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変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
53/61

53・心の具現化

龍一は動転していた。


己の身に起きた奇怪な現象に驚愕しているのだ。


右頬から流れ出る黒い霧の滝。


それはもくもくと流れ転がり足元に溜まりだすと漆黒の泉と化して行く。


「うわわぁぁ!?」


恐怖に声を震わす龍一が、パイプ椅子に拘束されながらも両足をバタつかせていた。


しかし、足元に落ちる漆黒の霧は拡散することなく溜まり大きさを広げて行く。


「落ち着いて、龍一君!」


宥める三日月堂もあまり落ち着いていない。


いつもの冷静な顔が引きつっている。


朝富士が静かに延べる。


「また怪物が出てくるのか?」


ここにいるメンバーの中で一番の年配である朝富士は落ち着いていた。


この人もカヲルの心を具現化させたミイラのモンスターを現場で見ている。


流石は経験豊富な年配者だ。二度目の体験に動じていない。


徐々に黒い煙が龍一の足元に溜まって漆黒の水溜まりを作り出すと、そこに皆の注目が集まった。


若干だが怯える千田が述べた。


「あの中から怪物が……。心を具現化させたモンスターが出てくるのですね……?」


千田は龍一の能力を見るのが始めてである。


報告は受けていたが、これが初見となるのだ。


「おそらく今回具現化されるは月美ちゃんの心だと思う」


「何故ですか、三日月堂さん。なんで私の心が具現化されちゃうんですか!?」


月美が慌てながら三日月堂に問う。


「きっと龍一君の超能力が発動する条件は、肉体的ダメージだ。龍一君に極度のダメージを与えた者の心を具現化させる能力だと思う」


そして、三日月堂は自分の拳で自分の頬を殴るポーズを見せながら言った。


「ほら、さっき月美ちゃんが殴り倒したでしょう」


事実である。


「うそぉ~ん……」


月美は自分が下した摂関を悔やむ。


廃工場での出来事を思い出す月美は眼に涙を潤ませていた。


あの時、具現化されたカヲルの心は、本人の意思を無視してこっぱずかしい言葉を連呼していた。


連呼――。


そう、連呼である……。


「いやーーーー。そんなの嫌~~~~ん!」


もしも、自分の心が具現化されれば同じようにこっぱずかしい台詞を連呼するのではと、月美は焦りまくる。


動揺が全身からハラハラと漏れ出す。


「やっぱりまた、包帯巻きの化け物が出て来るのか?」


花巻はミイラのことを言っている。


今回もミイラが出て来て恥ずかしい月美の内面を暴露するのではと予想していた。


「ミイラとは限りませんよ。たまたまカヲル君の時はミイラでしたが、今回は別の姿かもしれません」


三日月堂の説も有りうる。


前回と同じ化け物が出てくるとは限らないだろう。


「そうよ、今回の具現化は私の心でしょう。きっと出てくるのは絶世の美しさを容姿に持った天使よ。ラブリーでプリティーなエンジェルの姿で出て来るに決まっているわ!」


興奮した月美が述べるは、淡い願望だった。


おそらく今回登場するのは月美の心なのは間違いないだろう。


トリガーを引いたと思われるのは月美しかいないのだからだ。


彼女が述べた通り、具現化する心が綺麗で美しければ天使の可能性も有るかもしれない。


月美は両手を組み合わせて祈っていた。


暫くすると、床に溜まった黒煙から空気が呻る音が響き始める。


不快で耳障りな怪音であった。


花巻が言う。


「なんかよ……。いゃ~な音するぞ……。本当に天使が出てくるのかよ?」


千田も不快な顔で答える。


「確かに、天使が出てきそうな音じゃないね……。なんと言いますか、地獄の底から聴こえてきそうな音のような……。亡者の嘆きのような……」


「そんな、そんなぁ……」


花巻と千田の言葉を否定しない月美が狼狽える。


黒煙から聴こえる不気味な音に自信が消失して行くのだ。


月美の希望が、どんどんと薄らいで行く。


そして、声が聴こえた。


『りゅ~~うぅ~ちゃ~~~ん』


ついに床に広がる黒雲から薄気味悪い声が聴こえ始める。


それは、女の子の声だった。


『わぁ~たぁ~しぃ~のぉ~、りゅ~~うぅ~ちゃ~~~ん』


声色が変わっているが月美の声だった。間違いない。


「私の声……」


「間違いない……、月美の声だ……」


本人も認めたし、産まれてこれまで幼馴染として隣り合わせの家で育ってきた相手の声を龍一も聞き間違えなかった。


