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変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
38/61

38・家出少女は突然に

グランド隅のベンチに座る龍一の淡い青春が、サンサンと輝く太陽に照らされながらダラダラと過ぎて行く。


三時間目は体育の授業だったが龍一は見学していた。


普通の授業は問題なく受けられたが体育だけはやはり無理だった。


まだまだ喧嘩のダメージが抜けきれていない。


運動は無理である。


ベンチで独り寂しく皆を見守る。


体育の授業内容は隣のクラスの男子生徒とサッカーをやっていた。


女子は体育館でバスケらしい。


見学するならむさ苦しい男子生徒のサッカーより女子生徒の可憐で麗しいバスケのゲームを眺めていたいが、流石にそれは許されなかった。


残念である。


龍一が見学しているグランドのベンチからは女子の様子が窺えない。


月美が得た超能力のように、自分がプレゼントされた超能力が透視能力ならば、それも叶っただろうに――。


体育館の壁ぐらいスケスケであろう。


尚のことを言えば、更衣室の壁すらスケスケであろう。


なんとも月美が羨ましい。


「んっ……?」


視線を感じる龍一。


ふと気が付くと校舎の窓からこちらのほうを見ている生徒が居た。


女子生徒だ。二階の窓である。


確かあそこは理科室だったと思う。


余所見程度じゃない。


その女子生徒は授業に集中していない。


ずっとこちらのほうをガン見していた。


最初はサッカーをしている男子たちを目で追っているのかと思ったが、そうでもないようだ。


気のせいかもしれないが、ベンチに座る龍一を見ているようにも思えた。


首の角度がややこちら向きなのだ。


その少女は一年生だろう。


年下に見える。


長い黒髪。ポニーテールの女子生徒だった。


遠くて良く見えないが、見覚えのない女子生徒だった。


校舎の方向を見ていると、龍一の側にサッカーボールが飛んで来た。


クラスメイトがボールを返せと手を振っている。


龍一がボールを蹴って返してから、もう一度校舎の方向を見ると、女子生徒の姿は窓際から消えていた。


それっきりである。


そして体育の授業が終わり更に時間が過ぎると昼休みがやってきた。


いつも通り卓巳と机を向かい合わせて弁当を食べる。


「それにしてもお前の母さんの弁当は、いつも美味そうだな」


「母さん、料理が上手いから」


「俺もお前んちの子供になりてえよ」


「親父はヤクザみたいに怖いぞ。頬に刀傷があるしさ」


「前言撤回する……」


卓巳も龍一の父に会ったことがある。


とある日曜日に龍一の家へ遊びに来たさい軽く挨拶した程度だが、父の「ゆっくりしていきなさい」の一言にビビったのだ。


普通の挨拶に極道特有の殺気を感じたらしい。


父は堅気の商社マンだが鋭い眼光と頬の傷は極道その物だ。


息子の龍一ですら怖いと感じる程の強面である。


普通の青少年には挨拶一つですら恐怖を感じるのだろう。


龍一と卓巳が昼飯を食べ終わる頃に隣のクラスの鶴岡又吉が教室にやって来た。


ニヤニヤと微笑みながら近寄って来る。


「な~な~、ミスターオカルト。ビッグニュースだ」


情報屋気取りの又吉は、いつものように軽い乗りだった。


実家が茶道の家本とは本当に思えない。


「どうした、又吉?」


「この前話したパンドラ爺婆の件なんだけどよ」


「なんだ、その話か――」


秘密結社異能者会との接触。


それにジャイアントスパイダーズとの対決。


これらで龍一も異能者について多くの情報を得た。


もしも異能者会に入れば、もっと多くの情報を得られるだろう。


今更又吉が齎す噂程度の情報に期待していない。


「なんだよ。なんか、期待してないような態度だな……」


「いや、ゴメン」


苦笑う龍一。


「まあいいさ、聞いて驚くなよ、ミスターオカルト!」


又吉は随分と自信ありげな態度である。


「なんとな、一ヶ月前に失踪していた一年の女子が昨日から登校してきているんだよ!」


前回又吉が持ってきた情報の中に、パンドラ爺婆に出会った一年の女子生徒が失踪したという話があったことを思い出す。


その少女が学校に復帰したというのだ。


それについては龍一も若干の興味が湧いた。


「もちろん真相を調べてきたんだろ?」


率直に訊いてみた。


「同然だとも。その女子生徒にも話を訊いて来たぜ!」


なんとも凄い行動力だ。


流石はミステリー小説のモブな情報屋を目指している男である。


