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変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
42/61

42・結局のところ秘密結社異能者会に入りました

今回はちょっと眺めです。

政所龍一が異能者に成って早二週間が過ぎていた。


結局のところ龍一は書店の店長である三日月堂が率いる秘密結社異能者会に入ることになった。


リーダー格であった三日月堂と知り合いだったのも理由の一つであったが、何よりも勧誘文句が「学校上がりの放課後や暇な休日に、調査員としてバイト感覚で構わないから加わらないか」と、なんとも柔軟で砕けた誘いかたに変わったからである。


三日月堂が龍一の心中を察したのだろう。


あまり責任感を背負わせるような誘いかたは逆効果と悟って、軽い乗りに勧誘方法を変えたのである。


三日月堂にしてみれば、どうしても龍一を入会させたい理由が幾つかあったのだ。


その理由については徐々に明白化されていく。


アルバイト代は日給1000円。


移動に掛かったお金などは経費で落ち、調査内容によっては危険手当も出してくれることになった。


龍一曰く。


別にお金に引かれた訳ではない。


あくまでも自分や異能者たちの平和を守る為だ。と述べているが金銭欲に魅了された感じが大きく見られた。


しかもこのアルバイトは世間に内緒な仕事である。


何せ秘密結社の活動だ。


アルバイト代を貰っていることは学校にも家族にも秘密となる。


龍一の通う蓬松高校はアルバイトが全面的に禁止されていた。


故に秘密は厳守しなくてはならなかった。


ばれれば停学を免れないだろう。


更に異能者会にはメンバーが増えていた。


龍一を追っかけるように幼馴染の月美や、ジャイアントスパイダーズ二代目リーダーの千葉寺カヲルも異能者会に加わったのだ。


ただし千葉寺カヲルは仮入会扱いらしい。


何故に仮扱いなのかは龍一も知らない。


これで仮も含めると異能者会のメンバー数も10人から13人と増える。


龍一は異能者会に入って、異能者関係の色々な情報を得た。


順を正して説明していこう。


異能者とは超能力を備えた人種であるが、彼らは自分たちを超能力者とは呼ばない。


自分たちを異能者と呼ぶ。


彼らが持つ超能力は産まれ持った特殊能力で無い。


全員がパンドラ爺婆から与えられた疑似超能力であるからだ。


天然の超能力でないと考えている。


ゼウスが送ったパンドラの壷同様にプレゼントなのだ。


龍一もそうだが異能者会のメンバー全員がパンドラ爺婆に行き当たって超能力を貰った人物たちである。


与えられる超能力は人により様々であるが、どれもこれもが強大といえない能力が多い。


近代アニメや少年漫画に出てくるほどのスーパーパワーを備えていない場合が多いのだ。


結構地味な能力が多い。


その中でも秘密結社異能者会の面々が得た超能力は優れものが多いのかもしれない。


仮メンバーの千葉寺カヲルは、骨格肉体変化。


新メンバーの月美は、透視能力。


龍一は、心の具現化。


龍一から見て異能者会の先輩メンバーたちも個性的な超能力を有している。


実家が神社を経営している巫女服少女である桃垣根桜(ももかきね さくら)は、異能者探知能力と念写能力。


刑事の十勝夏子は、異能力封じのキーロック。


小説家の千田和人は、自分の書き上げた生原稿を黄金に変化出来る。


チンピラ風の男である花巻陸男は、パイロキネシス。


夏子と姉妹である十勝秋穂は、嘘発見能力。


皆が使いどころ次第で大活躍できる超能力を授かっていた。


しかし、龍一本人もそうだが彼ら異能者たちは、それらの超能力を貰い受けるさいに幾つかのペナルティーを与えられている。


それの一つが新たなる変態趣味であった。