床の黒煙から聴こえ出た声は、間違いなく月美の怪声である。


「出てくるぞ!」


黒煙が大きく波打つのを見て花巻が大きな声を上げた。


直後、黒煙から腕が突き出る。


天を掴むように伸び出た腕は怪奇な物だった。


しかし、ミイラの腕ではない。


腕全体が緑色で魚の鱗のような物に覆われており、ヌルヌルとした光を弾いている。


指先の爪は鋭く尖り、五指の間は水掻きで繋がれていた。


「キモイのが出て来たぞ、おい……」


「そんなことないもん!」


花巻の意見を、月美が力強く否定する。


「まだ腕しか出てないじゃない。ここからよ。体は絶世の美女よ、天使よ、きっと!」


月美の淡い期待を無視して全身を露わにする謎の怪物。


先に出た腕を使い上半身を黒雲の穴から引きずり出す。


その姿は――。


「半魚人じゃね~か……」


「あぅぅ……」


花巻の述べた通りだった。


出て来たのは半魚人の上半身である。


胸の膨らみが有り、腰にはセクシーな括れ《くびれ》を有した女性の体型──。


しかし、半魚人である。


ギョロリとしたつぶらな瞳は顔の左右まで広く離れている。


耳はなく代わりに口が耳のあるはずの位置まで釣り上がって裂けていた。


その大きな口からはホオジロザメを連想させる鋸のようなギザギザの牙が白く輝いていた。


腕同様に上半身は緑色の鱗に覆われており、頭のてっぺんから背中に渡って背びれが生えている。


かなりリアルでグロテスクだ。


「私の心、キモ! なんで天使じゃないのよ、ショックだわ!!」


「わたし、ダメかも……。ふぅ~……」


「いゃぁぁぁああ。茜ちゃんが気絶したよ!?」


龍一の足元から這い出て来るグロテスクな半魚人を見て、茜が気を失ってしまう。


倒れるところを月美が受け止めた。


「茜ちゃん、気絶なんかしないで。あれでもあれは私の心なのよ!」


奇怪な怪物の姿は、気弱な女子高生の茜には刺激が強すぎたらしい。


それも仕方あるまい。


異能者に成ったとはいえ、つい最近までは普通の女子高生だったのだから。


千田が気絶した茜を気づかい駆け寄った。


支えるのに手を貸しながら言う。


「女の子には刺激が強すぎだね、この半魚人は……」


「千田さん、まだ分からないわ。まだ上半身しか見えてないじゃない。きっと下半身は絶世の美女よ。天使の下半身よ!」


「いやいや、下半身だけ天使でもね……。やっぱり半魚人は半魚人だよ……」


月美がなんやかんや叫んでいる間に件の半魚人は黒煙の泉から全身を引っ張り出して立ち上がる。


やはり下半身も鱗肌であった。


立派な半魚人である。


「下半身も完璧な半魚人じゃねぇ~か、天使な要素はゼロだぜぇ」


「ああ、私の最後の希望が潰えたぁ!!」


周りの動揺を無視してリアルな半魚人が両目をギョロ付かせながらしゃべり出す。


『わぁ~たぁ~しぃ~のぉ~、りゅ~~うぅ~ちゃ~~~ん。りゅ~~ちゃ~~んはぁ~~、わぁ~たぁ~しぃ~のぉ~も~の~~』


「ちょっとそこの魚類人間。なに人の心を暴露しまくってるのよ。キィー!」


「まあまあ、落ち着いて、月美ちゃん」


「はなしてー、三日月堂さ~ん!」


飛び掛かろうとする月美を三日月堂が後ろから羽交い締めにする。


この光景を、以前にも見たような記憶があると数人が思った。


『ギョギョギョ~』


「こっち見た!?」


半魚人が龍一のほうを向く。


椅子に拘束されている龍一を見下ろす口からネバついた涎が流れ落ちた。


「三日月堂さん、三日月堂さん! ガムテープを解いて、解放してください! 逃げないとヤバイです!!」


龍一に危機が迫る。


『りゅ~ちゃぁ~ん、はっけ~~ん。りゅ~ちゃぁ~んだぁ~。ゲコゲコ~』


猫背でゆっくりと歩み進む半魚人は奇怪に笑っていた。


視線が定まらずギョロギョロとしている瞳が龍一の恐怖心を更に煽る。


「ぎゃぁぁぁああ、来るーーー、マジで助けてーー!!」


拘束されて逃げれない龍一の眼前に半魚人が顔を近付ける。


「ひぃぃぃいいいい!!」


ギザギザした歯の隙間から蛇のような長い舌がニョロリと伸びでた。


『ディープキスしよ~。ディープキスしたい~。レロレロしたいよ~』


「そこの魚類人間ゲコラー! 人の願望を好き勝手に口走るな! その口閉じてーーー!」


「月美、ゲコラーって、なにーーー。ゲコラーって何さーーー!!」


「おい、龍一。いいじゃなえか、ディープキスぐらいしてやれよ」


サラリと述べる花巻。


他人事かと思ってか、少し笑っている。


