今度は春菜さんに交代になりますので離脱をお願いします』


「ああ、承知した」


トレンチコートのポケットに入れてあったスマートフォンを切ると朝富士は立ち止まる。


露骨に怪しい人物の背中を見送った。


するとショルダーバッグを肩から下げた十勝春菜が立ち止まった朝富士の横を過ぎて行く。


彼女は朝富士とすれ違うさいに、ニコリと微笑みながら会釈した。


セーラー服姿の女子高生に混ざって歩く30代ぐらいの女性は、周囲の女学生たちの視線を集めていた。


両肩が見える黒い洋服に膝上のミニスカート。


黒のストッキングに黒いヒール。


喪服にしては少し派手な感じがするから私服なのだろう。


背中まである長い髪はソバージュが掛かり、薄目の化粧が美しい顔立ちを引き立たせている。


何より女学生たちの視線を集める理由と成っているのは彼女のビューティフォーなスタイルであった。


引き締まった細い腰と、魅惑的なヒップ。


スラリと伸びた長い美脚。


そして、憧れるほどの豊満な巨乳。


女神を連想させる理想的なプロポーションに女学生たちは、ただただ憧れの視線を向けるだけであった。


将来は、あのような大人の女性に成りたいと──。


「千田さん、朝富士さんと交代しましたわぁ。これからストーカーさんの後を追いますね」


『はい、お願いします春菜さん』


セカンドバッグを肩にかけて進む春菜はヒールの踵をカツカツと鳴らしながら歩く。


春菜も朝富士同様にイヤホンを片方の耳に嵌め、豊満な胸元にピンマイクを仕込んでいた。


ストーカーは偽茜を追いかけるのに夢中なのか、春菜の尾行にも気付いてもいない。


一度も振り返るどころか周囲の視線すら気にしていないのだ。


これが日常化しているのだから怖い話である。


やがて偽茜が後母等女子の校門に到着する。


偽茜は、さぞあたり前のように学校内に入って行った。


その後に裏門から出て、本物の茜と入れ替わる予定だ。


授業は本物の茜が、ちゃんと受けることになっている。


三国武の役目は、とりあえずここまでだった。


一方のストーカーは、流石に校内の敷地には入って行かなかった。


校内に入れば大騒ぎになることは分かっているのだろう。


そこまでモラルに欠けたクレージーな人物でも無い様子だった。


ストーカーは、しばらく校門を物陰から見ていたが、やがて踵を返す。


駅の方角へ戻って行った。


朝のストーキングは終了なのだろう。


帰り足のストーカーは、もう怪しい行動は取っていない。


物陰にも隠れず堂々と歩道を歩いている。


後を付けていた春菜とすれ違うが彼女の豊満な胸すら見なかった。


チラ見すらせずに肩を落として寂しそうに過ぎて行く。


ストーカーの彼は、茜と同じ制服を着た女学生や巨乳の美女には興味すら示さない。


ストーカーとすれ違った春菜が千田に指示を仰ぐ。


「これからどうしますのぉ。私、今ストーカーさんとすれ違っちゃいましたよ。顔を見られたかも」


見られていない。


『では、ストーカーの尾行は三日月堂さんと交代です。これからストーカーが何所に向かうかの調査です。運が良ければ彼の住まいが解るかも知れませんからね』


「あの人、お家に帰るかしらぁ」


『さあ、どうでしょうかね。でも、何所に向かうかは大事です。住まい、仕事場、何所に向かっても、彼の身元が分かるヒントになりますからね。まずは、彼が何所の誰だかを突き止めるのが先決です。――って、三日月堂さんが言ってましたから』


そう、千田は、三日月堂の台詞を反芻しただけであった。


今回の作戦を立てたのは策士の三日月堂である。


ある一定の距離を交代で尾行する案も三日月堂が立てた策であった。


同じ人物が、ずっと尾行していたらバレる可能性が出て来る。


その為の安全策だった。


そして、今度は作戦の発案者の三日月堂本人がストーカー犯を尾行する番だ。


千田は春菜との通信を着ると三日月堂のスマートフォンに電話を入れた。


直ぐに三日月堂が出る。


「もしもし、こちら三日月堂」


『三日月堂さん、今度は三日月堂さんの順番です。ストーカーの尾行をお願いします』


「はい、了解しました」


いつものカジュアルなジャケットを羽織り、インナーは白いワイシャツにノーネクタイである。


そしてイヤホンとピンマイクを装着。


ごくごく普通の身なりの三日月堂が、駅前方向に戻るストーカー犯の後を追う。


いつもと違うのは、デパートの紙袋を片手に下げていることぐらいだ。


中には何やら黒い塊が入っている。


10メートルほど離れてストーカーの後を追う三日月堂が、トボトボと歩くストーカーの背中を見ながら観想を述べた。


「それにしても警戒心の欠片もないストーカーだね。いままで我々の尾行に、気付いてもいないんだろ」


『ええ、気付くどころか警戒すらしていないと二人から報告が有りましたからね。三日月堂さんの作戦も台無しと言いますか、無駄だったと言いますか……。交代までして注意を払う必要がなかったかも知れませんね』