龍一にしても急に女性用下着であるパンティーに異常なまでの執着を覚えた。


幼馴染の月美は、他人の目を憚る事無く男性生殖器の大きさを透視能力で見比べるようになってしまっている。


世間一般的に、変態と呼べよう。


訊きこそしていないが他の異能者会のメンバーも、何らかの変態行為が趣味と成っているのだろう。


彼らが述べる異能者とは、超能力を与えられた変態なのだ。


そして彼ら異能者会は、その異能者たちの異能者たちの為の秘密結社なのである。


主な活動内容は新たに産まれ出る異能者たちの管理であり、一般社会への秘密保護である。


新たに超能力を得た異能者を見つけ出し、その人物が危険な超能力を使うか、他人に危害を及ぼすような変態なのかを見極め処置するのが仕事である。


そしてもう一つのペナルティー。


異能者は異能者にしか恋しない。愛さない。


と、いったペナルティーがある。


このペナルティーに関しては男女間の恋愛感情に関わってくるだけで、母性愛などの肉親への愛情には障害にならないらしい。


ただし夫婦の関係は別だ。


夫が異能者で妻が普通人、またはその逆のケースでは、夫婦関係は冷え込むと前例が報告されていた。


夫婦ともに異能者に成らないと家庭円満な家族関係は保たれないらしい。


離婚の危機、家庭崩壊の危機となる。


そしてここ最近の龍一は学校が終わると駅前に立ち並ぶビルの一つに向かうことが日常と化していた。


異能者会のアルバイトである。


アルバイトのことを知っているのは親友の卓巳だけだ。


卓巳には民間の調査会社でアルバイトを始めたと言ってある。


卓巳は探偵みたいなものか、と思い納得していた。


怪しんでいない。


怪しんでいないが、バイト代が出たら奢れ奢れと五月蠅い。


それが秘密にしておく条件らしいのだ。


異能社会の本部が入っているビルは駅前に在る。


そのビルは一階二階に三日月堂が書店を構える五階建てビル。


この近辺では三日月堂ビルと呼ばれている建物であった。


龍一は学校帰りに三日月堂ビルの五階に設けられた異能者会の本部に通っていた。


本部と述べれば立派に聞こえるが、異能者たちの溜まり場のような場所である。


空き室の一つを三日月堂が借りて異能者会メンバーに開放しているのだ。


元会社事務所だったので給湯室も在り、冷蔵庫やお茶飲みセットも揃えて寛ぐ体制が整っていた。


居心地も悪くない。


そして今日もまた学校からつきまとって来た千葉寺カヲルと、駅前で合流した幼馴染の月美を連れて、三日月堂ビルへと向かって龍一が歩いて行く。


歩道を進む三人の若者。


駅前は若干騒がしい。


右に月美、左にカヲルを連れて歩く龍一。


はたから見れば両手に花な天国極楽状態であるが、正直なところ花の数は一輪で十分であった。


龍一は、そこまで欲張りでない。


何より残りの一輪は毒を有した食虫植物みたいな物だ。


横に並ぶカヲルは隙あらば龍一の腕にしがみつこうと試みるが、その度に龍一の左脳がセキュリティーを発動させては上手い具合に逃げるのだ。


だが、当然ながらカヲルは諦めない。


あまりにしつこい場合は、正確な動きと素早さを持ち合わせた左半身がV字の目突きを繰り出しカヲルの両眼を痛めつけるのであった。


これには骨格肉体変化を有するカヲルも耐えられないらしく、腕に抱きつこうとするアクションを一端は諦める。


目玉は骨格肉体変化できないのだろう。


眼球の筋肉を増やして鎧を作れないのだ。


どのような生物も眼球は弱点といえよう。


そのカヲルも月美が一緒の時は、龍一へのアタック回数を控えめに減らす。


遠慮している訳でなく、月美の牽制が激しいのだ。


龍一の見えないところで乙女同士の戦いが火花を散らしているらしい。


その戦いについて色々なところから情報が龍一の耳に入って来ている。


時には掴み合って大暴れしていることすらあるらしい。


お互い女の子なのだから、正直なところ暴力は控えてもらいたいと龍一は願っていた。


