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変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
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28・脳梁離断術

龍一の飛んだ話に、今までの闘争ムードが一転してしまい、見ていた外野たちもしらけたのか言葉を失いながら彼の話に耳を傾けていた。


問うは千葉寺カヲル。答えるは政所龍一。


「脳の手術? 」


「脳手術だよ。病気だったんだ」


「どんな病気だったの?」


「僕も子供のころの話だから詳しく訊いていない。いや、聞いてたけど忘れたのかも……。脳の中心部に腫瘍があったとか、なんとか……。ただ手術の内容が珍しい手法だったから、それは良く覚えているんだ」


「珍しいって?」


「脳梁離断術」


皆が聞いたことのない手術名である。いまいち手術の内容がイメージできない者が殆どだった。花巻や大蜘蛛の殆どがちんぷんかんぷんである。


「大脳を半分に割ったんだ。脳梁っていう右脳と左脳を繋げている神経の束を切断する手術でね。その名称が脳梁離断術と言うらしい」


脳を半分に割る。話を聞いていた千葉寺カヲルも驚いていたが、外野の不良たちや通訳している三日月堂も驚いていた。通訳の分だけ花巻と秋穂がワンテンポ遅れて驚いていた。


驚いていないのは月美だけである。彼女は生まれた時からの幼馴染だ。知っていたのだろう。


「脳を半分に割るって……、そんなことして大丈夫なの?」


驚きと同時に皆が疑問に抱いていたことを代表して千葉寺カヲルが訊いた。


「それが大丈夫なんですよ。半分になった脳は元どおりに繋がらないけど、それでも人間は死なないし、普通に生活だってできるんだ。僕がいい例だと思ってくれ」


外野から顔を腫らしたオールバック平山が野次を飛ばす。


「それが今、なんの関係があるんだ!」


とっとと喧嘩を続けろと言いたいのだろう。だが龍一は話を続けた。


「人間は左脳だけの機能で普通に生活が送れるらしいんだ。考えたことを喋ったり書いたりの作業は左脳がおこなってくれる。右脳は音楽や芸術性に長けているけど、無理に私生活では働く必要が無いんだ。だからと言って右脳が何もしていないわけでもないらしいけどね。まあ脳梁離断術をしても、私生活だと左脳がリーダーシップを取って右脳と二人三脚で生活を歩んでいる感じになるらしい。だから僕の意思の殆どは左脳が出した答えなんだよ」


「だからよ、それがどうしたってんだ!」


またオールバック平山が怒鳴った。龍一が平山を見ながら言う。


「貴方を負かしたのは、僕の半身である右脳の仕業だよ」


「はぁ~!?」


オールパック平山の「はぁ~!?」は、何を寝ぼけたことを言ってやがると言いたげな「はぁ~!?」だった。とんちんかんな台詞に呆れている。


「僕のような人を分離脳患者って呼ぶらしいんだけど、その分離脳患者の中で、まれに起きる現象があるんだ。それが貴方を倒した」


「な、なんだよ……、それは?」


「これから話す現象に関しては、ノーベル賞を取った神経心理学者であるロジャー・スペリーなどにより研究された実例なんだけど……」


またもや話が飛んだが、ノーベル賞と聞いて大蜘蛛たちが畏まる。難しい話が苦手なのだろう。


「スペリー曰く。とある分離脳患者が目覚まし時計をかけ忘れて会社に遅刻しそうになったさい、本人は寝ているのに左手が勝手に動いて彼の肩を叩いて起こしたというエピソードがあるんだけど、これと似たような話が幾つも報告されていて、公園を歩いていると、近くでキャッチボールをしていた親子のボールが謝って分離脳患者のほうに飛んできてしまう。本人は迫るボールに気づいて右手で顔を庇うが左手がボールをキャッチした。こんな感じで左腕が本人の意思とは別に、右脳の指示だけで勝手に動くことがあるんですよ」


