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変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
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34・大蜘蛛の乱(10)ファイナル

剛腕・千葉寺カヲルの脳天チョップに両断されるミイラの巨漢。


怪異な実態は二つに割れてから黒煙となり消えて行く。跡形も無くだ。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」


顔面汗だくの千葉寺カヲルが大きく胸を上下させながら呼吸を乱していた。


龍一と戦っている間も息一つ乱していなかった巨躯の強者が玉のような汗を流している。


「なるほど――」


シャープな顎先を片手で撫でながら三日月堂が前に出て来る。


「これで何となくだがリュウジ君の超能力が分かってきたよ」


「僕の能力……」


廃工場に残ったら面々の視線が三日月堂に集まった。


「おそらくだが他人が抱えている心の声を具現化する能力じゃないかな。実にユニークな超能力だ」


「心の声を具現化……」


龍一の表情が曇る。


「しかもかなり心の底部分、心の闇の部分を具現化するのではないかな。悩みや罪の意識。人には言えない、相談できないような黒い部分をだよ」


刑事の十勝夏子がポンっと掌を叩く。


「心の闇……。だからあんな化け物のような姿で具現化したのね」


なるほど、と数人が頷いた。


「心の闇かよ……。こえーなー。そんなところ他人に見られたくねぇ~わな~」


花巻の言葉に秋穂が「まったくね」と頷く。


微妙だ――。


龍一が心中で呟いていた。


憧れに憧れた超能力。それをあの老婆に貰えたのに、予想していた以上に微妙な能力である。


心の闇を具現化する超能力とは、なんとも悪趣味に思えた。


これはプライベートの覗き見以上に失礼だ。


誰だって人には言いづらい悩みを一つは抱えている。


どんなに真面目な人生を歩んできたとしても、他人に言いたくない心の闇を誰しも抱えているものだ。


それがコンプレックスであったり、嫉妬であったり、人それぞれの願望だろう。


自分に与えられた超能力は、それらを強制的に覗き見る。


あまつさえ、具現化し、実体化させ、語らせる。


これは龍一が憧れてきた超能力とはジャンルが異なりすぎる。


見た目も怪奇で厨二すぎだ。


しかも具現化した心の闇は、見た目はおどろおどろしいが脆く弱い。


戦いにも使えないだろう。


せいぜい脅し程度だ。


まったくもって役に立ちそうにない。


悩んでいる龍一の前に、いつの間にか千葉寺カヲルが立っていた。


長身から冷めた眼差しで見下ろしてくる。


「まさか貴方が虎子さんの弟さんとは知らなかった。でも、虎子さんは過去の人だ。引退した身。僕らとも世代が違う」


顎を上げて見上げる龍一は黙って話を聞く。


左半身は戦闘態勢を保っていた。


「これは――。この喧嘩は――。ジャイアントスパイダーズを預かる二代目リーダーと、あなたとの喧嘩だ。過去の人やOBなんて関係ない」


冷めた双眸で言う千葉寺カヲルは完全に冷静さを取り戻していた。


否。冷静さを装っているだけかもしれない。


喧嘩の素人であり不良グループとも縁がない龍一だったが、眼前の相手が何を語りたいのか理解できた。


決着を望んでいる。


このタイマンの――。


「僕は貴方を倒す!」


眉間に深々と憤怒の皺を寄せる千葉寺カヲルが、お約束のテレホンパンチを構えた。


手足の筋肉が膨らみ剛拳に威嚇が宿る。


「僕は、あなたを倒して虎子さんを越える。兄さんへの想いを断ち切る!」


龍一の表情がリュウジの鋭さに変わる。


多重人格ではない。


これこそが龍一の右脳と左脳が最強タッグを組んだ完璧なる戦闘状態。


姉の虎子が女性でありながら影の総番になった。


それと同じ家系の血が流れている。


サラリーマンでありながら頬に刀傷を刻む強面の父・政所源治から受け継いだ闘争本能が龍一にも宿っているのだろう。


「でぇぁぁぁぁぁあああああああ!」


猛る巨漢。


振り上げられる右拳が気迫を宿す。


千葉寺カヲルが先に仕掛けた。


額に血管を浮き立たせ、奥歯を強く噛みしめながら左足で震脚を踏み出す。


高い位置から振り下ろされる剛拳。


「うらぁぁぁああああああ!!!!」


気合いの声が腹から沸き上がり喉を通り口から吐き出された。


迫る拳打。


龍一の頭が二十センチ程だけ右に避けると拳打が後方に空振る。


最小限の動作で回避を成功させた。


そして千葉寺カヲルが拳を引き戻すよりも早く龍一が蹴りを繰り出す。


「ぐゅ!?」


下から掬い上げるような前蹴りが巨漢を支える両脚の間を抜けて股間を打ちのめす。


蹴りを受けた千葉寺カヲルが変なボイスを口走ると不動の体勢がグラリと揺れた。


「金的!」


大宮の言葉に合わせて観覧していた男性たちが内股になった。


見ているだけで睾丸が収縮したのだろう。


だが、千葉寺カヲルは倒れない。


それどころか殆ど利いていない。


懲りずにテレホンパンチを振り被る。


「反則じゃねぇか!」


平山が抗議するが、それに反論したのは大宮のほうだった。


「いいや、それはカヲルに対してのルールだ……。マンドコロには関係ねぇ……。寧ろマンドコロの金玉を守ったルールだ。」


「そ、そうだったな……」