すべての元凶はカヲルなのだが、彼女の執念にも似た愛情は、ちょっとやそっとのことでは消火できない炎のようだった。


学生たち三人が三日月堂ビル前に到着すると龍一が本屋の店内を覗き込む。


店長である三日月堂がカウンターでお客の相手をしていた。


手際良くレジを打つ三日月堂の笑みは爽やかで高感度が高いと評判だ。


普段はファッション雑誌をコンビニでちゃっちゃと買ってしまうような近所のキャバ嬢たちが三日月堂を目当てに来店するぐらい高感度が高いらしい。


何故か三日月堂は、水商売系の女性たちに昔っから人気がある。


そう、ホステス風の秋穂が述べていたことを龍一は思い出す。


それなのに三日月堂には、浮いた話がないらしいのだ。


女性との関係を秘密にしているのか、それとも女性に興味がないのかは不明である。


お付き合いしている特定の女性は長いこと居ないらしい。


「三日月堂さん、まだ仕事中だね」


「そうみたいだね。先に上で待ってましょうか」


「ああ、そうしようか、二人とも」


書店とは別の入り口からビルに入った三人は、エレベーターに乗って五階のボタンを押す。


モーター音を微小に響かせ動き出したエレベーターの箱舟は直ぐに最上階に到着すると、チ~ンと鐘音を鳴らして自動ドアを開けた。


人気がないフロアーであった。


この階のテナントはすべて空き部屋である。


学生三人がぞろぞろ降りて異能者会が本部として使っている会議室がある方向を目指し歩いて行く。


空きテナント内を横切った最奥の部屋を目指す。


「こんにちはー」


龍一を先頭に会議室へとゾロゾロ入って行く。


すると既に異能者会のメンバーが三名いた。


巫女服姿の少女、桃垣根桜。


小説家の青年、千田和人。


それにおっとり系巨乳美女で十勝四姉妹の長女である春菜であった。


「こんにちは~」


部屋に入って直ぐ側にあった椅子に腰掛けている巫女服の少女が笑顔で挨拶を返して来た。


続いて千田や春菜が挨拶を返す。


千田は部屋の奥に置かれた事務用の机でノートパソコンのキーボードを叩いていた。


千田和人は、二十代後半の青年である。


身長は百八十センチぐらいで痩せ型。


やつれていると述べても可笑しくないぐらい痩せている。


顔色も病人のように白い。


皺が寄った白いワイシャツにGパン姿で、履物は安いサンダルだ。


全身からモテない男特有の空気を醸し出している。


兎に角、貧乏で貧層に見えるのだ。


彼は最近この本部事務所を使用して小説の執筆活動を行っていた。


完全にここを仕事場代わりに使っているのだ。


「千田さん、また仕事をしているんですか?」


龍一が千田の背後に回り込むとノートパソコンのモニター画面を覗き込んだ。


ワープロソフトで小説を書いている。


「こんな騒がしいところでよく小説が書けますね?」


確かにここは静かでない。


人の出入りも少なくない。


それに駅前の為に、外の大通りからは車の騒音が届く。


繊細な小説を書くには不向きな場所に思えた。


だが、小説家である千田和人の言い分は違った。


「自室でね、独り仕事に励んでいると鬱になるんだよ。ここだと人と会話もできるし寂しくないからね」


「そんなものなんですか」


千田は独身で一人暮らしだ。


両親は別の町で兄夫婦と暮らしている。


友達や知人も少ないらしい。


だから寂しくなると、ここに来て気を紛らわせるのだ。


午前中は殆ど誰も来ないが、昼を過ぎた辺りから異能者会の社会人メンバーたちが入れ替わりでちょくちょく顔を出す。


休日以外に学生メンバーが顔を出すのは放課後の時間帯だけだ。


「それに小説を書くのに、生の体験その物が小説のアイデアになるんだよ。僕は人付き合いが少ないからさ、ここで色々な人物と接し合うのが刺激になるんだよね。コミュニケーションシーンの参考になるんだよ」