「できません! 流石に無理です! 相手が月美の心でも、半魚人とはキスできません!」


『し~よ~、し~よ~。ディープキス~』


龍一の両肩を水掻きのついた両手でガッチリと掴む半魚人が、更に顔面を近付けて来る。


もう十センチも距離がない。


「ディープキスしてやれよ龍一。きっとディープキスしてやれば、そいつも成仏するんじゃねぇ~か?」


「こんな口でディープキスしたら、唇ごと舌を斬りとられてしまいます! 無理です、絶対に無理です!!」


『レロレロ~』


「私の心、止めなさーーい! 龍~ちゃんとディープキスするのは本体の私よ!」


とてつもない危機感を前に龍一は月美に対して、身も心も落ち着けよ、と心中で懇願する。


興奮している月美を羽交い絞めにしている三日月堂が、花巻と朝富士に指示を飛ばした。


「花巻君、朝富士さん。とりあえず、その半魚人を取り押さえてください!」


「OK~」


すぐさま動いたのは花巻であった。


奇怪な半魚人相手に臆することなく挑んで行った。


馬鹿なぐらいに勇敢である。


花巻が半魚人の背後に回り込むと両肩をガッシリと掴んだ。


龍一から引き離そうと全力を込めて引っ張る。


「離れろや~!」


『ギョギョギョ~。邪魔しないで~~』


強引なディープキスを邪魔した花巻目掛けて半魚人が、振り向きざまの肘鉄を繰り出す。


肩に掛かった手を払いのけた半魚人の肘鉄は、そのまま花巻のこめかみに命中する。


「ぅげッ!」


頭を押さえた花巻がよろめきながら一歩後退した。


『ゲコゲコゲコ!』


半魚人の攻撃的な威嚇。


腰を落として両手を肩の高さで大きく広げるとゲコゲコと喉を鳴らす。


「やりやがったな、このヒラメ野朗が!」


激昂する花巻が拳を握り振るう。


狙いはボティー。


上から下へ、斜め45度のパンチが力任せに半魚人の腹筋部分を叩いた。


「おらっ!」


『ゲロっ!』


ヒット。


花巻の強烈なボディーブローが半魚人の腹部にめり込んだ。


腹を押さえてくの字に曲がった魚体が後ろに倒れて、椅子に拘束された龍一の上に座り込む。


「お、重い……!」


「そんなことないよ龍~ちゃん! 私は軽いよ。太ってなんかないもん!」


こんな時でも女性は、そのようなことを気にするらしい。


乙女心とは不思議なものだ。


いまだ月美を羽交い絞めにしている三日月堂が新たなる指示を飛ばす。


「よし、そのまま龍一君ごと椅子にガムテープで拘束してください!」


残酷な指示だった。


「それは止めてーーー!」


鬼である。


龍一の膝に座る半魚人を、そのまま一緒にガムテープでグルグル巻きに拘束しろと言うのだ。


流石に龍一も反対を絶叫する。


半魚人と一緒に縛られたら恐怖で精神が崩壊してしまうだろう。


「花巻君、ガムテープだ!」


「センキュー、千田ぁ」


事務用テーブルの上に置いてあったガムテープを取った千田が花巻のほうに放り投げる。


ガムテープをキャッチした花巻がビリビリと音を立てながら引き伸ばした。


本気で龍一ごと半魚人を椅子に縛り付ける積もりらしい。


「うしゃ~、縛るぜぇ~」


「やめてー! 花巻さん、堪忍だからやめてーーー!!」


肘鉄を喰らった恨みだろうか、花巻は龍一ごと半魚人を縛り付ける気満々である。


表情から悪ふざけの意思も窺えた。


『ギョギョ~!!』


しかし、ガムテープを手にした花巻が迫ると、半魚人が椅子から飛び跳ねて襲い掛かる。


「ぬっ!?」


花巻に再度飛び掛かる半魚人は陸上なのに速い動きだった。


瞬時に花巻の両手を掴むと顔面目掛けて大口を開く。


鼻に噛みつこうとしているのだ。


「やばっ!!」


躱せない。


瞬時に花巻の顔から笑みが消えた。


不意を突かれた花巻には回避できるタイミングではなかった。


「せぃ!」


誰しもが花巻の鼻が噛みちぎられると思った瞬間だった。


突如、半魚人の体躯が横に吹っ飛ぶ。


そのまま床に水っぽい音を立てて転倒した。


倒れた半魚人に集まっていた視線が、半魚人を突き飛ばした人物に移動する。


「助かったぜ、朝富士さんよ~」


胸を撫で下ろし安堵する花巻。


半魚人を一撃の拳打で突き飛ばしたのは朝富士であった。


「礼にはおよばん――」


そこには正拳突きを繰り出した構えで決め込んでいる朝富士の凛々しい姿があった。


ただし、下半身はスッポンポンである。






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