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変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
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25・三日月堂の疑問

廃工場の外からドラム缶の上に乗って工場内を覗き見ている異能者会のメンバー、三日月堂、花巻陸男、十勝秋穂。


彼ら三名は龍一とジャイアントスパイダーズの揉め事を、完全に観戦客気分で覗き見ていた。


自信を全身から醸し出す龍一を見守る三日月堂が、はっきりとした口調で呟いてしまう。


「やはりあの表情は、リュウジ君……」


龍一の表情が変貌しているのだ。


間違いない。


あの少年の表情こそが自分が勤める書店に来る常連客の少年『リュウジ』の顔である。


だが、何故?


同一人物なのかと疑問が過ぎる。


細く剃り揃えられた眉毛を寄せた花巻が怪訝な態度で三日月堂に訊く。


「リュウジってなんだ?」


「三日月堂。私たちに何か話してないことがあるわね?」


続いて秋穂に問われると三日月堂も観念したように溜め息を吐く。


嘘発見能力を持つ彼女には嘘が通じない。それに隠す理由もない。


「まだ、私の勘違いかも知れないから、この話は異能者会のメンバーにも殆ど話していないのですが……」


この話を知っているのは女刑事の十勝夏子と小説家の千田和人だけである。


「勘違い……。なんだそれ?」


「先ずは話を順所づけて語ると、うちの店の常連客さんに『リュウジ』と名乗る学生がいるのですが……」


花巻と秋穂が黙って三日月堂の話を聞く。


たまに廃工場内を伺う三人。しかし龍一と千葉寺カヲルの対決は、まだ始まらない様子であった。


三日月堂も、それを確認した後に話を続ける。


「その学生は蓬松高校の生徒で、年頃も龍一君と変わらないぐらいでね。顔も龍一君によく似ている。ですが、桜ちゃんが念写した写真とは、顔つきが違ったから別人だと思ったんだ。それに彼は僕に『龍一』とは名乗らず『リュウジ』と名乗っていたんだ」


「偽名か?」


「それとも、まったくの別人?」


二人も訝しげに考え込む。


「分からないんだ。別人なのか、僕に偽名を使っているのか……。それに『リュウジ』君と知り合ったのは二年以上前でね」


簡単な推測を花巻が口に出す。


「じゃあ、政所龍一がパンドラ婆に出会う前からの話か?」


「そう。だから彼が僕に嘘をついているのならば、超能力とは別の理由になると思う」


そこまで説明すると三日月堂が柔らかい顔を引き締め直す。


「でもね、今、彼が見せている表情が……」


三人が龍一の顔を凝視した。先程までの脅えた顔から自信に満ちた凛々しい顔に変わっている。


「その『リュウジ』ってのに、今の表情が似ているって訳だ」


頷きながら語る三日月堂。


「ええ、以前は雰囲気たけが違ったと思ったけど、今は表情も変わって雰囲気も一致しはじめている……」


「まるで同一人物?」


秋穂が龍一を小さく指差しながら言うと、三日月堂が再び頷く。


「ええ……。『政所龍一』君と『リュウジ』君が、重なって……」


「分かったぜ!」


指をパチンと鳴らした花巻がやや大きな声を上げる。


「きっとあれだ。多重人格者だ。『リュウジ』は『政所龍一』が産み出した別人格とかよ」


花巻の自信満々な表情は子供のような明るさを放っていたが、秋穂が臭い顔で否定する。


「え~、詰まんない推理ね。それにマンガとかじゃあ、ありきたりな設定よ。もう古いわ~」


「古いとか、古くないとかの問題じゃね~だろ……」


会話を脱線させた二人に三日月堂が反論を挟む。


「多重人格ってのは、僕もないと思います」


「なんでだよぉ?」


少し口を尖らせながら言う花巻。二人に否定されて不貞腐れている様子だ。


「大学生時代に、多重人格の本を何冊か読んだことがあってね」


「勤勉だねぇ~。俺なんか、まともに本なんか読んだことねぇ~のにな~」


「あんたは、本どころか簡単な漢字すら読めないじゃんか」


秋穂の言葉を聞こえないふりで無視する花巻は、三日月堂に話を振り直す。


「それで三日月堂、どこがどう違うってんだよ?」


「あぁ、私を無視したな!」


怒る秋穂を三日月堂もスルーして話を進める。多重人格者について説明を語り出す。


「今の彼は、千葉寺カヲルと会話をしながら表情が変わった。多重人格者の大きな特徴は、人格が入れ替わるさいに間が生まれるんだよ」


「間?」


「多重人格者の体を人間並みの機能を備えた巨大有人ロボットのボディーだと例え、そのロボットの操縦席は一席しかないとします。その操縦席に多重人格の一つが腰掛けることで肉体すべてをコントロールする。そう想像してもらいたい。そうなると一機のロボットを同時に二つの人格が操作できない。操縦席は一つだからね」


「巨大ロボット……。車とかに例えてよかったんじゃね?」


今度は花巻の素朴な疑問が無視され話は続けられる。


「即ち、操縦席を立って別の人格が代わって腰掛けるのに間が生まれるのね」


「そう言うことです」


確かに巨大ロボットだろうと自動車だろうと、運転者が交代したのならば暫しの時間が生じる。


「じゃあ、あの龍一ってガキは、話しながら表情を変えたから多重人格者じゃないってことか?」


そうである。龍一は千葉寺カヲルと向かい合い、会話をしながら表情を自信有り気に変えたのである。


「会話しているってことは、まだ運転中。その人格を押しのけて別の人格が操縦席を代わることはできないってわけね」


「瞬時に交代できても、同時に運転は難しいでしょう。断言はできませんがね……」


「じゃあよ、あれは何だ?」


三人の視線が廃工場内の龍一に集まった。


今の龍一は、『龍一』と『リュウジ』の表情を、二つ同時に兼ね備えている。それが三日月堂の抱く大きな疑問であった。怪奇に怪奇が重なって見える。




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