51・作戦の確定と拘束の訳
己の変態趣味を訊かれ、答えに躊躇する茜を見て三日月堂が空気を読んだ。
やはり答えづらいことは分かっていた。
花も恥じらう乙女に訊くことではないだろう。
無理には問わず話を変える。
「では、話を一気に進めようじゃないか。あとは一気に行くのが良いでしょう。ストーカー対策を練りますか」
手を一つ叩いてからムードを一転させた三日月堂が席に戻って腰掛けた。
更に話を続ける。
「我々異能者会の力を示す時だ。ストーカー君が異能者じゃなくても、仲間である異能者が心を痛めている。そこは気を配るべきだろう。これは助けて当然だね。そうは思わないかね、異能者会諸君。たまには我々の秘められた超能力を、人助けに使おうじゃないか」
三日月堂の演説に頷く異能者たち。
メンバー全員が心動かされた様子である。
各々が頷いていた。
「でもよ~、どうやって追っかけ野朗を捕まえる気だ、三日月堂~」
チャチャを入れるように花巻が問うと、続いて千田も続く。
「そうですよ。警察が数日間付き添っていながらも捕まえられなかった輩ですよ。異能者ならば何か超能力で逃げ切っているはず。何か名案でも?」
「私に良い作戦があります」
述べた三日月堂が薄ら笑みで山国武を見ると、拘束されたままの僧侶が身を捩る。
怪しく三日月堂の口角が吊り上がった。
悪党の笑みだ。
「彼に協力してもらいましょう。山国さんに、佐々木さんの身代わりを勤めてもらうのですよ。摸倣女体化で佐々木茜さんに化けてもらいます」
囮!
この人はお坊さんを囮に使おうとしている。
卑劣だが狡猾だ。
「ほほう、替え玉か。それは名案。こやつを使ってストーカーを誘き出すのだな。その作戦で行こうではないか」
囮役本人の同意を待たずに朝富士が作戦に賛成を告げる。
そして、下半身の雄竿を揺らしながらお坊さんの前に歩み寄った。
厳つい渋顔をお坊さんに近付ける。
「なあ、陰徳時のジュニア。お前とて父上の跡を継いで陰徳寺の住職になる身。ここで男を上げてみないか。そすればお前の罪は私が許してやろう。皆にもそう計らってやるわい」
萎れた声色に脅迫めいたものが濁り混ざっていた。
威圧感が途方もない。
これは脅しだ。
山国武は、ただただ頷くばかりだった。
逆らえる状況ではない。
パチンと音を立てて両掌を合わせる三日月堂。
その掌音に注目が集まる。
「では、本人の承諾も得られましたので彼を囮にストーカーを捕まえましょう。どこえ誘き出すかは、おいおい決めます。作戦開始は明日。我々異能者会の実力の見せどころです」
「おもしれぇ~」
子供のように笑う花巻を余所に、朝富士は元居た席に戻る。
「参加できる人は全員参加です。ですが学生諸君は学校が優先ですよ。日中時は学校へ、放課後にまで作戦が伸びたのなら合流をお願いします。この作戦は社会人の方々中心で実行します。皆さん異論は御座いませんな」
「わかったぜぇ~」
「意義なしだ」
「完全に、お祭りですね」
男たちが同意する。
「細かい作戦内容や各自の役割については、明日の朝までに私が練っておきます。今ここに居ない方々にも連絡を取らないといけませんので――」
「よかったね、茜ちゃん」
「う、うん――」
微笑みながら友達の肩に手を添える月美。
しかし、茜から不安が消えた訳ではない。
警察官から走って逃げきれる人物が相手だ。
それが異能者ならば何らかの超能力を利用して逃走を図っている可能性が高い。
それが厄介なのだ。
佐々木茜との話が纏まったところで三日月堂が話を変える。
「さてさて、この話はここまでにして……」
喋りながら三日月堂が龍一を見ると、釣られるように全員の視線が龍一に集まった。
隣で縛られているお坊さんまで龍一を見ている。
「次の問題に話を変えましょうか……」
三日月堂が深刻に述べると、月美が身を強張らせながら頷いていた。
突然の注目。
何事だろう。
とてつもなく嫌な予感が走る。
龍一が表情を曇らせた。
「千田さん、撮影の準備をお願いします。花巻君は僕と一緒に山国さんを移動させるのを手伝ってください。月美ちゃんたちも悪いがテーブルや椅子を片付けるのを手伝ってもらえるかな」
三日月堂の指示に従い各々がてきぱきと行動を始める。
千田が三脚を立ててハンディーカムをセットすると、ノートパソコンにケーブルで接続準備を開始した。
月美と茜がテーブルや椅子を折り畳み部屋の隅へと寄せると、三日月堂と花巻がお坊さんを椅子ごと持ち上げ部屋の奥へと移動させる。
朝富士は腕組みをしたまま見ているだけだった。
やがて会議室は、広々とした空間に変わる。
千田がハンディーカムのセッティングを終わらせるとノートパソコンを龍一の横に持ってきた。
パイプ椅子の上に置くとパソコンの画面が龍一のほうに向けられる。
その画面には龍一の上半身が映し出されていた。
ライブ中継である。
画面上の自分は、かなりうろたえており情けない。
カメラの横に立つ三日月堂が済まなそうに言った。
「さてさて、龍一君。すまないね、拘束なんてして。だが、しばし我慢してもらいたい。動揺したキミが何をしでかすかが分からないからね」
状況が把握できない龍一は、戸惑い狼狽える。
ガムテープで口を塞がれているから質問も出来ない。
月美のほうを見ると、茜と寄り添いながら龍一を見守っていた。
かなり心配気な表情をしている。
その二人の表情が、龍一本人の不安を更に誘う。