オールバック平山の額に、怒りで幾つもの血管が浮き上がる。


「じゃあ何か! 俺はお前の右脳だけに負けたのか!?」


龍一は、そう言っているつもりだった。平山を倒したのは、右脳の防衛本能である。


「こうして右脳が僕の左半身を勝手に動かして危機を救ってくれていたんだ。今回のようなことは初めてだったけど、私生活では片鱗が見えていたんです」


淡々と話し続ける龍一の話が不思議で面白いのか、全員が耳を傾けていた。たまにヒソヒソ話をする程度である。


「右脳は主に芸術性や音楽、それに創造などに優れた脳だといわれていますが、脳梁離断術を受けた僕には芸術や音楽の才能が薄く、それどころか芸術などに興味も抱きませんでした。僕の趣味は読書です。特にオカルトや神話系などが好きです。神秘や奇跡、神様や仏様を信じていませんが、それらを学問として研究するのがとても好きなんですよ。左脳の特徴は、言語、論理、数学、科学などが得意ですから……」


「私生活で片鱗が見えていたって?」


千葉寺カヲルが訊いてきた。それについても淡々と答える龍一。


「ちょくちょく僕は本屋に行くのですが、体が勝手に格闘雑誌や武術本が並んでいるコーナーに進むことがあるんです。僕は基本的に暴力が嫌いです。格闘技にも興味がない。なのに足が進む。きっと右脳が左脳に言っていたんだろうね。格闘技が見たいって……。右脳は、格闘技を芸術か何かと取らえていたのかもしれない」


だからといってスポーツ万能の特待生だったオールバック平山を、右脳と左半身だけで倒した理由にわならない。特に平山本人は納得がいかない様子である。


本屋の格闘技関係コーナーで立ち読みしているところを、店長である三日月堂に声をかけられたのだ。そして龍一は三日月堂と親しくなり、名前を問われると『リュウジ』を名乗っていた。何故にリュウジと名乗ったか龍一にもわからなかった。悪意もなかった。


問われ、答えた時にいたコーナーにも格闘技の雑誌が並んでいた。そこにいる時だけは、左脳の龍一ではなく、右脳の龍一が主導権を大きく有していたのかもしれない。それを二つの半脳同士が示し合わせてリュウジとなのったかもしれない。だからリュウジと偽名を使ったことに龍一も、嘘をついているといった罪悪感を抱かなかった。珍しく右脳が自分を主張したのだろうと思ったのだ。


「俺は、あの野朗の半分に負けたのかよ……」


悔しさを噛み締めるオールバック平山。負けは負けと認めているのだろうが、悔しさが収まらない。


三日月堂が連れに言う。


「なるほど、彼の言っていることが本当ならば、龍一君は多重人格者じゃないね」


「でも、彼の中には理論派の政所龍一と、格闘技好きの右脳であるリュウジが二ついるんでしょ。それって多重人格じゃないの?」


秋穂の意見を三日月堂が否定する。


「格闘技好きの右脳も、理論派の左脳も、元は一つの大脳。半分に分かれても龍一君なんだよ。人格が二つになったわけでなく、龍一君が半分になって肩を組み合ってるんだ。人格は一つのままなんだよ。ただ手術で不器用になっただけだ。自分のすべてを発揮しにくくなっているだろうね」


「じゃあよ、もしもだぜ。あいつが病気じゃなくて、脳を半分にする手術を受けてなかったら、あいつはどんだけ強かったんだ?」


三日月堂と秋穂は、確かにと思いながら想像してみる。その回答は二人ともほぼ同一だった。


「頭脳明晰、スポーツ万能……」


「文武両道。おそらくは多くの人が憧れるような存在になっていたかもしれないね。まあ、可能性だけの話だよ」


更に何かを閃いたのか花巻がポンと掌を叩く。


「じゃあ、ちょっと待てよ。達人並みの格闘技術が使えるようになったのが、あいつのプレゼントされた超能力じゃなかったらよ。あいつの超能力はなんだ?」


確かに花巻の言うとおりである。


龍一もそうだったが、三日月堂たちも自動格闘能力が、龍一のプレゼントされた超能力だと思い込んでいた。それがただの右脳の仕業だとするのならば、龍一がプレゼントされた超能力は別にあることになる。


「闇……」


三日月堂たち三人は、異能者会の仲間である少女が念写した闇に塗りつぶされた写真を思い出していた。


皆が不意を突かれた。


パチーーーーーーーン!


と、乾いた大きな音が突然鳴り響く。全員がドキリと身を強張らせた。革に包まれた羽子板で、馬か牛の尻でも全力で叩いたような音だった。


激音を発したのは千葉寺カヲルである。全員の視線が廃工場の中央に立つ巨漢に集まった。




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