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変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
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27・大蜘蛛の乱(7)

廃工場内で龍一と千葉寺カヲルの死闘が続いていた。


月美だけが祈るように胸元で両手を組み合わせながら見守っている。


攻撃を受けて転倒した幼馴染が心配なのだろう。大きな瞳が潤んでいた。


千葉寺カヲルはダウンした龍一が立ち上がるのを律儀に待っている。


倒れた相手に攻撃を仕掛けない。


「凄いパワーだこと……。あの子の超能力って凄いわね」


覗き見ながら言った秋穂に花巻が言葉を返した。


「ああ、元の姿は可愛らしい真面目そうな子だったんだが、今じゃあただの筋肉ゴリラだ」


三日月堂が語る。


「骨格肉体変化。珍しいタイプですよ。超能力であそこまで変貌できるタイプはレアです……。今まで見た異能者の殆どが、持っていても役に立たない能力ばかりでしたし、他人に害を及ぼすことが可能なタイプも少なかったからね。花巻くんの自然発火能力みたいに戦闘にも転用できるタイプですら珍しいのに、あの骨格肉体変化は異常なレベルですよ。まさに超人ハ○クだ」


説明づく三日月堂に頷く花巻と秋穂。


パンドラ爺婆からプレゼントされる超能力の殆どが地味な代物なのだ。


授かっても手品の延長レベルの代物が多い。


「それに昔の写真と見比べて、別人ぐらいに体格が変貌していても、トレーニングで体を鍛え上げたと言い訳ができる。我々異能者会の設立理由は、自分たちの自由を守るために、他の異能者が悪意に流され我々異能者の存在を世間にばらすのを防ぐことにある。だからあの子の骨格肉体変化は放置しても安全と判断できた。それにあの子も、仲間に加わる加わらないは別に、超能力に関しては人に話さないってことだけは約束してくれたからね」


「だがよぉ、不安は残るよな。超能力・骨格肉体変化を得て、調子こいていやがる。喧嘩に暴走行為。今じゃあ立派な暴走族のヘッドだ。やんちゃがすぎねえか?」


「そこが問題なんですよ。今は仲間との暴走行為や子供同士の喧嘩程度で済んでいるからいいですが、これが殺人とかにエスカレートしなければいいのですがね……。何せペナルティーの変態趣味が犯罪行為に誘う可能性もある」


なんとも不吉な言いようだった。不安げに話す二人に秋穂だけが平然と言う。


「それは大丈夫よ。あの子と夏姉が話し合っているところに私も同席したけど、あの子の変態趣味はブラコンだからね」


「ブラコン?」


「ブラザーコンプレックスよ」


「男兄弟が大好きってやつか?」


「そう、兄貴が大好きなのよ。ジャイアントスパイダーズの元リーダー、千葉寺シンジがね。だからあの子が無茶ばかりするのは兄の模倣。兄の真似以上の悪さはしでかさないと思うって夏姉が言ってたわ。根は良い子らしいよ」


「根は良い子だったのに、変態ブラコンになっちまったのか……」


秋穂が述べたことは、満更嘘といった様子でもなかった。


それを示すように千葉寺カヲルは、龍一が起き上がるのを追撃せずに待っている。


こういうところが、根が真面目というのだろう。


花巻が顎を撫でながら言う。


「さてさて、あの二人の殴り合い。どうなるやら」


「超能力者同士の喧嘩だからねぇ」


「きっと政所龍一の超能力は、あの格闘技術だな。さっきから、不自然に左半身だけが活躍している。しかも本人の意思とは別に動いているって感じだぜ。あいつ自身驚いている節が見えるからよ」


花巻の観察と三日月堂たちの考えは同一だった。


三人とも龍一のプレゼントされた超能力を自動格闘能力(左半身のみ)と見抜いている。


「筋肉強化と技強化。どっちが勝つのか面白いわね。まだまだ龍一君にも逆転はありそうだし」


どうやら三日月堂は龍一を応援している様子だ。


その龍一は、脳内がクラクラする頭を軽く叩いてから立ち上がった。


「さあ、続きを始めよう」


凛とした綺麗な声で言う千葉寺カヲルを誠実な眼差しで睨みつける龍一は、また『リュウジ』の表情をしていた。


自動格闘能力が通じない。


たいして体を鍛えていない龍一に戦闘技術を与えてくれる能力だが、眼前の敵にパワーだけで封じ込められている。


だが、諦める訳にはいかない。


諦めて、ただ袋叩きになってたまるか。


それが本音であった。


今まで、このような闘争心が自分にあったとは思えない。


否。誰かが自分にアドバイスしているようだった。


諦めるな。諦めるな。と、リングサイドからセコンドのトレーナーがボクサーに声援を飛ばしているかのように思えた。


喧嘩を再開させようと一歩前に踏み出した千葉寺カヲルだったが、二歩目を躊躇する。


龍一が自分の左掌を見詰めながら視線を落として何かを呟いていたからだ。


「そうか……。何か変だと思ったんだ……。何が自動格闘能力だ……」


龍一の呟きに耳を澄ます千葉寺カヲル。何やら興味を抱いたらしい。


淡々と呟く龍一に皆が注目していた。


「やたらと左半身だけが勝手に動いていたから可笑しいと思ったんだ。これは『リュウジ』の仕業だったんだ……」


驚いたのは三日月堂だった。


「どう言うことだ……」


龍一の呟きは建屋外から覗き見ていた者には聞こえなかった筈である。


しかし三日月堂には龍一の呟きの内容が分かったようだ。


「どうしたの、三日月堂?」


秋穂が問う。


「龍一君の口から『リュウジ』の名前が出たんだ……」


驚は花巻であった。


「おいおい、確かか、三日月堂。この距離で本当に聞こえたのか?」


「聞こえた訳じゃない。彼の唇を読んだんだ。読唇術ですよ」


「読唇術? 超能力の一種か?」


「声が聞こえなくても唇の動きだけで相手が何をしゃべっているかが分かる技術よ。超能力じゃないわ。あんた本当に馬鹿ね……」


「馬鹿で悪かったな……。ところで三日月堂、そんな技を何処で身につけたんだ?」


「大学時代に親しかった助教授から教わってね」


「大学ってスゲーな。なんだって教えてくれるんだ……」


「この人、本当に馬鹿だわ……」


花巻の最終学歴は中学卒業であるが、その中学も随分とサボっている。


勉強も出来ず、教師たちとも馬が合わなかったからだ。


不良少年には珍しい話でもない。


そのような訳もあってか花巻は筋金入りのお馬鹿である。


「で、三日月堂。あいつ、何を言ってるんだ?」


「ちょっと待ってください……」


そう言うと三日月堂は龍一の唇を読むのに集中した。


龍一は自分の左掌を見ながら呟き続ける。


「超能力じゃない。自動格闘能力じゃなくて、リュウジが僕を助けてくれていたんだ……」


千葉寺カヲルが歩き出すと龍一に問いかける。喧嘩中とは思えない軟らかい言い方だった。


「リュウジが助けていた? 誰のこと?」


「僕は小さな頃に、脳の手術を受けたことがあるんだ……」


問われた龍一が千葉寺カヲルに答える。


しかしながら話の内容が随分と飛んでいた。






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