「なんだか、こっちがガッカリしますよ……」


『まったくですな……』


「もしかすると――」


『もしかしますと?』


「それだけ自分のプレゼントされた超能力に自信があるのですかね?」


『そうだとすると、羨ましい話ですよ。僕なんて……』


千田の超能力は錬金術系である。


自分が書いた生原稿を黄金に変える。


金銭的には豊かになれる凄い超能力だが、生原稿を書かなくてはならないという苦労もある。


そんな苦労もあってか異能者会の資金面は潤沢であった。


経費に困ったことがない。


黄金の錬金術師である千田様々なのだ。


そんな彼は戦闘に使えるヒーロー的な超能力に憧れていた。


派手に戦い、カッコ良く活躍する。


そんな姿に憧れていたのだ。


そのほうが女性にもモテると考えている。


ほぼほぼ女性にモテたいだけなのかも知れない。


『彼の超能力はなんでしょうかね?』


「それもこれから調べなければならない案件だよ。彼の超能力が謎なのは困る。警察官の職務質問から逃れるほどの能力だ。作戦の第二段階に進むまでには調べ上げておきたいからね」


作戦の第二段階とは、ストーカーを誘き出して捕獲する作戦である。


その為にも先ずは、ストーカーの個人情報を含めて超能力の詳細を調べ上げておきたいのだ。


作戦の第二段階に入れば戦闘もあり得る。


逃走されることもあり得る。


超能力の詳細が分かれば戦い方や捕獲方法が決められる。


万が一に逃げられたとしても住所が分ればいくらでも追い詰められる。


策士の三日月堂は、そこまで考えてストーカー捕獲作戦に臨んでいるのだ。


そんなこんなしているうちに、件のストーカー犯は後母等町駅前を過ぎて町の北側に進んで行った。


こちらの方向には男女共学の高校と医大がある方向で有った。


更にストーカーは高校の前を過ぎて医大の有る方角に進んで行く。


その頃には、ストーカー犯もサングラスやマスクを外して素顔を晒していた。


20代ぐらいの冴えない若者だった。


顔立ちは平凡な青年である。


痩せてスマートだが、カッコいいという印象は無い。


「彼はまさかして、医大生かい……」


後母等町医科大学病院。


三日月堂が後を追うストーカーは、そのまま医大の敷地内に入って行った。


三日月堂の言う通り、ストーカーは医大の関係者のようだ。


関係者以外立ち入り禁止の看板を見ながら三日月堂が言った。


「流石にこれ以上の尾行は無理かな……。医大内には、入れないか」


医大の門前には警備員の詰め所がある。


まだ通学時もあってか警備員は詰め所から出て門前に立っていた。


これでは部外者の三日月堂では入って行けない。


30代を過ぎている三日月堂では、学生のふりおして入って行けないだろう。


おそらく警備員に止められて、いろいろ質問されるだろう。


「さてさて、そろそろ眠れる美女の出番かな」


そう述べると三日月堂はデパートの紙袋を地面に置いた。


それから紙袋の中に両手を突っ込んで、中に入っている物を取り出す。


「お姫様、出番ですよ」


三日月堂がデパートの紙袋から取り出したものは、一匹の黒猫だった。


両脇を三日月堂に抱えられながら取り出された黒猫は、ダラリと胴体を伸ばしながら大きな欠伸を一つした。


「フニャ~~……」


黒猫は赤い首輪を嵌め、赤茶色のベストを着ている。


そのベストにはポケットが一つあり、使い捨ての携帯電話が差し込まれていた。


携帯電話が落ちないようにポケットにはチャックが閉められている。


そして携帯電話から伸び出たイヤホンが猫の片耳に嵌められていた。


首輪にはピンマイクが装着されている。


今まで尾行に投入された異能者会のメンバーと同じような通信装備であった。


「さあ、行ってらっしゃい」


「ニャァ~」


黒猫は一鳴きすると、三日月堂の手を離れて医大のほうに進む。


ジャンプ一つでブロック塀を飛び越えて医大の敷地内に入って行った。


そのままストーカー犯の後を追う。


黒猫は自分が何をしなければならないのか理解している様子だった。


行動からして、とても賢い猫である。





最近の不満は、仕事が忙しいことです。一日四時間五時間の残業は厳しいです。小説を書く時間がなかなか取れないです。

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