色々な人と合うといっても僅か13名である。


何とも狭い交友関係だと哀れんだ。


龍一は、こんな大人に成らないよう気をつけなければと心に誓う。


振り返った千田が人差し指だけの小さなモーションで龍一を手招く。


龍一が千田に顔を近付けた。


「何よりもだ。ここに来れば女の子と話ができる」


千田はちょっと照れた口調で囁いた。


龍一が顔を離して周りを見回す。


確かにここには女性が多い。


今も男女の比率は女性が上回っていた。


男二人に対して女性は四人だ。


しかも美人ぞろいで、年齢も個性もバラエティーに飛んでいる。


異能者会全体の比率も女性が多い。


男性が6人で女性が7人である。


人付き合いの少ない千田は、女性としゃべれる機会も少ない。


それが寂しいのだ。


ここは、その寂しさを癒やしてくれる聖地なのだろう。


それに千田は女刑事の十勝夏子に恋愛感情を抱いている。


あの巨乳デカにだ。


胸のサイズだけなら今ここにいる姉の十勝春菜のほうが大きいだろうから、巨乳目当てだけでないことは龍一にも悟れた。


おそらく十勝夏子の巨乳以外のところも好きなのだろう。


十勝四姉妹の次女である夏子の性格はキツイし厳しく真面目なタイプだ。


でも美人ではある。


何より善人だ。


それでもSかMかと問えば、間違いなくSであろう。


と、なれば彼女に好意を抱いている千田はMな可能性が大きい。


千田の見てくれからしてもM風だ。


しかし、もしも二人が結ばれれば、お似合いのカップルに成るやもしれない。


何せ古来からSとMは陰と陽みたいな関係だ。


合体すればSMだ。


そういった趣味を持っている者同士が結ばれれば他の普通人に害は及ばない。ち


なみに龍一は、二人がSなのかMなのかは知らない。


一方、巨乳のサイズで十勝夏子に勝利している十勝春菜は、今現在、巫女服少女とトランプを楽しんでいた。


ババ抜きだ。


十勝春菜は三十歳を少し過ぎたくらいの年齢に見える。


おそらく三日月堂と同じぐらいの世代だろう。


何度も語っているように胸が大きすぎる女性だ。


若干垂れ目でおっとりとした性格は、龍一の母に似ていると思ったことがある。


龍一の母同様に母性的なフェロモンに溢れた超美人だ。


春菜は白いブラウスに茶色のカーディガンを羽織り、穿いているロングスカートも地味だった。


その地味な衣類が家庭的な女性だと印象づける。


彼女は、このビルの三階にある喫茶店で働いていた。


喫茶店は彼女の妹である四女の冬樹と一緒に経営しているのだが、驚くべきことに四女の冬樹も美人なのだ。


ベリーショートでスレンダー。明るく健康的で勝気な性格な冬樹は喫茶店の看板娘で名高い。


十勝四姉妹は美人揃いで有名である。


その為か立地がいまいちな喫茶店でありながらも繁盛していた。


朝の開店時から閉店時までお客が絶えない。


特に昼時には近所の会社に勤めているサラリーマン風の客でごったがえすぐらいだ。


しかも十勝四姉妹は全員が異能者なのだ。


たまたま後母等町へ姉妹揃って飲みに出掛けた際にパンドラ爺に行き当たったという。


酔った勢いで占い師に声を掛けたら、それがパンドラ爺だったのだ。


ちなみに春菜と冬樹が経営している喫茶店キャッツアイの雇われマスターである鯨波も異能者であり異能者会のメンバーでもあった。


鯨波は異能者会のメンバーだが五階の会議室には殆ど顔を出さない。


きちんとマスターとしての職務に励んでいるからだ。


本人曰く、「喫茶店のマスターになることが、子供のころからの夢だったから」と言うのが理由らしい。


天職なのだろう。


「わぁ~い、私の勝ちです」


ババ抜きが終了した。


勝ったのは桜のほうだった。


おかっぱの少女は上機嫌でトランプを片付けながら今度はUNOをやりませんかと皆を誘う。


春菜が今まで飲んでいたコーヒーカップを片手に席を立つ。


「三人も何か飲みますか?」


給湯室に足を向ける春菜が注文を取った。


龍一がコーヒーをお願いします、と言うと、月美とカヲルも同じ物で、と注文を揃えた。


春菜が給湯室に向かって直ぐに、部屋のほうからコーヒーの香ばしい匂いが漂ってくる。


ちゃんと豆からコーヒーを挽いている様子であった。


暫くしておぼんに湯気の上がるコーヒーカップ四つを載せた春菜が戻って来た。


ちゃんと角砂糖やミルクも用意している。流


石は喫茶店の看板娘の美人長女だ。そつがない。


目の前に置かれる各自のコーヒーカップを見ていた三人の視線が春菜の笑顔に移動した。


彼女は優しそうに微笑んでいたが、何かを欲しているのか三人の前から動かない。


何かを懇願するように待っている。


春菜は龍一の顔を凝視している。


彼女の視線が龍一に向けられ続けることに気付いた月美やカヲルが安堵している様子だった。


顔を顰めて困った笑みを見せているのは龍一だけだ。