思い出したかのように平山が納得した。


彼らは何かを理解しているようだ。


今の金的が反則に値しないことを―――。


「ちぇぃ!」


仕切り直し。


今度は先に龍一が動く。


上半身が右に高速移動する。


その動きを千葉寺カヲルが眼球だけで追った。


直後である。


ワンテンポ遅れて小さな衝撃が千葉寺カヲルの視界を揺らす。


カツリと音がしたような気がした。


龍一の左フックである。


その一撃が千葉寺カヲルの顎先を横から叩いていた。否。掠めたのだ。


「ぅ?!」


しかし千葉寺カヲルには、その左フックは見えていなかった。


理由はフックの速さだけでない。


右に上半身を動かした龍一を視線が追った為にフックの軌道が視界の外に出てしまっていたからだ。


格闘技界で呼ばれる『見えないパンチ』である。


空手の鉈蹴り。ボクシングのドラゴンフィッショブロー。総合格闘技のロシアンフックなどの原理と同じトリック攻撃である。


見えないフックを喰らった千葉寺カヲルの巨躯が大きく揺れた。


目が回り、頭の中に霞が掛かる。


脳震盪寸前なのだらう。


顎先に掠っただけなのに、確実に利いていた。


何故か?


千葉寺カヲルの防御術は単純である。


それは、ただ攻撃を我慢するだけだ。


どんな攻撃も正面から喰らい堪え忍ぶ。


それが出切るのは骨格肉体変化が生み出した人並みはずれた筋力があるからだ。


それはプロレスラーと代わらない防御法だ。


プロレスラーは、どんな攻撃でも受けてみせる。


時には躱すことも多いが基本的に相手の攻撃を喰らって見せることで試合を盛り上げようと努力する。


それが出切るのも普段からのトレーニングの賜物。


もちろん受け身などのテクニックも大切だが、体を鍛え頑丈な肉体を築き、その筋肉を硬直させることで相手の攻撃を我慢する。


故に耐久力という点では様々なスポーツや格闘技の中でも秀でているとも言われている。


千葉寺カヲルの防御は、それと類似している。


ただ骨格肉体変化が齎す筋肉増加量がプロレスラーの筋肉量よりも上回るだけだ。


それが無敵の甲冑を作り出している。


その千葉寺カヲルが見えないフックによろめいたのには、二つの理由があった。


それは見えないからこそ攻撃を喰らう覚悟ができなかった為だ。


喰らう準備ができず筋肉を硬直できなかった。だからダメージがモロに入った。


二つ目の理由は、脳震盪。


顎先を横からスピーディーに強打される。


これは頬やこめかみに拳を喰らうより脳を揺らす可能性が遥かに高い。脳震盪を起こしやすい。


ボクシングの試合などで顎先にかすっただけのパンチでKOされるシーンがある。


鉛筆の真ん中を指で抓み持つ。


そして片方の端を指で弾けば反対側の端も激しく揺れる。


その原理と同じだ。


顎を素早く叩けば、反対側の脳も派手に揺れる。


直接的に脳を揺らすよりも、その方が激しく脳が揺れるのだ。


揺れた脳は頭蓋骨内で激しく骨の壁に激突する。


しかも小まめに左右に振動しながら激突する。


そのダメージが脳震盪を起こす。


龍一の左脳は、それを狙ったのだ。


「ふがぁ……ぁ……」


眩暈。


尻餅を付きそうになるのを必死に堪える千葉寺カヲル。


歯を食いしばる表情に焦りが浮かぶ。


龍一にとって攻め時である。


「下半身に、力が……」


今ここで攻撃を喰らえば筋肉を硬直させて我慢できる割合は少ないだろう。


千葉寺カヲルが咄嗟に両手で防御を築く。


顔を両腕で守った。


とりあえず頭部の攻撃だけ凌げればどうにかなると考えたからだ。


龍一にとって最大のチャンスの筈だった。


千葉寺カヲルにも見ている者にもそう思えた。


しかし、龍一の攻撃は直ぐに飛んでこなかった。


刹那の間が開く。


その間に千葉寺カヲルが疑問を抱いた瞬間である。


後ろから囁かれた。


中腰に崩れていた千葉寺カヲルの後ろに立つ龍一が耳元に口を近付け囁いたのだ。


「――――」


何を囁いたか周囲の者には聞こえなかった。


三日月堂にも、千葉寺カヲルの頭が邪魔で唇を読むことができなかった。


龍一が囁いた言葉は――。


「すき、だよ――」


「えっ!?」


予想外の告白に一瞬で赤面した千葉寺カヲルが無防備な本能のままに振り返る。


そこに龍一の左ストレートが突き刺さった。


また顎先にだ。


千葉寺カヲルの頭が左右にぶれる。


大きく巨躯が揺れた。


両眼がグルグル回る。


意表を突かれた言葉に筋肉の硬直を忘れ振り返る。


そこにストレートがベストタイミングで入ったのだ。


硬直を忘れ、振り返る力を利用され、会心の一撃を喰らった。再び顎先にだ。


それでは流石の肉体骨格変化も無意味。


ダメージがなんの障害もなく脳を激しく揺らしたのだ。


「ふがぁ……」


千葉寺カヲルの両膝が落ちた。


それから後ろに倒れる。


長い黒髪が床に乱れて広がった。


「ぁ……あ……ぅ……」


巨漢は痙攣していた。


太い指先がピクピクと動いている。どうやら意識は無いようだった。


倒れた千葉寺カヲルを見下ろしながら龍一が大きな息を吐く。


決着。


骨格肉体変化の異能者、千葉寺カヲル。脳震盪で気絶。


タイマンの勝者は政所龍一と確定する。


月美が「やったー!」と歓喜の声を上げているが、まだ平山に羽交い絞めにされていた。



つづく。




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