行動力だけは半端じゃない。


「しかも一年のその子は、案外と訊いたことに何でも答えてくれてね。答えてくれる代わりに条件も出されたけどな」


「交換条件?」


「それはあとの話だ」


「いいから教えろよ」


卓巳が急かすが又吉は「あとでな」の一点張りだった。


嫌らしく微笑みながらもったいぶる。


「まあ、いいや。で、どんな話が聞けたんだ?」


話を進めようとする龍一。


それに応えて又吉が話し始める。


「先ずはパンドラ爺婆に出会ったのかって話だが、変な占い師の爺さんに声をかけられたが、それがパンドラ爺婆かはわからないってよ」


「なんだよそれ、つまらね~」


卓巳が本心から詰まらなそうに述べた。


「失踪していた理由も、家庭の事情で家出したらしい。家出中は他県の親戚の家に行っていたんだとさ。学校には謝罪して退学や停学は免れたけど、出席日数はやばくなったらしいぜ。それで真面目に通学を再開し始めたらしい」


「おいおい、そんな個人的な事情なんて、どうでもいいんだよ。パンドラ爺婆と関係ないだろ。何がビッグニュースだ」


卓巳の言う通りだ。個人的事情に踏み込むべきでない。


「でもよ、これで噂の真相に近付いただろ。バンドラ爺婆なんか、ただの都市伝説だって」


そうだ。又吉は情報屋の真似事をしているだけで中立な立場。


オカルトを証明したい立場ではない。


真実を集めているだけだ。


「まあよ、これでパンドラ爺婆が存在しないと決まった訳でもないけどな。だから調査は続けるぜ」


「ああ、分かったよ。何か面白いことが分かったら、また教えてくれ」


「まかせな、ミスターオカルト!」


ウィンクをした又吉が親指を立てて笑う。


「それでな、さっきの交換条件の話なんだがよ……」


抑揚を下げた又吉が、今度は急激に抑揚を上げる。


今までの不敵な微笑みは、ここに繋がるらしい。


「ここからがビッグニュースだぜぇ!」


又吉が少しいやらしく笑っていた。嫌な予感がする。


「その女子生徒に頼まれてな」


「頼まれた? 何を?」


眉を顰める龍一の代わりに卓巳が訊くと又吉はサラリと答える。


「政所っていう男子生徒を捜してくれってな!」


二人がキョトンとしてしまう。


卓巳か述べた。


「珍しい名前過ぎて人に捜してもらわなくったって見つけられるだろ……」


卓巳の言う通りだ。この高校で『政所』なんて名前は珍しすぎて一人しかいない。


「なんで龍~を捜してるんだ?」


卓巳が訊くと又吉がムズ痒そうに答えた。


「なんかさ、とても会いたそうだったぞ。まるで告白する寸前の女子のようにモジモジしてたぜ……」


「「「「「「「「なんだそりゃぁぁぁぁぁああああ!」」」」」」」」


教室がドッと揺れた。


盗み聞きしていた数人の男子生徒が絶叫したのだ。


ぞろぞろと龍一たちの周りに集まって来る。


その瞳には怒りにも似た炎が燃えていた。


「政所、お前には幼馴染の美少女がいるだろ。なんで一年生から告白される!」


「そうだ、二股だ!」


「納得いかねーぞ!」


「この女ったらしが!」


「きたねーーぞ、テメー!!」


「ちょっと待ってくれ、皆。まだ告白されるとは決まってないだろ!」


龍一が場を静めようと努力するが、誰も龍一の言葉を聞いていない。


嫉妬混じりで罵倒するばかりだった。


戦場と化そうとしている状況を収めようと卓巳が沈着冷静に助け舟を出した。


「まあ、皆落ち着け。龍一の言う通り告白とは決まっていないし、何よりもだ、その一年生の女子が可愛いとは限らない。何しろ一ヶ月も登校拒否して家出していた女だぞ。バリバリのヤンキーかもしれん!」


確かに卓巳の発言には一理あった。


皆が落ち着きを取り戻す。


周りからは「そうだよな」「俺たち焦りすぎだよな」「きっとブスに決まっている」「あぶねー、ヤンキーガールだよ」「きっとブスでデブでデッパだよな」などと小声が囁かれていた。


クラスメイトたちが各々の心を納得させようと呟きながら散り始めたところで又吉が言う。


「でだ、今、その一年の女子を連れてきている。会いに来ているのだが……、会う?」


「「「「「「「「えーーーーーー!!!」」」」」」」」


またもや男子の驚きで教室が揺れた。


今度は龍一と卓巳も驚いていた。


まさかその場でご本人登場とは思っていなかったからだ。


「とりあえず廊下に待たせて置いたから、呼んでくるわ」


そういい又吉が廊下に出て行った。教室が静まりかえり廊下に出た又吉を待つ。




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