微笑みながら言う春菜。


「もし、よかったらでいいのよ」


春菜の声が優しい脅迫に聞こえた。


今日は自分なのかと観念する龍一。


コーヒーを載せて来たおぼんの上には、小さなビニール袋が置いてあった。


警察の鑑識課が証拠品を入れるような口が締められるタイプの小さなビニール袋である。


「じゃあ……」と躊躇いながらも立ち上がる龍一が、自分のズボンの中へと片手をつっこんだ。


正確にはパンツの中までだ。


そのままチ○毛を掴み引っこ抜く。


「ふぅ~……」


龍一の手には三本程のちぢれ毛が握られていた。


それを見た春菜がビニール袋の口を広げて差し出す。


その中に龍一が陰毛をパラパラと綿雪のように落とした。


春菜は満足げな笑みでビニール袋の口を締めると、折りたたんでからカーディガンのポケットに仕舞いこんだ。


こうやっていつも持ち帰るのだ。


誰かのチン毛を――。


今日はたまたま龍一が選ばれたのだが、これが日によって変わる。


コーヒーの代償として龍一が差し出した陰毛を、彼女がどのように使用するかは知らない。


知らないが、間違いなく変態的な理由で使用されるのだろうと思う。


何故なら彼女も異能者だからだ。


変態だからだ。


春菜はいつも誰か一人から陰毛を貰う。


男女年齢に拘らずにだ。


差し出せないのは桜だけである。


その理由を龍一が推測するところでは、まだ生えていないからだろう。


それもある意味で可愛い。


何故に春菜が陰毛を要求するのか、数日前、花巻と千田に訊いてみたが、はっきりした答えは返ってこなかった。


花巻曰く、「コーヒーに入れて飲んでいるんじゃねぇ~のぉ」と、適当なことを言っていた。


どうあれ真相は春菜しか知らない。


そのような秘密を持った彼女がおぼんを返そうと給湯室に戻って行った。


龍一も席を立つ。


「ちょっとトイレに行ってくるね」


「いってらっしゃ~い」


月美とカヲルが手を振って見送る。


この部屋にはトイレがない。


トイレは廊下にあるフロアー全体で共有している物だけだ。


龍一が会議室を出ようと給湯室の前を横切った時である。中の様子が窺えた。


「うふふぅ~」


春菜がビニール袋を顔の高さまでつまみ上げると、うっとりとした恍惚な表情で中身の陰毛を眺めていた。


「か、鑑賞している……」


足を止めた龍一に春菜は気付いていない様子だった。


そして袋内から陰毛を一本つまみながら取り出すと、なんの躊躇いもなくパクリと口にほうり込んだ。


食った!?


自分の陰毛を!?


抜きたてほやほやの陰毛を食った!?


コーヒーに入れるどころか大胆にも生食である。


チン毛の踊り食いだ。


「!!!!!!!!ッ」


心の中で叫ぶ龍一。


身の毛が逆立つほどに衝撃だった。


巨乳美人の十勝春菜が、取れたて新鮮な陰毛をパクリと食ったのだ。


衝撃を受けないでいるほうが難しい。


「ん?」


見られている気配に気付いたのか、春菜が横を向く。


「あ……」


龍一と目が合った。


すると龍一の顔が青ざめ体が震えだす。


震えだしたのは龍一のほうだけであった。


僅かに驚いた表情を見せた春菜だったが、直ぐにいつもの優しくおっとりとした笑顔に戻っていた。


「秘密よ。うふん」


そう言いながらウィンクでハートを飛ばす。


龍一は首を何度か素早く縦に振ると、その場を逃げるように駆け出した。


廊下に飛び出し男子用トイレに駆け込む。


一つしかない個室に閉じ籠った龍一は、しゃがみ込みながら恐怖に身を震わしていた。


何が恐ろしいのか不明だが、何故か全身の震えが止まらない。


極寒の吹雪の中に全裸でほうり出されたように体の震えが止まらないのだ。


確実な異常――。


有り得ないほどの異変だった。


正体不明の恐怖に思考回路が混乱していた。


この後直ぐに龍一は聞かされる。


十勝春菜がプレゼントされた超能力の内容を――。


その種類を意識妨害能力と呼ぶらしい。


一種の催眠術に近い超能力である。


春菜の場合は、自分の目を見た者に対して任意で一時的な恐怖心を植え込むことができる超能力らしいのだ。


龍一は、その超能力をまともに喰らったのだ。


暫くはトイレの個室から出てこられないだろう。


効力は時間にして十分程度。


彼女の意識妨害能力の場合は、時間で効力が簡単に解除される。


こうして政所龍一の異能者に囲まれた秘密結社異能者会としてのストーリーが、目まぐるしく回り始めるのであった。


これから様々な異能者と遭遇して、様々な不思議で変態的な体験を重ねていくのである。


その中には、過激で刺激的な事件も含まれていることを、まだ少年は知らない。



長文、失礼しました。

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